第209話。ラウレンティア・スクエア。
本日、2話目の投稿です。
本日は、2話投稿致しました。
【タナカ・ビレッジ】。
レジョーネは、完全武装で集合しました。
即戦闘という可能性は低いと思いますが、最悪の事態を考慮して備えておく気構えは必要です。
最悪に備えた用意が無駄になるなら、それは悪くない結果なのですからね。
出陣をファミリアーレには知らせていません。
もう深夜を回っていますので起こすのは可哀想ですし……この世界に危機を引き起こす可能性がある人物を排除しに行く……などという理由で起こす必要もありません。
これは、無垢なファミリアーレには直接関係のない、汚れた大人の事情なのですから。
「留守中、弟子達の事をお願いします」
私は、クイーンにファミリアーレの事を頼みました。
「頼むのじゃ」
ソフィアは、手を上げて言います。
「お任せ下さいませ。ご武運を、お祈り致します」
クイーンは、微笑んで、送り出してくれました。
ファミリアーレが宿泊する【タナカ・ビレッジ】のホテルも、【タナカ・ビレッジ】の都市城壁も【神位】級の魔法建築。
とても堅牢です。
また、クイーンの配下や、イーヴァルディ&サンズ造船所で作業する多数のの工員達や、ファミリアーレのパートナーである【自動人形】・シグニチャー・エディション達は、精強。
剣聖クインシー・クインを凌ぐ戦闘力を持つモノが一個中隊規模でいるのと、同等の戦力があります。
さらに【オリハルコン・ゴーレム】と、【オリハルコン・ガーゴイル】と、上空には【砲艦】。
そして神の軍団の黒師団から選抜された一個小隊も控えています。
【タナカ・ビレッジ】の守りを抜ける敵は、ほぼ存在しない、と考えて差し支えありません。
最悪の場合は、港に停泊している【快速飛空船】のカティーサークで避難してしまう事も可能。
ファミリアーレは安全。
であれば、私達は、後顧の憂なく前線に踏み出して行けます。
「行きましょう」
「「おーーっ!」」
ソフィアとウルスラが声を揃えて言いました。
その他のメンバーは、静かに頷きます。
レジョーネは、【転移】しました。
・・・
千年要塞。
私達が、転移座標がある主塔から出て来ると、白師団の師団長ビアンキが待っていました。
ビアンキの背後には、100頭の神兵達がズラリと整列しています。
「捧げ、首っ!」
人種語を喋れるようになったビアンキが、音声言語で号令しました。
ズラズラズラズラズラズラズラズラズラ……ビシーーッ!
100頭の神兵達が両端から順に頭を上げて行き、最後は中央にいたビアンキが、ビツッ、と気をつけ。
どうやら、儀仗のつもりのようです。
「おーーっ、カッケーーッ!」
ウルスラが言いました。
30mを超える【古代竜】100頭による儀仗。
なかなか壮観です。
私は、彼ら神の軍団の様子をパスで観察出来ますが、ここ最近、神兵達は休憩の時間に交代で何度も何度も儀仗を練習していましたからね。
巨体を誇る【古代竜】がキビキビと動き、必死にタイミングを合わせる姿は、中々に微笑ましかったです。
また、自然界では最強故に孤高の存在でもある【古代竜】が他者と呼吸を合わせるだなんて、本来、あり得ない事ですからね。
ここは、褒めておきましょう。
「直れっ!ビアンキ、白師団の神兵諸君、ご苦労様。諸君らの士気の高さは見事です。作戦行動も、このチームワークで完遂させましょうね」
「うむうむ。我の教えを守っておるようじゃな。大儀である」
ソフィアは、腰に手を当てて踏ん反り返って言いました。
