第204話。言葉を喋るエンシェント・ドラゴン。
名前…ゼッフィ
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…12歳
職種…【高位女神官】
魔法…【回復・治癒】など。
特性…飛行、【神竜の使徒】、【才能…回復・治癒】
レベル…29
【ドラゴニーア】大神官付き筆頭秘書官。
サウス大陸。
【アトランティーデ海洋国】の千年要塞。
【氷竜】の狩を終えた私達は、【転移】で千年要塞にやって来ました。
少し前まで、毎日通って来ていた場所のはずですが、何となく懐かしいような気がします。
たぶん、サウス大陸奪還作戦が成功裏に完了しそうだ、という現在の状況が気分を軽くしていて、そのように感じさせているのでしょう。
千年要塞は、【ドラゴニーア】と【アトランティーデ海洋国】の間に安全保障協定が結ばれ同盟国となった事で、【アトランティーデ海洋国】から【ドラゴニーア】へ永久租借地として譲渡されていました。
今後、千年要塞は大規模な改修が行われ、新設された【ドラゴニーア】軍の第2艦隊の母港となり、【ドラゴニーア】の同盟に参加する、サウス大陸北方国家【アトランティーデ海洋国】、サウス大陸中央国家【パラディーゾ】、サウス大陸南方国家【ムームー】の安全保障を担います。
その為の準備として、先遣の艦船が早くも到着し、工兵隊が工事を始めていました。
千年要塞と【アトランティーデ海洋国】の防衛に協力している神の軍団の白師団長ビアンキが上空から舞い降りてきて着陸、私達に挨拶をしに来ました。
「ビアンキ、ご苦労様。借りていた兵を返す。助かったよ」
私は、ビアンキの鼻先を撫でます。
ビアンキは、グルッ、と喉を鳴らしました。
私は、【ピアルス山脈】での狩に協力してくれた、神兵100頭を原隊である白師団に戻します。
「お役に立てたなら幸いです」
ビアンキが喋りました。
「うん……」
本当に、神の軍団は、役に立ちます……って、えっ!
ビアンキが喋った?
ビアンキは、パスを通じて思念を飛ばして来た訳でも、【念話】でもありません。
音声言語を喋ったのです。
「ほおー……ビアンキよ。其方、言葉を発するようになったのじゃな?」
ソフィアが感心して言いました。
元来、【竜】族は万物の霊長。
人種より、はるかに知性が高いのです。
さらに、ビアンキの種族【古代竜】は、その上位種。
長く生きて経験を積んだ知性の高い魔物の個体は、人語を解せますし、中にはビアンキと同じように発声器官を用いて、人種の言語を使う個体も現れる事があると設定されていました。
「人種の言語は、なかなか特殊なので、覚えるのが大変でした」
パスを通じて、ビアンキからは、多少、誇らし気な感情が伝わって来ます。
うん、これは良い事ですね。
私とソフィアは、神の軍団を……人種文明の守り手……として位置付けていました。
なので、必然的に、人種との関わりが多くなります。
コミュニケーションを取る上で、言語による会話が行える事は大いに役立つでしょう。
「ビアンキ。あなたの他に音声言語を覚えた個体は、いますか?」
「まだ、私だけです。ですが、アッズーロは、もう間もなく人種語を話せるようになると思います。他の指揮官達も時間の問題でしょう。兵達は、まだ時間がかかるかもしれません」
なるほど。
指揮官個体は、戦闘力が高い事はもちろん、知性の高い個体を選抜して任命してあります。
知性が高いので言葉の習得も早いのでしょう。
それにしても、知性の高い魔物が言葉を喋る、という設定は元からありましたが、ゲームの時に言葉を話していた魔物は、最初から、そのように設定されていた個体でした。
目の前で、言葉を話せなかった個体が、言葉を話し始める時に居合わせるというのは、中々、感慨深いものがあります。
人種と関わる頻度が高いと、早く言語を話せるようになるのでしょうか?
