第226話。グレモリー・グリモワール、ブチ切れる。
本日、5話目の投稿です。
【ラピュータ宮殿】。
ここは、900年前は、グレモリー・グリモワール(私)の2つある別荘の内の1つでした。
場所は【エンピレオ】の都市城壁の外にあります。
現在は、【天使】の政府が所有管轄する広大なエリアに組み込まれてしまっていました。
つまり、名義上は、グレモリー・グリモワールの所有物件ではないのです。
私が、グレモリー・グリモワールの持つ【ビーコン】に向かって【転移】して来ると……凄まじい修羅場の様相を呈していました。
グレモリー・グリモワールは、【エルダー・リッチ】200体と【腐竜】8頭と【ホムンクルス・ベヒモス】を出動させる最強布陣で、敵を睨みつけています。
その瞳からは血液が止めどなく流れ出していました。
頭蓋内に相当なダメージを負っていますね。
対するのは、完全武装した多数の【天使】達。
厳密に言えば、【擬似神格細胞】を持つ【改造知的生命体】達です。
私達がいる場所は、浮遊する城であるラピュータ宮殿の直下に当たる地上。
辺りには、無数の魔物の死体が散乱していました。
人種の死体も、何人か確認出来ます。
グレモリー・グリモワールは、右腕を肩の付け根から失っていて、左手も手首から先を潰されていました。
その他にも、腹部に内臓がハミ出すほどの大怪我……。
グレモリー・グリモワールに、これだけのダメージを与えるとは……敵は、強力な個体なのでしょう。
その深傷に、ディーテ・エクセルシオールが必死に【治療】をかけ続けていました。
「ノヒト様。傷が治らない」
ディーテ・エクセルシオールが悲痛な声で言います。
「【呪詛魔法】……【超位呪】ですよ。【超位】の【完全治癒】でも効きません。【超神位魔法……完全治癒】」
グレモリー・グリモワールの全身の傷は瞬時に完治しました。
「NPCを殺しちゃった。たぶん2、30人。ノヒト、私は罪になる?」
グレモリー・グリモワールは、戦闘態勢を崩さず、敵を睨みつけたまま、訊ねます。
グレモリー・グリモワールが言葉を発する度に、口から血液が流れました。
傷は全て治療してあるので、胃や食道に溜まっていた血液でしょう。
酷い有り様ですね。
「状況によります。どうして、戦っているのですか?」
「【ラピュータ宮殿】は、現在ルシフェルって奴の領地になっているみたい。私は……元の所有者だ……って、事情を話して中に入れてもらえた。で、森の中で、シャルロッテと【ハマドリュアス】達には会えたんだけれどね……あいつら、シャルロッテ達の事を不当な【契約】で縛って奴隷にしていたんだよ。それに、私の……りゅ、竜之介を殺して……剥製にして飾っていやがった……だから……チキショウ……」
グレモリー・グリモワールは、嗚咽し始めました。
「ノヒト様。先に手を出したのは向こうです。グレモリーちゃんは、凄く怒ったけれど、攻撃はしていない。あっちが先に仕掛けて来ました。これは正当防衛ですわ」
ディーテ・エクセルシオールが説明します。
「それは確かですね?」
「誓って事実です……【誓約】」
ディーテ・エクセルシオールが証言が事実である事を証明しました。
なるほど。
「わかりました。ならば、まず、敵を排除してしまいましょう」
私は、【改造知的生命体】達が陣形を組む場所まで歩いて行きました。
「ってーーっ!」
女の【改造知的生命体】が号令をかけます。
私は、魔法の集中砲火を浴びました。
「【超神位魔法……昏睡】」
私は、陣形を組む200人余りの【改造知的生命体】を全員昏倒させます。
陣形の背後に控えていた数十頭の【竜】が襲って来ました。
おそらく、【改造知的生命体】達の従魔だと思われます。
「【煉獄】」
私は、躊躇なく【神の怒り】を詠唱しました。
ズドガーーンッ!
