第227話。量刑の基本は、目には目をプラス・アルファ。
本日、6話目の投稿です。
【ラピュータ宮殿】。
私は、ルシフェルらの不法行為に対する裁定を下さなくてはならなくなりました。
面倒です。
こういう事は、大概、現地の政府に丸っと投げてしまうのが、私本来のスタイルなのですが、今回は、その現地の政府が一方の当事者である為に、投げっぱなし事後処理作戦は使えません。
しかし、状況は、シンプル極まりありません。
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは、今回の事件に関して、世界の理にも、国際法にも、【シエーロ】の国内法にも、一切違反していません。
2人は完全な白。
一方で、ルシフェル達は、色々と世界の理、国際法、国内法に違反しています。
ルシフェル達は完全な黒。
簡単な裁定です。
この時点で、100対0で、グレモリー・グリモワール側の正当性と、ルシフェル達の有罪が確定していました。
後は、量刑の問題だけですが……。
ところが……ルシフェル達は、弁護人による反論の機会を要求して来ました。
ゲームマスターの裁定には、異論を差し挟む事は規定上不可能なはずなのですが……まあ、良いでしょう。
ルシフェル達は、グレモリー・グリモワールの従魔であった竜之介を不当に殺害しました。
これに対する、ルシフェル側の弁護人の反論(言い訳)は……。
「【ラピュータ宮殿】は、【シエーロ】政府が、正当な対価を支払って合法的に接収した。にもかかわらず、【ラピュータ宮殿】に住み着いていた【ドラゴネット】の竜之介は、暴れ【シエーロ】政府側に多数の死傷者を出させた。従って、竜之介を殺害したのは、止むを得なかった。つまり、ルシフェル達は無罪である」
ゲームマスターの裁定。
「竜之介は、グレモリー・グリモワールの従魔です。従魔は、主人の所有財産。ルシフェル達が、竜之介を保護せず殺害したのは、英雄の動産は全て保全しなければならない、と定めた国際法に明確に違反します。この際、竜之介が、グレモリー・グリモワールの私有地の外で暴れたのなら駆除は適法でしたが……竜之介が【ラピュータ宮殿】への侵入者に対して暴れるのは主人の別荘を守る従魔の本分を果たした当然の行動で、完全に適法です。なので、ルシフェル側が竜之介を殺害した事を正当化する根拠は全くありません。従って、ルシフェル側の主張は、全く考慮に値しません。また、竜之介の死体を剥製にして飾るという行為は、学術目的以外で行われた場合、生命を弄ぶ行為で極めて品性が下劣。また、主人であるグレモリー・グリモワールにそれを半ば見せ付け、グレモリー・グリモワールに、あえて精神的苦痛を与えた行為も非道極まりありません。よって、ルシフェル達による、グレモリー・グリモワールの従魔……竜之介の殺害と死体損壊は……有罪」
ルシフェル達は、【ドライアド】のシャルロッテ・メリアスと、8人の【ハマドリュアス】達を不当に奴隷としました。
これに対する、ルシフェル側の弁護人の反論(言い訳)は……。
「【ドライアド】のシャルロッテ・メリアスとルシフェルは、正当な【契約】に基づいて雇用関係を結んだモノで、犯罪要件を満たしていない。従って、ルシフェル達は無罪である」
ゲームマスターの裁定。
「【アンサリング・ストーン】の前で、被害者と、被告の双方に証言をしてもらいます」
【アンサリング・ストーン】の前で、ルシフェルは……【ハマドリュアス】達の生命を人質として、シャルロッテ・メリアスを脅迫して奴隷契約を結ばせた……と自白しました。
「ルシフェルは有罪。シャルロッテ・メリアスの境遇を知っていたのにもかかわらず、その不法行為を見て見ぬふりをした者達も全員有罪」
グレモリー・グリモワールに殺意を持って攻撃をした殺人未遂について。
これに対する、ルシフェル側の弁護人の反論(言い訳)は……。
「グレモリー・グリモワール女史は、強大な魔力を収束し、危険な状態であった為、その脅威を抑止、または、制止する為に止むを得ず、魔法を使ったが殺意はなかった。よって殺人未遂は無罪である。これは、正当防衛が認められてもおかしくはない」
ゲームマスターの裁定。
「【超位】の【呪詛魔法】を撃って、殺意が認定されないのならば、私は、たった今から【シエーロ】の全【天使】に対して【超位】の【呪詛魔法】を撃ちます。それは、全く殺意がないもので、死者が出たとしても、それは単なる偶発的な事故ですので、悪しからず」
「お待ち下さい。このベリアルは、私の責任において今すぐ処刑致しますので、そればかりは、どうか、お許し下さいませ」
