第224話。マジック・カースル。
本日、3話目の投稿です。
【マジック・カースル】。
5階吹き抜けの玄関ホールの先には大階段があり、踊り場から左右に階段が伸びています。
「敷地の外に出なければ安全だから、どこでも好きに見て回っても良いけれど、ゲームマスターの本部を見た後じゃ、見劣りするよね」
グレモリー・グリモワールは、言いました。
「グレモリー。先に艦隊とアイテムを回収しましょう。格納庫とアイテム庫を空にする前に、見せてあげたらどうですか?」
「おっと、そうだね。なら、格納庫から行くよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
私達は、玄関ホール正面の大階段の背後に回り込み、地下に向かう階段を降りて行きます。
・・・
玄関ホール直下の地下空間は、地下に向かうエレベーターホールになっていました。
「とりあえず、皆は、私と一緒に格納庫が良く見渡せるラウンジの方に行こう。ノヒトは、ヤードの方に行って、順番に回収して行ってもらえる?」
グレモリー・グリモワールが言います。
「わかりました」
私は、皆と別行動を取り、エレベーターを降りて最下層のヤードと呼ばれる場所に向かいました。
・・・
ヤード。
ここは、艦船を修理したり、武装を換装したりする為の、ドックの役目を果たす場所でした。
この格納庫は、特殊な構造をしている為に、通常のドックによる整備が行えないのです。
動かすよ。
グレモリー・グリモワールが【念話】で伝えてきました。
はい、どうぞ。
私は、【念話】で了解を示します。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
循環リボルビング方式。
この格納庫は、わかりやすく言えば立体駐車場のような構造になっています。
巨大な艦船が乗った支持台がグルグルと循環して格納する仕組みでした。
グレモリー・グリモワール(私)は、資金も土地も潤沢に持っていましたので、一言で言えば……無駄機能。
ワザワザ、地下に立体駐機格納庫など造らなくても……効率を考えれば、地上に飛空船港を造り、艦船を並べて、たくさんのドックを造って格納・整備の施設とすれば良かったのです。
実際、この立体駐機タイプの格納庫には、艦隊そのものよりも予算がかかってしまいましたし、入港も出航も、1隻ずつしか出来ない為に、不便極まりありません。
これを、無駄と見做すか、ロマンと見做すかは、意見が分かれるところでした。
この循環リボルビング式の格納庫のギミックを、グレモリー・グリモワール達が向かったラウンジからは、一望のもとに見渡せます。
そして、ボタン操作で好きな艦船が目の前にやって来るという仕組みでした。
また、ユックリと自動で動かしておいて、それを眺めながら、食事を摂ったり、お酒を飲んだり、という事も出来ます。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
頻繁に、艦船がローテーションして行きます。
パスが繋がるトリニティの目を通して、グレモリー・グリモワール達の様子を見ると……。
「次は、これじゃ、【飛空巡航艦】の【フライング・ダッチマン】……ポチッとな」
ソフィアがボタン操作をしていました。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ねーねー、ソフィア様、次はアタシにもやらせて〜っ!」
ウルスラが言います。
「ウルスラ。まあ、待て、病院船【ナイチンゲール】とな?次は、これじゃ……ポチっとな」
ソフィアがボタン操作をしました。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「アタシもやりたい〜っ!ポチポチ」
ウルスラがボタンを適当に押し始めました。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ウルスラ。これは、さっき見たのじゃ……ポチっとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「アタシにもやらせてよ〜っ!ポチ」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「くっ、今は、我の番なのじゃ、ポチッとな」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「ずるいずるい、アタシもやりたい〜、ポチポチポチ」
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
グイーーンッ、ガッチャーーンッ。
「あーーっ!いい加減にせんかっ!」
グレモリー・グリモワールがソフィアとウルスラを一喝しました。
「ごめんなのじゃ」
「ごめんなさい」
ソフィアとウルスラが謝ります。
今、ウルスラのせいで叱られたのじゃ。
ソフィアが【念話】で私に愚痴って来ました。
アタシのせいじゃないよ。
ウルスラが【念話】で伝えて来ます。
・・・
ソフィア達が散々、格納庫のギミックで遊んだ後……私は、片端からグリモワール艦隊を回収して行きました。
格納庫は空っぽになります。
これで、良し。
私は、エレベーターでラウンジの階に上がりソフィア達と合流しました。
