第215話。お姉様達の信頼関係。
名前…イルデブランド
種族…【ドラゴニュート】
性別…男性
年齢…100歳
職種…【竜騎士】
魔法…【闘気】
特性…飛行、【才能…統率】
レベル…68
【ドラゴニーア】軍長官。
【サンタ・グレモリア】冒険者ギルド支部。
「手続きは完了致しました。これで、アルシエルさんは、冒険者パーティ……レジョーネからは、脱退という事になりました」
【サンタ・グレモリア】冒険者ギルドのギルマス……ヘザーさんは、言いました。
「わかりました」
アルシエルさんは、返却された自分のギルド・カードを受け取ります。
アルシエルさんは、レジョーネを脱退しました。
理由は、【シエーロ】に帰れるので、レジョーネに加わっている必要がなくなったからです。
当初の予定では、アルシエルさんが【シエーロ】に帰れるのは、早くても1年後になる見込みでしたので、私達のパーティに入っていました。
アルシエルさんがレジョーネに加わっていた理由は、【シエーロ】に帰る為には、それが最も早くて確実だったからです。
また、異邦人であるアルシエルさんを私やソフィアが後見となって保護と身分保障をするという意味合いもありました。
アルシエルさんは今日【シエーロ】に帰れます。
私とソフィアの計画では、アルシエルさんには観戦武官として【シエーロ】でロビー活動をしてもらうつもりでした。
アルシエルさんに私やソフィアの武威を嫌というほど見せ付けた上で、【シエーロ】に帰ってもらい、仲間の【天使】達に……あいつらはヤバイから、喧嘩を売るのはやめた方が良い……と広報してもらうのです。
まあ、帰りたがっていた【シエーロ】へ帰れる状況なのに、無理やり引き留めるのも可哀想なので、これは仕方がありません。
【シエーロ】は隠しマップ。
【シエーロ】には、竜都【ドラゴニーア】の竜城にある【門】を通って行き来出来ます。
しかし、アルシエルさんも私達も、【シエーロ】に通じる【門】を開く条件を満たしていませんでした。
【シエーロ】に通じる【門】を開く条件は、世界中の全遺跡をクリアする事。
私達が、1年をかけて世界の全遺跡をクリアする予定に便乗してアルシエルさんも、【門】を開く条件を満たしてしまおう、という計画だった訳です。
いや、厳密に言うならば、【ドラゴニーア】の竜城にある【門】を開く条件が、世界の【地上界】側にある全遺跡の20個をクリアする事なのであって、【シエーロ】に帰る方法は、あと2つありました。
1つは、【シエーロ】に転移座標を持つ【転移能力者】に【転移】で【シエーロ】まで連れて行ってもらう事。
これは、私が知る限り、異世界転移後の世界には、該当者は誰もいませんでした。
私は、【転移能力者】です。
しかし、私も、ゲームマスターとして活動する時は、会社のパソコン操作1つで、ゲームの中のどんな場所にでも行く事が出来たので、転移座標を1つも設定していませんでした。
なので、【転移】という方法では、アルシエルさんを【シエーロ】に返す事が出来ません。
もう1つの方法。
実は、【シエーロ】に通じる【門】は、もう1つあるのです。
それは【魔界】側にある【門】。
【魔界】とは、ゲームでは私やグレモリー・グリモワールが異世界転移してしまった後のクリスマスに実装予定だった、拡張マップです。
この世界の舞台となる、とある惑星には、私達が現在いる通称5大大陸の真裏に位置する場所に、もう1つの5大大陸がありました。
私達が今いる側は【地上界】。
裏側にあるのは【魔界】。
【シエーロ】は【天界】。
これらの呼称は、【シエーロ】で文明を築く【天使】族達が名付けたモノです。
この既存世界マップと拡張世界マップの、本来の呼称は、日本サーバーと北米サーバーと言いますが、異世界の住人的には、よくわからないでしょうから、私も【テッラ】と【ネーラ】と呼ぶ事にしました。
天界、地上界、魔界というのは、【天使】達が勝手に呼称し、多分に侮蔑が混じっているので、思うところがない訳ではありませんが……まあ、それは良いでしょう。
地名を決めるのは、私の職責ではありませんので。
【ネーラ】に存在する【門】から【シエーロ】に向かう方法は、当然【ネーラ】の側に向かわなければならないので、現実的ではありません。
おそらく、拡張マップが解放されている現在では、【世界の果ての結界】は、解けていると思います。
【世界の果ての結界】とは、海洋上にある人種の通行を遮断する透明な壁の事。
拡張マップは、その【世界の果ての結界】の向こう側で、私が勤めていたゲーム会社によって作り込まれていたのです。
そのプロジェクト・リーダーは、私でした。
このゲームの生みの親である【創造主】こと、プロデューサーのフジサカさんから指名されたのです。
複数のディレクター達を飛び越えての大抜擢でした。
拡張マップ……つまり【ネーラ】には、私の思い入れが一杯詰まっているのです。
閑話休題。
今回、グレモリー・グリモワールと邂逅を果たした事で、【シエーロ】に行けない、という状況が変わりました。
計画変更はいつもの事なので、慣れたモノです。
グレモリー・グリモワールは、【テッラ】側の20個の遺跡を全てクリアしていました。
それも、10周以上です。
なので、グレモリー・グリモワールは、【ドラゴニーア】竜城の【門】を通れました。
グレモリー・グリモワールは【転移】を使えませんでしたが、私の陣営に引き入れた現在なら、状況は変わります。
