第206話。イーヴァルディ&サンズ。
本日、2話目の投稿です。
本日は、2話投稿致しました。
【タナカ・ビレッジ】。
クイーンが、配下の【自動人形】・シグニチャー・エディションのジョーカーと【アダマンタイト・ガーゴイル】を2体、護衛に引き連れて城門で待っていました。
「ソフィア様、ファヴ様、ノヒト様、いらっしゃいませ。皆々様、初めまして、クイーン・タナカでございます」
クイーンは、恭しく礼を執ります。
「来たのじゃ」
ソフィアは、片手を上げて言いました。
「クイーン、ご機嫌よう」
ファヴは挨拶します。
「クイーン。私の弟子達のファミリアーレです」
私は、クイーンに、ファミリアーレを紹介しました。
・・・
クイーン(エンペラー・タナカ氏)の屋敷。
クイーンのソフィア・グッズのコレクションは、コンプリートされていました……。
ソフィア・グッズとは、ソフィア財団に寄付をしてくれた人に金額に応じて、渡される景品の事です。
最初に寄付をすると、もれなくソフィア直筆(そういう事になっている)、お礼状が届くのですが、2度目からは、このソフィア・グッズが送られて来る事になっていました。
クイーン曰く、次はウィンター・シーズン仕様のグッズをコンプリートするつもりなのだ、とか。
ああ、ソフィア・グッズは、シーズンごとに新しいモノに改編されるのでしたね……。
このソフィア・グッズのスキームは、ソフィア財団の非公式アドバイザーをしてくれている【ドラゴニーア】の神官長エズメラルダさんと、世界銀行ギルド頭取のビルテさんのアイデアでした。
何だか、悪質な商法のような気もしますが、集められた寄付金は、孤児院の支援や生活困窮者の自立支援という形で、間違いなく慈善活動に利用されますので、寄付者が納得してくれているのであれば、私からは、異議を差し挟むつもりはありません。
私は、クイーン屋敷の厨房を借りて、【自動人形】達と、早速、【氷竜】の調理を始めました。
レジョーネとファミリアーレは、クイーンの歓待を受けています。
私は、調理の片手間にパスが繋がるトリニティの目を通して、様子を見ていましたが……。
お茶受けに出された、新鮮な野菜に、【兎人】のハリエットは、ご満悦。
【兎人】は雑食ですが、やはりウサギ。
野菜が好物には違いないようですね。
ニンジン、キュウリ、セロリなどの野菜スティックを……コリコリ、ポリポリ、サクサクと、口をすぼめて前歯で嚙り、マヨネーズを付けて、次から次へと食べています。
もう、止まらない、という感じですね。
クイーンの作る野菜は、格別の美味しさですから、気持ちはわかります。
「ソフィア様。お約束の通り、畜産部門を拡大致しました。繁殖用の鶏の番を、【ドラゴニーア】から、たくさん送って頂けるとの事。大変、有り難く思っております」
クイーンは、ソフィアに丁寧に、お礼を述べました。
「うむ。あの親鶏達は、【ドラゴニーア】の鶏卵名人の称号を持つ、ドメニコ・ウォヴァーノという【ホブ・ゴブリン】が手塩にかけて育て上げた品種じゃ。肉質はもちろんの事、その卵は、極上の味わいなのじゃ。きっと、良い卵を、たくさん産んでくれるじゃろう。数を増やすが良い」
ソフィアは、言います。
鶏卵名人とは、卵好きのソフィアが、半ば強引に制定した称号でした。
素晴らしい味と品質の卵を生産する畜産家に授与される称号で、これを叙勲された者は、公的な場では、その称号で呼ばれ、また高い儀礼格式で接遇されるという、いわば一代限りの爵位に当たるモノです。
ドメニコ・ウォヴァーノという【ホブ・ゴブリン】は、元は【ゴブリン】でしたが、ソフィアから称号を授与され、ソフィアの祝福を受けた時に、上位種の【ホブ・ゴブリン】へと昇華してしまったのだ、とか。
【ホブ・ゴブリン】は、【聖格者】です。
今期、叙勲されたウオヴォ・マエストロは、10組でしたが、【聖格】に昇ったのは、ドメニコさん1人。
因みに、ウォヴァーノという家名も、叙勲の時に、ドメニコさんに与えられたモノ。
ドメニコさん以外の鶏卵名人達にも、叙勲の際に家名が与えられていました。
彼らに与えられた家名は、ウォヴァーノ、ウォヴァーニ、ウォヴァーナ、ウォヴァノーニ、ウォヴァノーナ、ウォヴァノーヴォ、ウォヴォレンティ、ウォヴァッジョ、ウォヴォエーロ、ウォヴァントゥッティ……だそうです。
全て、卵の文字り……安直ですね。
卵が好きだから、卵の生産者を叙勲する、とか……ソフィアの公私混同のような気もしますが……。
畜産家のモチベーションとなるならば、悪い事ではないのでしょう。
この事から、畜産業界は色めき立ち、ある問題が生じてしまったのだ、とか。
つまり、今まで、牛や豚を育てていた畜産家が、ウオヴォ・マエストロの称号を欲しがって、養鶏業に鞍替えしようとしたり……畜産家とは関係のなかった穀物農家や青果物農家や果樹農家が、鶏卵生産に養鶏業に業態変更しようとしたり……商社などが畜産業に新規参入しようとしたり……という動きがあるようです。
