第214話。サンタ・グレモリアの街区整備。
名前…ハインリク・ロベングランツ
種族…【ハイ・エルフ】
性別…男性
年齢…396歳
職種…【賢者】
魔法…【風魔法】など。
特性…【才能…洞察力、風魔法】
レベル…40
【ドラゴニーア】大判事。
【サンタ・グレモリア】。
私の土木・建築の手伝いにソフィア、ファヴ、オラクル、ウルスラ、ヴィクトーリアがやって来ました。
ソフィアが何やら次から次へと【宝物庫】から取り出して、スナック感覚でバリバリと食べています。
「ソフィア、何を食べているのですか?」
「湖魚の一夜干しじゃ」
それ、炙ったりして食べる物なのでは?
非加熱の干物を、そんなに大量にバリバリと……。
まあ、ソフィアは、お腹を壊したりはしませんが……。
「そんなに、どうしたのですか?」
いくらソフィアが食い意地が張っているとはいえ、商売物を盗んで来る事はないと思います。
「ソフィア農場産のミルクとバターとチーズと、交換でもらったのじゃ。この塩加減が癖になるのじゃ。バリバリ、モシャモシャ……」
あ、そう。
私達は、街区開発の為の土木工事を始めました。
私が、【神位】の【工学魔法】で一気に地形を変え、その他のメンバーが細く仕上げて行きます。
「飽きたのじゃ……」
ソフィアは5分も保ちませんでした。
「ソフィア。ヴィクトーリアとウルスラと、保育園に行って子供と触れ合って来たらどうですか?」
「子供は好きじゃが、ここの子供らは、【リントヴルム】の子供らなのじゃ。我が行って手懐けて良いものか」
あー、そう言えば、ソフィアは、セントラル大陸の孤児院も、あまり顔を出していませんね。
忙しくしていましたが、私が、その予定をスケジュールに入れていませんでした。
忘れない内にリマインダーに記録しておきましょう。
「ソフィア。あの子供達は、【リントヴルム】が引きこもってしまったせいで、守護竜信仰ではなく、妖精信仰なる邪教に洗脳されてしまっています。ここは、守護竜の中の守護竜である【神竜】が行って、本物の守護竜とは、どれほど偉大であるかを、布教しなければならないのでは?」
「うむ、我にピッタリの役目じゃな。行くのじゃ」
ソフィアは、ヴィクトーリアを連れて飛んで行ってしまいました。
「ねえ、ノヒト様。妖精信仰って、邪教なの?」
ウルスラが言います。
あー、ウルスラは、【妖精女王】。
妖精信仰が邪教などと言われたら傷付きますよね。
「【妖精女王】や、チュートリアルの泉の妖精を信仰するのは問題ありません。しかし、この【ブリリア王国】の中央聖堂で、主祭神として崇められているのは、ニンフェル・ファルマファータとかいう聞いたこともない妖精ですよ?ウルスラは、ニンフェル・ファルマファータなどという個体を知っていますか?」
「知らないね〜。ニンフやファータって種族の妖精なら、私の配下にも大勢いるけど、ニンフェル・ファルマファータなんて聞いた事がないよ」
もちろんゲーム設定にも存在しません。
「はい。なので、邪教と呼んだのです。実在の妖精を信仰するのなら、私も文句はありません」
「つまり、【ブリリア王国】の中央聖堂は、偽物の妖精の名前を使って信仰心を利用しているんだね?汚い奴らだね。ちょっと、この国の地場妖精達に命じて……中央聖堂は嘘吐きだって……人種達に言いふらしておくよ。全く、頭に来るね〜」
ウルスラは、プンスコ、と怒りながら、ピューーン、とソフィアの後を追いかけて行きました。
さてと、お邪魔虫達は、追い払いましたね。
ここから気合いを入れて作業をしましょう。
・・・
アリス・タワー。
私達は、お昼ご飯を、ご馳走になる事になりました。
メニューは、湖魚、湖魚の干物、湖魚の練り物、【パイア】、【地竜】、【湖竜】……という、【サンタ・グレモリア】名産品尽くし。
私達からは、【氷竜】料理と、ソフィアのホールケーキを供出。
ソフィアは、ゆで卵巻きを頬張って、ご満悦です。
グレモリー・グリモワールも【ラウレンティア】から帰還していました。
チュートリアルは、予定した全員が終了したのだ、とか。
午後は、チュートリアルで発現した、魔法や能力や特性などについて、グレモリー・グリモワールから講義と指導があるようです。
