第228話。【樹人】。
本日、7話目の投稿です。
【ラピュータ宮殿】の敷地内の森。
「この人は、ゲームマスターのナカノヒト。あなた達を助ける為に、物凄〜く、力を貸してくれた人だからね。よくよく、お礼を言っておいてね」
私は、グレモリー・グリモワールに紹介されました。
紹介などなくても、もちろん私は彼女達を全員知っています。
何しろ、彼女達を【ラピュータ宮殿】の管理人にしたのは、グレモリー・グリモワール(私)なのですから。
【ドライアド】の、シャルロッテ・メリアスは、トネリコの木。
【ハマドリュアス】の8人達は……。
カリュアーは、クルミの木。
バラノスは、ドングリの木。
クラネイアーは、ハナミズキの木。
モノアーは、桑の木。
アイゲイロスは、黒ポプラの木。
プテレアーは、ニレの木。
アンペロスは、ブドウの木。
シュケーは、イチジクの木。
全員、苗木の頃から知っています。
他にも、たくさんの木々を庇護して配下にしたけれども、900年間生き延びたのは、この9人だけでした。
長命な、【ドライアド】や【ハマドリュアス】とはいえ、900年を生きるのは簡単ではありません。
特に、ルシフェルのような人種を人種とも思わない冷酷非道な者の奴隷なんかにされてしまった場合には……。
ルシフェル……今度は、あいつを死ぬまでコキ使ってやりましょう。
そもそも、ルシフェルは、【知の回廊】によって作られた時に、【演算資源】の半分と一緒に、人種を庇護する、という【存在意義】を移譲されたはずです。
なのに、何故、【ドライアド】や【ハマドリュアス】に隷属を強いるような真似をしていたのでしょうか?
意味がわかりません。
とにかく、シャルロッテ達は、9人が生き延びました。
まあ、そう悲観したモノばかりではありません。
シャルロッテ達には、たくさんの子や孫達が増えていました。
それに、新しい【樹人】の友人達も増えています。
【ドライアド】が2人と【ハマドリュアス】が4人。
どうやら、遠隔地の山や森からシャルロッテを頼って移住して住み着いたようです。
6人には名前がなかったので、私が名前を付ける事になりました。
グレモリー・グリモワールの所有地の敷地内に住み着いた【樹人】達なのですから、グレモリー・グリモワールが名付けるべきではないでしょうか?
私がやれ、と?
わかりました。
うーん……名付けは苦手です。
こういう時は、いつものように安直に決めてしまいましょう。
【ドライアド】のカスターニョとオリーヴォ。
カスターニョは栗の木で、オリーヴォはオリーブの木でした。
それから……。
【ハマドリュアス】のメロ、ペロ、ペスコ、チリエージョ。
メロはリンゴの木、ペロは梨の木、ペスコは桃の木、チリエージョはサクランボの木でした。
全て、そのままのネーミング。
名付けが完了しても、名持ち扱いにはなりません。
【ドライアド】や【ハマドリュアス】などの【樹人】は、魔物ではなく、あくまでも人種なので。
「この6人は、ノヒトが庇護してあげて」
グレモリー・グリモワールが言いました。
「何故ですか?」
「シャルロッテ達を、私が譲ってもらっちゃったから。あの子達は、ノヒトの友達でもあったのに」
「良いのですか?」
「シャルロッテ達は、私に対する忠誠心が強く根を張っているから、渡せないけれど、こっちの6人は、まだ若いし、私との絆もないからね。本人達も、誰か庇護者の下に帰属したいと望んでいるようだし、大切にしてあげてよ」
「私と共に来て、私の拠点に根を下ろしてくれますか?」
私は、【ドライアド】のカスターニョ、オリーヴォの2人と……【ハマドリュアス】のメロ、ペロ、ペスコ、チリエージョの4人に意思を確認しました。
6人の【樹人】達は……それで構わない……との事。
ならば、【ドラゴニーア】のソフィア農場と、【パラディーゾ】の【タナカ・ビレッジ】のクイーン農場で、それぞれ果樹園の管理人をしてもらいましょう。
【ドライアド】のカスターニョと【ハマドリュアス】のメロとペロは、ソフィア農場……【ドライアド】のオリーヴォと【ハマドリュアス】のペスコとチリエージョは、【タナカ・ビレッジ】のクイーン農場、に配属が決まりました。