神の軍団で神将という地位にあり、事実上、神の軍団全体の指揮官という立場のトリニティも、心なしか満足気な表情です。
「【古代竜】を、これほどまでに馴致してしまうとは、凄い……」
アルシエルさんが呟きました。
「アルシエルよ。神の軍団の総数は、2千頭じゃ。【シエーロ】に戻ったら、其方の上席の者に、我らと敵対するなら、覚悟して臨めと伝えておくのじゃぞ」
ソフィアは、アルシエルさんを脅します。
「に、2千……。わかりました。絶対に【地上界】に攻め込むような事がないように伝えます」
アルシエルさんは、青い顔で言いました。
アルシエルさんは、【シエーロ】からの観戦武官。
私達がいる5大大陸……つまり【地上界】を敵に回すのは得策ではない、と思わせる為の広報をしてもらわなければなりません。
アルシエルさんには、過剰なくらい私達の武威を見せつけておく必要があるのです。
「選抜隊は、集合して下さい。その他の者は、【転移】の効果範囲から離れて下さい」
私は、指示しました。
同時に、【念話】で、【転移】の目的地である【ラウレンティア】にいる【自動人形】に指示を出します。
レジョーネと神兵100頭で、【ラウレンティア】の礼拝堂に【転移】する訳にはいきません。
受け入れ側のスペースが足りなくて、【転移】した瞬間に圧死してしまいますからね。
つまり、【ラウレンティア】のマリオネッタ工房所属の【自動人形】を転移座標代わりに使い、【ラウレンティア】の都市城壁外の広いスペースに【転移】しようという訳です。
【自動人形】・シグニチャー・エディションには、標準装備として私の転移座標となる【ビーコン】の機能が内蔵してありました。
ゲームマスターである私は、【ビーコン】を目掛けて【転移】が可能なのです。
効果範囲は……半径500mもあれば、何とか……いや、この場所では無理か。
千年要塞の中の広場は、軍隊の集結などを目的としている為に、相当広いのですが、【転移】の効果範囲を広げると、どうしてもギルドなどの建物が入ってしまいます。
かといって、半径を狭めると、巨体の【古代竜】100頭は、【転移】効果範囲から、はみ出てしまいますので……。
複数回に分けて【転移】すれば良いのですが、見送りを受けて飛んだ後、また戻って……というのも、あまり格好の良いモノではありません。
私は他人から、どう思われても構いませんが、神の軍団が人種から軽んじられるような事は望ましくないのです。
神の軍団は、人種文明の守り手。
権威というモノがなければいけません。
仕方がありませんね。
「出動するメンバーは、離陸して上空700mに上昇して待機して下さい。【転移】は上空で行います」
私は、言いました。
「離陸後に700m上空に滞空せよっ!目標地点は、要塞主塔直上っ!動けっ!」
ビアンキが配下に号令をかけます。
100頭の神兵達は、グルッ、と喉を鳴らして、次々に飛び立って行きました。
縦列編隊で垂直に上昇して、あっという間に指定高度に到達してしまいます。
100頭の神兵達は、空中でホバリングして、私達を待ち構えていました。
「ビアンキ。後は頼みます」
「お任せ下さい」
「うむ、役目大儀であった」
「ははっ!」
「では、皆も集合して下さい」
私は、レジョーネを近くに集めます。
神の軍団の神兵には、腹と背に転移魔法陣が浮き上がって光るように描かれています。
これは、人種の味方である神兵と、人種の敵である野良の【古代竜】を一目で見分けられるようにする為に構築した魔法陣でした。
その副産物として、私は、神兵がいる場所になら、世界中どこにでも【転移】が可能になっています。
