第216話。隠しマップ【シエーロ】。
名前…レオナルド
種族…【ドラゴニュート】
性別…男性
年齢…64
職種…【竜騎士】
魔法…【闘気】
特性…飛行、【才能…鼓舞、槍術】
レベル…57
【神竜】近衛竜騎士団長。
【ドラゴニーア】竜城。
【門】部屋。
実は【門】という物体は存在しません。
【門】とは【創造主】の魔法で構築された転移魔法陣なのです。
この【門】部屋全て……より正確に言えば、【門】部屋を突き抜けて、竜城上空の空間領域が全て【門】でした。
でなければ、【飛空航空母艦】が【門】を通って行き来する事など出来ません。
「グレモリー。では、手はず通りに、お願いしますね」
手はず、とは即ち……。
現在、この世界において、唯一【門】を通行する事が可能だと思われるグレモリー・グリモワールが先行して【シエーロ】に向かい……現地で【ビーコン】を起動……私が【ビーコン】を目掛けて【転移】し……現地に転移座標を設置して……竜城に戻り……再度、レジョーネを連れて【シエーロ】に【転移】する……という事です。
「オッケー」
グレモリー・グリモワールは、サムズアップして了解を示しました。
グレモリー・グリモワールは、おもむろに【門】を起動させるオブジェクトに手を触れて、魔力を流しました。
「グレモリー・グリモワール。通行資格あり。対象を指定して下さい」
運営のアナウンスの音声が流れます。
「私だけだよ」
グレモリー・グリモワールは答えました。
「了解しました。【門】を開きます」
運営のアナウンス音声が流れます。
刹那……グレモリー・グリモワールの姿がかき消えました。
着いたよ……ん?……何だよ、オマイ達は?
グレモリー・グリモワールは、【念話】で、伝えます。
何か、あったのでしょうか?
私は、すぐにグレモリー・グリモワールの持つ【ビーコン】を目掛けて、【転移】しました。
・・・
【シエーロ】首都【エンピレオ】。
【知の回廊】内、【門】部屋。
私が到着すると、グレモリー・グリモワールが複数の【天使】に取り囲まれていました。
この【天使】達は、警備でしょうか?
手に【魔法触媒】を持ち、グレモリー・グリモワールに突き付けていました。
「ま、また来たぞっ!貴様らは誰だ?!」
警備らしき【天使】が、私に対しても【魔法触媒】を向けました。
「いや、おかしい。その男の方が来た時には、【門】に起動反応が、なかった」
別の【天使】が言います。
「つまり、【転移能力者】か?まさか、【知の回廊】様は、【シエーロ】側に転移座標を持つ【転移能力者】は、もう誰もいない、と断言していた」
また、別の【天使】が言いました。
彼らは、全員【魔法触媒】に魔力を収束し、いつでも【攻撃魔法】を放てるようにしています。
これは、この世界では、銃口を突き抜けるのと同義の行為。
随分と剣呑な出迎えですね。
「【門】通行者に武器を向けるとは、どういう了見だ?オマイらは、世界の理を知らんのか?」
グレモリー・グリモワールが目を細め、強大な魔力を収束させて、【天使】達に詰問します。
グレモリー・グリモワールの方も、いつでも【攻撃魔法】を放てる体制。
まあ、グレモリー・グリモワールの方は、ただの脅しであって、本当に撃つつもりはないでしょう。
何故なら、ここにいる者達の魔法では、グレモリー・グリモワールの【防御】を貫通してダメージを与えられはしません。
グレモリー・グリモワールは、暗に……魔法を撃つなよ。そっちが撃てば迎撃するぞ……と脅しをかけて、穏便に事を済ませようとしているのです。
そうとう、乱暴な部類の穏便の解釈ではありますが、効果はありました。
今の所、警備らしき【天使】達は、誰も【攻撃魔法】を撃っては来ていませんので。
「な、名前と、越境目的を告げよ」
警備の責任者らしき【天使】が慌てた様子で言いました。
何故、この【天使】を責任者と見做したかというと、この【天使】だけステータス表示が【大天使】で、他は【天使】だったからです。
「目的を告げろ、だと?そんな義務はないね……【門】の通行は、その資格を持つ者は、自由。船舶等の巨大な物体を移動させる場合、または、兵器の輸送を行う場合は、受け入れ側の規則に準拠する。しかし、【シエーロ】のハブ【門】においては、その限りにあらず……そんなルールも知らないのか?私は、ドミニオン級世界市民……英雄だ。おい、責任者出て来いやっ!」
「英雄?まさか、そんな……」
警備の責任者らしき【天使】は、明らかに狼狽した様子で言いました。