ミカエルが跪いて言いました。
「ダメです。弁護人の主張に基づいて下された裁定ですので、もはや覆せません。責任は、ルシフェルとベリアルにあります」
「ノヒト様。それは、あまりにも無体ではありませんか?」
ルシフェルが言います。
やかましい、この雑魚キャラが。
これ以上、愚にもつかない事をほざくなら、【竜】のウ〇コを身体がパンパンに膨れ上がるまで食わせて、口を縫いつけるぞ……。
なーんてね。
ちょっと、思考が、お下品になってしまいましたね。
このルシフェルという、小僧さんは、本当に厚顔無恥というか、慇懃無礼というか、私の嫌いなタイプです。
まあ、被告人の心象が悪いからと言って、裁定に手心を加えたりはしませんよ。
私は、調停や裁定をする場合は、規定通り額面通りに行うので、私情の入り込む余地などはないのです。
「無体?はい、そうですが、何か?そもそも弁護人による反論は、ゲームマスターによる裁定の場においては一切認められていません。つまり、これは茶番です。ルシフェル、あなたが、どのくらい反省する気があるのかという判断材料として、私は、弁護人の介入を許可したのです。その結果、あなたには真摯に反省する気が全くない事がよくわかりました。あなたに対する量刑は、死刑でも軽いみたいですね?」
「ノヒト。私は、こいつらの首なんかいらないよ。ルシフェルには子供とか孫がいるんだよね?その内の1人で、ルシフェルに剥製を作ってもらって、私の自宅に飾るよ。それから他の子供や孫達を、シャルロッテや【ハマドリュアス】達と同じように9人分奴隷として900年働かせるよ。それで、とりあえずは良いかな」
「グレモリー。それでは等価交換ではないですか。犯罪人のルシフェルの方が失うモノが多くなければ、刑罰になりません。なので、グレモリーの提案に加えて何か罰を考えなければいけませんよ。それを決めるのは、ルシフェル自身にやらせましょう」
「そだね。こいつは、あの【知の回廊】の半分しか知性がないんだから、そういう下劣な事を考えるのが得意そうだもんね?」
「もちろんです。あの【知の回廊】の半分しか知性がないのですから、品性の程度は、推して知るべしですよ」
ルシフェルは、無表情。
ミカエル、ガブリエル、ラファエルは、土下座。
ベリアルは昏睡中。
弁護人達は、上から下から、色々と、お漏らししています。
あーあ、【神威】を、やり過ぎましたかね。
そろそろ真面目にやりましょう。
「さてと……今までのは、ほんの冗談です。本当の裁定を下しますよ。【ドライアド】のシャルロッテ・メリアス、【ハマドリュアス】のカリュアー、バラノス、クラネイアー、モノアー、アイゲイロス、プテレアー、アンペロス、シュケーを脅迫し900年間不当に隷属させた刑罰として……ルシフェル、ベリアル、アザゼル、ルキフゲ・ロフォカレ、ルキフゲ・フォカロル、ベルフェゴール、アマイモン、サタナエル、アスモデウスはグレモリー・グリモワールの【眷属】とします。被害者が9人なので、罰を受ける者も9人です。不当に隷属される苦しみを生涯味わって下さい。【シエーロ】政府は、接収したグレモリー・グリモワールの2つの別荘を無償でグレモリー・グリモワールに返還する事。これは、グレモリー・グリモワールの従魔である竜之介を殺傷し、あまつさえ剥製にして飾るなどという不当な行為をした事に対する損害補償です。また、これに加えて、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオール、両名に対して、それぞれ【ドラゴニーア通貨】で1億金貨の賠償金の支払いを【シエーロ】政府に命じます。グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを殺害しようとした236人の内【眷属】となる9人を除いた残り全員は、永久にゲームマスター本部の下僕として労役を科します。今回の戦闘により亡くなった者の死体は、全てグレモリー・グリモワールに所有権を認めます。以上」
「き、厳し過ぎませんか?」
ミカエルが怖ず怖ずと言いました。
