第201話。マネジメントは出来ません。
名前…アルフォンシーナ・ロマリア
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…809歳
職種…【大神官】
魔法…多数
特性…飛行、【神竜の使徒】、【才能…王威、王権、回復・治癒】
レベル…99
【ドラゴニーア】大神官。
異世界転移、32日目。
異世界の暦では、今日は10月2日。
リマインダーを確認します。
あー……懸案事項が山積みですね。
綱渡りで何とかやって来ている事務処理が、いよいよ崩壊しそうです。
私……会社員時代も、管理業務は丸っきりダメで、上司のフジサカさんが見かねて、専属事務員さんを付けてくれていたのですよね……。
重役でもないのに、秘書を連れて歩くなんて生意気だ……などと社内で陰口を叩かれていたのは知っていました。
秘書ではなく、事務員さんなのですが……。
彼女達の肩書はともかく、事務員さんに、お願いしていた仕事はゲーム開発以外の煩雑な事の全てでしたから、実質、秘書代わりみたいなモノだったのかもしれませんね。
しかし、出来ないモノは出来ないのです。
部屋を片付けようとして色々としている内に、前より部屋が雑然としてしまう人っていますよね?
私が、そうです。
私は、管理とか計画とかが、丸でダメなのですよ。
子供の頃から、そうでした。
夏休みの宿題は、毎年、始業式の前日に泣きながらやっていたタイプです。
そのまま成長して大人になってしまいました。
私の人生を振り返ってみると、あらゆる出来事を行き当たりばったりでこなして来ました。
1ヶ月先の事を見越して、今からコツコツと……などという事が出来ません。
苦手とか嫌いとかではないのです。
不確定要素ばかりの茫漠とした未来を考えるだけで、何もわからなくなるのですよ。
わからない事は、とりあえず先送り。
で、気がついたら、締め切りの3日前……みたいな調子です。
一事が万事そんな感じでした。
それでも、運が良いのか、不思議と何とかなってしまうのです。
試験も受験もクラブ活動も就職も……私は全てにおいて、望みの進路を歩いて来ていました。
正直、挫折を経験した記憶はありません。
今、考えると、それがいけなかったのかもしれませんね。
一度も、ギャフンッ、となった経験がないので、本気で自分の欠点を直そう、という機会がなかったのです。
気構えが足りないのでしょうか?
とにかく、ダメな性格だ、という自覚はあります。
自分自身を冷静に評価すると、間違いなく社会不適応者だと思いますね。
よく会社を解雇されなかったと思います。
フジサカさん曰く……お前は管理はからっきしだけど、局面突破力があるから使う……との事。
確かに、私は、追い詰められると、アドレナリンが爆発して10人分の仕事とかを、平気でこなせちゃうんですよね。
ゲーム発売とか、拡張マップ解放とか、大きな山場の時に、私は1ヶ月とか、ろくに睡眠もとらずに、黙々とタスクをこなし続けてスケジュールを完璧に間に合わせていました。
自分の受け持ちだけでなく、他のチームの仕事も片っ端から引き受けてです。
その後に、毎回、倒れて入院するんですけれどね……。
私は、土壇場では同僚や部下から、とても頼りにされていました。
しかし、平常業務では、フラフラ遊んでばかりいましたね。
サボっていた訳ではありません。
同僚や部下が私に仕事をくれないのです……。
そういう時に、真っ当な社会人なら、自分で仕事を見つけて、何かしらするモノ。
しかし、私には、専属の事務員さんがいて、雑多な仕事は彼女達が、あっという間に片付けてしまいます。
なので、私は、ゲームのデバックをするとか、コンピューターのメンテナンスをするとか、蛍光灯を交換するとか、トイレを掃除するとか、本来なら私の仕事ではない事を、頼まれてもいないのに自主的にやる羽目になっていました。
どうして同僚や部下達は、私を除け者にするのでしょうか?