「ゲームマスターのノヒト・ナカです。直ちに、武器を捨て、包囲を解きなさい。さもなければ、非戦闘エリアにおける不当検問の罪により制圧しますよ」
私は、【神威】を発動して静かに警告を発します。
「ゲ……【調停者】!そ、そんな、馬鹿なっ?」
警備の責任者らしき【天使】は、もはやパニックという様子。
「警告無視を現認。ゲームマスター権限において制圧します。【超神位魔法……昏睡】」
私は魔法を詠唱しました。
バタバタバタバタバタバタバタバタ……。
【門】部屋の中にいた【天使】達は、全員、瞬時に昏倒します。
「すっごい魔法だね〜……。これ、私も一瞬で無力化された【抵抗】無効の【昏睡】でしょう?」
グレモリー・グリモワールは、訊ねました。
「はい、便利ですよ」
「チートだね」
グレモリー・グリモワールは呆れた声を出します。
ノヒト、まだか?
ソフィアが【念話】で伝えて来ました。
ソフィア……面倒な事が起きていますので、とりあえず、落ち着くまで、待っていて下さい……小1時間ほど、オヤツでも食べていて下さいね。
私は【念話】で伝えます。
わかったのじゃ。
ソフィアが【念話】で応えました。
私とグレモリー・グリモワールは、その場に転移座標を設置します。
これで、とりあえず【シエーロ】への移動は【門】に頼らなくても良くなりました。
私達は、【シエーロ】の【門】部屋を後にします。
・・・
【知の回廊】内エレベーター。
「ねえ、さっきのアイツら、何なの?」
グレモリー・グリモワールは、怪訝そうに訊ねました。
「おそらく警備でしょう」
「そんな事は、わかっているよ。何で、警備なんかしてんのさ?意味がわからないよ。あの場所は、誰でも自由に立ち入れる公共エリアだよね?何なの一体?」
「さあ?内戦中なので、戒厳令的なモノなのではないでしょうか?」
「それ、世界の理的には、ありなの?」
「非戦闘エリアでの検問などは、なし、です。世界の理に反します。後で、【天使】の責任者を処罰しますよ。この【知の回廊】は、【天使】の政府の所有物ではありません。彼らは、単なる管理委託者でしかないのですから、その権限を逸脱する事は、ゲームマスターとして是認しません」
「あ、そう」
エレベーターは、【門】部屋があった最上階から、地上1階に到着しました。
・・・
エレベーターの扉が開きます。
「ってーーっ!」
エレベーターの外で何者かが号令をかけました。
途端、魔法による集中砲火を受けます。
はいはい、予想通りですよ。
私は、グレモリー・グリモワールを背中に隠しながら、先ほどと同じ【超神位魔法……昏睡】で、【天使】兵達を全員昏倒させました。
「害意を持って攻撃魔法を放ちましたね?今後は、こちらも攻撃魔法を使いますよっ!」
私は、【拡声】を最大にして、宣言します。
「ノヒトっ!鼓膜が破けるよ。【拡声】使うなら、先に言え!」
グレモリー・グリモワールが抗議しました。
「おっと、これは失礼……。【治癒】」
私は、グレモリー・グリモワールに【治癒】をかけます。
私達は、【知の回廊】内部の長い通路を歩きました。
途中、攻撃して来た、【天使】の3個師団ばかりを【超神位魔法……昏睡】で制圧しながらです。
「……ったく、キリがないね。これじゃ、時間ばかり食って仕方がないよ」
「そうですね。先に、【天使】の責任者と話をつけてしまいましょう。グレモリー、あなたは、一度、竜城に戻っていて下さい」
「はいよ〜」
グレモリー・グリモワールは、【転移】で、竜城に帰還しました。
さてと、行きますか。
「【知の回廊】。現在の【天使】の最高執行権限者は誰ですか?」
私は、【知の回廊】の人工知能に対して質問します。
「天使長ミカエルです」
【知の回廊】は、答えました。
「今どこにいますか?」
「【知の回廊】内、戦闘指揮所です」
【知の回廊】は、答えます。
「ゲームマスター権限において命じます。現時点をもって、【知の回廊】の管理権限を、私以外の者から剥奪する。病院など、生命維持に関わる機器類は、【知の回廊】が適切に制御しなさい」
私は、【知の回廊】に命じました。
「コマンド受諾。実行しました」
【知の回廊】は、応えます。
これで、【知の回廊】内部の、あらゆるオブジェクト、装置、機械、兵器……などなどは、私以外には操作も制御も出来なくなりました。
私は、【知の回廊】内部の戦闘指揮所に向かいます。
【シエーロ】では、一体何が起きているのでしょうか?
