第207話。青衣の大魔導師?
名前…オフィーリア
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…90歳
職種…【女神官】
魔法…【回復・治癒】など。
特性…飛行、【神竜の使徒】、【才能…献身】
レベル…58
【ドラゴニーア】東の都市【センチュリオン】の神殿長。
【タナカ・ビレッジ】の畑。
夕食は、屋外でバーベキューにしました。
たくさんのバーベキュー・グリルをズラリと並べて、焼き番は、ディエチを始めとする調理【自動人形】達に丸投げします。
【氷竜】の肉とクイーン農場で取れた野菜を串に刺して【ドラゴニーア】で購入したスパイス・ミックスをかけて焼くだけですが、手間がかかりませんし、目先が変わって面白いですしね。
「このバーベキュー方式の食事形態は、アグリツーリズモ・アルベルゴでも採用したいです」
クイーンが言いました。
アグリツーリズモ・アルベルゴとは、農村滞在型宿泊施設、というくらいの意味でしょうか。
クイーンは、将来的に、お客を宿泊させ、畑や果樹園で取れたての野菜や果物を食べさせ、また、それを料理して振る舞うような、ホテルとレストランの経営を計画していました。
「クイーンの農場は眺望が美しいですから、バーベキューは良いプランかもしれませんね」
この畑を眺めているだけで、気分が穏やかになります。
都会で暮らす人種にとっては、癒しとなるのではないでしょうか?
ある程度仕事が片付いたら、避寒地として冬の間は暖かい【タナカ・ビレッジ】を拠点にして活動するのも悪くないですね。
私は、寒いのは苦手です。
ゲームマスターは、暑さ寒さには完全耐性がありますが……。
「ワイナリーなども、やってみてはどうでしょうか?」
ファヴがクイーンに言います。
「それは、良い考えですね。早速、計画致します」
クイーンはニコリと微笑んで答えました。
ワイナリーですか。
私は、あまり酒を飲む習慣がなかったので、そのアイデアは思い浮かびませんでした。
なるほど、商業作物として、ワイン・ブドウは大きな利幅が期待出来ますから、一考の価値ありですね。
となると、醸造所が必要です。
よし、造ってあげましょう。
「クイーン。醸造所を建ててあげますよ」
「よろしいのですか?」
「もちろんです。ブドウの選別や圧搾・抽出は【掘削車】の選別機能で出来ますね。後はタンクと……」
「ありがとうございます。費用は、いかほどでしょうか?」
「いりませんよ」
「本当ですか?」
「はい」
「ありがとうございます。ワイン用のブドウの作付けを増やさなければいけませんね……」
「気候の問題は、どうでしょうか?確か、上質のワインのブドウには、ある程度の寒暖差が必要だったと記憶していますが」
後は、水捌け、日照、なども重要だと聞き嚙った事がありますが、そちらは、クイーンの農場は問題ありません。
「サウス大陸の気候に合った品種を持っています。時間をかけて品種改良を致しました。若いうちは渋みの強いワインになりますが、熟成すると素晴らしい深みのある味になります」
クイーンは微笑みます。
「ああ、私達が飲んでいた、あの美味しいワインのブドウは、クイーンが作ったブドウの品種なのですか?」
「はい。時間だけは、タップリありましたので。色々と試行錯誤致しました」
英雄大消失後、クイーンは、マスターであるエンペラー・タナカ氏が消失してしまい、この【タナカ・ビレッジ】で900年も、マスターの帰りを待ちながら1人で暮らしていたのでしたね。
クイーンは、有用な作物の種苗を大量に持っています。
全て、クイーンが長年をかけて品種改良したモノ。
ファヴを通じて、特許として申請してあります。
この特許料だけで、莫大な収益が見込めるでしょう。
「では、この後……いや、この後は所用がありますので、また、近い内に、醸造所の建築に来ますね」
「わかりました。いつもいつも、本当に、ありがとうございます」
クイーンは、深々と頭を下げました。
・・・
バーベキュー・パーティは終了。
私は、バーベキュー・グリルを片付けます。
これ、即席で造った割には、出来が良いので、クイーンのアグリツーリズモ・アルベルゴ用に譲渡する事にしました。
自分達用にも同じ物を幾つか造りましょう。
火、蒸気加熱、加圧加熱、減圧加熱、遠赤外線、電磁波……などなど何でもありの万能グリルです。
マリオネッタ工房の商品として販売しましょう。
