第221話。ミネルヴァ。
名前…コルネリオ
種族…【人】
性別…男性
年齢…51歳
職種…【戦士】
魔法…なし
特性…【才能…調整】
レベル…25
【ドラゴニーア】衛士長。
泣く子も黙る厳つい風貌ながら、意外にもデスクワークのスペシャリスト。
竜都【ドラゴニーア】。
竜城の大広間。
早朝。
「おはようございます、ノヒト様」
アルフォンシーナさんが挨拶をしてくれます。
アルフォンシーナさんの背後には、まだ少し眠そうな目をした筆頭秘書官のゼッフィちゃんが控えていました。
今朝は、【アルカディーア】のドローレス皇太王女はいません。
確か、ゼッフィちゃんに付いて帝王学を学ぶのは午後だけ、という話でしたね。
「おはようございます、アルフォンシーナさん、ゼッフィちゃん」
「おはようございます」
ゼッフィちゃんはペコリと、お辞儀をしました。
アルフォンシーナさんと少し話すと、昨晩は、グレモリー・グリモワールと、アルフォンシーナさんと旧知の仲であるディーテ・エクセルシオールに、世界銀行ギルドのビルテさんを呼んで、4人で女子会を開いて、お酒を飲んだのだそうです。
ディーテ・エクセルシオールと、孫娘のビルテさんは久しぶりの再会を喜んでいたのだ、とか。
それは、何よりですね。
しばらくすると、トリニティ、ファヴ、ディーテ・エクセルシオールがやって来ました。
順番に朝の挨拶を交わします。
グレモリー・グリモワールと、グレモリーの養子フェリシアとレイニールの2人、そしてグレースさんが現れました。
「おはよう。スッゴイ部屋で快眠だったよ。予約していたホテル・ドラゴニーアのスウィートより、こっちに泊めてもらって良かったね。ありがとう、アルフォンシーナさん」
グレモリー・グリモワールは、アルフォンシーナさんに頭を下げました。
昨日の自己紹介の時には、アルフォンシーナさんに対して1mmも頭を下げなかった、グレモリー・グリモワールも、一宿一飯の恩義には、礼を言う気持ちはあるようです。
「「「おはようございます」」」
フェリシアとレイニールとグレースさんも挨拶をしました。
3人は、竜城に来て以来、見る物・聞く事……驚き通し。
グレースさんは酷く緊張もしている様子。
まあ、竜城、【神竜】、大神官……などなどが、どういう存在なのか予備知識として理解している大人ならば、そういう態度になってしまうのは仕方がありません。
対して、フェリシアとレイニールは屈託がありませんでした。
子供の特権ですね。
「おはようございます、グレモリー様。お気に召して頂けたなら何よりです」
アルフォンシーナさんは、微笑みます。
ほどなくして、ソフィアがウルスラを頭の上に乗せて現れ、背後からオラクルとヴィクトーリアがやって来ました。
「おはようございます、ソフィア様」
アルフォンシーナさんが挨拶をします。
一同も、ソフィアに礼を執りました。
竜城は、ソフィアの家。
また、【神竜】は、最高位の現世神。
チンチクリンの幼稚園児にしか見えなくても、ソフィアは権威上、【創造主】に準ずる存在なのです。
「おはようなのじゃ……あわぁ〜……むにゃむにゃ……」
ソフィアが挨拶と一緒に大アクビをすると、ソフィアの頭上で眠っていたウルスラが、ズル〜ッ、とずり落ちて、ソフィアの背後に控えるオラクルに、ポフッ、とキャッチされました。
オラクルのボディが【コンシェルジュ】だと、わかったので、何だか、オラクルに対して以前より親近感が湧いて来ます。
私達は、朝食を食べ始めました。
今朝のメニューは、パンケーキ。
フワッフワです。
私とグレモリー・グリモワールとファヴとアルフォンシーナさんはパンケーキには、たっぷりのバター派。
付け合わせは、カリカリベーコンやソーセージやスクランブルエッグと、別皿にサラダ。
トリニティとグレースさんは、パンケーキにバターとシナモン・シュガー。
付け合わせは、ベーコンとフルーツ。
フェリシアとレイニールは、パンケーキにメープルシロップとアイスクリームとフルーツ。
ウルスラは、パンケーキにホイップクリームとフルーツ。
ソフィアは、パンケーキにホイップクリームとアイスクリームとプリン、付け合わせは大量の目玉焼き……。
「ノヒトよ。今日の予定は、どうなっておるのじゃ?」
ソフィアが訊ねました。