もちろん個体差……つまり知性の高さによる差異はあるのでしょうが。
「ビアンキよ。次は、人化を覚えるのじゃ。そうすれば、より特別な存在となるのじゃ」
ソフィアが、さも当然のように言いました。
ん?
「ソフィア。人化って、後天的に身につけられる特性なのですか?」
私は、その設定は知りません。
「それは出来るじゃろう。人化は、魔力の制御によって肉体組織の再構築をするモノじゃ。理屈の上では、魔力制御に卓越すれば、誰にでも出来るはずじゃろう?相当に難易度は高い故、簡単ではないがの」
「私は、出来ませんよ」
魔力制御の問題なら、世界で最も優れた魔力制御能力をプログラムされているゲームマスターの私にも出来るはずです。
「ノヒトは、ダメージ不透過の体質じゃから出来ないのではないか?肉体組織の再構築は、その前提として、肉体組織の破壊を伴う。それを、ノヒトの肉体はダメージと認識して肉体組織の再構築をブロックしてしまっておると思うのじゃ」
「でも、以前、ソフィアに……大人の外見には化身出来ないのか……と訊ねた時に、ソフィアは……仕様だから出来ない……と言っていませんでしたか?今、聴いたソフィアの説明なら、どんな外見にも自由に化身出来ると思うのだけれど?」
「うむ。これは設計図の問題なのじゃ。我は人化する為の設計図を【創造主】から授けられたのじゃ。それが、この外見だったのじゃ。その設計図の強制力が働いて、我は、この愛らしい外見以外には化身出来ないのじゃ。この仕様は、全守護竜に共通するモノだと思うのじゃ」
なるほど。
つまり、ソフィアの人化した姿……チンチクリンの幼稚園児の女の子の外見は、【創造主】のデザイン。
フジサカさんの趣味という事ですか……。
ロリコ……いやいや、上司の人間性を疑うのは良くありません。
そうですよ、ファヴは、男の子ではないですか……つまり、これは、いかがわしい趣味趣向などではなく、何らかの合理的な理由があったのでしょう。
例えば、幼児の外見だったならば万民から愛される、とか。
守護竜は、神様ですから外見的に敬愛されるのは、大切な素養です。
うん、そうです、そうに違いないですね。
これ以上この詮索を続けるとフジサカさんのパンドラの箱を開けてしまいそうなので、止めておきましょう。
はい、忘れました。
閑話休題。
私は、あらゆるダメージを無効化する設定によって、肉体組織や機能が定常不変に保たれています。
それが、肉体組織の変化を阻害している訳ですね。
まあ、別に他の生物に化身したいとは、思いませんが。
ん!
待てよ……。
もしかして、人化したら、ビアンキ達もチュートリアルが受けられるのではないでしょうか?
チュートリアルに挑戦出来る条件は……。
肉体と知性を持つ生命体である事。
人型である事。
私か、ユーザーの手を借りて、チュートリアルの発動キーを起動させる事。
つまり、人型を取れるのならば、魔物でもチュートリアルを受けられるのでは?