「一体どの辺りが厳しいのでしょうか?私としては、温情判決を大盤振る舞いしたつもりなのですが?人種に対して、正当な理由なく【呪詛魔法】を用いて攻撃するだけで、永久アカウント停止対象案件です。ユーザーは永久BANですが……NPCがこの世界から永久BANされるという事は、つまり死刑。ベリアルは死刑となります。その他、ありとあらゆる罪状も、あなた達【シエーロ】の国内法では極刑相当ですよ。グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールに攻撃を加えた者、または、その者達に協力した者、その全員を【シエーロ】国内法で死刑に処する根拠があります。また、シャルロッテ・メリアスと【ハマドリュアス】8人を、あなた達は900年間不当に奴隷としていました。これは、奴隷制を禁じている世界の理に反します。900年間という長さも問題ですが、仮にシャルロッテ・メリアスと【ハマドリュアス】8人の庇護者であるグレモリー・グリモワールが、今日、たまたま生存を確認に訪ねて来なければ、この不当な状態は永久に継続していたと見做されます。人権蹂躙も甚だしいですね?【天使】は、いつから蛮族に成り下がったのですか?ミカエル、ガブリエル、ラファエルが【知の回廊】に精神支配されていた事による影響は不問に付しましたが、この件は、全く関係ありませんよね?つまり取り締まらなければいけません。今現在、ルシフェルは天使長……つまり【シエーロ】政府の最高執行責任者です。そのルシフェルが、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールの殺傷を命じた。これは、【シエーロ】政府にも当然責任が発生します。対してグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは、世界の理から言っても、国際法から言っても、【シエーロ】の国内法から言っても、何ら違法行為はしていない。全て、正当な根拠を持った適法な行動でした。ミカエル……これらを鑑みて、私に与えられた権限を規定通りに最大限運用するなら、これだけの罪状が揃えば【天使】を種族ごと絶滅させる事も可能ですけれども、どうしますか?ミカエル、あなたは、この判決が厳し過ぎる、などと本気で言っているのですか?本気だとするなら、【天使】を種族ごと絶滅させる事も選択肢に含めて、もう一度裁定をやり直しますが、良いのですか?」
私は、【神威】を全開にして、ニッコリと微笑みます。
「ノヒト、超怖ぇ〜……」
グレモリー・グリモワールがドン引きしながら言いました。
「本当に……あの温厚そうなノヒト様とは別人みたい……」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
「恥知らずな事を申しました、誠に申し訳ありません……」
ミカエルは平伏して謝罪しました。
「ミカエル。私は謝罪などは求めていません。あなたは、この判決が厳し過ぎる、などと本気で言っているのですか?と、質問しているのですよ」
「全く厳しくはありません。むしろ、温情と慈悲のある判決でございます。愚鈍な私が完全に間違えておりました。お許し下さいませ」
ミカエルは、平伏したまま言います。
「そうですか。人種は誰でも間違いはするものですから、今回はミカエルの間違いを罪に問うような事はしません。では、あなたの責任において、刑罰、損害補償、賠償を確実に履行して下さい。今日中に完了して下さいね。遅延した場合は、ゲームマスターの判決に従わなかった罪が加わります。次は、温情は引っ込めて、冷徹な方の私を大盤振る舞いしますので、そのつもりで、死に物狂いで、やって下さいね。その苦労も刑罰の一部ですので、キチンと部下達に説明して、完璧に執行させて下さい。この判決に関して、不平不満を表すような【天使】が、今後1人でも現れたら、その時点で全【天使】を【シエーロ】の委託管理者から罷免します。わかりましたね?」
「畏まりました」
ミカエルは、言いました。
ならば、良し。
「グレモリー。とりあえず、こんなところで、シャルロッテ達と、竜之介の事は許してあげて下さい。さあ、シャルロッテ達を陽当たりの良い場所に移してあげましょう。この【ラピュータ宮殿】は、もうグレモリーの物なのですからね」
「わかったよ。ディーテ、悪いんだけれど、フェリシアとレイニールとグレースさんを迎えに行って、先に、ミネルヴァの許可をもらってレストランに向かっておいてよ。あんまり夕飯が遅れると、ソフィアちゃんが可哀想だしね」
グレモリー・グリモワールは、【収納】から【魔法のホウキ】を取り出して言いました。
「わかったわ。ノヒト様、グレモリーちゃんをよろしく」
「わかりました」
ディーテ・エクセルシオールは、目礼して、【転移】します。
私は、【魔法のホウキ】で森に向かって飛び立ったグレモリー・グリモワールの後を追いました。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。