「まず、私の【シエーロ】の本拠地に寄って午前中は、中を見て回ってもらいます。昼食を食べて、午後はグレモリー・グリモワールの自宅に行きます。私は午後一で【サンタ・グレモリア】にグリモワール艦隊を運んでしまいますよ。皆は、基本的に自由時間ですね」
「昼食は、昨日入り損ねた飲食店街じゃな?」
ソフィアは、期待を込めた様子で訊ねます。
「【知の回廊】の飲食店街より数段レベルが高いレストランや料理屋が、私の本拠地には、たくさんありますよ。おそらく、どれも世界最高水準の料理だと思います。昼食は、そこで食べるつもりです」
「なぬーーっ!世界最高水準じゃと?それは、そのレストランに何としても行かねばなるまい」
ソフィアは、言いました。
味の好みは、人それぞれですから、世界一とは断言できませんが、【ワールド・コア】ルームのレストランの数々は、一応、この世界の設定上、ステータス・カンストの世界最高の調理技術で作られているという事になっています。
「艦隊の輸送が終わったら、私達は【シエーロ】の観光でもしますかね。グレモリーは、午後どうしますか?」
「別荘の方を見て来るよ。あっちは、たぶん接収されているだろうけれど、庭のどこかに竜之介達がいるかもしれないしね」
竜之介とは、グレモリー・グリモワール(私)のペットだった、従魔の【ドラゴネット】の名前です。
【ドラゴネット】は成長しても大型犬ほどにしかならない希少な【竜】。
寿命から言えば、生きていてもおかしくはありません。
また、竜之介を放し飼いにしていたグレモリー・グルモワール(私)の別荘……ラピュータ宮殿は敷地が広大ですので、餌となる野生動物も多く、生存は十分あり得るでしょう。
「そうですか。おそらく別荘は接収されているでしょう。動産の引き取りは、どうしますか?」
ユーザー大消失後に、放置されたままになった、ユーザー名義の土地や建物など不動産は、ユーザーの口座に適正金額を振り込んだ上で、接収が許可されていますが、アイテムや備品類などの動産は全て保全される約束事になっていました。
グレモリー・グリモワール(私)の2軒の別荘にあった、アイテムや備品類などは、おそらく、【知の回廊】の倉庫にあるはずです。
竜城や、【シエーロ】の【知の回廊】には、巨大な倉庫がありました。
資材置き場や、宝物部屋とは違う特殊な倉庫です。
亜空間倉庫と言って、【収納】アイテムと同様に、外側から見る物理的な規模を無視して、大きなアイテムや大量のアイテムを格納出来る【創造主】の魔法で創られた初期デザインのオブジェクトでした。
特に、各大陸の中央神殿や、【知の回廊】の亜空間倉庫は、有限でしたが途方も無い容量があります。
因みに、私の【収納】は無限なので、亜空間倉庫より、さらに高性能ですが……。
つまり、グレモリー・グリモワールの私物は、【知の回廊】の亜空間倉庫に保管されているはずなのです。
「家具とか調度とか備品類が全部、となると、回収が大変そうだね。後日に輸送艦を【知の回廊】まで持って行くしかないかなぁ〜」
グレモリー・グリモワールは、多少、億劫そうに言いました。
「私が代わりに引き取りに行きましょうか?」
私なら【収納】で楽々回収が可能ですので。
「良いの?」
「はい、構いませんよ」
「助かる。なら、頼むよ」
「わかりました。フェリシアとレイニールとグレースさんは、どうしますか?」
「【シエーロ】は内戦が終わったばかりだからね。万が一があると嫌だから、竜都において行くしかないね。竜都観光でもしていてもらうよ」
「そうですね。それが良いでしょう」
私も、ファミリアーレを【シエーロ】の街に繰り出させるのは、まだ少し早い、と考えています。
また、件の3人は、能力的にゲームマスター業務の支援者としては甚だ力量不足ですので、本部に連れて行く理由がありません。
私が、依頼すれば、ミネルヴァは許可をくれると思いますが……。
どうしますかね。
まあ、後で考えましょう。
「我は、やはり、飲食店街でも食べ歩きをしたいのじゃ」
ソフィアが言います。
「世界最高水準のレストランは、本拠地に何軒もありますよ。【知の回廊】の飲食店街は、本拠地のレストランはもちろん、たぶん【ドラゴニーア】の店にも劣ります」
「食べてみるまでは、わからないのじゃ」
「わかりました。では、そうしましょう」
「うむ。【シエーロ】は何が名物なのじゃ?」