一撃。
【竜】達は瞬時に燃滅し尽くされます。
【超神位魔法……昏睡】であれば、従魔の方も無傷で制圧出来ましたが……。
グレモリー・グリモワールを殺そうとして、あれだけの傷を負わせたのですから、情けをかける必要はありません。
私に攻撃を仕掛けて来た時点から先は、完全に自己責任です。
さてと、お次……。
私は、【短距離転移】で、上空に【転移】します。
そこには、7人の【改造知的生命体】がいました。
グレモリー・グリモワールのサーチ限界範囲の外から、地上の様子を窺っていたのです。
1人はルシフェルというステータス表示でした。
こいつがルシフェル。
確実に事情を知っているでしょう。
「なっ!」
小さな男の【改造知的生命体】が声を発しました。
全員が魔力を収束し抵抗の姿勢を見せます。
私は、正当防衛が確定するように時間を与えました。
全員が【超位魔法】を放ち、私に直撃。
はい、現行犯。
私は、7人を【超神位魔法……昏睡】で昏倒させます。
7人は、瞬時に意識を失い、上空から墜落……地面へと次々に激突しました。
あ……激突のダメージで、1人、死んでしまいましたね。
【防御】を常時発動状態に切り替えておかなかったのが悪いのです。
それに、ゲームマスター権限の執行の結果に起きたアクシデントは、私に責任義務は発生しません。
もちろん、通常なら、事故が起こらないように、よくよく配慮はしますが、今、私は怒っているのです。
グレモリー・グリモワールは身内。
私の身内を殺しかけるなどという事は、許しません。
また、ディーテ・エクセルシオールによる【誓約】の上での証言から、グレモリー・グリモワールに法的な非はない事が判明しています。
私は、今、ゲームマスターとして、この【改造知的生命体】達の殺生与奪権限を握っていました。
ゲームマスター業務の執行を妨害したり抵抗したりした者は、その結果どんな目に遭っても、ゲームルール上それは全て自己責任という事になります。
私は、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを連れて……そして、ルシフェルの足首を掴んで引きずり、【ラピュータ宮殿】に向かいました。
昏倒したルシフェルの配下達は、地面に転がしたままにします。
「ヒモ太郎。寝ている連中は食べたらダメだよ。こいつら存在がクズだから、食べたら下痢になるからね」
グレモリー・グリモワールが【ホムンクルス・ベヒモス】のヒモ太郎に命じました。
ヒモ太郎は、ブモッ、と鼻を鳴らして返事をします。
私達は、【ラピュータ宮殿】に入りました。
壁に巨大な穴が空いていますね……。
・・・
【ラピュータ宮殿】。
私は、ルシフェルを床に放り捨てて、魔力封じの儀式魔法を施して、オリハルコンとアダマンタイトの複合材の手枷足枷をはめ、無力化しました。
【ラピュータ宮殿】内にも複数の【改造知的生命体】や【魔人】や人種の死体が転がっています。
グレモリー・グリモワールに倒されたのでしょう。
まだ、数人は、息があります。
「こいつよ。確か、ベリアルとかって名乗っていたわね。こいつが、グレモリーちゃんに最初の【呪】を放った奴。で、グレモリーちゃんが反撃したの。後は、メチャクチャ。私が、防御を固めている間に、グレモリーちゃんが【エルダー・リッチ】と【腐竜】と【ホムンクルス・ベヒモス】を出して、私達が優位な形で均衡したけれど、紙一重。危なかった」
ディーテ・エクセルシオールが報告しました。
ベリアルと呼ばれた【改造知的生命体】は、グレモリー・グリモワールの【壊死】を食らって致命傷を受けていました。
別に、このまま死なせても構いませんが……。
一応、息がある者達は、治療してやりました。
「ディーテさん。グレモリーに付いていて下さい」
私は、ディーテ・エクセルシオールに依頼します。
見ると、グレモリー・グリモワールは、椅子にドッカリと腰を下ろして、疲労感を垣間見せていました。
傷を治し、魔力と体力は回復させましたが、致命傷と断言出来る重篤な深傷を受けていたのです。
患部の組織が、まだ馴染んでいないのでしょう。
また、精神の方も、相当擦り減らしているのではないでしょうか?
