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第212話。1人の2人。

名前…フェルディナンド

種族…【(ヒューマン)

性別…男性

年齢…61歳

職種…【議長(チェアマン)

魔法…なし

特性…【才能(タレント)調整(コーディネート)

レベル…19


【ドラゴニーア】元老院議長。

 朝食後。


 貨客船サンタ・ルチア号の甲板デッキ


 私とグレモリー・グリモワールは、2人だけで話していました。

 他のメンバーは、合流して船内で歓談中。

 パスを通じて、トリニティとフロネシスの目で様子を見ると、ソフィアが、グレモリー・グリモワールの2人の養子を大量のホールケーキで餌付けしていました。

 意外にもソフィアは、子供の扱いが上手いので、任せておけば良いでしょう。


「グレモリー・グリモワール。【ホムンクルス・ベヒモス】の扱いだけは気を付けて下さいね」


「気を付けるよ……。で、フルネーム呼びは、いつまで続けるの?ナカノヒトさん」


「グレモリー。とりあえず、世界(ゲーム)(ことわり)を遵守して、私の身内は攻撃しないで下さい。それさえ、守ってくれるのなら、いきなり、あなたを滅殺しなくて済みます」


「ノヒト。わかったよ。逆に言えば、それを私が破ったら、私とノヒトが元は同一自我でも、ノヒトは躊躇なく私を滅殺するっていう事なんでしょう?」


「そういう事です」


「てか、アブラメイリン・アルケミーの情報は少し前に知っていてさ。私は、ピットーレ・アブラメイリンさんが、ノヒトに保護されているのかと思っていたんだけれど……。つまり、いないんだね?」


「はい。残念ながら、名前を拝借しているだけです」


「そっか……会いたかったよ」


「ナイアーラトテップさん、オリジナル・(シックス)さん、ピットーレ・アブラメイリンさん、エタニティー・エトワールさん……私も会いたいです」


「オリジナル・(シックス)さんのハンドル・ネームの由来は?」

 グレモリーは、質問しました。


「モントリオール・カナディアンズ、トロント・メープルリーフス、ボストン・ブルーインズ、デトロイト・レッド・ウィングス、シカゴ・ブラック・ホークス、ニューヨーク・レンジャース」


「ログを読んだ?」


「仮に読んだとして、こんなに瞬時に呼び出して、なおかつ、淀みなくスラスラ言えると思う?私も、ホッケーを観るのは好きだからね。スケートは全く滑れないけれど。因みに、私が一番好きな選手は、ウ〇イン・グレ〇キーだよ」


 私が好きな選手は、即ち、グレモリー・グリモワールが好きな選手という事。


「どうやら、私と同一自我なのは間違いないっぽいね?」


「まだ、疑っていたのかい?【アンサリング・ストーン】の前で話していたのに」


「まあ、とりあえず信じておくよ……はぁ〜」

 グレモリーは、溜息を吐きます。


「あなたには、ディーテ・エクセルシオールという友人がいるだけマシです。私は900年前の友人は誰もいません」


「どゆこと?ノヒトも、同じ記憶があるんでしょう?」


「私にはゲームとしての記憶しかありませんよ。それが、おかしいのです。何故、あなたは900年前のディーテ・エクセルシオールとの冒険の記憶があるのですか?ゲームですよ?ディーテ・エクセルシオールは、NPC。友情を育むような要素がありますか?私は、少なくとも、ディーテ・エクセルシオールとの思い出は、ゲームのシナリオの強制イベントでパーティ・メンバーになったNPCという認識でしかありません。特に友情のような感慨はないのです」


「そう言われてみれば、変だね……。でも、私には、ディーテに限らず、ゲームの中で出会ったNPC達の記憶がある。これって、ゲームマスター的には、どう解釈する?」


「私が、個人情報に関する記憶を引き受けた事で、あなたの記憶には空白が出来た。それを埋める為に、何かが起きて、記憶を補完した、とか?」


「つまり、ゲームマスター的には何もわからないんだね?」


「案外、遠くない考察のような気もしますけれど?」


「いいや。その説を取るなら、私のゲーム内の記憶は、私が作ったモノだという事だよね。何故、ディーテにも同じ記憶があるの?」


「なるほど。つまり、私がゲームで遊んでいる間に、ゲームの中では、あなたとディーテが交流して、共通の思い出を持ち、友情を育んでいた、と。そういう事になりますね?」


「私は、どうやら、ゲームの外に所縁が薄いみたいだね。ゲームの外より、ゲームの中での記憶の方がリアルなんだよ。つまり、私は、実在する人間ではなくて、ゲームの中のデータなんじゃないかな?」