【自動人形】・シグニチャー・エディションに内蔵してある【ビーコン】機能と同じモノと考えて差し支えありません。
とても便利なのですよ。
私は、レジョーネと共に、上空で待機する神兵を転移座標に指定して【転移】しました。
空中で、もう一度【転移】します。
今度は、100頭の神兵達を連れて【転移】する為に、効果範囲を半径500mに広げました。
さてと、行きますよ。
目的地は、【ラウレンティア】。
私達は、千年要塞の夜の空から【転移】しました。
・・・
【ラウレンティア】。
都市城壁外部の草原フィールド。
「ベンティ、ありがとう。持ち場に戻って下さい」
私は、転移座標代わりとなってくれた【自動人形】・シグニチャー・エディションを労いました。
「畏まり、ました」
ベンティは、一礼して【ラウレンティア】の方に【飛行】で向かいます。
さてと、これから、少し大変です。
「ソフィア、ファヴ。打ち合わせ通りにお願いしますね」
「わかったのじゃ」
「わかりました」
打ち合わせとは、神の軍団を【ラウレンティア】上空を飛ばせる為の段取りです。
今夜、神の軍団が【ラウレンティア】上空を飛ぶ事は、神竜神殿、役所、ギルドなどから市民に向けてアナウンスされていました。
しかし、急遽だった為に周知が徹底されておらず、神の軍団が【ラウレンティア】上空に入街すると、市民が恐慌状態などにならないとも限りません。
なので、ソフィアとファヴに先行してもらい市民に呼びかけをしてもらいます。
今から、神の軍団100頭が【ラウレンティア】上空を飛行しますが、背と腹に魔法陣が光る【古代竜】は【神竜】の配下の、神の軍団で、人種の味方であるので心配いらない、と。
これを、2人は【拡声】で街宣して回る訳です。
この為に、私達は、明日の早朝にグレモリー・グリモワールが乗る飛空船が到着する時刻ではなく、前入りしました。
避けられる混乱は、なるべく避けたいモノ。
事前に出来る限りの手立てを講じた上で、それでも混乱や事故が起きてしまった場合、初めて、ごめんなさい、と言えるのです。
無策によって人災を引き起こす愚か者には、被害者に謝罪する資格さえないのですから。
ソフィア、ファヴ、オラクル、ウルスラ、ヴィクトーリアは、【ラウレンティア】の方角に飛んで行きました。
・・・
さてと、私は、どうしましょうか……。
神の軍団100頭を、この場に残して、どこかに移動する訳には行きません。
通りすがりに、神兵達の威容を見た人種は半端ではなく驚くでしょうからね。
特に、真夜中に見る【古代竜】の迫力は5割増し。
良く良く見ると、あなた達は、恐ろしい顔をしていますよね。
お年寄りなら、ショックで心臓発作を起こすかもしれません。
私が、ここで見張り、【マッピング】で人種を見つけたら、その場に急行し、事情を説明しなければならないでしょう。
という訳で、私は、暇潰しで、この草原に建築を始めました。
【自動人形】や【魔法装置】などの比較的小さな物を造っても良かったのですが、精密機器を屋外で造るのは抵抗があります。
塵や埃は大敵ですからね。
魔法的に防塵措置を講じる事も出来ますが、所詮は暇潰しですので、そこまでして、やる事でもありません。
私は、草原フィールドの草を全て除去。
その上に、【神位】のバフをかけて地固めします。
これをしておかないと、明日の朝には、また、草がボーボーになってしまいますので……。
強化鉄骨を地面に刺し、その上に基礎を構築し、配管を通し、柱を立て、梁を渡し、壁を張り、屋根をふき……。
はて、私は何を造っているのでしょうか?