「なら、次はアイテム庫だね」
グレモリー・グリモワールは言います。
私達は、グレモリー・グリモワールに付いてアイテム庫に向かいました。
・・・
アイテム庫。
【神の遺物】のアイテムが陳列された……グリモワール・コレクション。
「ディーテ、忘れない内に、約束の品物を渡しておくよ」
グレモリー・グリモワールは、言いました。
「良いの?当初の予定とは、だいぶ変更してしまったから、たぶん【誓約】の拘束は働かなくなっていると思うわよ」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
「それでも約束は約束だよ」
グレモリー・グリモワールは、ディーテ・エクセルシオールに幾つかの【神の遺物】のアイテムを渡していました。
事前に、何らかの約束事が取り交わされていたようです。
「ふむふむ、個人の収集品としては、大したモノじゃな?」
ソフィアがグリモワール・コレクションを褒めました。
おそらく、ここの【神の遺物】は、レア度では【ドラゴニーア】竜城の宝物部屋の質を上回るはずです。
「でも、ゲームマスター本部の【ストッカー】と【工場】を見た後では、何だかな〜、って感じでしょう?」
グレモリー・グリモワールが苦笑しました。
「アレと比較してはダメじゃ。【調停者】は、ズルっこいのじゃからの」
ソフィアが、グレモリー・グリモワールを慰めます。
「だよね〜、ゲームマスターは、チート過ぎるよ」
グレモリー・グリモワールが、私を、ジト目で見て来ました。
「なのじゃ」
ソフィアも、ジト目で見て来ます。
「2人とも、立場を交換しますか?私がミネルヴァに命じれば、たぶん、2人を臨時ゲームマスターにする事も出来ますよ」
「いや、遠慮しておくよ。責任を負いきれないからね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「なのじゃ。面倒過ぎて、あんな役割は、とても、やっていられないのじゃ」
ソフィアも同調します。
ならば、ゲームマスター弄りは、控え目にして下さいね。
私たちゲームマスターの権限と優遇は、職責と表裏一体なのです。
能力や装備品を羨むなら、それに見合った働きをしなければいけません。
私は、文字通りの意味で、全く眠らずに働いていますからね。
「グレモリー。アイテムの回収は、どうしますか?全ては、必要ないでしょう?必要があれば、【転移】で取りに来れば良いのですから」
「そだね〜。とりあえず、武器と防具系は、あらかた持って行くかなぁ」
「なら、【宝物庫】を50個ほど、半永久貸与しましょう。あなたが存在する限り、貸しっぱなしです」
「50個ぉ!……アイテム庫のアイテムをそっくり移しても、そんなには、いらないよ」
「ならば、何か他の用途に活用してくれて構いません。もはや私は、【ストッカー】から無限に補充出来ますので」
「何だか、価値観が崩壊して行くね」
「ただし、他者に譲渡しないで下さいね。ディーテ・エクセルシオールなど信用のおける人物に一時的に貸す、あるいは、魔物の素材を入れておいてギルドに一時的に預けるなど、必ず返還される事が明らかな場合は構いません」
「わかったよ」
私は、グレモリー・グリモワールに【宝物庫】を50個貸与しました。
グレモリー・グリモワールは、【宝物庫】に手当たり次第にアイテムを回収して、それを【避難小屋】の棚や道具入れなどに、どんどん入れて行きます。
【避難小屋】は、例外的に2重【収納】が可能なアイテムでした。
確かに便利ですよね。
ただし、【神竜】降臨イベントでしか手に入らない、超絶レア・アイテムなので、持っているユーザーは、ほとんどいませんでした。
ゲームマスター本部にも、現在、99ロットしかストックがありません。
私は、便利な【避難小屋】を【収納】に複数入れておきました。
まあ、ゲームマスター本部に帰還してすぐ、【避難小屋】だけでなく、ほぼ全ての【神の遺物】を、私の内部【収納】の方にガッツリと補充しましたけれどね。
【避難小屋】がレアな理由として、ユーザーが【神竜】の降臨イベントで、【避難小屋】を選ばない、という事もあります。
ユーザー達にとっては、どんなに有用なアイテムでも、小屋でしかない【避難小屋】より、強力な武器・防具の類や、自己強化に繋がる恩寵をもらった方が良い、という考え方が主流でした。
しかし、【神竜】降臨イベントで、【避難小屋】を選んだグレモリー・グリモワール(私)は正しいのです。
いや、もらうべきモノは、【避難小屋】一択しか、あり得ない、と断言しておきましょう。
この【避難小屋】は内部無敵効果を持つ事だけでもチートですが、2重【収納】は、本当にチート。
他で入手が不可能な以上、【神竜】降臨イベントでは、必ず【避難小屋】をもらっておくべきなのです。
これは、間違いありません。
「グレモリー。では、私は、【サンタ・グレモリア】に艦隊を運んでおきますよ」
「あ〜、頼むね〜。適当に街の上を旋回させておいて……」
グレモリー・グリモワールは、アイテム庫の【神の遺物】を次々に【宝物庫】に移しながら、生返事をしました。
普通は、マスター権限がない者には、他人の船を適当に街の上で旋回させておく事など出来ません。
つまり、グレモリー・グリモワールの依頼は……私がゲームマスター権限を使って、グリモワール艦隊に必要な指示を出しても構わない……という事。
