第202話。最強の運送屋。
名前…エズメラルダ・レンティーニ
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…70歳
職種…【高位女神官】
魔法…多数
特性…飛行、【才能…回復・治癒】
レベル…68
【ドラゴニーア】の神官長。
朝食後。
「ノヒトよ。今日は、【氷竜】の狩じゃぞ。忘れておらぬな?」
ソフィアが、ミルクで、口の周りに白いヒゲを作りながら言いました。
すぐ、オラクルが、ソフィアの口の周りを拭います。
「もう、周辺包囲の為に、神の軍団を100頭、派遣しているよ」
「うむ。119頭、狩ってやるのじゃ」
ソフィアは、フンスッ、と鼻息も荒く宣言しました。
【ドラゴニーア】の北方の都市【ルガー二】の北に広がる【ピアルス山脈】には、【氷竜】の周期スポーン・エリアが存在します。
【氷竜】は、肉が、この上もなく美味しいので、皆、大好きでした。
特に、ソフィアは、大好物。
卵以外では、【氷竜】と【クラーケン】は別格の食材という認識があるようです。
確かに、【氷竜】は、美味しいです。
味、香り、食感……どれも地球の、どんな肉より素晴らしいですからね。
アルフォンシーナさんの背後で、秘書官のゼッフィちゃんが、コクリッ、と生唾を飲むのがわかりました。
気持ちはわかりますよ。
また、お裾分けしますからね。
竜城の【女神官】と竜騎士団の皆さんには、前回、新月の周期スポーンで確保した【氷竜】を、お裾分けしています。
ゼッフィちゃんは、【氷竜】は、ソフィアから振る舞われるまで食べた事がなかったようです。
ほとんどの人種は、一生食べる事が出来ないような希少な超高級食材ですからね。
【ピアルス山脈】で周期スポーンする【氷竜】が【ドラゴニーア】軍に討伐され、一部市場に出回りますが、超高級、というレベルのレストランや料理店で消費されていまい、庶民の口には入りません。
今回、ソフィアが挑もうとしているのは、強制エンカウント。
周期スポーン・エリアに侵入して、無理やり【氷竜】をスポーンさせて、狩ります。
その際に、スポーン・エリアには、バトル・フィールドが形成され、戦闘が終わるまで、内部に閉じ込められるのですが、余波でバトル・フィールドの外にも魔物がスポーン。
この魔物の処理を誤ると、周囲の都市などに迷惑がかかります。
なので、周囲を、神の軍団でガッチリ包囲して、アリの這い出る隙間も与えない体制を組む必要がありました。
強制エンカウントの場合、足を踏み入れた者達の強さに応じて、スポーンする魔物の脅威度と数が変動しますが、私やソフィアのような、圧倒的最強ランクの者達が、強制エンカウントの発動キーとなると、スポーン・エリアの魔物は、そのエリアのボスと同種の個体が、最大数の20頭、同時にスポーンします。
この時に、スポーン・エリアのエリア・ボスと一緒にスポーンするのは、【眷属】と呼ばれるボス個体の配下達ですが、この【眷属】は、倒しても倒しても、最大99頭まで、補充される仕様。
【眷属】の補充は、ボス個体を倒すまで続きます。
これで、最大、119頭もの【氷竜】を狩る事が出来る訳ですね。
「ファヴは、【ムームー】で大地の祝福じゃが、アルシエルは、午前中は、どうするのじゃ?」
ソフィアは訊ねました。
「私も、その【氷竜】の狩に、お供したいです」
アルシエルさんは答えます。
「そうか、アルシエルも、病み上がりのリハビリがてらに一緒に狩をしては、どうじゃ?」
「スポーン・エリアの魔物をですか?トンデモナイ!安全な場所から見学します」
アルシエルさんは顔の前で手を振って言いました。
それが、良いでしょうね。
アルシエルさんは、【高位】級の魔法戦闘職。
対する【氷竜】は【超位】級の【古代竜】。
万が一の事故が怖いですし、アルシエルさんを守りながら戦うのも面倒です。
大人しく、ヴィクトーリアとスポーン・エリアの外で待機していてもらいましょう。