これでは、鶏卵の生産量が過剰になってしまいますし、相対的に鶏卵の流通価格が値崩れし……他の農畜産物の供給が不安定になり、牛肉や豚肉や野菜や果物などの価格が高騰する可能性もありました。
なので、【ドラゴニーア】大神官であるアルフォンシーナさんと、各省庁は相談して対策を講じたそうです。
つまり……新たに、農業、漁業、工業、建築、料理人、美術・工芸……などなど、各分野で熟練卓越した技能を持つ職人を対象に、マエストロ、の称号を広範に設定。
ウオヴォ・マエストロと同様に称号と褒賞を与える事としたようです。
仕事が早い……。
いや、と、言うか……ソフィアのせいで、余計な仕事を増やすはめになった訳ですね。
アルフォンシーナさんは……称号の授与と少額の褒賞金を出すだけですから問題ありません。むしろ、少ない予算で、国内の職人達や技術者達の意欲を喚起し、技術振興に効果がある施策となるので、費用対効果は高い政策です。ソフィア様の慧眼には、恐れ入るばかりでございます……などと、言っていました。
あ、そう。
ソフィアに、そんな深い意図があったっとは思えませんが……。
アルフォンシーナさんが、そう言うなら、私は何も言いませんよ。
・・・
さあ、お昼ご飯です。
少し遅くなりましたが、皆は、クイーンが用意した、野菜や果物や、お菓子で、小腹を満たしていたので大丈夫でしょう。
【氷竜】尽くしの料理が出来上がりました。
以前も、そうでしたが、今回も大量の料理をストックとして作りましたよ。
ただし、今回は、【氷竜】が119頭分ですから、全てを一度に調理する事は出来ませんでした。
ソフィアは、大量の【氷竜】の肉を、セントラル大陸中の孤児院に配るつもりだそうです。
ソフィアは……全員に行き渡らないのであれば不公平となるので、配れなかったが、今回は、十分な量の肉が確保出来たから、孤児院の子らにも配る事が出来るのじゃ……と、言っていました。
なるほど、【氷竜】の強制エンカウントの狩を、私に、しつこく要請していたのは、孤児院への【氷竜】肉の差し入れをしたかった、という理由もあったのですね。
食い意地が張っていただけではない、と、わかり、私はソフィアを多少、見直しました。
【氷竜】尽くしを、レジョーネとファミリアーレのメンバーは、堪能しています。
私は、厨房を片付けてから、広間に向かいました。
さあ、私も頂きましょう。
まずは、【氷竜】のステーキから……。
くぅーーっ!
美味い。
まるで、豆腐かと思うほどに苦もなくナイフが通ります。
歯がいらないほど柔らかく、しかし、小気味好い肉特有の食感は残しつつ……。
咀嚼すると、口の中で溶けるようになくなってしまいます。
ジューシーな肉汁、旨味が口の中で爆発するようですね。
このまま一生、咀嚼していたいと思わせるのも束の間、あっと言う間に消えてなくなってしまいました。
後味に芳醇な余韻を残し、それが、次の一口を催促するようで、もう止まりません。
この舌に残る後味だけで、ご飯3杯はイケますね。
シチュー、すき焼き、ミラノ風カツレツ、肉巻きおにぎり……。
あーーっ、幸せです。
今回は、量があるので、少し贅沢な事をしてベーコンやジャーキーなども作ってみましたが、これらも、また絶品。
この一欠片で、幾らになるかを想像すると、少し恐ろしくなりますが……。
【氷竜】……恐るべしですね。
レジョーネも、ファミリアーレも、黙々と食べていました。
満腹。
いや〜、【氷竜】は、やはり最高でした。
・・・
午後。
私は、魔法建築を行います。
港に併設して造船所を造りました。
巨大過ぎましたか……少し、やり過ぎた感がありますね。
かつてグレモリー・グリモワールとして建造した【飛空航空母艦】のスキーズブラズニルは、300m10万t級の空母ですが……このドックならば500m20万t級の【ドラゴニーア】艦隊旗艦【グレート・ディバイン・ドラゴン】級の【超級飛空航空母艦】が建造可能ですので……。
当初、私はコンパーニア傘下の造船所として民間船舶の建造を企図していましたが、やはり計画を変更しました。
あの計画は、【アトランティーデ海洋国】の新規国家事業である大型輸送船の造船と需要を食い合わないように小型船舶などを造ろうという考えです。
しかし、飛空船、それも軍艦の建造なら競合しません。
競合相手より低いレベルの市場を狙うのではなく、競合相手より極端に高いレベルの市場に討って出れば、競合しないのです。
【アトランティーデ海洋国】の国家事業を応援する立場でなければ、こんな気は使いません。
製造業であれば、どんな製品であれ、私が造るより優れたモノは、【神の遺物】しか存在しませんので、仮に、どんな企業と競合しても私は技術力で負けませんので。
私が軍艦の建造をしようと考えた理由は、ソフィアが……自前の私設艦隊……ソフィア艦隊を持つのが夢だ……とか、言っていた事もあります。
しかし、私は計画性がないのですね。
何をするにしても、当初の計画通りに進捗した事がないのではないでしょうか?