「予定より早く終わっちゃったから、午後は、こっちにいるよ。だから、集合場所は、【サンタ・グレモリア】神殿の礼拝堂に変更で」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「わかりました。しかし、25人に……グレモリー・グリモワールの使徒……の特性が生えるとか……」
「何か、よく、わからないんだけれどね〜」
そうです。
今回、グレモリー・グリモワールがチュートリアルを受けさせた26人中1人を除いて25人がグレモリー・グリモワールの使徒になってしまいました。
あり得ない事ではありませんが、異例と言えるでしょう。
「そう言えば、ディーテとイーリスさんは、ノース大陸の守護竜【ニーズヘッグ】の使徒じゃないんだね?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「もう、違うわね。公的な立場を引退すると使徒じゃなくなるのよ。その時に【ニーズヘッグ】様とのパスも途切れるわ。もちろん、広義の意味では、ノース大陸の人種は、全員【ニーズヘッグ】様の使徒ではあるのだけれど、引退と同時に、特性としての、使徒表示は消えるわね」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
「へえ、知らなかった」
グレモリー・グリモワールが言いました。
「まあ、生前に聖職者を引退して代替わりするのはノース大陸だけだから、他の大陸では知られていないんじゃないかしら?」
「なるほど……ソフィア様とファヴ様は、ご存知でした?」
グレモリー・グリモワールは、守護竜コンビに訊ねます。
「うむ。ごく少数じゃが、罪を犯して【女神官】の地位から廃される者もおるから知っておったのじゃ」
「僕も知っていました」
「ノヒト。そう言えば、使徒、の条件て何?」
「それは、ゲームマスターの遵守条項に抵触するので、厳密なルールは言えません。ただし、既知の知識も、さほど間違ってはいませんよ」
「えっと、既知の知識って、ディーテ、何だっけ?」
「信仰対象に対する無条件の信頼」
「そう、それそれ。つまり、皆は、私に無条件の信頼を寄せてくれているって事だよね?何か、変な気分だよ」
グレモリー・グリモワールは、困惑気味に言いました。
世界の理……使徒になる条件(非公開設定)。
原則。
信仰対象が【聖格者】または守護竜である事。
信仰対象に無条件、かつ、絶対の信頼を寄せる事(血縁者や恋愛関係は不可)。
例外。
信仰対象が守護竜ではない場合は、信仰対象に生命を救われる事(無自覚でも可)。
精神支配系の影響が介在しない事。
信仰対象は、使徒の人数に応じて、【幸運】値が上昇する。
使徒は、信仰対象の恩恵で、【幸運】値が増加する。
首席使徒は、【才能】に開花し、強力な潜在能力を受ける。
私が厳密なルールを話せないのは……生命を救われる……という条件を満たさせる為に……ワザと死にかけの状態にしてから救う……などという非人道的な行為が行われる可能性があるからでした。
因みに、この条件を満たしていない(【聖格者】でも守護竜でもない)私は、使徒を持つ事は不可能です。
フェリシアとレイニール。
2人は、グレモリー・グリモワールの養子ですが、どうやらグレモリー・グリモワールの首席使徒扱いになっているようです。
2人同時に首席になるという事は、想定外でしたが、グレモリー・グリモワールが首席、次席を明確にせず、また、2人の扱いに差をつけなかった為に、このような特殊な状況となっていると解釈しました。
また、ディーテ・エクセルシオールに聞いた話では、2人は遺伝的に強い魔力を持つ血脈なのだ、とか。
使徒、遺伝、グレモリー・グリモワールという優秀な教師……これらの要素が作用して、フェリシアとレイニールは、【魔法使い】として凄まじい潜在能力を得るに至ったのだと考えられます。
順調に育てば、2人は、おそらくユーザーのトップ・レベル……つまりグレモリー・グリモワールに比肩し得る存在になるのではないでしょうか。
因みに、今回、使徒にならなかった者は、グレモリー・グリモワールの【眷属】の女性。
彼女は例外条件の精神支配の影響下にある為、使徒にはなりませんでした。