何でも……チーフの爆発力が鈍らないように、通常業務では、なるべく手を煩わせないようにする。チーフは対デスマーチ用の最終兵器ですから……と。
まるで意味がわかりません。
私って、本人に自覚がないだけで、やっぱり、いじめられっ子だったのでしょうか?
そんなこんなで、私は、繁忙期以外、毎日、仕事もしないで社内をフラフラしているので、フジサカさんに捕まって……暇そうだな。よし、お前、メディアに露出する公式ゲームマスターをやれ……と、いう流れで現職に就いたのです。
本来の私はプログラミング・チームのチーフ・プログラマーという肩書きなのですよ。
それが、どういう因果かゲームマスター……人生とはわからないモノです。
閑話休題。
とりあえず、リマインダーにあらゆる予定や想定事項を記録して、それを上から順番に、やっつけて行くしかありません。
こちらの世界には、頼りになる事務員さん達はいないのですから。
ゲームマスターの業務としては、優先順位が高い順に……。
【リントヴルム】問題。
【ウトピーア法皇国】問題。
サウス大陸問題。
拡張マップ問題。
これは特記事項なので、ゲームマスターの通常業務は、もちろん、これとは別にしなければなりません。
つまり……。
世界の理を維持する為の、監視と調査と査察。
問題があれば該当者に是正勧告をしたり、私自身が動いての改善措置。
場合によっては、実力行使。
私の個人的懸案事項としては、優先順位が高い順に……。
ファミリアーレの指導。
コンパーニアの経営(孤児院出身者支援事業)。
ソフィア財団の運営(孤児・生活困窮者の支援活動)。
【ドラゴニーア】軍の装備品開発。
グレモリー・グリモワール。
世界の遺跡攻略。
その他に、やるべき事。
神の軍団の神兵達の餌場とする遺跡の段取り。
ドラゴニーアによる平和体制の構築。
剣聖クインシー・クイン達にチュートリアルを受けさせるという約束の履行。
予約した、ホテル・エトワールへの宿泊。
余裕があれば、やりたい事。
【タナカ・ヴィレッジ】の開発。
【ムームー】のチェレステ新女王の支援。
【パラディーゾ】のローズマリー大巫女の支援。
現在、目を付けている孤児のスカウト。
ペネロペさん達を私の陣営に引き込む。
トリニティと同種族の【エキドナ】の【調伏】。
異世界観光。
ユーザー大消失の原因究明。
異世界転移した理由の解明。
日本に帰る方法の模索。
【シエーロ】の自宅へ戻る。
……などなど。
あー、面倒臭い。
しかし、仕方がありません。
泣いても喚いても、少なくとも、ゲームマスターの業務だけは、否が応でもやらなければならないのです。
【リントヴルム】問題。
ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】は、現在、ウエスト大陸の元中央国家【サントゥアリーオ】から、人種を追い出して引き篭もってしまっています。
この状態を何とかしなければいけません。
私が出掛けて行って、【リントヴルム】を呼び出し、説得して、在るべき守護竜の姿に改心させられれば良し……そうでなければ、戦って倒し、存在をリセットさせ復活させます。
私は、とりあえず【神の軍団】の一個小隊を先発させ、【大森林】(旧ウエスト大陸中央国家【サントゥアリーオ】)に派遣していました。
現地に神兵が到着した段階で、私が【転移】して、【サントゥアリーオ】に乗り込みます。
【ウトピーア法皇国】問題。
ウエスト大陸の北方の国家【ウトピーア法皇国】は、魔法や火薬・兵器などの技術の適正な利用を管理・監督する国際組織である魔法ギルドを国外に追放してしまっていました。
つまり、何らかの悪さをしていると見做して間違いありません。
十中八九、大量殺傷兵器の類を製造・開発しているのでしょう。
これも、【リントヴルム】問題のついでに対処してしまいます。
大量殺傷兵器と、その研究機関、及び、製造工場を消滅させてしまえば良いでしょう。
必要ならば、【ウトピーア法皇国】の指導者達も、まとめて……という事になるかもしれません。