まあ、そんな些末な事は、どうでも良いでしょう。
会社員時代、プロデューサーのフジサカさんから……計画を立てるより、不測の事態が起きて計画通りに進捗しなくなった時に、臨機応変に切り抜けられる奴を評価する……と言われていました。
私が、クビにならずに会社にいられたのも、その臨機応変が誰よりも得意だったからです。
兎にも角にも、軍艦を造るならば、この造船所をコンパーニアとは別系列にしなければいけません。
コンパーニアは、孤児院出身者支援事業ですので、軍需産業には、関わらない方針ですので。
この造船所を中心とした新会社の名称は、イーヴァルディ&サンズ・インダストリアル・エンジニアリング。
由来は北欧神話。
長いので、略称は、ISIE。
読み方は、アイシエ……でしょうか。
早速、大量の資材と、大量の【自動人形】達を取り出して、一番艦の建造を竣工しました。
【超位】の【魔法石】に積層型魔法陣を組み、【プロトコル】を作製。
【プロトコル】は、予備も含めて、100個以上。
大規模な設備ですから、このくらいは必要です。
【転送】の【魔法装置】と転移魔法陣も設置しました。
これで、【ドラゴニーア】から必要な資材や工作機械の類も取り寄せらます。
私は、コンパーニアの首脳陣に連絡を入れました。
「【タナカ・ビレッジ】に造船所を造りました。イーヴァルディ&サンズ・インダストリアル・エンジニアリングという社名で登記するつもりです。船を造り始めますので、資材など、こちらで必要な物を送って下さい。別会計なので、きちんと費用は請求して下さいね」
「ダビンチ・メッカニカと、ニュートン・エンジニアリングとの合弁事業という例の計画でしょうか?私達、コンパーニアは、関与しない、という……」
ハロルドが訊ねます。
「軍需産業なので、コンパーニアが関与しないのは、以前、取り決めた通りです。しかし、合弁事業ではありません。この計画にはダビンチ・メッカニカとニュートン・エンジニアリングでは、技術力の点で参画不可能だと思います。イーヴァルディ&サンズの造る船は、【ドラゴニーア】艦隊の主力艦を超える性能となりますので」
「それは、凄まじい……」
イアンが感嘆の声を上げました。
私は、諸々の段取りをコンパーニアの首脳陣に依頼し、丸投げしてしまいます。
・・・
イーヴァルディ&サンズで、造るのは【超級飛空航空母艦】。
たぶん、ニュートン・エンジニアリングに依頼した強襲揚陸艦タイプの【飛空巡航艦】より、こちらの方が早く完成してしまうのではないでしょうか。
件の【飛空巡航艦】も、初めから、私が造れば良かったのですよね。
しかし、あの【飛空巡航艦】を発注した時点では、資材調達や、建造資金や、作業人員の確保、労力……などの諸事情で、私が建造するのは難しかったのです。
なので、ニュートン・エンジニアリングに丸っと投げてしまいました。
現在、私は、資材も資金も人員も揃っています。
あの【飛空巡航艦】が出来上がるのを待っているのも馬鹿馬鹿しいので、こちらはこちらで、並行して、やってしまいましょう。
・・・
私が造船所のドックで作業をしていると、ウルスラが、ピューーンッ、と飛んで来ました。
背後から、ソフィアとオラクルとヴィクトーリアが追いかけて来ます。
「ひゃーっ!デッカい家だね〜。ノヒト様、ここは、何?」
ウルスラが言いました。
「ノヒト!こ、この途轍もなく巨大なドックは何じゃ?」
ソフィアも言います。
「造船所ですが、何か?」
「何故、造船所を?」
ソフィアが訊ねました。
「空母を造りますよ。グリモワール艦隊の事もあります。対抗手段は、必要でしょう」
「いや、神の軍団で対応可能じゃと思うが?」
正論で返された……。
「以前ソフィアは、プライベートの艦隊……ソフィア艦隊を造るのが夢だ……と言っていましたので」
「なぬーーっ!我の艦隊を造ってくれるのか?わーいわーい、ノヒトぉ、嬉しいのじゃーーっ!……」
ソフィアが弾丸のようにダッシュして来ます。
タタタタッ、ガッシッ、ドムッ……ヒューン……ガッシャーンッ!ガラガラ……。
ソフィアが私に勢い良く抱き着き……それが私に対する攻撃と判定され、ソフィアはノックバックを受けて吹き飛ばされ……壁にぶつかり造船所を突き抜けて、ソフィアは、どっかに吹き飛んで行ってしまいました。
ソフィアが壊したドックの壁の穴は、【自動修復】で、瞬時に塞がります。
は?