うん、その考え方で間違っていないように思えます。
因みに、妖精や精霊や霊体などは、思念体ですので、チュートリアルには参加出来ません。
【妖精女王】のウルスラは、ソフィアと盟約を結び、受肉していますが、元は肉体組織を持たない存在なのです。
なので、ウルスラはチュートリアルに参加出来ませんでした。
一応、試してみたのです。
「ソフィア。つまり、ビアンキ達も人化を覚えれば、チュートリアルに参加出来ますね」
「ん?おーーっ、そうじゃな。ビアンキよ。精進して、一刻も早く人化を覚えるのじゃ」
「畏まりました。努力します」
ビアンキは、言いました。
私達は、冒険者ギルド千年要塞支部に向かいます。
・・・
冒険者ギルド・千年要塞支部。
すぐに、千年要塞支部のギルド・マスターであるフランクさんが、やって来ました。
「ようこそ、いらっしゃいました。ソフィア様、ノヒト様」
フランクさんは挨拶します。
「こんにちは、フランクさん」
「こんにちは、なのじゃ」
「買取ですか?」
「いえ、様子を見に来ました。引越しの準備は、どうですか?」
「バタバタです。ですが、期日までには、撤収を完了出来ます」
千年要塞が【ドラゴニーア】軍の駐留基地となる為に、現在ある各施設の機能は、要塞の北にある新しい市街地に移される事になっていました。
経費は、全額【ドラゴニーア】持ち。
【ドラゴニーア】……太っ腹ですね。
新市街は、区画整備され、住民も増やして、大きな都市として再開発されるそうです。
今までの千年要塞の市街地は、魔物から守る、あるいは、魔物の素材を扱う事を主眼とした軍事都市でしたから、普通の街とは違いました。
新しい市街地は、一般の市民が暮らす、生活都市・経済都市としての位置付けとなるようです。
この新しい街の名は、【クインブルク】。
剣聖クインシー・クインからの由来でした。
剣聖本人は、この名前には、反対だったみたいですが、【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王の強い要望で、半ば断行されてしまったのだ、とか。
現在、世界冒険者ギルドは、【アトランティーデ海洋国】に本部を置いていました。
これは、サウス大陸が魔物に占拠されてしまった土地であった為に、世界冒険者ギルドは、魔物と対抗する目的で最前線の【アトランティーデ海洋国】に本部を構えていたのです。
しかし、サウス大陸奪還作戦の成功によって、サウス大陸の魔物の脅威度が下がり、また、将来的な魔物素材の流通量の減少が予測される為に、世界冒険者ギルドの本部は、来年初頭を目処に、世界の中心であるセントラル大陸の中央国家【ドラゴニーア】の竜都【ドラゴニーア】に戻されるのだ、とか。
実に数百年ぶりの本部の帰還です。
剣聖クインシー・クインは、世界冒険者ギルドのトップ……グランド・ギルド・マスターでもありました。
本部が移動すれば、当然、剣聖も、【ドラゴニーア】に移ります。
【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王と、剣聖は、元は主従関係であり、また、心を許し合った親友でもありました。
ゴトフリード王としては、剣聖が遠く離れた【ドラゴニーア】に行ってしまう事に一抹の寂しさを感じているに違いありません。
なので、クインシー・クインの名を冠した街を造り、友の業績を自分の国の中に永遠に残そうという考えなのでしょう。
男同士の友情ですか?
そういうのも嫌いではないですね。
私達は、フランクさんに挨拶をして冒険者ギルドを後にしました。
・・・
千年要塞の主塔に昇り、私の所有フロアに向かいます。
このフロアは、元は、【アトランティーデ海洋国】の王家を迎賓する目的の施設でしたが、ゴトフリード王から私がもらいました。
私は、ここに転移座標を設置し、【自動人形】・シグニチャー・エディションを複数体置いて管理しています。
私達は、お茶を飲んで、しばらく寛ぎました。
集合時間の正午には、まだ時間がありますので。
ソフィアは、【収納】から【自動人形】・シグニチャー・エディションのディエチを取り出し、給仕をさせます。
ウルスラは、ショートケーキのホールにダイブ。
……見なかった事にしましょう。
ソフィアは、牛乳をお供に大量のプリンを食べています。