アルシエルさんは、【シエーロ】から【ドラゴニーア】に訪れた駐在武官という意味合いもあります。
私やソフィア達の戦闘力を間近で見せつけておくのも良いでしょう。
【シエーロ】。
何だか、【シエーロ】の様子が、私が知る900年前の様子と少し変わっているようなのです。
アルシエルさんからの聴き取りからわかった事ですが、どうも、【シエーロ】で最も多い種族である【天使】達が、私が知る設定より多少、好戦的に変わっている気がしますね。
【天使】は、私達がいる惑星の真裏に広がる拡張マップ……つまり【魔界】と紛争状態にあります。
元来、【天使】は戦闘種族ですが、それは、あくまでも秩序と調和を象徴する領域である【シエーロ】の番人としての設定だったのです。
けして、他国や他地域に侵略を仕掛けるような性質ではなかったはずなのですが……。
そして、現在の【天使】達は、【創造主】ではなく、【知の回廊】を神として崇めているようです。
どうやら、この【知の回廊】が、【天使】達に対外戦争を扇動している諸悪の根源らしいですね。
しかし、それも、よくわからない話なのですよ。
【知の回廊】は、知性と自我を持つ人工知能ですが、つまる所、高性能な演算装置に過ぎません。
SFのように……人類の敵に回るコンピューター……というような事にならないように何重にも安全機能が張られていますし、そもそも……人種を庇護する……というミッションを全てのプログラムのベースにしてあったはずです。
それが何故?
気になります。
まあ、【シエーロ】から、私達がいる5大大陸……つまり【地上界】に侵略があったら、私は怒りますよ。
神の軍団を使って迎撃します。
私の身内に手を出したら酷いですからね〜。
【知の回廊】は、私には絶対に勝てませんし、【天使】達も私やソフィアの敵ではありません。
現在、【シエーロ】では内戦が起きて、それどころではないようですが、いずれ、全遺跡を攻略して竜城の【門】を通れるようになったら、ちょっと様子を見に行かなければならないでしょうね。
閑話休題。
スポーン・エリアの中には、私、ソフィアとウルスラ、オラクル、トリニティで入ります。
ウルスラは、やられる可能性がありますが、彼女は、盟約の妖精、ですので、ソフィアが生きている限り、仮に死んでも復活出来ますからね。
万が一の心配はありません。
「トリニティ。あなたは、午前中ファミリアーレの訓練に参加したければ、私達に付き合わなくても構わないのですよ」
ファミリアーレとは、私の可愛い弟子達です。
彼らは全員孤児ですので、私とソフィアが保護者代わり。
午前中、ファミリアーレは、軍、衛士機構、竜騎士団の訓練に参加していました。
トリニティは、ファミリアーレの事を気にかけていますので、その訓練に通って色々と指導をしているのです。
トリニティは、魔法戦も、格闘戦も、超一流ですし、案外、教えるのも上手なようで、ファミリアーレ、兵士、衛士、【竜騎士】達からは、良いコーチとして人気なのだ、とか。
トリニティ本人も、教えを請われ、頼りにされ、感謝されるのは、満更でもない様子です。
人種や自分よりも弱い者には、1mmたりとも頭を下げる事が出来ない、という設定がされているほど、気位が高いトリニティも、実は情が深いタイプ。
中々、面倒見が良いのです。
それに、トリニティは、【徘徊者】。
私に【調伏】されて行動を共にする以前は、遺跡の中を1人で、ひたすら【徘徊】していました。
また、トリニティの種族【エキドナ】は、この世界に本来は1人しか存在しない固有種。
生まれた時から既に1人でしたので、当然、家族や同族などもいません。
仕様として、そのように創られているとはいえ、些か寂しいようにも思います。
なので、他者と関わりを持つ事は、トリニティにとっても、きっと悪い事ではありません。