私は、息があるルシフェル陣営の者達にも、魔力封じの儀式魔法を施して、手枷足枷で拘束をした上で、【治療】を行いました。
ひと通り拘束と治療を終えて、私は、グレモリー・グリモワールの元に戻ります。
「グレモリー。大丈夫ですか?」
「いやさ。竜之介を、あんな酷い目に遭わせた連中だけれど、異世界転移して以来、初めてNPCを手にかけちゃったからね。心がしんどいよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「あら、グレモリーちゃん。今更じゃない?アリスちゃんに聞いたけれど、【ブリリア王国】の元第3王子を人質に引き取る時に、戦ったんでしょう?」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
「いや、あの時は死人は出していないよ」
グレモリー・グリモワールが否定しました。
「え?アリスちゃんの話では、相手方の死者5人って聞いているけれど?」
「5人?もしかして……【砲艦】の乗組員かな?【砲艦】が【魔導砲】を撃とうとしたから迎撃して……あ……【超重力】で撃墜しちゃってたよ。アレで死んじゃったか……」
「【超位】の重力荷重を加えたら、外身の【神の遺物】の【砲艦】は壊れなかったとしても、中身の乗組員は、グッチャグチャよ」
「あ、ははは……うっかりだね、テヘペロ……」
話の内容は、よくわかりませんが、グレモリー・グリモワールは、色々と、やらかしているようですね。
「グレモリー。その実力行使には、正当な理由があるのでしょうね?」
「あ、ごめんなさい。ちょっち、ヤリ過ぎたっぽいかも」
グレモリー・グリモワールは頭を掻きました。
「ノヒト様。大丈夫ですよ。相手は、正当な理由なく【魔導砲】をグレモリーちゃんや、無辜の民に撃とうとしたんですから。相手方の責任者であるマクシミリアン王も、全面的に非を認めています。だから、あれは正当防衛です」
あ、そう。
正義の導き手であるディーテ・エクセルシオールが言うのですから間違いはないのでしょうが、あまり過剰な暴力は看過出来ません。
まあ、私も、ゲームマスターに攻撃を加えて来た犯罪者だとはいえ、ついさっきNPCを1人死なせてしまいましたからね。
グレモリー・グリモワールばかりを一方的に非難する事は出来ません。
ミカエル……ゲームマスター業務執行妨害罪、及び、殺人未遂罪で、ルシフェル以下236人の身柄を拘束しました……また、死者も28人出ています。とりあえず、あなたは、すぐに【ラピュータ宮殿】まで来て下さい……わかっていると思いますが、おかしな振る舞いをすれば、【シエーロ】を滅ぼしますからね……よろしく、お願いします。
私は、【念話】で伝えました。
ミカエルの返事などは聞く必要はありません。
これは、お願いなどではなく強制命令。
問答無用なのです。
私は、ルシフェルの【超神位魔法……昏睡】を解除しました。
・・・
1時間後。
ミカエル、ガブリエル、ラファエルが駆け付け、事のあらましを聴き、真っ青な顔で謝罪しています。
ルシフェルは、初め、何やらグダグダと愚にもつかない理屈をこねて罪を認めようとしていませんでしたが、私が【無限核融合】を目の前で見せてあげたら、諦めたように服従する姿勢に変わりました。
事件の顛末は、こうです。
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは、竜之介ら従魔や庇護していた配下の者達の生存確認をして、生きていれば返してもらう為に【ラピュータ宮殿】に来訪しました。
ルシフェルは、その時点では、快く2人を迎え入れたのだ、とか。
2人は、敷地内の森に入り、かつて庇護していた配下達と再会を果たしました。
【ドライアド】のシャルロッテ・メリアスと、その配下である8人の【ハマドリュアス】達です。
【ハマドリュアス】達は、【樹人】と呼ばれる樹木の知的生命体で、歴とした人権を持つ人種です。
同じ植物系の知的生命体に【アルラウネ】や【マンドラゴラ】と呼ばれる者達がいますが、あちらは魔物。
【樹人】とは、本質的に違います。
【樹人】は、人種なので、体内に【コア】を持ちません。
それが、見分け方でした。
【ドライアド】は、その【ハマドリュアス】が長く生きてレベルが上がり【聖格】を得た上位種の【樹人】。
【ドライアド】も【ハマドリュアス】も、高い知性を持ち、また強力な魔法を使いますが、性格はいたって温厚。
無益な争いを好みません。
【ドライアド】のシャルロッテ・メリアスは、その名前メリアス(トネリコの木)が示す通り、トネリコの木が人型を取り、知性を持った生命体。
グレモリー・グリモワール(私)が庇護して名前を与え、【ラピュータ宮殿】の管理人として配下にしていたのです。
メリアス(トネリコの木)だから、シャルロッテ・メリアス。
安直なネーミングですが何か?