【樹人】は、種族特性として、あまり能動的ではなく、受動的な性質である為……自ら、何かを成したい、とか、どういう人生を歩みたい、とかという望みは希薄です。
なので、庇護をしてくれる者に身を委ねて生きる事で、心の安定や充足感を得る傾向がありました。
【樹人】は、数が少ないのです。
その理由は、争いを好まない穏やかな性格と、この他者に身を委ねてしまうという傾向にも、原因があるのでしょう。
他力本願で、生存競争に勝ち抜いていけるのか、心配になりますが……これはこれで、彼らなりの種の保存の戦略なのでしょうから、私が、とやかく言う事もありません。
【樹人】達は、自らを庇護してくれる強者を、主人や、寄親、などと呼びます。
【樹人】は他者に身を委ねがちな性質ではありますが、一度、自らの寄親を定めた場合、その寄親が生きている限り、他の者に身を委ねる事はしません。
なので、シャルロッテ達は、グレモリー・グリモワールの帰還を信じて、ルシフェル達には、おもねらなかったのです。
【樹人】とは、争いを好まず温厚で忍耐強く、律儀で忠誠心の厚い……本当に愛すべき者達なのですよ。
私とグレモリー・グリモワールは、森の中にいた【樹人】達を全員連れて、【ラピュータ宮殿】に戻りました。
・・・
【ラピュータ宮殿】。
私達が戻ると、ミカエルが待っていて、銀行業務担当者だという【天使】を紹介しました。
【シエーロ】には、ギルドが存在しません。
しかし、各ギルドの機能……例えば、銀行ギルドが持つ送金インフラやギルド・カードなどの公共サービスは利用出来ます。
ギルドがない為に、その業務の代行者として、【シエーロ】では、【天使】の公務員として、銀行業務担当者を置いていました。
銀行業務担当者は、送金機を持って来ていました。
グレモリー・グリモワールのギルド・カードには、間違いなく【シエーロ】政府から、非課税の賠償金が振り込まれているようです。
「へ?10億金貨も振り込まれているんだけれど?一桁間違えているんじゃない?」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「それは、ルシフェル以下、グレモリー様が【眷属】となさる者達の私有財産を換金した金額を上乗せしてあります。【眷属】には、もはや私有財産は必要ないでしょうし、さりとて、【シエーロ】の公人として与えられていたルシフェル達の特権や資産は、いわば領地などの国家に帰属する事が望ましいモノも多いのです。この【ラピュータ宮殿】があるルシフェルの領地【白の庭園】などがそうです。この【白の庭園】をグレモリー様に、そのまま、お渡しする事は出来ませんでした。なので、換金して振り込ませて頂いた次第です」
ミカエルが言いました。
「あ、そう。なら、もらっとく」
この金額上乗せ分は、【眷属化】に伴う私有財産の移動措置なので、ディーテ・エクセルシオールには関係ありません。
ディーテ・エクセルシオールは、1億金貨の賠償金が振り込まれているだけです。
しかし、1億金貨(10兆円相当)とか、10億金貨(100兆円相当)とか、凄まじい金額ですね。
まあ、私が裁定したのですけれど……。
因みに、【白の庭園】とは、ルシフェルの領地。
その中にはいくつもの街や集落があり、多くの人種が暮らしているそうです。
他の人種を下に見る傾向がある【天使】も、【白の庭園】に住む人種に対しては、絶大な影響力を誇ったルシフェルの家畜として、排撃などはしなかったのだ、とか。
家畜……。
人種を家畜呼ばわりですか?
これは、【天使】達には、ゲームマスターとして、徹底的な教育が必要かもしれませんね。
「ミカエル。【白の庭園】、及び、全【シエーロ】内の人種は、私が庇護します。【シエーロ】において人種差別などの許しがたい事例を発見した場合。私は【シエーロ】の人種を【知の回廊】の委託管理者にして、【天使】達は、【シエーロ】から、永久追放します。それを全【天使】に周知徹底、厳命しなさい」
「はっ!わかりました」
ミカエルは、跪いて言いました。
【シエーロ】には守護竜などの【領域守護者】はいません。
天使長が【領域守護者】?