グレモリー・グリモワールに転移座標として機能する【ビーコン】を持たせ【シエーロ】に向かわせ、現地に着いた段階で、私がグレモリー・グリモワールの持つ【ビーコン】めがけて【転移】する、という方法が可能でした。
もう1つの方法もあります。
本来は、こちらが正攻法。
【ビーコン】転移は、ゲームマスターにしか出来ませんので。
最近、グレモリー・グリモワールは、新たな【秘跡】をクリアした事により、【追加贈物】をもらって【超位魔法】を全て行使可能になりました。
グレモリー・グリモワールは、【超位】級の【魔法使い】で、全ユーザーの中でも最強クラスの戦闘職でしたが、キャラ・メイク時の初期ステータスを魔法攻撃力だけに偏重した為に、戦闘フォーマットに表示されない魔法は【高位】までしか使えなくなる、という歪なキャラ・メイクになっています。
そのおかげで、グレモリー・グリモワールは、【神位】に迫るほどの極大攻撃力を持っているのですから、悪い事ばかりとも言えません。
同じように攻撃力がブーストされているトリニティに比べても、グレモリー・グリモワールの火力は桁違いに強力ですので。
しかし、その代償として、グレモリー・グリモワールは【転移】が使えませんでした。
しかし、グレモリー・グリモワールは、【追加贈物】をもらった事で【転移】も覚えたのです。
つまり、【ドラゴニーア】竜城の【門】から、グレモリー・グリモワールを先に【シエーロ】へ送り込み、現地に転移座標を設置させ戻せば、グレモリー・グリモワールが他者を【シエーロ】に運ぶ事も可能。
因みに、ディーテ・エクセルシオールら【ハイ・エルフ】の5人の古老達も、チュートリアルを経て【転移】を使えるようになっていました。
今回、私達は、安全の為と手間がかからないので、【ビーコン】方式を採用し、【シエーロ】に向かいます。
・・・
神殿礼拝堂。
いよいよ、【シエーロ】に行けますね。
メンバーは、レジョーネと、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオール。
ディーテ・エクセルシオールの配下である4人の【ハイ・エルフ】は、【サンタ・グレモリア】の留守番として残ります。
防衛戦力としては、神の軍団の神兵100頭がいるので、問題ありません。
この人選になった理由は、現在【シエーロ】が内戦状態にあるらしいからです。
まあ、大丈夫だとは思いますが、念の為に最少限の人数で、かつ、戦えるメンバーだけで乗り込む事にしました。
私やソフィアにとっては、味方の人数を増やす事は、必ずしも戦力アップにはなりません。
周囲を守りながら戦う事は、足枷にしかならないからです。
なので、少数精鋭の最少メンバーこそが最強布陣。
レジョーネのコンビネーションは、2つの遺跡踏破の経験で申し分なく、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは、この世界では、ユーザーとNPCを代表する強者。
このメンバーなら、【天使】全てを敵に回しても、蹂躙出来ます。
安全マージンは十分でした。
このメンバーで出かけて行って負ける相手には、どう足掻いた所で勝てません。
清々しいばかりの、わかりやすさ。
私達は、完全武装して、竜都【ドラゴニーア】の竜城に向けて、【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】竜城の礼拝堂。
「お帰りなさいませ。ソフィア様、ファヴ様、ノヒト様、皆様」
神竜神殿の大神官アルフォンシーナさんが待ち構えていたように迎えてくれました。
いや、実際に待ち構えていたのでしょう。
ソフィアとパスが繋がるアルフォンシーナさんは、ソフィアが見聞きしている状況をリアルタイムで知る事が出来ますので。
例外的に、ソフィアがアルフォンシーナさんに隠れてコソコソと悪さをする場合は、ソフィアの脳にいる知性体のフロネシスが、パスを一時的にオフラインにしてしまう事もありますが……。
アルフォンシーナさんの背後には、大神官付き筆頭秘書官のゼッフィちゃんと、【アルカディーア】皇太王女のドローレスさんが付き従っています。
何故、ドローレスさんが?
私が、余程、怪訝な表情で、ドローレスさんを眺めていたからでしょう……。
ドローレス王女は、女王となる為の実地研修として、ゼッフィに付けております。
アルフォンシーナさんが、【念話】で教えてくれました。
なるほど。
「アルフォンシーナ。これなるは、英雄のグレモリーと、元【エルフヘイム】の大祭司ディーテじゃ。ディーテの事は、知っておるな?」
ソフィアが、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを紹介しました。
「はい、存じております。ディーテ様、お久しぶりです。グレモリー様、お初にお目にかかります、アルフォンシーナでございます。よく、おいで下さいました。歓迎致します」
アルフォンシーナさんは、恭しく礼を執ります。
「グレモリー・グリモワールだよ。よろしく」
グレモリー・グリモワールは、いつもの調子で挨拶しました。
1mmも頭を下げたりしません。
ダークサイドのロールプレイなのか、何なのか……グレモリー・グリモワールの初対面の相手への不遜さは、どうにかならないモノでしょうか?