白紙委任状ですね。
私は、【サンタ・グレモリア】に向かって【転移】します。
・・・
ウエスト大陸【ブリリア王国】の【サンタ・グレモリア】上空。
私は、グリモワール艦隊を【収納】から取り出して、空中に並べて行きました。
街の警備隊長【ヴイーヴル】のキブリがニョロニョロと飛んで、近付いて来ます。
「キブリ。グレモリーから頼まれて船を運んで来たんだ。危険な事はしないから、心配いらないよ」
キブリは、船の周りを飛び回り、納得したのか離れて行きました。
キブリの後から、4人の【ハイ・エルフ】が上空に飛んで来ます。
彼女達は、ディーテ・エクセルシオールの配下。
フェリシア、レイニール、ディーテ・エクセルシオールと共に、グレモリー・グリモワールのパーティ・メンバーとして登録されているようです。
「【調停者】様でしたか、突如、軍艦が出現したので、慌てました」
元【エルフヘイム】の女王だというヨサフィーナさんが言いました。
「脅かしてしまいましたか?すみません。これが、グリモワール艦隊ですよ」
「凄まじい威容ですね。グレモリー様からは、無人で航行が可能な知性を持つ船だ、と伺っています」
「はい。航行は無人で可能です」
グリモワール艦隊艦船の【メイン・コア】は、全て【ダンジョン・コア】。
私が造った【飛空快速船】のカティサークと同様に全艦船が知性を持つのです。
しかし、50隻の【砲艦】を除いては、武器管制は、クルーの手動によって行わなければいけません。
【メイン・コア】による自動航行だけでは、砲が撃てないのです。
グレモリー・グリモワール(私)は、この武器管制や、砲手として、総数1000体の【スケルトン】を使役していました。
あの【スケルトン】達は、砲手や艦隊クルーとして最適化されているので、優秀です。
しかし、【スケルトン】をクルーとするには、グレモリー・グリモワールが艦隊と共に行動しなければいけません。
【スケルトン】は、【不死者】。
【不死者】は、死体。
死体は、【死霊術士】が【操作】、または、【管制】しなければ、ただの物体。
つまり、グレモリー・グリモワールが常にパスが繋がる範囲内にいなければ、【スケルトン】達は動かないのです。
これは、不便ですよね……。
確かにグリモワール艦隊は、空母打撃群として強力ですが、グレモリー・グリモワールが艦隊に張り付いているのは非効率です。
この【サンタ・グレモリア】には、艦隊のクルーとして働ける人種は1人もいないのだそう。
つまり、グレモリー・グリモワール陣営の、最強戦力であり、最大火力であるグレモリー・グリモワールが艦隊の指揮に手を奪われるのは、勿体なさ過ぎるのです。
うーむ……。
頼まれてはいませんが、少し、お節介を焼きましょうか……。
私は、艦隊の各艦船をハシゴして、次々に【メイン・コア】をカスタマイズして行きました。
セキュリティ・コードも、ファイアーウォールもゲームマスター権限を使えば、ホイホイ通り抜けられます。
まずは、各艦船の【メイン・コア】に対する外部からの不正アクセス対抗力を最大限強化。
これで、グリモワール艦隊を、グレモリー・グリモワールから盗む事は、ほぼ不可能になりました。
【神位】の各種【永続バフ】を上かけ。
【自動修復】を【神位】にグレードアップ。
これは、防御力の強化ですね。
【メイン・コア】の演算能力を強化。
レーダーとソナー、及び、【魔力探知】を強化。
敵味方判別能力を追加。
各艦船の【メイン・コア】をリンク。
武器管制を一部【メイン・コア】が行えるように改造。
バックドアとして、必要があれば、私が、グリモワール艦隊を制御出来るような裏コードを埋設。
ここまでは、私が【ドラゴニーア】艦隊に行ったモノと同じ強化項目でした。
そして、グリモワール艦隊のクルーとして、【自動人形】・シグニチャー・エディションを139体投入。
【スケルトン】1000体に対して、【自動人形】・シグニチャー・エディションが100体あまりでは、足りませんが、仕方がありません。
もう、私の【自動人形】・シグニチャー・エディションのストックがなくなってしまったので……。
まあ、各艦船の【メイン・コア】をバージョンアップしたので、補完し合えば、この数でも何とか回るでしょう。
重要な事は、これでグレモリー・グリモワールは、艦隊の指揮を離れて別行動をとる事が出来るようになる、という事。
足りないクルーは、グレモリー・グリモワールが信用のおける者を雇い教育・訓練すれば事足りるのですからね。
「【スキーズブラズニル】。グレモリー・グリモワールが新たな命令を指示するまでは、旗下の艦隊を率いて【サンタ・グレモリア】を防衛しなさい」
私は、グリモワール艦隊の旗艦【スキーズブラズニル】に命じました。
「了解しました、ゲームマスター」
【スキーズブラズニル】は応えます。
ならば、良し。
私は、【スキーズブラズニル】の艦橋に転移座標を設置しました。
それから、【サンタ・グレモリア】の街に降りて、【ハイ・エルフ】の4人と、【サンタ・グレモリア】の領主であるアリス辺境伯達に挨拶をします。
私は、とりあえず【サンタ・グレモリア】で、やるべき事を終え、【シエーロ】の【マジック・カースル】に戻る為、【転移】しました。
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