そろそろ、お暇しなければ、と思っていたのですが、クイーンから、宿泊して行く事を勧められました。
ならば、厚意に甘えさせてもらいましょうか。
レジョーネは、この後、【ラウレンティア】に向かいますが、ファミリアーレは、【タナカ・ビレッジ】に泊めてもらえば良いですね。
【タナカ・ビレッジ】には、クイーンの【自動人形】達、【アダマンタイト・ゴーレム】、【アダマンタイト・ガーゴイル】もいますし、神の軍団の一個小隊もいます。
安全面は問題ありません。
ファミリアーレは、明日の朝、あちらから抜け出して、一旦迎えに来れば良いでしょう。
抜け出す機会がなければ、数日宿泊したって良いのです。
ファミリアーレに【タナカ・ビレッジ】への宿泊を伝えると、弟子達からは歓声が上がりました。
よほど、【タナカ・ビレッジ】の居心地が良いのでしょう。
私も同感です。
ファミリアーレは、【アトランティーデ海洋国】の王都【アトランティーデ】生まれだというジェシカ以外、サウス大陸に訪れたのは今日が初めてです。
しかし、サウス大陸はファミリアーレのメンバーの過半数を占める【獣人】にとっては、ルーツの地。
遺伝子に組み込まれたノスタルジーなのかもしれません。
この牧歌的な雰囲気は、縁も所縁もない私でさえ、何だか懐かしさのような感情を喚起させられますからね。
「さてと、レジョーネの移動は、深夜です。ソフィア達は、少し仮眠を取った方が良いですね」
「そうするのじゃ」
「アッタシも寝る〜」
「僕も、仮眠します」
「では、私も……」
ソフィア、ウルスラ、ファヴ、アルシエルさんは、仮眠組、と。
オラクル、ヴィクトーリアは【自動人形】なので、睡眠を必要としません。
「私は、少し起きています。明日のコンディションに影響のない範囲で、ですが……」
トリニティは言いました。
ん?
ああ、アレですね。
私が、ファミリアーレの様子を見ると、弟子達は、テーブルにノートと本を取り出していました。
ファミリアーレが取り出した本は……ゾンビでもわかる遺跡ガイドブック。
グレモリー・グリモワール著……つまり私が書いた本です。
内容は市販版をボリュームアップした、再編版。
より、遺跡の攻略という観点を重視して加筆した、ガイドブックというより攻略本という位置付けになるのでしょう。
私は、ファミリアーレを遺跡にデビューさせる事を決めていました。
この本の内容を勉強して、ファミリアーレには10月8日に試験を受けてもらいます。
合格点を取れなければ、遺跡には、連れて行きません。
遺跡での戦闘は、平場の戦闘とは異なります。
特殊な知識が必要ですからね。
私は当面、ファミリアーレを遺跡の深層階に連れて行くつもりはありません。
ファミリアーレを連れて行くつもりの浅い迷路階層では、私とソフィアがいれば、敵との遭遇が、迷路の前方と後方に限定される為、むしろ安全かもしれません。
しかし、敵の強度とヘイト値が高いので、戦闘自体は大変になります。
油断をしていると簡単に死んでしまいますからね。
ファミリアーレは、毎日、遺跡の勉強をしていました。
今晩、【タナカ・ビレッジ】に宿泊する事になったからといって、それは変わりません。
……が、若干1名、勉強から逃れようとする弟子がいるようです。
ソロ〜ッ、と、どこかに行こうとするウサギのシルエット。
「ハリエット。勉強しないと一緒に遺跡に行けないのだぞ」
アイリスがハリエットの短い尻尾を、ムンズッ、と捕まえました。
「いーー、やーーっ!勉強嫌ぁーーいっ!」
ハリエットは、絶叫します。
「ハリエット。モフ太郎さんは、全遺跡を踏破していますよ。ハリエットが、もしもモフ太郎さんのようになりたいのであれば、この試練を乗り越えなければ無理ですね。ハリエットの人生ですから、私は強制するつもりはありませんが……つまりハリエットは、モフ太郎さんのようになるという目標を諦める、という事ですね?」
私は、ハリエットに言いました。
「う〜……が、頑張ります……」
ハリエットは、大人しくテーブルに座ります。
ふっ……造作もない。
ハリエットを操縦するには、モフ太郎氏の名前を出せば、てき面の効果があります。
ソフィアで言うならば……ソフィアは至高の叡智を持つ天空の支配者だというのに、こんな事も出来ないのですか、プププ……と、煽るのと同じくらい効き目がありました。
閑話休題。
トリニティが仮眠を取る時間を後ろにズラした理由は、つまり、ファミリアーレの勉強を見てあげるつもりだからなのでしょう。