私が、気まずいですよ。
まあ、グレモリー・グリモワールは、私の写し身。
自己反省をしなければいけません。
グレモリー・グリモワールの弁護をすると、彼女は、親切にされたら、小さな子供にも頭を下げて、律儀にお礼を言ったりするのです。
ただ……まだ、親切にされた訳でもない相手には、頭を下げる理由がないからしない……のだ、とか。
凄い理屈ですが、グレモリー・グリモワールなりの道理があるのでしょう。
どうやら、グレモリー・グリモワールには、私の個人的な記憶がなくなっている為に、会社員として最低限は身に付けていた社会性などが失われているように思われます。
その上で、私がグレモリー・グリモワールとして遊んでいた時のダークサイドのロールプレイが、人格として強く発露しているようにも思われました。
これが、私とグレモリー・グリモワールの個体差でしょうか……。
まあ、この世界には、ソフィア達守護竜や、ディーテ・エクセルシオールのように、正義と設定されているキャラはいますが、悪という設定は存在しません。
つまり、グレモリー・グリモワールの人格は、あくまでもダークサイドのロールプレイであって、悪意がある訳でも、反社会的な人格でもないのです。
そもそも、善悪という観念は、立場が変われば、正反対にひっくり返るような曖昧な尺度。
数理的に定義出来るものではありませんしね。
因みに、運営的には、正義とは、人種文明を守る側に立つ者、という意味で設定している基準でした。
つまり、人種の庇護者である守護竜は、正義。
ゲームマスターは、世界の理を守る立場で、人種を守る立場ではありません。
なので、私は、ゲームの世界観的には、正義ではない、という事になります。
「アルフォンシーナちゃん、久しぶりね。いつぶりかしら?ちょっと会わない内に随分貫禄が付いたわね?」
ディーテ・エクセルシオールが言いました。
アルフォンシーナさんの、こめかみに、ピキッ、と血管が浮いたのが見て取れます。
「ディーテ様、貫禄ではなく、威厳と仰って下さいませ。誤解を生じます。私の体型は、200歳代の頃と少しも変わっておりませんよ」
「おほほ、ごめんあそばせ。アルフォンシーナちゃんの、その、豊満な、お胸を見ていると、つい、イラッ、としちゃうのよね。悪意はないの」
「ディーテ様こそ、以前とお変わりない、慎ましやかな、お胸でございますね?私は、肩凝りが酷くて、ディーテ様が羨ましいですわ。もちろん悪意はございませんよ」
アルフォンシーナさんが言います。
今度は、ディーテ・エクセルシオールが噛み締めた奥歯が、ギリッ、と音を立てました。
グラマーなアルフォンシーナさんと、スキニーなディーテ・エクセルシオール……。
地雷を踏み抜きそうなので、何も言うまい。
「あら、でも肩凝りは老化現象なんじゃないかしら?」
ディーテ・エクセルシオールが燃料を投入しました。
「あらあら、老化と言えば、ディーテお婆様は、私より600歳も歳上でございますわね?うふふ……」
アルフォンシーナさんは爆弾を投げ付けます。
それにしても、この2人。
こんなフランクな間柄だったのですね。
喧嘩友達というモノじゃ……あれで、なかなか気が合っておるらしい……【ドラゴニーア】と【ユグドラシル連邦】の同盟の基礎を築いたのは、先代の大神官じゃが、今ある形で確固とした絆に関係性を深められたのは、アルフォンシーナとディーテの個人的な信頼関係によるところが大きいのじゃ。
ソフィアが【念話】で伝えて来ました。
あ、そう。
まあ、ほどほどにしておいで下さいね。
傍若無人を体現するようなグレモリー・グリモワールでさえ、空気を読んで一言も口を挟まないのですから。
「グレモリー。早速、【シエーロ】に向かって下さい。これは【ビーコン】です。使い方はわかりますね?」
「あ、うんうん、ありがとう、ノヒト。使い方はわかるよ。さあ、ディーテ、【シエーロ】に行くよ……」
グレモリー・グリモワールは、遠慮気味にディーテ・エクセルシオールを促しました。
「アルフォンシーナちゃん、暇が出来たら、シッカリと話し合いましょうね。おほほほ……」
「ええ、お待ち申し上げておりますわ、ディーテ様。うふふふ……」
ディーテ・エクセルシオールとアルフォンシーナさんの間には、バチバチと火花が飛んでいるような幻視が見え……いや、マジで、魔力が干渉し合って火花が出てるし……。
私達は、避難するように、慌てて竜城の最上階にある、【門】部屋に向かいました。
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