「グレモリー。街区整備ですが、既存の領軍の訓練場は、予定通り、港と私の会社の工場予定地にしました。元の港のあった場所はショッピング・モールにします……サンタ・グレモリア・スクエアです」
「何それ?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「スクエア……。ほおーー、あれを、ここにも造るのか?」
ソフィアが言います。
私は移設した港の跡地に、ラウレンティア・スクエアと同じモノを造るつもりです。
「まあ、ショッピング・モールを造るのだ、と思っていてもらえば良いですよ」
「あ、そう」
「それから、西側に新たに4つの街区を増やしました。南側は、東に稲作水田……西に畜産牧場です。北側は、東に住宅地と商業地を兼ねた街区……西に移設した領軍の訓練場です。中身は、基礎までしか着手していませんが、午後は、住宅地と商業地の新街区と、港と私の会社の工場の新街区を建築しますよ」
「助かるよ。建築が一番魔力を食うからね〜。……でもさ、港が動くと、既存の商業区が不便になるかな?」
「【転送】の【魔法装置】があるので、街の中の物流は、それで対応して下さい。人の行き来は、小型の飛空舟でも巡回させれば良いでしょう」
「艦隊の全艦船用のドックも作っておいてね」
「大き過ぎて、多過ぎます。上空に停泊させておいて下さいよ。あれらは【自動修復】と汚損防止の【バフ】で、さほどメンテナンスはいらないのですから、幾つかのドックに順番に入れてメンテナンスする体制で問題ないはずです」
「えー、上空に飛ばすと日陰になるよ。それに、戦争とかで、いっぺんに壊れたら、どうすんのさ?」
「日陰にならない位置に絶えず移動させれば良いのでは?【自動修復】で間に合わないような甚大な損害を受けたら廃船ですよ。新しい艦を造るしかありません」
「うーん……」
「軍用艦は、安全面から言っても、常に飛ばしておくのが一番じゃぞ。なまじドックなどに格納すると艦隊は敵の破壊工作などの標的になるのじゃ」
ソフィアが言いました。
ソフィアの言う通りです。
十分な大きさの【魔法石】をメイン・コアにした艦船ならば、燃料補給はいりませんので、【ドラゴニーア】艦隊は、着陸する事はほとんどありません。
人員の交代や物資の補給なども、小型舟に乗り換えて行うのです。
地上に着陸するのは、【強襲揚陸艦】などの、それを想定した艦船だけでした。
「そうです。船は陸地に置いてある時が一番無防備なのですからね」
「知っているよ。でも、ドックの中にある艦隊を眺めて、ご飯を食べるのがロマンなんだよ……。ノヒトは、わかるでしょう?」
グレモリー・グリモワールは、恨めし気に言います。
もちろん、わかります。
ただし、そんな巨大なドックを自分一人で建造しなくてはならないなら、ロマンより効率を選びますよ。
あの自宅の超巨大格納庫は、大勢の生産系ユーザーに協力してもらって建設されました。
資材と人件費に全財産の半分が費やされたのです。
結果的に、艦隊そのものより、あのドックの建設費の方が高くついたのですからね。
・・・
昼食後。
グレモリー・グリモワールは、駅馬車でやって来た、患者さんを手際良く診察・治療していました。
収入が少ない患者さんの治療費、入院費は無料。
ゾロゾロと大勢がグレモリー・グリモワールの後ろに付いて歩いています。
どうやら、グレモリー・グリモワールが医療技術と【医療魔法】を教えている医師と【医療魔法士】の留学生らしいですね。
グレモリー・グリモワール……湖畔の聖女、と呼ばれる理由は、ちゃんとある訳です。
この後は、グレモリー・グリモワールは、チュートリアルを経た者達に、色々と指導をする予定。
病院で働いている【サンタ・グレモリア】の聖職者達からチュートリアルに参加した3人は、見事に【回復・治癒】の【才能】を【贈物】でもらったようです。
そうなのですよ。
この世界では、何もチュートリアルを受けなくとも、日頃、【リントヴルム】や、グレモリー・グリモワールのような条件を満たした【聖格者】に正しく祈ってさえいれば、魔法適性を持つ聖職者は【回復・治癒】の魔法を覚えられるようになる仕様なのですから。
ニンフェル・ファルマファータなどという存在しない訳のわからない信仰対象に祈っているから、聖職者が覚醒しないのです。