トリニティは、遺跡で生まれ、遺跡を住処としていた、遺跡の【徘徊者】。
つまり、遺跡の専門家です。
知識ならゲームマスターの私が上回るでしょうが、実地の体験では、トリニティが圧倒的に上。
ファミリアーレの教師として、これ以上の人材はいません。
トリニティは、こうして、2時間ほどファミリアーレに勉強を教えるつもりだそうです。
私は、その間に、銀行ギルドで、イーヴァルディ&サンズの口座を作らなくてはいけません。
登記の方は、必要書類を揃えて、その書類が魔法的に正式なモノである証明が出来れば、【自動人形】に手続きを代行させる事も出来ますので。
私は【ドラゴニーア】に【転移】しました。
・・・
竜都【ドラゴニーア】。
世界銀行ギルド本店。
私が、銀行ギルドに用意されている私の専用転移座標部屋に【転移】すると、人感センサーが働いて、銀行ギルドの職員が出迎えに来る仕掛けになっています。
別に出迎えなどは必要ありませんが、それで、あちらの気がおさまるのなら、別に構いません。
ドアを開けて廊下に出ると、世界銀行ギルド頭取のビルテさんが、転移座標部屋の方に早足で向かって来ました。
「ノヒト様。ようこそ、おいで下さいました」
ビルテさんが言います。
多少、息が荒くなっていました。
ダッシュして来たのでしょう。
「こんばんは」
「本日の、ご用命は何でしょうか?」
「イーヴァルディ&サンズという新会社を設立します。造船と兵器開発を行います。ソフィア&ノヒト(コンパーニアの正式名称)とは、別系列の会社にします。なので、イーヴァルディ&サンズの法人口座を作って頂きたいのです」
「畏まりました。すぐ、致します」
「あ、そう言えば、もう営業時間外ですよね?」
うっかりしていました。
銀行は、終業時刻が早いんですよね。
「いいえ。全く問題ありません」
ビルテさんは、ニッコリ微笑みました。
あ、そう。
・・・
私は、ビルテさんの執務室に案内されました。
すぐに紅茶と、お茶菓子が給仕されます。
「イーヴァルディ&サンズでしたね。表記上の正式名称を、こちらに書いて下さいますか?」
ビルテさんは、申請書類とペンを差し出します。
「わかりました」
イーヴァルディ&サンズ・インダストリアル・エンジニアリング……と。
「はい。すぐに口座を開設致しますので……ポチ」
ビルテさんは、デスクの上のボタンを押しました。
すぐに、銀行ギルド職員が入室して来ます。
銀行ギルド職員は、ビルテさんから申請書類を受け取り、一礼して退室して行きました。
「今日は、お一人ですか?」
「はい。ソフィア達は、【パラディーゾ】の友人の屋敷にいます」
「【パラディーゾ】……お噂の【タナカ・ビレッジ】ですか?」
「はい」
「その事なのですが、【タナカ・ビレッジ】に銀行ギルドの支店を出させて頂きたいのですが?」
「クイーンに連絡して下さい。彼女のアドレスは、わかりますか?」
「はい、アドレスは存じております。ノヒト様の、お許しが頂けるのならば、アポイントを取った上で、サウス大陸代表のウェンディを、クイーン・タナカ様の所へ、ご挨拶に向かわせます」
「私の許可を得る必要はありませんよ。クイーンも私も、ギルドを招致するつもりで、既に【タナカ・ビレッジ】には各ギルドの建物を造ってありますので。【神位魔法】による魔法建築ですので、金庫のセキュリティも万全ですよ」
「そうでしたか。ご配慮、痛み入ります」
「いえ、【タナカ・ビレッジ】にとってもギルドの誘致は利がある事です。私にとっても【タナカ・ビレッジ】はサウス大陸で最も重要な拠点ですから、銀行ギルドが支店を出してくれる事は有り難いのです」
「ノヒト様の最重要拠点……なるほど……。では、【タナカ・ビレッジ】の店舗は、銀行ギルドのサウス大陸旗艦支店と致しましょう」
「よろしく、お願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願い致します」
「ところで、今晩遅く、私達は、【ラウレンティア】に向かいます」
「【ラウレンティア】……はっ、グレモリー・グリモワール様と会談なさるのですね?」
「はい、そのつもりです。グレモリー・グリモワールは、やはり【ドラゴニーア】と【サンタ・グレモリア】間のチャーター飛空船に乗ってやって来るのですね?」
「はい。ピオから報告を受けています」
「なるほど。で、この事は内密に。もしかしたら、グレモリー・グリモワールと一戦に及ぶかもしれませんので。情報が漏れると、逃げられる可能性があります」