卵に目がないソフィアにとって卵を使用したスイーツの王者であるプリンは、最強の存在。
プリンにハマったソフィアは、もはやアンストッパブルです。
強制的に止めなければ、永久に食べ続けるに違いありません。
ソフィアは、市販の高級プリンを買い集めて食べ比べ、お気に入りの店には……【神竜】御用達……の表記を許しているそうです。
ソフィアの好みは、プルプルのタイプではなく、いわゆる焼きプリンのようなシッカリとしたタイプ。
卵の使用量が多くてマッタリとした濃厚な味わいの物を好むようです。
「ソフィア。今度、ディエチに頼んで、バケツ・プリンを作ってもらったらどうです?」
ディエチは、私の調理技術をトレースしてありました。
私は全てのステータス・ゲージがカンストしています。
ディエチの調理技術は、オリジナルの私のステータス値には、及びません。
しかし、この世界の基準では、ディエチは世界最高峰の料理人と同等の能力があるでしょう。
ディエチは、ソフィアが寝ている夜中の間に、竜城のソフィアが寝起きする領域にあるソフィア専用の厨房でプライベート・シェフのような仕事をしているそうです。
ソフィアのオヤツや軽食類をひたすら作り貯めているのだ、とか。
ディエチ、ご苦労様ですね。
「ノヒトよ。バケツ・プリンとは、どういう物じゃ?」
「バケツを型にしてプリンを作るのですよ。巨大なプリンが作れます」
「なぬーーっ!それは、良い事を聞いたのじゃ。今晩、早速ディエチに作らせるのじゃ。バケツ……いや、タンクで作らせるのじゃ」
あー、ディエチの仕事を増やしてしまいましたか……。
まあ、ディエチの存在意義は、ソフィアの役に立つ事。
もしも、ディエチ本人に感情があれば、ソフィアの胃袋を喜ばせるミッションは、ディエチにとっても幸せな仕事であるはず……。
うん、そういう事にしておきましょう。
「ソフィア。あまり巨大にし過ぎると、プリンの自重で崩れますよ。バケツのサイズが良いところではないですかね?」
「なぬっ!崩れてしまっては、プリンの芸術性が損なわれてしまうのじゃ。これは、どの辺りが限界か確かめねばなるまい。ディエチ、今晩から試作を重ねて、なるべく大きなプリンを作るのじゃ」
ソフィアは、ディエチに命じます。
「畏まり、ました、ソフィア様」
ディエチは、言いました。
あー、これは、樽プリンとか、バスタブ・プリンとか、そういう事を試しちゃう感じですね。
「ソフィア。食べ物を粗末にしてはいけませんよ」
「わかっておるのじゃ。新メニューの失敗作は、竜騎士団に食べさせておるのじゃ。奴らは喜んで食べておるのじゃ」
「ソフィア。それは、強制……拷問じゃないのですか?」
「心配ないのじゃ。失敗作とはいえ、ディエチが作る料理なのじゃ。そんなに酷い事にはならないのじゃ」
あ、そう。
その時に、ソフィアの元にパスを通じて連絡が入りました。
相手は、アルフォンシーナさんです。
通常の【調伏士】や【召喚士】などが使うパスは、距離の問題がありますが、【神格者】を起点とするパスの効果範囲は無限大。
つまり、私やソフィアやファヴは、世界中どこにいても、パスが繋がる相手とは連絡が取り合えます。
「うむ。わかった。事前に申請をして来るという事は、【ドラゴニーア】に敵対的行動を取るつもりはない、という態度の表れと判断出来るのではないか?もちろん、艦隊と竜騎士団を飛ばして、警戒はせねばなるまい。相手の艦隊に、軍の士官達を乗船させて、水先案内をしてやるのじゃ。うむ、そうじゃな。臨検という意味もある。じゃが、殊更に刺激する必要もなかろう。そのグレモリー・グリモワールなる者の素性は、ノヒトが良く知っておるようじゃ。危険な思想の持ち主ならば、ノヒトが早々に排除しておったはず。うむ、そうじゃ。規定通り、航行を許可してやれば良いじゃろう」
ソフィアは、言いました。
何だか、気になる単語が幾つも聴こえましたね。
艦隊、臨検……そして、グレモリー・グリモワール。
私は、グレモリー・グリモワールと艦隊、というキーワードを結び付け、グレモリー・グリモワールが何をしようとしているのか、を察しました。
あいつ、【シエーロ】からグリモワール艦隊を引っ張り出すつもりなのでしょう。
それは、以前から、一つの可能性として想定していた事です。
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