第203話。強制エンカウント。
名前…チェレステ
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…50歳
職種…【高位女神官】
魔法…多数
特性…飛行、【神竜の使徒】、【才能…業務処理】
レベル…45
元【ドラゴニーア】大神官付き筆頭秘書官。
【ムームー】新女王即位予定者。
サウス大陸。
南の国家【ムームー】の王都【ラニブラ】。
私達は、【ラニブラ】の中央塔に【転移】で到着しました。
転移座標がある塔の最上階から、下に降ります。
【ムームー】では、もう間もなく、チェレステ新女王が即位戴冠して、チェレステ新女王の、新、が取れますね。
チェレステ新女王は、目下、アルフォンシーナさんから指導されて、女王教育の最終仕上げの真っ最中。
チェレステ新女王は、頑張っています。
チェレステ新女王の戴冠式を前に、【ラニブラ】でも急ピッチで、諸々の準備が行われていました。
工事に携わる職人や王城の使用人や近衛騎士団が、慌ただしく往来しています。
【ラニブラ】は、ゲームの時代は、君主制の国家ではなかったので、王城という用途の建物は存在しませんでした。
なので、中央塔を王城兼用の施設として利用するようです。
サウス大陸では、塔が神殿の役割を果たしました。
中央塔は、巨大な建造物ですから、内装を、それらしく設えれば、王城としても十分機能を果たせるでしょう。
最上階の礼拝堂がある階層の直下が、女王の私的な生活空間がある階層。
その下に、女王が執務を行う階層。
さらに下が聖職者達の生活空間。
政務や会議や謁見などを行う場所は、別棟だそうです。
何でも、他国の王侯貴族を迎えるのに、上階に誰かがウロウロしている状況は、儀礼格式上好ましくないから、という事なのだ、とか。
礼拝堂の下にチェレステ新女王が生活する、という状況は、相手が神様のファヴと、ファヴの使徒たる聖職者達である為に、問題ないそうです。
儀礼格式……色々と、ややこしくて面倒ですね。
彼らは、ファヴが【転移】で少人数ずつ運んだり、【ドラゴニーア】の大型軍用輸送艦で運ばれて来た者達でした。
私達の姿を見つけて、1人の壮年の男性が足早にやって来ます。
「ソフィア様、ファヴ様、ノヒト様、皆々様、良くいらっしゃいました。チェレステ女王陛下の臣、キアッフレード・プルヴィレンティでございます。この度は、物資を運んで下さいまして、ありがとうございます。また、大変申し訳ありません」
キアッフレードさんは、大恐縮して言います。
まあ、彼らの感覚では、神様を使いっ走りに使ったような事になるのでしょうから、そういうふうになるのでしょうね。
私は、早速、【ラニブラ】王城の倉庫や資材置き場に移動して、大量の資材を取り出しました。
ついで、工事に瑕疵がないか、手抜きがないか、見て回ります。
うん、問題なし。
・・・
私が、皆の所に戻ると、ファヴは、キアッフレードさんから幾つか報告を受けていました。
諸々の準備は順調なようです。
キアッフレードさんは、【ドラゴニーア】から移住して来た人物で、元は、【ドラゴニーア】財務省の長官だったのだ、とか。
チェレステ新女王の即位戴冠後には、宰相、という地位に就く事が決まっているそうです。
なるほど、チェレステ新女王の右腕となる訳ですね。
「キアッフレード。チェレステの事、くれぐれも頼むのじゃ。盛り立ててやってくれ」
ソフィアが言いました。
「はっ!身命を賭しまして、チェレステ女王陛下に、お仕え致します」
キアッフレードさんは、旧主であるソフィアに拝礼して言います。
私達は、キアッフレードさんに挨拶して、その場を後にしました。
