第205話。航行申請。
名前…クリスタ
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…101歳
職種…【女神官】
魔法…【回復・治癒】など。
特性…飛行、【神竜の使徒】、【才能…慈悲】
レベル…65
千年要塞。
ソフィアの元に、アルフォンシーナさんから、連絡がありました。
グレモリー・グリモワールが、3日後の10月5日に【ドラゴニーア】の領空を艦隊で航行する許可を申請して来たと言うのです。
グリモワール艦隊。
私が、ゲーム時代にパーティ・メンバー達と造り上げたロマンの結晶でした。
戦闘力は、残念ながら【ドラゴニーア】艦隊には、及びません。
現状、私の手の内にグリモワール艦隊がない、という事を鑑みれば、それは僥倖だったのかもしれませんが……。
【ドラゴニーア】艦隊は、【グレート・ディバイン・ドラゴン】を始めとして、強力な艦船が揃っていますし、艦船の数でもグリモワール艦隊を大きく上回っていました。
ただし、グリモワール艦隊が犠牲を厭わず特攻を仕掛ければ、【ドラゴニーア】艦隊相手でも、相当な損害を与える事は出来ますし……一個人が空母打撃群などという物騒なモノを所有している、という事自体が、そもそも脅威と考えなくてはいけません。
それに……グレモリー・グリモワールは、おそらく、アレも艦船に積んで運ぶつもりでしょうからね。
アレは、私がプライベートで遊んでいた時の最終兵器と位置付けていたモノです。
アレを使えば、カタログ・スペック上、【ドラゴニーア】軍を壊滅させるくらいの事は出来るでしょう。
もちろん、私やソフィアが即座に飛んで行ってアレを消滅させてしまえば、そのような事は防げますが……。
どちらにしろ、面倒な事にはなりましたね。
そして……これで一つ、間違いなく確定した事実があります。
グレモリー・グリモワールは、私の記憶を持っているのであろう、という事。
今まで、私は……もしかしたら、件のグレモリー・グリモワールは、私がプレイした時の記憶を持たないのではないか……という希望的観測をしていました。
何故なら、あのグレモリー・グリモワールは、最強戦力であるグリモワール艦隊の確保に動かなかったからです。
グレモリー・グリモワールは、世界の全遺跡をクリアしているので、竜都【ドラゴニーア】の竜城にある【門】から、【シエーロ】に行く事が可能でした。
一方で、私は、ゲームマスターであり会社のパソコン操作でマスター・コマンドを使い、この世界の、どんな場所にも自分を出現・移動させられましたので、その必要がなく、全遺跡クリアはしていません。
なので、グレモリー・グリモワールが、その気になれば、私より先に【シエーロ】にある私の資産を奪う事も出来た訳です。
つまり、件のグレモリー・グリモワールが、私の記憶を持つならば、まず始めに、【シエーロ】の私の自宅にあるグリモワール艦隊と【神の遺物】を押収しておくはず、と思われたからですが……。
今まで、それをしなかった、あのグレモリー・グリモワールは、もしかしたら私の記憶を持っていないのではないか?
そのように楽観的に解釈していたのです。
しかし違いました。
グレモリー・グリモワールは、私の記憶を持ちます。
断片的にか、全てかは、わかりませんが……。
少なくとも900年前時点のグレモリー・グリモワールの記憶は持っている事は間違いないのです。
つまり、グレモリー・グリモワールを乗っ取っているか、操っている何者かは、ゲームマスターとしての私の記憶も知るのかもしれません。
しかし、そんな事が可能なのでしょうか?
グレモリー・グリモワールの脳の記憶を司る大脳辺縁系の海馬辺りをどうにかして記憶を読み取ったのかもしれません。
だとすると、相手は、相当な知識と医療技術を持っていますね。
侮れません。
グレモリー・グリモワール……または、アレを乗っ取ったか、操っている何者かが、私の記憶を持っている。
多少、問題がややこしくなります。
ゲームマスターの知識には、ユーザーや、この世界のNPCには、あまり知らせたくない情報も含まれますので。
【超神位魔法】などの、取り扱いが危険極まりないモノに関しては、ゲームマスターでなければ使えません。
つまり、私の脳や、肉体や、固有魔力反応や、ステータスなどを全て含めた、存在としてのゲームマスターでなければ使用が不可能なのです。
その最大脅威は、グレモリー・グリモワールにも、他の誰にも、使えませんので安心ですが……。
ユーザーやNPCにも運用可能な、危険な魔法の使用法などもあります。
それを、この世界に無差別に拡散させられてしまうと、少々、面倒臭い事になりますからね。
グレモリー・グリモワールが私の記憶を利用すると、どんな事が出来るか?