違います。
【シエーロ】は【創造主】の直轄地。
なので、【シエーロ】では、【創造主】の御使たるゲームマスターの権限が絶対なのです。
極端な事を言うなら、【天使】達は、ゲームマスターの業務の下請けをしている外注業者みたいなモノ。
従って、【天使】達が、言う事を聞かないならば、解雇して、他の者を雇い直せば良いだけなのです。
・・・
グレモリー・グリモワールは、ルシフェルを始めとする9人の【改造知的生命体】達を順番に【眷属化】して行きました。
ルシフェル達の、額に人差し指を突き刺して、脳をかき混ぜています。
ビジュアル的にはエグいですが、このグレモリー・グリモワールがしている方法が正しい【眷属化】の手順なので仕方がありません。
【ヴァンパイア】などは、頚動脈に噛み付いて自分の細胞を対象に植え付けて【眷属】にします。
どちらにしても、エグい事に変わりはありませんね。
ルシフェル達は、相当レベルが高い魔法職でしたが、私が、グレモリー・グリモワールを手伝ったので、【眷属化】への【抵抗】は不可能。
まあ、これがゲームマスターの裁定による刑罰である事を、ルシフェル達も理解しているので、もはや【抵抗】をしようとする者は誰もいませんでしたけれどね。
「さーて、【眷属化】したは良いけれど、こいつらは、どうすっかなぁ〜。とりあえず、【サンタ・グレモリア】の警備員にでもしとくか……」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「グレモリー。この者達の身柄と処遇は、私に預けてもらえませんか?」
「構わないけれど、私の取り分は?」
グレモリー・グリモワールは、9人の【眷属】は自分に所有権がある、と主張します。
「グレモリー。これは、あなたに対する損害賠償や慰謝料ではありません。あくまでも、シャルロッテ達にルシフェルがした非道な行為に対する懲罰です。つまり、ルシフェル達を【眷属】にする、という行為そのものが罰で、それをグレモリーが恣意的に利用する事を担保したモノではありません」
「つまり、【眷属化】は、懲罰を与える事が目的で、私への、ご褒美じゃないって事だね?何か損した気分だよ」
グレモリー・グリモワールは、口を尖らせました。
「そうです。グレモリーの取り分、という意味では、賠償金の10億金貨と別荘2軒の所有権が、そういう意味合いを持ちます」
「あ、そう」
「でも、一応、ルシフェル達の身柄と処遇を私が預かる対価として、艦隊クルー用の【自動人形】・シグニチャー・エディションを総数500体まで追加で渡しましょう。現在ストックがないので、これから造る度に順次譲渡という形ですけれど」
「オッケー。こいつら、頭が悪そうだから、別にいらないし。正直、【自動人形】・シグニチャー・エディションの方が嬉しいよ。それも500体まで増やしてもらえる。これは、艦隊をもう1つ造れるんじゃないかな。確か、ナイアーラトテップさんが描いた図面が、まだあるんだよね。資金的に諦めた【超級飛空航空母艦】とか、【飛空要塞】とかがさ……」
「グレモリー。【超級飛空航空母艦】はともかく、【飛空要塞】は目的から言って、不経済ですよ」
「重厚長大、大艦巨砲は、ロマンなんだよ。無用の長物であっても、良いのっ!」
グレモリー・グリモワールは、言います。
あ、そう。
何だか、50mの【アイアン・ゴーレム】を欲しがるソフィアと同じような思考回路ですね。
私とグレモリー・グリモワールは、元は同一自我だったはずなのですが、私は、もう少し合理的で現実主義だと自己分析しています。
自我が分離して、個性が分かれ始めているのでしょうか?
まあ、良いでしょう。
「【超級飛空航空母艦】や【飛空要塞】を造るかどうかは、さて置き、【マジック・カースル】の格納庫とヤードを活用すれば、造船は出来ますね。施設を遊ばせておくのは勿体ないですから、造船所にしてみてはどうですか?」
「そだね。ま、お金には困っていないけれど、社会の役に立つ産業の一翼を担うのも生き方としては、アリだね〜」
「高速の【飛空貨客船】などは需要がありますよ。鉄道や高速バスや高速トラックなどをイメージした交通インフラとしてです」
「ノヒトがやれば良いじゃん。私は、もっと、こうロマン溢れるヤツをだね〜……」
「私は、軍艦の建造や改造で忙しいのですよ。民政品の船舶までは、まだ当分の間、手が回りきらない状況です」
「あ、そう。ま、考えとく。私も暇って訳じゃないからね〜」
さてと、一旦、夕食を食べに行きましょう
遅くなってしまったので、皆は、夕食を食べ終えてしまっているかもしれません。
私とグレモリー・グリモワールは、ゲームマスター本部に【転移】しました。
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