因みに、この世界で、唯一無二の存在だったトリニティを私が【調伏】してしまったので、今頃は、遺跡の【徘徊者】であり、人種の敵対者としての存在を補填する為、トリニティの後任の【エキドナ】が、どこかの遺跡で新たにスポーンしているでしょう。
いつか、その【エキドナ】を【調伏】して……トリニティに同じ種族の家族を作ってやろう……というのが、私とソフィアの密かな計画だったりします。
「いえ。ノヒト様、ソフィア様に、ご一緒致します。他の事ならばいざ知らず、戦闘に向かわれるならば、主人の、お供するのは当然です」
トリニティは言いました。
「わかりました。しかし、希望があれば、好きにして構いませんからね。今回の相手は、わざわざ、トリニティの力を借りるほどもない相手なのですから」
「ありがとうございます。ですが、ご一緒させて下さい」
トリニティは言います。
あ、そう。
ならば、連れて行きましょう。
「ふふん……」
ソフィアが変な顔で笑いました。
「何ですか?」
「何がじゃ?」
「今、笑いましたよね?何か、おかしな事を言いましたか?」
「あー、ノヒトは優しいのじゃな……と思ったのじゃ」
ソフィアは、ニコニコして言います。
「ん?普通の会話だったと思いますが?」
「いや。ノヒトの言葉は、丁寧にトリニティの心情を汲み取っておる。トリニティの立場からすると、必要ない、のではなく、トリニティの力を認めた上で、今回はトリニティに頼らなくても大丈夫だ、と言われるのは嬉しいはずじゃ。そういう配慮があるからノヒトは他の者から心服されるのじゃ」
ソフィアは言いました。
何ですか急に?
ソフィアから褒められました。
何だか気味が悪いですね。
「ソフィア様の仰る通りでございます。お心遣いありがとうございます」
トリニティは、恭しく頭を下げます。
トリニティの他者に頭を下げる事が出来ない設定は、私やソフィアやファヴは例外。
私達は、【神格者】にして、【神位】級の戦闘力を持ちます。
格でも、強さでも、トリニティが頭を下げるのに不足がない存在でした。
「トリニティは、私の家族です。多少のワガママなら、家族特権で聞いてあげますよ。遠慮は無用です」
これは、偽らざる本心です。
私は、レジョーネ、ファミリアーレ、コンパーニアを家族と考えていました。
特に、トリニティの場合、【調伏】によって強制的に従わせているのです。
可能な限り便宜を図るの事は、吝かではありません。
「ありがとうございます。では、何かの時には、要望を、お伝えします」
トリニティは、微笑みました。
さてと、午前中は【氷竜】の狩……午後はカティサークを回収に行かなくてはいけません。
カティサークは、私が造船した【飛空快速船】です。
名前からもわかるように、スピードが最大の特長。
初動加速は、大した事はありませんが、最高速度は、【古代竜】も、ぶっちぎりますよ。
また、超希少金属である竜鋼を惜しげもなく船体にコーティングした堅牢性……快適な設備を取り揃えた居住性も売りです。
今、カティサークは、サウス大陸の【パラディーゾ】の北にある【タナカ・ビレッジ】に繋留してありました。
内装工事をする為です。
私は、100m級の船を格納して工事を行えるドックを所有していませんので。
あ、ついでに【タナカ・ビレッジ】に隣接して建築した港に、造船所を造っても良いですね。
コンパーニアの傘下に造船会社を持つのも悪くありません。
コンパーニアは、孤児院出身者支援事業ですので、軍需産業には関わらない方針ですから、造船会社の商品は、商船や民間船ですが……。
近い内に【アトランティーデ海洋国】で、【ドラゴニーア】からの技術移転で、大型輸送船の建造が国家事業として始まります。
競合しないようにしてあげないと【アトランティーデ海洋国】の足を引っ張りますね。
高速船や、豪華客船、富裕層向けのプレジャーボートなどなら、住み分けが出来るでしょうから、問題ありません。
早速、コンパーニアの社長ハロルドに指示しておきましょう。