一応、世界の理、には違反しませんが、生きたまま人種を【不死者】に変えてしまう魔法【墓掘人】とか……【治癒】不可能な肉体組織の自壊を引き起こさせる魔法【壊死】とか……グレモリー・グリモワールは、色々ヤバイ、オリジナルの魔法をいっぱい持っているのですよ。
オリジナル魔法以外にも、アレやコレや……。
はあ、アレらと対抗する事を考えると、頭が痛くなります。
まあ、元を正せば、全て私自身が、発明したモノなんですけれどね。
私の知識には、その他にも、ユーザーは知らないゲームの仕様もあります。
ゲームマスターの知識です。
そういう知識を悪用されると、これも厄介ですね。
もしも、グレモリー・グリモワールが敵だとするなら、私の記憶を知り、なおかつ、世界の理を知り得るというのは、対応するのが多少大変になると、予想されます。
脅威度判定を、3段階くらい引き上げなくてはいけません。
戦えば、私が100%勝ちますが、私の周辺の被害リスクを、どの程度と見積もるか?
また、どの程度の犠牲を、私が覚悟出来るのか?
私は、その一点を危惧していました。
「ソフィア。グレモリー・グリモワールが【シエーロ】に向かって、艦隊を引き連れて【ドラゴニーア】に来る、と言ってきたんだね?」
「そうじゃ。グレモリー・グリモワールは、10月4日の早朝に竜城の【門】の通行許可と、10月5日に、【ドラゴニーア】領空を武装艦隊で航行する許可を申請をしてきおったのじゃ。【飛空航空母艦】1隻、【スーパー・ドレッドノート級戦艦】2隻、【飛空巡航艦】3隻、【飛空駆逐艦】6隻、【フリゲート】12隻、【コルベット】12隻、空母艦載艦も含めて【砲艦】は50隻、輸送艦1隻、病院艦1隻……恐るべき威容じゃ。ノヒトよ、グレモリー・グリモワールは、戦争をする気か?」
その他にも、【魔導砲】を搭載した移動砲台型【オリハルコン・ゴーレム】兵団1000体と、【魔導ガトリング機関砲】と【空対空ミサイル】を搭載した迎撃機型【オリハルコン・ガーゴイル】兵団1000体……予備役の【不死者】兵団も全て補充してしまいますし……最終兵器のアレもいる。
「グレモリー・グリモワールは、【ブリリア王国】と同盟を結んだようだからね。ビルテさんから報告を受けているよ。【ブリリア王国】の敵は【ウトピーア法皇国】。たぶん、対【ウトピーア法皇国】用の戦力だと思う」
「【ドラゴニーア】に危険はないか?」
「わからない。だから、会いに行ってみよう。グレモリー・グリモワールの村の【サンタ・グレモリア】と【ドラゴニーア】を結ぶ定期貨客船が、新しく就航したでしょう?グレモリー・グリモワールは、たぶん、あれに乗って来るんじゃないかな?グレモリー・グリモワールは、【転移】を持っていないからね」
私は、これまでも、グレモリー・グリモワールに会いに行けるのならば、すぐにでも会いに行きたかったのです。
私のプライベート・キャラを乗っ取って何をしているのか、と詰問する為……場合によっては、滅殺する為にでした。
ただし、グレモリー・グリモワールがいたのは、ウエスト大陸。
転移座標を設置していない場所には、簡単に出掛けて行く事は出来ませんでした。
私もサウス大陸奪還作戦などで忙しかったのもありますしね。
なので、私は、布石を打っていました。
グレモリー・グリモワールが購入した【自動人形】・オーセンティック・エディションに転移座標となる【ビーコン】を内蔵しておいたのです。
昨日、【自動人形】達は、グレモリー・グリモワールが造った村【サンタ・グレモリア】に到着しました。
これで、私は、いつでもに【サンタ・グレモリア】に【転移】する事が可能になっていたのですが……。
まさか向こうから、こちらにやって来るとは……。
これは、是非とも会ってやらなければいけませんね。
「定期貨客船の話は、アルフォンシーナから聞いておるのじゃ。世界銀行ギルドからの強い要請があったらしいの。ならば会ってやるのじゃ」
「うん。直接会って、どういう了見か、本人に直接訊ねてみよう。まあ、大丈夫だとは思うけれどね」
幾ら、グレモリー・グリモワールが強力な【大死霊術師】だとはいえ、所詮は、【聖格者】。
本気で戦えば、私やソフィアの敵ではありません。
一瞬でプチれます。
この世界で実行可能な、どんな手段を使っても、ゲームマスターや【神竜】を滅ぼす事は絶対に不可能ですからね。
この世界は、そういう設定の世界観として創造されているのです。
グレモリー・グリモワールが私の記憶を持っているのならば、向こうも、それは百も承知。
グレモリー・グリモワールを乗っ取っているか、操っている者が、どんな意図を持って行動しているかは、ともかく、【神竜】を敵に回すような浅慮で愚かな真似はしないでしょう。
「ソフィア。今日の夜、レジョーネと神の軍団を引き連れて【ラウレンティア】に向かいますよ。明日の朝、船が到着したらグレモリー・グリモワールに会ってやりましょう」
【サンタ・グレモリア】からの定期貨客船は、予定通りなら明日の朝には、【ラウレンティア】に寄港するはずです。
そこに、乗り込んでやりますよ。
「うむ。面白そうなのじゃ」