さてと、私は、グレモリー・グリモワールに約束した、商業地を兼ねた住宅地の新街区と、港と私の会社の新街区を完成させなければいけません。
さあ、頑張りましょう。
・・・
私は、ファヴとオラクルと大量の【自動人形】・シグニチャー・エディション達……それから、ディーテ・エクセルシオール以下【ハイ・エルフ】5人に手伝ってもらって建築を行いました。
ディーテ・エクセルシオール達は、グレモリー・グリモワールから、簡単な説明を受けただけで……あんた達はベテランなんだから、あとは自力でなんとかしな……と、放り出されてしまったようです。
確かに、あのディーテ・エクセルシオールに、今更、魔法や能力の基礎がどうの、などという事を教える意味はありませんからね。
まあ、私としては、手が増えて助かりますよ。
ソフィアとウルスラの飽きっぽい2人は、午後は頭から保育園に直行です。
ヴィクトーリアを2人の問題児の監督役に付けました。
さあ、建築、建築。
私が、建物の骨格と外装と配管をこなし、内装はファヴとオラクルと【自動人形】・シグニチャー・エディション達とディーテ・エクセルシオール達という布陣。
サクサク、ポンポンと集合住宅が建って行きます。
グレモリー・グリモワールが建てていた団地型の集合住宅を【超神位魔法……複製転写】しました。
同じ形の建物を何棟も建てるのは苦痛です。
なので、少しズルをしました。
まあ、いつものグレーゾーンという事で……。
屋上の樹木と、室内の【魔法装置】は、コピペ出来ませんでしたが、まあ、それは、グレモリー・グリモワールが何とかするでしょう。
いや、さすがに、5千世帯分は、キツイか?
ならば、【魔法装置】の製造用の【プロトコル】を造っておいてあげましょう。
これで工場で必要な装置は生産すれば良いのです。
給水給湯の【魔法装置】。
空気浄化の【魔法装置】。
厨房設備の【魔法装置】。
冷暖房の【魔法装置】。
照明の【魔法装置】。
……こんな所で良いでしょうかね。
完成しました。
近い内に、もう一度【サンタ・グレモリア】に来て、朝から夜まで工事すれば、残りの建造物も問題なく出来るでしょう。
約束の時間には、まだ早いですが、キリが良いので、ここまでにしますか……。
さてと、ソフィア達は……。
・・・
【サンタ・グレモリア】保育園。
ソフィア達は、保育園児達を従えて、何かをやっていました。
「右翼、押されておるぞ。怯むな、行けーーっ!」
ソフィアが赤い帯を締めた保育園児達を鼓舞します。
言葉だけでなく、実際に【能力】を発動していました。
「左翼、そのまま、やっちゃえ〜っ!」
ウルスラが青い帯を締めた保育園児に指示します。
言葉だけでなく、実際に【祝福】を与えていました。
どうやら、ソフィア軍とウルスラ軍とに分かれて、敵本陣の旗を取り合うゲームのようです。
ソフィアとウルスラがいる本陣に立てられた旗を倒せば勝ち。
チームの半分が旗を守り、もう半分が敵の旗を倒しに行く。
殴る蹴るなどの攻撃は禁止。
相手に抱き付いて引き剥がしたり、などはあり、と。
原始的な旗取りゲームですが、戦術性が高く、軍隊の演習と言っても良いような遊びです。
私は、審判役をしていたヴィクトーリアの横に立ちました。
「怪我人が出ていない?」
私は、ヴィクトーリアに訊ねます。
「転んで泣いたりというような程度で、負傷するような者はおりません。ソフィア様、ウルスラ様が【防御】をかけておりますので」
ヴィクトーリアは言いました。
ディーテ達は、何だか楽しそうに観戦しています。
「守り手を増やして、自陣で敵を疲弊させ、然る後に討って出るべきでは?」
元軍の長官だったというクラーラさんが言いました。
「いや、攻め手を増やして一気に仕留める方が良い。この模擬戦では、補給は関係ないのだから」
元女王だったというヨサフィーナさんが言います。
あー、この世界の【エルフ】は、案外好戦的なんですよね。
「そういう偏った戦術は、もはや出尽くしております。攻防均衡……この戦術が一番効率が良いようです」
ヴィクトーリアが解説してくれました。
戦術が出尽くす、とか……何試合やっているんだ?
兎にも角にも、ソフィア達は、保育園児達を見事に手懐けたようです。
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