あいつ、何をやっているんでしょうか?
ソフィアが、オラクルとヴィクトーリアに付き添われ、頭をさすりながら戻って来ました。
怪我はないようです。
「ソフィア、大丈夫ですか?」
「嬉しくて、抱きつこうとしたのじゃが……跳ね返されたのじゃ」
ソフィアは、憮然として言いました。
「あんな勢いで突っ込んで来れば当然です。私は、当たり判定なし、ダメージ不透過なのですからね」
あの突進では、まかり間違えば人種なら死んでいましたよ。
「うっかり、なのじゃ」
ソフィアは、バツが悪そうに、ニヘラと笑いました。
ソフィアは、改めて私に抱き着いて来ます。
今度は恐る恐るでしたが……。
あー、よしよし。
「とりあえず、【グレート・ディバイン・ドラゴン】級の空母を1隻造ります。その後は、同型艦を造るか、一番艦の艦載機を造るか、護衛艦隊を先に造るか、考えましょうね」
「うむうむ、空母打撃群は、空母のみでは運用出来ぬからの」
「ところで、何の用ですか?午後は、皆と果樹園で果物狩をするのでは?」
「何を言っておる?それは、とっくに終わって、もうすぐ夕食の時間じゃぞ?呼びに来たのじゃ」
ああ、もう、そんな時間なのですか?
集中して作業していると、時間の感覚がなくなります。
「では、戻りましょう」
「ノヒトよ。この【自動人形】達は、しまわなくて良いのか?」
「はい。この造船所の専属技術者達ですので」
「そうか」
「ここでの造船事業は、コンパーニアとは分離して行います。社名は、イーヴァルディ&サンズ・インダストリアル・エンジニアリング……略称ISIEです」
「アイシエ……とな。イーヴァルディと息子達?それは、誰じゃ?」
「北欧神話の……ああ、私が生まれ育った地球のとある地域に伝承されていた神話に由来します。イーヴァルディと息子達は【ドワーフ】の鍛治師です」
「地球にも、やはり【ドワーフ】は、おるのか?」
「いませんよ。少なくとも私は会った事はありません。うーむ、何と説明したら良いか……。たぶん、こちらの【ドワーフ】の噂が、神話という形で地球にも伝わったのだと思います」
私は、適当に誤魔化しました。
「ふむ。それで、そのイーヴァルディなる【ドワーフ】と息子達の名前から由来しておるのじゃな?」
「そうです。後世に残る素晴らしい数々の品々を作り上げたのは、息子達の方だったのですが、書物には何故か息子達の個人名は記されていないのです。わかっているのは彼らの父親イーヴァルディの名前だけ。なので、この偉業を成した【ドワーフ】達は、イーヴァルディの息子達、と呼ばれています。イーヴァルディの息子達は、紙のように折り畳んで小さくして運べる巨大な船を造ったり、槍の【グングニル】を造ったとも云われていますね」
「なぬっ。ノヒトがモルガーナに貸与した、あの凄まじき【神の遺物】の【槍】じゃな?あれは、【創造主】が創ったのではないのか?」
「おそらく、【グングニル】のオリジナルは、イーヴァルディの息子達が造り、それを【創造主】が複製したのではないかな?ほら、【神の遺物】には、同じモノが幾つもあるでしょう?」
「ふむふむ、【神の遺物】の雛型となるオリジナルを造った、と。なるほど……それほどの腕を持つ鍛治師ならば、あるいは、そのイーヴァルディの息子らは、【エルダー・ドワーフ】だったのかもしれぬの?」
ソフィアは、真剣に分析しています。
単なる、寓話なのですが……。
「そうかもしれないね」
私は、適当に相槌を打ちます。
私とソフィアは、手を繋いで、クイーンの屋敷に歩いて行きました。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。
活動報告、登場人物紹介も、ご確認下さると幸いでございます。