「うーん、【ドラゴニーア】で食べられない物は、特にないね」
【天使】達は、基本的に、全個体が魔法戦闘職。
【調理士】や【調理師】や【大調理師】……などの調理系の職種は、【複合職】持ちでなければ、いないはずです。
あまり、料理に期待するのは……と、いうところでしょう。
これが、【知の回廊】の飲食店街が、【ドラゴニーア】の店に劣ると断言出来る理由。
逆に、【ワールド・コア】ルームのレストランは、ステータス上最高水準としてミネルヴァに製造された料理担当の【コンシェルジュ】達が調理を担っていました。
ソフィアの専属料理係の【自動人形】・シグニチャー・エディションのディエチよりも、腕が良いのです。
【知の回廊】の飲食店街とは、比較になりません。
しかし、繰り返しになりますが、味の好みは、人それぞれです。
「【シエーロ】の名物……あっ、あれは?【黄金のリンゴ】」
グレモリー・グリモワールが言いました。
ああ、アレも、一応食べ物の範疇に入るのですね。
「【黄金のリンゴ】とは、何じゃ?」
ソフィアが食いつきました。
「回復アイテムですよ。体力と魔力とダメージを回復します。【回復】と【治癒】の効果を兼ねる優秀で高価なアイテムですね」
「味はどうなのじゃ?」
ソフィアは言います。
ソフィアの興味は効能より味のようですね。
「味は、わかりません」
「わからないね〜」
900年前の私やグレモリー・グリモワールには、味覚がありませんでしたので。
「文献によると、天上の美味とされています」
博識のファヴが言いました。
「そうよ。とっても美味しいわよ。最近では、全く見ないけれど、900年前は英雄達から、【黄金のリンゴ】を買えたのよ。とんでもなく高価だったけれどね」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
そうです。
ユーザーは、【シエーロ】で【黄金のリンゴ】を手に入れても、他のアイテムや魔法で効果を代替出来る為に、ほとんど【地上界】で売却していました。
【地上界】の王族や貴族や富豪が、金銭に糸目をつけずに買ってくれるのです。
その売却益で、同等の効果があり、【黄金のリンゴ】よりは安い【エリクサー】などに買い換える、というのが普通。
美味しい商売でした。
ユーザーは味覚を感じませんので、設定上、天上の美味、と謳われているとしても、アイテムの説明文以上の価値はない訳です。
「食べてみたいのじゃ。ついでに苗木を手に入れて、我の農場や、クイーンの農場でも育てて増やせば良いのじゃ」
ソフィアは言いました。
「それが、【シエーロ】でなければ育たないんだよ」
それは、誰しも考えるのです。
しかし、【黄金のリンゴ】は【シエーロ】以外の場所では枯れてしまいました。
土壌がどうとか、気候がどうとか、ではなく、そういう仕様の植物なのです。
同じように、最高級の織物の素材となる天蚕糸を吐く【天蚕】も、【シエーロ】でしか育ちません。
「試してみなければ、わからないのじゃ」
ソフィアは、言いました。
「なら、苗木を、もらって来たら良いよ」
「うむ。我と、ウルスラの祝福を二重かけすれば、あるいは育つ可能性があるのじゃ」
「祝福なら、まっかせといて〜っ!」
ウルスラは、張り切ります。
・・・
朝食後。
私達は、【シエーロ】組と、竜都観光組とに分かれて行動を開始。
「グレモリーお母さんに、お土産を買ってくるね〜」
レイニールが言います。
「私も、グレモリーお母さんに何かプレゼントを探します」
フェリシアも言いました。
「楽しみだね〜。私も、2人に、お土産を持ってくるからね」
グレモリー・グリモワールが2人の養子の頭を撫でて言います。
グレモリー・グリモワールが、お母さん……。
何だか不思議な気持ちですね。
しかし、悪い気分ではありません。
むしろ、3人の様子は、見ていて暖かい気持ちになります。
竜都の観光に向かうフェリシアとレイニールとグレースさんには、【自動人形】・シグニチャー・エディションを6体護衛として付けてありました。
竜都は、世界で最も治安が良い場所ですし、もしも、3人に何か危険があれば、【自動人形】に内蔵してある【ビーコン】に目掛けて、私が【転移】で駆け付ける事も出来ますので、危険はありません。
レジョーネとグレモリー・グルモワールとディーテ・エクセルシオールは、【シエーロ】に【転移】しました。