自分でも、よくわかりません。
適当に手癖だけで作業していたら、何だか、馬鹿でかい建造物が出来上がりました。
あれです。
お得意の旅客機格納庫的な無骨な形状の汎用建造物ですよ。
建築センスが……。
いやいや、内装を多少、工夫すれば良いのです。
建物の外見は、使用する人達には関係ありません。
しかし、内部は、何もない巨大な伽藍堂。
ただただ、だだっ広い空間が広がるだけ……。
それこそ、ジャンボ機かロケットか、さもなければ、大仏でも納めそうな、無駄に広いだけのスペース。
そうだ、階層を作りましょう。
1、2、3、4、5、6、7、8……。
マジか……相当、余裕を持ってフロアを分けても、最低8階建にはなりますね。
仕方がありません。
スペースを殺す為に、真ん中を吹き抜けにして、ショッピング・モールのような形状にしましょう。
・・・
出来た。
悪くない出来です。
エレベーターも複数作りました。
吹き抜けを貫いて、8階分の高さに、4本の噴水が吹き上がるというギミック付き。
色とりどりの照明を当てて、4本の噴水がリズミカルに水塊を飛ばしています。
周囲の音を拾って、照明の色や噴水の形が変わるという趣向。
無駄に拘りました。
まあ、コストは【超位】の【魔法石】4つ。
水道代も電気代もかからず半永久的に稼働しますので、噴水は出しっ放しです。
この1階の広大なスペースで、楽団などに演奏させれば、巨大な光る噴水と相まって、中々、面白い見世物になるのではないでしょうか?
内装の細々とした部分は、大量の【自動人形】・シグニチャー・エディションを投入して作り込ませれば良いですね。
丸投げしてしまいましょう。
「全ての作業が終わったら、コンパーニアの【ラウレンティア】オフィスから、【転送】で竜城の私の亜空間部屋の前まで帰還して来て下さい」
私は、【自動人形】・シグニチャー・エディション達に指示しました。
【自動人形】達は、了解の反応を示します。
「ああ、やっぱり、完成後も16体は、ここの警備と管理に残って下さい。各フロアに2体ずつ。お前から……お前まで。頼みますよ」
選抜された【自動人形】達は、了解を示しました。
一体、どんな用途に使う建物なのか、私にも、わかりませんが、オフィス・ビルでも、ホテルでも……それこそショッピング・モールだって良いでしょう。
「凄まじい……これが神の技……」
アルシエルさんが呟きます。
「ノヒト様、素晴らしい魔法建築でございました」
トリニティが言いました。
「いや、これは、ナイアーラトテップさんに叱られるよ。豆腐建築だってね」
とはいえ、最初は、小学校低学年の子が描いた……三角お屋根のお家……みたいな見た目を心配しましたが、中身は機能的なモダン建築になりましたよ。
何事も帳尻が合えば、それで良いのですからね。
「ノヒトぉ〜。終わったのじゃ〜……って、何じゃ、これは?」
ソフィアが戻って来て言いました。
「すっげーーっ!さっき、あったっけ?」
ウルスラは、ピュンピュン飛び回りながら言います。
「暇だったから、造ったんだよ」
「ひ、暇だったから……これほどの魔法建築を暇潰しで……」
アルシエルさんが唖然として言いました。
「何の建物ですか?」
ファヴが訊ねます。
「オフィス・ビル、ホテル、ショッピング・モール……用途は未定。まあ、使う人がいれば良いけれどね」
「当然使う者は、おるじゃろう。で、この建物の名は何とする?」
名前か……。
「ラウレンティア・スクエアとか、かな?」
「どの辺りが正方形なのじゃ?正面から見ると五角形じゃ」
ソフィアが言います。
「中に入って見てごらんよ」
私は、レジョーネを促しました。
・・・
「ほおーーっ!確かに正方形がいっぱいじゃ」
ソフィアが上を見上げて言います。
下から見上げると、内部が正方形の吹き抜けになっているので、各階層の抜けの部分が連なり、7個の正方形が重なっているように見えますからね。
パンッ、パパンッ、パンパン……。
「それにしても、この噴水は凄い」
ファヴが手を叩くたびに色と形を変える噴水に感心して言いました。
「すっげーーっ!」
ウルスラが、噴水をクルクル巡りながら、ピューーン、と上階まで飛んで行きます。
しばらくして。
「何にもなかったよ」
ウルスラがガッカリという様子で戻って来ました。
「うむ。これから、人種で賑やかになるのじゃろう」
さてと、暇潰しは終わりです。
私達は、神の軍団の神兵100頭を連れて、【ラウレンティア】の上空に飛びました。
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