私は、白師団長ビアンキに指示して、再度100頭の神兵を選抜させました。
さてと、そろそろ、正午ですね。
竜城にファミリアーレを迎えに行きましょう。
私達は、広げた、ティーセットを片付け、【ドラゴニーア】に向けて【転移】しました。
・・・
正午。
竜都【ドラゴニーア】。
竜城の礼拝堂。
ファミリアーレの9人と、魔狼【ガルム】1頭、それから各自の【自動人形】14体が集合しました。
午前中の訓練を終え、シャワーで汗を流して来ていますが、一応、皆は武装しています。
平服でも構わないと思ったのですが、都市城壁の外を出歩く際には、武装するのが冒険者たる者の矜持なのだ、とか。
あ、そう。
最悪の事態に備えておく気構えは立派です。
ほどなくして、サウス大陸の【ムームー】で大地の祝福に従事していたファヴが合流しました。
全員集合。
レジョーネのメンバー……私、ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティ、ウルスラ、ヴィクトーリア、アルシエルさん。
今回は戦闘をしに行く訳ではないので、ソフィアの【自動人形】であるディエチと、ファヴの【自動人形】であるウンディチも外に出ています。
ファミリアーレのメンバー……【狼人】のグロリア、【兎人】のハリエット、【猫人】のアイリス、【犬人】のジェシカ、【ドラゴニュート】のモルガーナ、【オーガ】のサイラス、【狐人】のティベリオ、【ドワーフ】のロルフ、【ダーク・エルフ】のリスベット……そしてジェシカの従魔で魔狼【ガルム】のウルフィ。
ファミリアーレは、各自のパートナーである【自動人形】達も連れています。
【自動人形】も含めると、凄い大所帯ですね。
17人、1頭、16体……。
もちろん、【神の遺物】の【自動人形】であるオラクルとヴィクトーリアは、人称として数えてあります。
先々、この大所帯で移動する事を考えると、本当にカティサークを建造しておいて良かったですね。
「では、行きますよ」
「「「おーーっ!」」」
ソフィア、ウルスラ、ハリエットが手を上げて大きな声で返事をしました。
他のメンバーは、普通の声で返事をするか、頷くかするだけ……。
私達は、サウス大陸の【タナカ・ビレッジ】に向かって【転移】しました。
・・・
【タナカ・ビレッジ】。
集落の外れにある港のターミナル。
私は、スマホでクイーンに到着を伝えました。
クイーンは、既に、城門で待っている、との事。
「おっ先ぃ〜」
ウルスラが、ピューーンッ、と村の方へ飛んで行ってしまいます。
「あ、こら、ウルスラ、待てっ!あー、ズルいのじゃ」
ソフィアが言いました。
まあ、ソフィアの盟約の妖精であるウルスラは、ソフィアが生きている限り不死身なので、単独行動をして、何かあっても大丈夫なのです。
おそらく、先行偵察に行った、という意味もあるのでしょう。
「ここがサウス大陸?」
グロリアが言いました。
「いや〜、あっついね〜」
ハリエットが言います。
アイリスが黙って頷きました。
「見て見て、大きな、お船があるの」
ジェシカが港に繋留してあるカティサークを指差します。
「本当だ。機関部を見てみたいな」
ロルフが言いました。
「カティサークじゃ。中はホテルのようじゃ」
ソフィアが説明します。
「大きな城壁と水堀が見える。開拓村だと聞いていたから、もっと小規模な集落なのかと。これは、ちょっとした街の規模だわね……」
リスベットが言いました。
サイラスとティベリオは、圧倒されたように頷きます。
転移座標を設置してある場所は、ターミナルの高い位置にある私達の専用ラウンジなので、眺望が良く【タナカ・ビレッジ】が見渡せました。
ふむふむ、クイーンの配下に付けた土木建築を担当する【自動人形】のクラブ達は、きちんと働いているようですね。
空堀に水を入れ、水路を掘って川に余剰の水を流す工事を完了させてありました。
給水の【魔法装置】と、浄水の【魔法装置】も設置され、問題なく機能しているようです。
まあ、私が造った【魔法装置】なのですから、当然ですが……。
因みに、クイーンの配下として私が造った【自動人形】達は、トランプのカードを模してありました。
農業に従事するハート達、防衛・警備に従事するスペード達、土木・建築に従事するクラブ達、調理・接客に従事するダイヤ達です。
絵札とAに相当する個体は、【自動人形】・シグニチャー・エディション。
数札に相当する個体は、【自動人形】・オーセンティック・エディション。
ハートのクイーンが、【タナカ・ビレッジ】の管理者であり、【神の遺物】の【自動人形】である、クイーン・タナカなのです。
「【古代竜】が、たくさん飛んでいるっ!」
モルガーナは、上空を見上げて言いました。
「神の軍団、黒師団の一個小隊じゃ。【タナカ・ビレッジ】を守らせておるのじゃ」
ソフィアは説明します。
「さあ、とりあえず、クイーンに挨拶しますよ」
「「「「はーい」」」」
私達は、ゾロゾロと村の方に向かいました。
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