いくら、内戦中の緊急時とはいえ、ゲームマスターである私に、問答無用で攻撃を加えてくる、などというのは異常です。
ともかく、天使長ミカエルとやらに会って問い質せば、理由はわかるでしょう。
私は、再びエレベーターホールに向かいました。
・・・
エレベーターを降りると、また、魔法による集中砲火を受けました。
先ほどよりも、はるかに強力な魔法でしたが、当たり判定なし・ダメージ不透過の私には全く関係ありません。
全員、【超神位魔法……昏睡】で昏倒させました。
ん?
何だ、コレ?
私は、昏倒した者達を【鑑定】で見て、おかしなステータス表示に気が付きました。
昏倒している【天使】達の中に【擬似神格者】という謎の表示を持つ者を見つけたのです。
1人や2人ではありません。
この階層で、私に攻撃を仕掛けて来た生命体の実に半数が、その【擬似神格者……ハイ・ヒューマン】や【擬似神格者……ハイ・エルフ】や【擬似神格者……エルダー・ドワーフ】などと表示されていました。
どういう事でしょうか?
意味がわかりませんね。
つまり、この【擬似神格者】という表示がされている生命体は、【天使】ではありません。
姿形は、【天使】のような光を纏った翼を持ちますが……。
例えば、通常のNPCの【天使】であるアルシエルさんなら……。
名前…アルシエル
種族…【天使】
性別…女性
年齢…177歳
職種…【智天使】
魔法…【高位攻撃魔法】、【高位防御魔法】
特性…飛行、【高位回復・高位自然治癒】、【才能…攻撃力A】
レベル…99
……という表示になります。
これが、設定上の種族【天使】の例です。
ところが、この【擬似神格者】と表示されている個体は……。
名前…ザフキエル
種族…【擬似神格者…ハイ・エルフ】
性別…男性
年齢…なし
職種…【魔法剣士】
魔法…多数
特性…飛行、【高位回復】、【自己再生能力】など。
レベル…99(固定)
……と、表示されていました。
年齢なし。
この表示はゲームマスターやユーザー……NPCでは【神格者】……オラクル、ヴィクトーリアのような非生物NPC……トリニティやダンジョン・ボスのような固有NPC……ウルスラのような妖精や精霊……フロネシスのような知性体や思念体……などに表示されます。
基本的に、寿命がなく不老不死であるか、死んでも復活する事が前提となっているキャラの表示でした。
しかし、この【擬似神格者】なる生物は、調べたところ、不老ではありますが不死ではありません。
つまり、死んだら復活はしないという事です。
この生物の種族は何なのでしょうか?
見た事がありません。
外見上は、翼など【天使】に良く似た特徴がありますが、種族表示は違います。
【擬似神格者】なる者達は、【ハイ・エルフ】という表示が付随している個体は【ハイ・エルフ】の、【ハイ・ヒューマン】という表示が付随している個体は、【ハイ・ヒューマン】の遺伝子構造を持ちますが……何か、混ざり物がありますね。
【鑑定】で、詳しく見ると……【擬似神格細胞】という謎の肉体組織を持っていました。
【擬似神格細胞】?