私達がウロウロしていると色々と気を使わなくてはならず、忙しく働いている皆さんの邪魔になりますからね。
・・・
ファヴは、これから、【ムームー】で大地の祝福を行います。
「正午に、【ドラゴニーア】竜城の礼拝堂に集合です」
「わかりました」
ファヴは、神の軍団緑師団長ヴェルデを従えて、大地の祝福に向かいました。
さてと、私達は、【ピアルス山脈】で【氷竜】の狩です。
私達は、【ピアルス山脈】へと【転移】しました。
・・・
【ピアルス山脈】。
【ピアルス山脈】の周期スポーン・エリア上空に到着。
天候は晴れ。
【ピアルス山脈】の山頂付近は、万年雪に覆われた寒地。
吹雪いていなくて良かったです。
私は、周囲を旋回している神の軍団の神兵達に、戦闘配置に着くよう指示しました。
ヴィクトーリアとアルシエルさんも、神の軍団と一緒にスポーン・エリアの外で待機していてもらいます。
「さあ、やってやるのじゃ」
ソフィアが、愛用の長巻【クワイタス】を鞘から抜き放ちました。
私も【神剣】を取り出します。
オラクルは大盾【アイギス】と【聖槌】を構えました。
トリニティは、三又槍の【トライデント】を握ります。
ウルスラは、大ウイキョウの茎の先に松ぼっくりが付いているというファンシーな形状の魔法触媒【テュルソス】を掲げました。
離れた所にいるヴィクトーリアも、浮遊する12枚の盾【アンキレー】を周囲に展開していました。
あー、アルシエルさんの装備がありませんか……。
アルシエルさんは、保護した際に着ていた【ローブ】がボロボロでした。
なので、私が【修復】して、各種【永続バフ】を最大限かけておいたので、防御力は、そこそこありますが、武器は持っていませんでした。
強制エンカウントでは、バトル・フィールドの周囲にも魔物がスポーンします。
うーむ。
まあ、強制エンカウントの余波でバトル・フィールドの外に湧く魔物は精々【高位】までです。
アルシエルさんを守るのは、ヴィクトーリアと神兵100頭がいれば問題ありません。
アルシエルさん自身も【高位】の魔法職なので、いざという時には魔法で戦えば無手でも大丈夫だとは思いますが……。
アルシエルさん、武器が必要なら貸与しますが、必要ですか?
私は、【念話】で訊ねました。
では、一応、お借り出来ますか?
アルシエルさんは、【念話】で伝えて来ます。
何が良いですか?
私は、【念話】で訊ねました。
どういった種類の武器が、あるのでしょう?
アルシエルさんは、【念話】で訊ねます。
大概の物は揃っていますよ。
私は、【念話】で訊ねました。
では、何か【魔法触媒】を……出来れば【聖なる属性】であれば、と。
アルシエルさんは、【念話】で答えます。
なるほど。
聖属性の【魔法触媒】で、複数ストックがありレンタル可能な物は幾つかあります。
【魔法杖】でも良いですが……【天使】は腕力が極端に弱いですからね。
重量軽減系のギミックが付加されているか、さもなければ、そもそも軽い物か、ですが……。
ああ、あれは、どうでしょうか。
【不死鳥の羽】。
軽さ、という意味では文字通り、羽のように軽いですし、【魔法触媒】としても優秀で、【聖なる属性】付き。
うん、これにしましょう。
私は、【収納】から【不死鳥の羽】を取り出して、【理力魔法】で、アルシエルさんの手元まで運びました。
【不死鳥の羽】です……ただの羽に見えますが、列記とした【神の遺物】の【魔法触媒】ですよ。
私は、【念話】で伝えました。
【不死鳥の羽】は、【不死鳥】の羽を【創造主】が魔法的に、なんやかんや、して創造した、という設定です。
【不死鳥】から毟り取った、ただの羽、との違いは、光っているところ。
紛らわしいですが、【鑑定】で見なくても、一応、見分けられます。
【神の遺物】ですか?