グレモリー・グリモワールは、再会したシャルロッテ達から腹を立てるには十分な話を聴かされたのだ、とか。
具体的には、シャルロッテ達は、自らの意志ではなく、ルシフェルと拒否が出来ないような形で【契約】結ばされ、900年もの長期間、奴隷のような立場に置かれ、敷地内の警備などの役目を、強制的に、また無報酬でやらされていたそうです。
虐待など、物理的に酷い扱いはされていないそうですが……従わないなら殺す……というのは、契約などではなく、脅迫。
許される事ではありません。
ルシフェルは、シャルロッテに……お前が従わないなら配下の【ハマドリュアス】達を一本一本、斧で切り倒して、暖炉の薪にする……と言って脅迫したそうです。
シャルロッテは、グレモリー・グリモワールから……【ハマドリュアス】達を守るように……と命じられていました。
なので、グレモリー・グリモワールの命令を守る為に、今日までルシフェルの奴隷の境遇に甘んじて来たそうです。
シャルロッテから、その話を聴いたグレモリー・グリモワールは、ルシフェルに抗議する為に、【ラピュータ宮殿】に戻りました。
この時点では、グレモリー・グリモワールは、まだ話し合いで問題を解決する気があったようです。
あのグレモリー・グリモワールも人間的に成長しているのですね。
グレモリー・グリモワールは、話し合いの為に通された応接室に飾られていた【ドラゴネット】の剥製を発見。
それが、変わり果てた、竜之介でした。
竜之介は、この【ラピュータ宮殿】をルシフェル達が接収する際に、暴れた為、無残にも殺されたのだそうです。
暴れた?
竜之介は、この別荘を侵入者達から守ろうとして必死に戦っただけです。
それをして竜之介を殺しせしむる理由にはなりません。
どんな権限があって、そんな無体が許されるというのでしょうか?
職務権限で、かなり好き勝手な事が出来るゲームマスターであっても、そんな事は許されていません。
名義変更をして手に入れた家に入ったら、その家で飼われていた犬に噛まれた、と言って殺してしまうようなモノです。
あり得ません。
何故なら、家の名義は変更されても、飼われている犬の所有権は、元の飼い主のモノなのですから……。
他人の飼い犬を殺して、あまつさえ剥製にして飾るとか……。
鬼畜の所業です。
この瞬間、グレモリー・グリモワールは、ブチ切れました。
グレモリー・グリモワールは……どういう了見か説明しろ。事と次第によってはタダでは済まさない……と、ルシフェルに詰問しました。
そうしたら、突如、ベリアルなる【改造知的生命体】が、【超位】の【呪】を撃って来た、と。
ベリアルは、【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】を被っていた為に、グレモリー・グリモワールは対処が一瞬遅れて、【超位】の【呪】の直撃を食らってしまったそうです。
ディーテ・エクセルシオールを庇う為に、避ける事を放棄した、と言った方が適切かもしれません。
グレモリー・グリモワールは、【マッピング】で、ベリアルの存在には気が付いていたものの、いきなり致命の【呪詛魔法】を撃って来るとは想定していませんでした。
確かに【マッピング】で存在はわかりますが、魔力を収束している事まではわかりません。
しかし、それでもグレモリー・グリモワールなら、何とか対処が出来たはずです。
完全な油断ですね。
おそらく、竜之介の剥製が飾られているのを見て、怒り狂い、冷静さを欠いていたのでしょう。
後は、グレモリー・グリモワールがベリアルに反撃して倒し、そのままルシフェル達と激しい戦闘状態になった訳です。
グレモリー・グリモワールは、ディーテ・エクセルシオールを庇いながら、【ラピュータ宮殿】の窓から脱出。
その時に、ルシフェルが【超位光魔法】の【光子砲】を撃ちました。
それで、【ラピュータ宮殿】の壁に大穴が空いたのですね。
グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは、【光子砲】を辛くも躱して、地上に退避しましたが、ルシフェルの私兵が地上まで追撃して来ました。
ルシフェル軍は、応援を呼び、戦列を組んで攻撃を仕掛けて来ましたが、その時には、グレモリー・グリモワールが最強戦力を揃えて待ち構えていた、と。
ルシフェルと側近達は、上空から【超位魔法】を撃ち込んだものの、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを守る【ホムンクルス・ベヒモス】のヒモ太郎の【神位】の【魔法障壁】を貫通出来ず。
グレモリー・グリモワールの【呪】によるダメージが重い事から、持久戦になれば、グレモリー・グリモワールは、やがて弱って死ぬだろうと考えて、ルシフェル達は上空で様子見をしていたのだ、とか。
ルシフェルは……グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを害するつもりはなかったものの、配下が倒されて行く為に、止むを得ず応戦した……と供述していました。
ここまでの証言が全て事実である事は、【アンサリング・ストーン】で確認済です。
さてと、関係者全員から【調停者】と呼ばれるゲームマスターの私に、裁定が委ねられました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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