ますます、意味がわかりません。
うーむ?
【キマイラ】に近いですが、混ざり方が、【キマイラ】より深化されています。
どちらかと言えば【人工生命体】に近いですね。
しかし、【ホムンクルス】が体内に持つはずの【賢者の石】が見当たりません。
確か……医療技術系のユーザー・サークルが、こんな技術を実験していましたよね。
そうです……【生体ゴーレム】。
生物の細胞を培養して【ゴーレム】素材とする技術です。
性能の割にコストがかかり過ぎて、全く普及はしませんでしたが……。
この【擬似神格者】なる生物は、肉体だけを見て取れば、おそらく極めて精巧な【生体ゴーレム】。
しかし、知性や自我や生命を持つとなると……。
なるほど。
【擬似神格細胞】とやらで強化された【生体ゴーレム】を作り、その肉体の中に、任意の生命体から摘出した脳や中枢神経を丸ごと臓器移植する訳ですね。
想像すると、結構グロいですが、なかなか興味深いアイデアです。
さしずめ【改造知的生命体】でしょうか。
【改造知的生命体】。
私は、【擬似神格者】なる表示を持つ、この【天使】に良く似た生物を、そう定義しました。
調べると、【擬似神格者】と表示される個体……つまり【改造知的生命体】は、いずれも強力な戦闘力を持っている事がわかりました。
肉体強度系や身体能力系の各種ステータス値が、【天使】より、大幅にブーストされています。
この世界の【天使】は、翼を羽ばたかせる筋力以外の筋肉が弱体化補正されているので、膂力は脆弱でした。
しかし、【改造知的生命体】達は筋力も体力も並外れています。
ふむふむ、どうやら【天使】の種族的弱点を克服する目的で、このような移植手術が行われているのでしょう。
大した医療技術です。
脅威度判定を何段階か引き上げなくてはいけませんね。
ただし、私やソフィアの敵ではあり得ませんが……。
何故なら、この【改造知的生命体】方式で最大限強化されても、所詮は、ユーザーの【超位】戦闘職と同等まで。
魔法戦闘職と武器戦闘職と格闘戦闘職の特性を兼ね備えている分だけ、より汎用な戦闘が行える、という程度。
【神位攻撃魔法】である【神の怒り】の数々や、ソフィアの【神竜の咆哮】なら一撃で倒せますからね。
私は、【知の回廊】内、戦闘指揮所の扉を開きました。
・・・
【知の回廊】の戦闘指揮所。
私が、戦闘指揮所の内部に入ると、また、攻撃を受けました。
私が、【知の回廊】の管理権限を奪った為に、戦闘指揮所内にいた者達は、【知の回廊】内の全ての扉が私にしか開けられなくなり、この部屋に閉じ込められていた訳です。
戦闘指揮所には、複数の【改造知的生命体】がいました。
その内3人は、飛び抜けて強力な個体です。
しかし、しつこいですね〜。
私には絶対に敵わないと、もう理解出来ているはずなのに……。
私は、【超神位魔法……昏睡】で、戦闘指揮所内にいた全員を昏倒させました。
えーと、ミカエルとかいう個体は……。
いました。
名前…ミカエル
種族…【擬似神格者…ハイ・エルフ】
性別…女性
年齢…なし
職種…【魔法剣宗】
魔法…多数
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】など。
レベル…99(固定)
状態異常……【神位精神支配】。
ミカエルも【改造知的生命体】でしたね。
そして、【神位精神支配】……。
戦闘指揮所にいた、飛び抜けて強力な個体3人は、いずれも【神位精神支配】の状態にありました。
【神位】級……なるほど、何となく状況が見えてきました。
さてと、私の予想通りかどうか、このミカエルに話を聞いてやりましょう。
私は、魔力封じの【儀式魔法】を施し、オリハルコンの手枷・足枷で拘束した上で、ミカエルなる【改造知的生命体】に、かけた【超神位魔法……昏睡】を解除しました。
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