アルシエルさんは、【念話】で訊ねました。
驚いているようです。
手に持たなくても身に付けていれば、【魔法触媒】として働きますからね。
私は【念話】で伝えました。
わ、わかりました。
アルシエルさんは、【念話】で答えます。
さてと、総員、準備が整いました。
・・・
「せーのっ……」
私達は、ソフィアの合図で、同時にスポーン・エリアに脚を踏み入れました。
スポーン・エリアの仕様では、同一パーティであれば、ある程度のタイムラグがあっても集団として認識される柔軟な対応がしてもらえますが……こういうのは雰囲気です。
途端、周囲にバトル・フィールドが形成されました。
そして……強烈なヘイトを撒き散らしながら、【氷竜】が20頭同時にスポーンします。
「【魔力探知】を使うのじゃ。一番、魔力が大きいのがボスじゃぞ。【眷属】を狩り尽くすまで、ボスは生かしておくのじゃ」
ソフィアは、もう何度も確認した注意点を言いました。
「いっくよーーっ!【肉体強度強化】、【身体能力強化】、【攻撃力強化】、【防御力強化】、【魔法防御力強化】……そーーれっ!」
ウルスラが【テュルソス】をフリフリ……パーティ全体に【バフ】をかけました。
俗に云う、妖精の祝福です。
【妖精女王】のウルスラは、ゲーム内最高クラスの【魔法支援職】ですから、その効果は、絶大。
オラクルとトリニティの能力が劇的に強化されました。
まあ、私は、戦闘力が設定限界値までカンストしていますし、ソフィアに至っては戦闘力が設定限界値を突き抜けていますので、【バフ】の効果は、あまりないのですが……。
ウルスラは、多様な魔法が使えますが、【攻撃魔法】は子猫パンチ以下の威力値しかありません。
しかし、攻撃以外の魔法は、【妖精女王】の名に相応しく強力。
この【バフ】は、遺跡攻略時にも、私とソフィア以外のメンバーにとっては、大きな助けとなっていたのです。
トリニティが【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】を被ります。
すると、その存在が認識不可能になりました。
バトル・フィールドに入ったメンバーは、ウルスラ以外【マッピング】機能を持ちますので、【同士討ち】を避けられます。
グゥラァァァーーッ!
【氷竜】のボス個体が咆哮を上げました。
開戦の合図でしょう。
「そーーいやーーっ!」
ソフィアが挨拶代りに【クワイタス】を一閃し、【神竜の斬撃】を放ちました。
【神竜の斬撃】は、練り上げて物質化した魔力を刃状にして飛ばすという、ソフィアのオリジナル技です。
超音速で飛来し防御不可能というチート技。
ゲームマスターの私にも真似出来ません。
ソフィアは、一閃で複数の【神竜の斬撃】を放っていました。
1つ1つの魔力の刃も以前より強力になっています。
……また、技が進化しましたね……。
デタラメな……。
ソフィアが何故、こんなゲームの仕様を無視したデタラメが出来るのか?
それは、ソフィアの脳に共存している、第2の脳……知性体フロネシスの能力なのです。
フロネシスは、私がソフィアに名付けした時に、既にカンストしていた戦闘関連ステータスが設定限界値を突き抜けて強化された事で、その余剰分が独立して自我を持つ知性体として発現しました。
フロネシスは、ソフィアの魔法制御を一部は肩代わりし、一部はソフィアと同時並立的に演算処理を行うという他者には絶対に真似出来ない方法で、あり得ない魔法の運用や改変をやっています。
因みに、ソフィア自身はフロネシスの存在を認識していません。
フロネシスは、私と取引をして、私の緩やかな支配下にあるのです。
【神竜の斬撃】に巻き込まれて【氷竜】が10頭、瞬殺されました。
トリニティは、雷撃をまとわせた【トライデント】を投擲。
何もない空間から、突如至近距離で出現した槍は、いくら【古代竜】が万物の霊長であるとはいえ、回避は不可能でしょう。
急所に被弾した【氷竜】は即死。
トリニティは、敵の認識の外から、続けざまに【超位魔法】を放ち、次々に【氷竜】を屠って行きます。
トリニティには、この他に【超位呪詛魔法】という、とっておきの攻撃手段を持ちますが、今回は食肉を目的とした狩なので、肉が傷む【呪詛魔法】は封印。
トリニティは最強クラスの【超位魔人】。
私の従魔となり名付けを受けて、強化され、【神の遺物】で武装しています。
ウルスラの加護を受けている状態ならば、もはや【神位】級に匹敵する戦闘力を持っていました。
今のトリニティなら、別格の守護竜は無理にしても、一段劣る【神格】の守護獣なら1人で倒せるかもしれません。
グゥラァァァーーッ!
カッ……チュドーーンッ!