「その説を取ると、今度は、あなたがゲームの外の一般教養を持っている事が説明出来なくなります」


「うーん……」


「少なくとも、私は、この異世界の状況を現実と考えていますし、ソフィア達の事を家族として認識しています」


「そうだね。考えても答えが出ない事は、考える意味はないんだからね」


「そうです」


「ノヒト。もしも、外の世界に帰れるとしたら、帰りたい?」


「そうですね。あちらに仕事もありますしね」


「家族は?」


「年を取った両親と、結婚した妹が2人。上の妹夫婦が実家で両親と同居しています」


「何歳なの?」


「43歳です」


「マジで?写真では若く見えるね?」


「まあ、設定集に掲載されている写真は10年前の物だからですよ」


「33歳の時の写真だとしても若いよ。23歳って言っても信じたかも……」


「私は、元来、童顔ですし……屋内にこもって仕事をしているので、日に焼けないんですよ。なので、年齢の割には肌に傷みがなくて若く見られます」


「結婚は?」


「縁がありません。出会いもなし」


「あ、そう」


「あなたは、これから、どうするのですか?」


「私は、記憶がないから、別に日本に帰りたいとは思わないんだよね。もしも、ノヒトが日本に帰ったら、私の自我は消えちゃうんじゃないかな?」


「あなたが消えると決まった訳ではないのでは?私かもしれません。まあ、どちらかが日本に帰ったら、自我が再統合される可能性は、あり得ますね。なので、私達の2人とも消えてしまわないような確証がない限り、私は帰りませんよ」


「良いの?」


「私は、もう、外の世界より、こちらの世界の方が身内が多いですからね」


「やっぱり、友達いないんだね?」


「いますよ。数人は……」


「そっか。ありがとう、ノヒト」


「ただし、あなたも自分の自我を保全する手立てを考えて下さいね。意思とは無関係に、どちらか、または2人ともが、外の世界に強制的に排出される可能性は、常に、あり得るんですから」


「ま、やるだけは、やってみるけれど、なるようにしか、ならないよね〜」


「そうですね〜」


「あ、で、これから、どうするの?将来設計的な事じゃなくて、この後の予定」


「とりあえず、この後、【ドラゴニーア】に行きます」

 私はグレモリーに言いました。


「今から?ああ、【転移(テレポート)】でか……。ノヒト、あのさ、それは、ちと困るんだよね。今、私は、【ウトピーア法皇国】からの侵略に備えているところなんだ。だから、一刻も早く、私の艦隊を連れて【サンタ・グレモリア】に戻らなくちゃ」

 グレモリーは言います。


「【転移(テレポート)】で送ります。ここ【ラウレンティア】から【ドラゴニーア】までの行程6時間程度は巻けます。そして、グリモワール艦隊を【シエーロ】から【(ゲート)】を通って【ドラゴニーア】、そしてウエスト大陸まで移動させる行程の2日も巻けます。それで時間的な余裕が作れますよ」


「それは、つまり、私の艦隊ごと、【転移(テレポート)】出来るって事?」


「出来ます」


「さすが、ゲームマスターだね。ついでに、私の街の【サンタ・グレモリア】も守ってくれない?」


「専守防衛ならば、協力するのは構いませんよ。もはや、あなたは私の陣営のメンバーですからね。防衛に付随する敵地攻撃までは解釈として認めましょう。侵略行為は認めません」


「え、【サンタ・グレモリア】を守ってくれるの?」


「ゲームマスターの遵守条項に抵触しない範囲でなら構いませんよ」


「ラッキ〜。ダメ元で言ってみただけなんだけれど。言ってみるもんだね〜」


「【サンタ・グレモリア】に神の軍団を移動させましょう。現地で混乱が起こらないように、あなたが一旦戻って説明して来て下さい」


「神の軍団?何それ?」


「【マップ】の指定範囲を拡げてみて下さい」

 私は、上空を指差しました。


「は?【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】!」


「私の従魔です。【ラウレンティア】には100頭連れて来ました。全部で、2千頭います」


「【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】2千頭とか、半端ないね?」


「【サンタ・グレモリア】には、とりあえず、今いる100頭を、そのまま派遣しましょう。神の軍団の神兵達の食料は、そっち持ちでお願いします」


「わかったよ。ありがとう」


「さてと、船を離れますので、準備して下さい。積荷の差配などの必要があるのなら、時間を取りますし、便宜も図りますよ」


「積荷の差配は、アリスとトリスタンに丸っと任せてあるから、私はノータッチだし」


「では、【ドラゴニーア】に向かいます。正午までに準備して下さい」


「【ラウレンティア】の神殿に行く用があるんだけれど」


「【ラウレンティア】の神殿というのは?」


「チュートリアルだよ。ウチの子達と、ディーテ達もチュートリアルが受けられるんじゃないか、と思ってね」


 やはり、そこに思い至りましたか……。

 まあ、想定の範囲内ですね。


「結論から言えばNPCもチュートリアルは受けられます。私か、あるいはユーザーである、あなたがNPCに協力してあげれば、ですが」


「やっぱりね。やり方は、チュートリアルの入口になっている転移魔法陣の上に、NPCを立たせて、私が、脇から手を伸ばしてチュートリアル開始の発動キーである竜の像をクルクルと回せば良いと思うんだけれど、それで合っている?」