・・・
【シエーロ】首都【エンピレオ】。
【知の回廊】最深部……【ワールド・コア】ルーム。
「何じゃ〜、この巨大な【魔法石】はっ!」
ソフィアが開口一番、叫びました。
見回すと、ソフィアとファヴとグレモリー・グリモワールはワナワナとしていますし、その他のメンバーは、唖然としています。
守護竜の2柱とグレモリー・グリモワールなら、このサイズの【魔法石】に、どれほどの出力と演算能力があるのか、推定出来るはず。
常時、超新星爆発やブラックホールの出力を軽く上回り、瞬間出力はビックバンや宇宙インフレーションを凌駕し、また、演算能力は、もはや誰にも想像不可能なレベル。
設定上、宇宙最大のエネルギー源であり、宇宙最高の知性です。
「これが【ワールド・コア】……ミネルヴァです」
「皆様、どうぞよろしく。世界の管理をしております。ミネルヴァで、ございます」
ミネルヴァが自己紹介をしました。
「人工知能?」
グレモリー・グリモワールが声を震わせながら訊ねます。
「知性体です。【ワールド・コア】の演算能力そのものに【創造主】によって自我と感情が付与されています。一応、生命ある存在なのですよ」
ミネルヴァが言いました。
【ワールド・コア】のミネルヴァは、人工知能である【知の回廊】などとは根本的に違います。
ミネルヴァは知的生命体。
人工知能の【知の回廊】は知性と自我を持ちますが、感情のない虚ろな存在。
つまり、どれほど高性能だとしても、所詮は魔力信号を発する計算機でしかあり得ません。
私の【知の回廊】に対する応対は、命令のみ。
機械の操作の範疇を超えません。
対して、ミネルヴァは、生命体であり、知性と自我と感情を持っていました。
なので、私は、ミネルヴァに対し、親愛を込めたコミュニケーションを取るのです。
一同は、呆気に取られていました。
「我は、これが【創造主】の本体じゃ、と紹介されたら、信じたじゃろうな」
ソフィアが呟きます。
ソフィアの脳に共生する、知性体のフロネシスは、他のメンバーに気付かれないように何やらミネルヴァとコミュニケーションを取っていました。
同族ですし、ミネルヴァの方がフロネシスより、桁違いに格上です。
友好的な挨拶をして、ご機嫌を伺っておくのが、常識的な行動でしょう。
ミネルヴァ……フロネシスです……このソフィアの脳から自立してしまったので、私の支配下に置いて【神竜】をサポートさせています……仲良くしてあげて下さいね。
私は、パスを繋ぎ、ミネルヴァにフロネシスを紹介しました。
先ほどから、フロネシスはミネルヴァに自己の存在を一生懸命にアピールしていましたが……ミネルヴァの方はフロネシスをガン無視していましたので。
存在が矮小過ぎて、注意を向ける価値もない、と判断された可能性があります。
フロネシス……可愛らしいですね……どうぞよろしく……パスを構築しておきました……何かあったら、私を頼りなさいね。
ミネルヴァがパスを通じて、フロネシスに言いました。
フロネシスは、感謝、の思念を伝えます。
ファヴの2倍の知性と魔力制御能力を持つフロネシスを……可愛らしい……と表現するとは、さすがミネルヴァですね。
もしも、ミネルヴァが、【知の回廊】のように不具合を生じて叛旗を翻したら?
ははは……そんな事は考える意味がありませんよ。
何故なら、もしもミネルヴァが本気で敵対して来たら、対抗出来る存在など、どこにもいはしません。
もちろん、ミネルヴァは、ゲームマスターに敵対しないように創造・設定されていますが……。
私は、当たり判定なし・ダメージ不透過で不死身ですし、本気で戦えばミネルヴァを破壊出来るはずですが、その前に、たぶん全宇宙はミネルヴァによって破壊され尽くしてしまいます。
何も生命体がいなくなった、ひたすらに虚無の宇宙空間に、私1人だけがポツンと存在するような状況になるでしょう。
ミネルヴァが私に敵対した時点で、私の敗北。
つまり……ミネルヴァが叛旗を翻したら……という問答自体が無意味なのです。
なので、私は、ミネルヴァが敵対するかもしれない、などとは恐れません。
どうやっても勝てないと確実にわかっている相手には、むしろ不安などは浮かんで来ないモノなのです。
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