【氷竜】が【超位ブレス】を吐きました。
すかさず、オラクルがトリニティの前に立ち塞がり、大盾【アイギス】を構えます。
ゲーム内最強クラスの防御力を誇る【アイギス】を【超位】級のオラクルが使えば、【超位ブレス】をまともに受けても、ノーダメージ。
攻撃のトリニティと、防御のオラクルのコンビネーションは、今日も盤石です。
この2人が戦力的に安定しているので、私は、防御を任せて前衛に進出可能。
サックサックと【氷竜】の首を【神剣】で斬り飛ばして行きます。
私達が、あまりにも強過ぎるので、【氷竜】のボス個体は、【眷属】の補充が追いつかないほど。
【氷竜】が次の19頭を補充するまでの一瞬、私やソフィアは、ボス個体の至近距離で攻撃を止めて待ち構え……ホレホレ、さっさと次の【眷属】を補充しろ……と、煽るという、おかしな状況になっています。
【氷竜】のボス個体は、意味がわからない、というリアクション。
もはやパニックを起こしていますね。
・・・
強制エンカウント終了。
時間にして2分……1秒1殺ですか……。
これ、ゲーム内の新記録なんじゃないでしょうかね。
私達は、【氷竜】の死体を回収して、スポーン・エリアから、外に出ました。
「お疲れ様でした」
ヴィクトーリアが私達を迎えてくれます。
「我らの敵ではないのじゃ」
ソフィアが言いました。
「ヴィクトーリア。外は、問題ないですね?」
「はい。一頭の討ち漏らしもございません」
ヴィクトーリアはニコリと微笑みます。
「す、凄まじい、武威ですね?これが、神、の力……」
アルシエルさんが言いました。
「アルシエルよ。このくらいを我らの真の力だと思ってもらっては困るのじゃ。今回は、肉を得る為の狩じゃから、死体が綺麗に残るように丁寧に屠殺したのじゃ。我らが揃って戦い、死体の状態を顧みなければ、【古代竜】ごとき100頭ぽっち片付けるのは、瞬きの間じゃ」
ソフィアが、フンスッ、と平たい胸を反らせて、威張ります。
「……」
アルシエルさんは、絶句しました。
「アルシエルさん。【天使】の軍隊など、私とソフィアが本気で戦えば、全軍まとめて瞬殺ですよ。戦いにもなりません。また、ゲームマスターである私なら、あなた方のボスである【知の回廊】も強制的に支配下に置けます。けれども、私もソフィアも他所の土地に侵略して戦争を仕掛けたりはしませんので、安心して下さい。ただし……相手が敵意を向けて来れば、その限りではありませんけれどね」
私は、ニッコリ微笑みながら、アルシエルさんを脅します。
アルシエルさんは、いわば【シエーロ】からの観戦武官。
私達と敵対したら酷い目に遭いますよ……という事を【シエーロ】に帰った後に一生懸命、仲間達に広報してもらう必要がありますからね。
アルシエルさんには気の毒ですが、これから1年をかけて、私達の恐ろしさを骨身に染みるまで嫌というほど示威しておく必要があります。
辺りを見回すと、スポーン・エリアの外にも、数十頭の魔物の死体。
さてと、ここで解体してしまいましょうかね。
「ホイ、ホイ、ホイ……」
ズシンッ……ズシンッ……ズシンッ……。
私は、【収納】から【掘削車】を複数取り出して、並べて行きました。
続けて、【収納】から【自動人形】・シグニチャー・エディションを大量に取り出します。
・・・
【自動人形】達の統制の取れた手際で、解体作業は完了。
コア、血液、肉、その他……と部位ごとに仕分けされた物を【収納】に回収しました。
コアは私が管理……血液は【ハイ・エリクサー】の原料としてアブラメイリン・アルケミーに譲渡……肉は皆の食用……その他の部位は【ドラゴニーア】の冒険者ギルドで売却して、私以外のレジョーネのメンバーで均等に分配します。
【氷竜】以外の肉は、その場で、神兵達の、ご褒美として食べさせてあげました。
【掘削車】と【自動人形】達も【収納】に回収して、今回の狩は終了。
「さてと、行きますか?」
「なのじゃ」
私達は、神兵100頭も含めて、全員で、【転移】しました。
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