「はい。その方法でチュートリアルに参加出来ます。グレモリー、その情報を無軌道に拡散してもらっては困ります。ある程度、機密という形で保持したい、と私は考えているので」


「ほらね、グレモリーちゃん。普通の人は、そう考えるわよ」

 ディーテ・エクセルシオールが甲板に上がって来て言いました。


 全員がやって来ました。


「何で?チュートリアルには、英雄(ユーザー)は、誰でも参加していたんだし、参加資格なんてなかったじゃん?」


「状況が変わったから、としか言えません。かつては、英雄(ユーザー)であれば無条件でチュートリアルに参加可能でした。NPCはチュートリアルに参加していませんでしたが、全ユーザーが無条件でチュートリアルに参加する、という状況は、公平性という観点で言えば、ある一定の整合性が存在していた、と考えます。しかし、現在、チュートリアルに挑戦する為には、私か、あなたの協力がいる。チュートリアルを受けるとNPCもユーザーと同等の基礎戦闘力を身に付けられ強化されます。あなたは、自分や自分の身内に敵対する人物を、あえてチュートリアルに参加させますか?」


 グレモリーは、考えています。

 ディーテ・エクセルシオールは盛んに頷いていました。


「まあ、受けさせないだろうね」

 グレモリーは言います。


「私もですよ。これは、つまり、事実上の参加資格なのではないでしょうか?この世界(ゲーム)で、チュートリアルを発動させられる存在が、私とあなたの2人だけ。私とあなたに与する事が参加資格。つまり、チュートリアルは、現在、その意味を変質させた、と、私は判断します。なので、この情報は秘匿する必要があると考えました」


「わかったよ。つまり、無差別に情報を流布して回っていたら、チュートリアルを受けたいと考えたけれど、私やノヒトに拒否された人物が、おかしな行動をするかもしれない。例えば、私の子供達を誘拐して、私を脅迫するとか。そういう事なんでしょう」


「その通りです。現在ゲームマスターは、この世界(ゲーム)に私1人。あらゆる情報を分析すると、英雄(ユーザー)大消失以来900年、外部から、この世界(ゲーム)に運営は全くアクセスをしていません。つまり、私やあなたの身内に危害が及ぶような事態が発生しても、私やあなたは、運営には頼れない」


「つまり、自分自身と身内を守る為に、自衛しなければならないんだね」


「そうです。私は、現在、チュートリアルに参加する条件を設けています。内容は、先ほど、あなたが【契約(コントラクト)】した内容に……チュートリアルの情報を口外しない……という条項を加えたモノです。それを【契約(コントラクト)】した者にチュートリアルを受けさせる事にしています」


「私も、その考えに賛成致します」

 ディーテ・エクセルシオールが言いました。


「何か、腑に落ちないけれど、まあ、良いよ。チュートリアルの情報は無差別に拡散はさせない。事前にノヒトに許可を取れば良い?」


「情報を厳密に管理してくれるのならば、許可は必要ありません」


「なら、私も、ノヒトと同じ条件で、皆にチュートリアルを受けさせても構わないの?」


「はい、構いませんよ」


「あ、そう。わかったよ」


「ただし、チュートリアルで強化されて、調子に乗って暴れたり無法を働いたりするような可能性がある人物は、出来るだけ選定から排除して欲しいですね」


「はいよ〜。それは、私も事前に考慮していた事だから大丈夫だよ。チュートリアルを受けさせようと思っているのは、私が見て、人格、見識に問題がなさそうな者に限定するつもりだよ」


 あ、そう。

 ならば、良し。


「それならば、結構です。これは、私が定めたチュートリアルの参加条件です。参考までに」

 私は、チュートリアルの参加条件を書いたメモをグレモリーに渡しました。


「ありがとう、助かるよ。で、【ラウレンティア】神殿で、身内にチュートリアルを受けさせたいんだけれど、その時間だけ待ってくれる?」

 グレモリーは訊ねます。


「わかりました。では、午後3時に【ラウレンティア】神殿の礼拝堂に集合とします」


「それでも午後3時か……急がなくちゃだね……」

 グレモリーは呟きました。


「時間がないので、あまり、人数が多いようならば、また後日にして下さい」


「なら、とりあえず、26人」

 グレモリーは、言いました。


「午後3時に間に合うのならば良いですよ」


「ありがとう、助かるよ、ノヒト」

お読み頂き、ありがとうございます。


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