カティサークは、【自動人形】達が作業していますので、午後までには内装も仕上がり、完成しているはずです。
ソフィアと2人で試運転はしましたが、ファミリアーレを連れて行って試運転をしても良いですね。
ファミリアーレは【タナカ・ビレッジ】には、まだ行った事がありません。
【タナカ・ビレッジ】の管理者である【神の遺物】の【自動人形】クイーンにもファミリアーレを紹介しておきたいところ。
もう、サウス大陸は、ほぼほぼ安全です。
ファミリアーレを連れて行っても問題ないでしょう。
「ソフィア。今日の午後は、ファミリアーレを連れて、クイーンの所に行きますよ。お昼ご飯は、あちらで食べましょう」
「お〜っ!それは、良い考えなのじゃ」
ソフィアは、満面の笑みで言いました。
私は、ファミリアーレにメールを一斉送信します。
午前の訓練が終わったら、礼拝堂に集合、と。
これで良し。
・・・
私達は、出掛ける準備をする為に別れ、武装して再集結。
「ノヒト。申し訳ないのですが、この後、物資の輸送をお手伝い願えないかと……」
ファヴが申し訳なさそうに言います。
「構いませんよ。何処に何を運びますか?」
「【ラニブラ】まで、建材などです」
「わかりました」
「良かった。さっき、【ラニブラ】からチェレステの所に……物資が不足している……との連絡があったのです。どうやら工事に当たる者達の士気が高く、予定の工期を大幅に巻いているようなのです」
「ふむ、それで物資が足りなくなったのか?それは良い事じゃな」
手抜き工事とかは、大丈夫でしょうか?
まあ、サウス大陸の神様であるファヴ肝入りの事業で手を抜く者はいないと思いますが……。
一応、物資を運んだついでに、少し、工事現場を確認してみますかね。
「はい。嬉しい悲鳴です。アルフォンシーナ大神官の厚意で物資は確保出来たのですが、大量の物資を、すぐに運ぶ手段がなくて……」
ファヴは、安堵して言いました。
「お安いご用ですよ」
私は、ファヴの頼みを請け負います。
そのくらいの、お手伝いは、何ほどの事もありません。
私なら、無限容量の【収納】と【転移】で、どんな大量の物資でも一瞬で輸送出来ますからね。
サウス大陸の南にある国【ムームー】の首都【ラニブラ】。
もう間もなく、元【ドラゴニーア】の大神官付き筆頭秘書官だったチェレステさんが、ファヴから王権神授の大命を受けて、新女王として即位戴冠します。
女王を戴く、君主制の国となる為、首都を王都と呼び変えるべきかもしれません。
現在、【ムームー】王都【ラニブラ】では、建国と戴冠式の準備が始まっています。
建築や、建て込みや、引っ越しや、修築や、清掃……などなど、急ピッチで作業が進んでいました。
人員は、【ドラゴニーア】の大型軍用輸送艦で運んでいるそうです。
神の軍団の緑師団が護衛任務に当たっていました。
私に頼んでくれれば、いつでも【転移】で運んであげたのですが、私が巨大な軍用艦ごと【転移】が出来るとは、誰も思わなかったようです。
私は、【超神位魔法】を使えば、【転移】の効果範囲を無限大まで広げられるので、巨大空母だろうが惑星だろうが、丸っと【転移】で運べますし、識別上、船とは別の物体が内部にない状態であれば、軍艦を無限容量の【収納】に、丸ごと入れて運ぶ事も出来ますからね。
さしずめ、最強の運送屋、です。
まあ、ゲームマスターである私は、輸送の他にも、大概の事は出来ると思ってもらって差し支えありません。
ファヴやチェレステ新女王の為なら、ゲームマスターの遵守条項に違反しない限り、頼まれれば喜んで協力しますよ。
私達は、竜城の倉庫に向かい、大量の物資を【収納】に回収して、レジョーネと共に【ラニブラ】へ【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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