「戦ですか?理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか?あ、いえ、差し出がましい事を申しました。はい、この場で、お伺いした事は口外致しません……【誓約】」
「ビルテさんには、お話ししましょう。これは、まだ誰にも話していない内容です……」
とはいえ、私とパスが繋がっているトリニティと、ソフィアの第2の脳であるフロネシスには、リアルタイムで情報が伝わります。
フロネシスのパスを通して確認すると、ソフィアは眠っていますね……。
まあ、ソフィアの性格なら事後報告となっても、うるさい事は言わないでしょう。
私から、最初に機密を報されると聴いて、ビルテさんは些か緊張しているようです。
「グレモリー・グリモワールは、私が創りました」
私は、準備していた方便を話しました。
グレモリー・グリモワールは、私のプライベートのゲーム・キャラだ……などという説明では理解されないと考えたからです。
ただし、方便とはいえ、嘘を吐いている訳ではありません。
グレモリー・グリモワールは私が創った……私がキャラ・メイクした事には間違いないのですから。
「グレモリー・グリモワール様を、お創りになられた?……なるほど、【創造主】様の御使で在らせられる【調停者】たるノヒト様なら、そのような奇跡も行えるのですね」
「まあ、そのように理解して頂いて差し支えありません。グレモリー・グリモワールは、いわば、私の【眷属】のような存在であったのです。つまり、私の意思を完全に履行する存在でした。私は、グレモリー・グリモワールに、あらゆる知識と技術を与えました。なのでグレモリー・グリモワールは、英雄の中にあっても並外れて強大なのです」
知識と技術を与えた、と言っても、もちろんゲームマスターの業務に関する社外秘情報をプライベートで悪用した事はありません。
あくまでも、一般ゲームユーザーとしての私がゲーム・ルールに則って、開発したり発明した色々な事、という意味です。
「なるほど。先日、祖母に確認した話では、グレモリー・グリモワール様は、伝説の大英雄【青衣の大魔導師】様と同一人物との事。ノヒト様の【眷属】ならば、それも納得出来ますね」
ビルテさんの祖母といえば、ディーテ・エクセルシオール。
ディーテから、ビルテさんに情報が入っているのは、当然ですね。
「【青衣の大魔導師】?何ですか、それは?」
「ご存知では?」
「知りません。初めて聴く言葉です」
「【青衣の大魔導師】様は、かつて【ユグドラシル連邦】を滅亡の危機から救った大英雄でございます。私共、【ユグドラシル連邦】の民は、その偉大な方を【青衣の大魔導師】様と、お呼びして、守護竜【ニーズヘッグ】様と同様に、お祈り申し上げております。【青衣の大魔導師】様の英雄叙事詩は、世界中で有名ですよ。後世の脚色が激しいモフ太郎の冒険譚とは違い、【エルフヘイム】の祭司と王家が正確に守り伝えて来た歴史ですし、【世界樹】に記録されている内容ですので、全て事実です。グレモリー・グリモワール様は、私共にとっては、神にも等しい、お方なのです」
【青衣の大魔導師】……あー、あの時……900年前のノース大陸で、私はグレモリー・グリモワールのトレードマークである【漆黒のローブ】、【漆黒のとんがり帽子】の魔女コスプレではなく、【深海のローブ】を着用していたんですよね。
真冬のノース大陸をウロウロしていたので、屋外を歩いているだけで、寒さダメージがガンガン入ってヤバかったのです。
【漆黒のローブ】は、それ一つで、あらゆる耐性が付く優秀な装備でしたが、ノース大陸の寒さは、その気候耐性を軽く上回って来ました。
ゲームとはいえ、マイナス40度とか普通に死にます。
なので、当時の私は、止むを得ず、手持ちの装備品で最も寒地耐性が高かった【深海のローブ】を着てノース大陸を歩いていました。
それが、【青衣の大魔導師】の由来なのでしょう。
しかし、グレモリー・グリモワールが神にも等しい、とか。
知らなかった……あのゲーム時代の超絶級難易度お使いクエストをクリアした結果が……そんな事になっているとは。
私は、ダーク・サイドのロールプレイとして、グレモリー・グリモワールで遊んでいる時は、傍若無人に振舞っていたので、大英雄だとか、祈られるだとか、想像すらしていませんでした。
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