サウス大陸問題。
サウス大陸奪還作戦が、ほぼ完了しつつある中、次のステップとしては復興と国作り。
ゲームマスターとしては、国体の在りようや、国家の政治システムなどについては、それが世界の理に反するモノでなければ、介入や干渉はしません。
私が出来る事は、ソフィアの弟のファヴ……つまり、サウス大陸の守護竜である【ファヴニール】が定めた国家体制を支援する事だけです。
具体的には、サウス大陸中央国家【パラディーゾ】と、南の国家【ムームー】の政権に武力を用いて挑戦してくる者を排除する事。
当面、【パラディーゾ】には神の軍団の黒師団が、【ムームー】には神の軍団の緑師団が防衛任務に当たりますので、まず問題はないはずです。
拡張マップ問題。
900年前に実装される予定だった、このゲームの拡張マップ。
その拡張マップが、現在、解放されていました。
拡張マップとは……ちょうど私が今いる5大大陸の真裏に位置する場所に、もう一つの5大大陸があるのです。
【シエーロ】から落っこちて来た【天使】であるアルシエルさんから聴取した話によると、今私がいる5大大陸は【地上界】、裏側の5大大陸は【魔界】という呼称が名付けられているのだ、とか。
紛らわしいので、私も、そう呼びますか……。
【魔界】は、900年、断続的に【シエーロ】との戦争状態にあるようです。
ゲームマスターは、国家紛争には介入出来ませんが、状況を私自身の目で確認しなければ何も判断出来ません。
必要ならば、こちらも、私が現地に乗り込んで行く事になるでしょう。
私個人の懸案。
ファミリアーレの指導、コンパーニアの経営、ソフィア財団の運営は、順調です。
世界の遺跡攻略は、ボチボチやって行けば良いでしょう。
問題は、グレモリー・グリモワール。
グレモリー・グリモワールとは、本来は、私がプライベートで遊んでいたキャラのハンドルネームです。
つまり、私がグレモリー・グリモワールでした。
ところが、私が異世界転移したタイミングで、グレモリー・グリモワールを名乗る人物が活動を始めたのです。
当初、私は、グレモリー・グリモワールを名乗る偽者が現れたと考えました。
しかし、銀行ギルドで身分照会をした結果、グレモリー・グリモワール本人に間違いない、との事。
この世界では、ギルド・カードの本人確認は、絶対の仕様で、いかなる方法を用いても、その照合を欺く事は不可能です。
なので、誰かが、何らかの方法でグレモリー・グリモワールのキャラを乗っ取っているのか、あるいは、操っているのだと思いますが……。
しかし……そんな事が、はたして可能なのでしょうか?
おそらく世界で一番、この世界の設定と仕様を知り尽くしている私にも、そんな事を可能にする方法が全く思いつきません。
兎に角、現在、グレモリー・グリモワールのキャラを乗っ取っている誰かがウエスト大陸の西方国家【ブリリア王国】の東に位置する【イースタリア】近郊にいるのです。
私は、このグレモリー・グリモワールが、世界の理に違反するような事をしでかしたら、すぐに飛んで行って、滅殺してやるつもりでした。
ところが、グレモリー・グリモワールは、開拓村を造り、貧しい人々を住まわせ保護し、多くの人々に無償で医療行為を施したりしています。
何だか、地元では、湖畔の聖女、などと呼ばれているのだ、とか。
私は、とりあえずグレモリー・グリモワールの脅威度は低い、と判断して、現在まで泳がせていました。
自分のプライベート・キャラを乗っ取られている状況は面白くはありませんが、私が異世界転移している現在の状況で、私はグレモリー・グリモワールになって活動する事は出来ません。
従って、グレモリー・グリモワールをマイ・キャラだとは思わず、他人のユーザー・キャラだとして判断するようにしています。
なので、大概の事は、大目に見ましょう。
しかし、世界の理、に反するなら、容赦はしません。
英雄大消失以来、この世界には、ユーザーがいません……件のグレモリー・グリモワール以外には……。
つまり、ゲームの時と比較して、相対的にユーザーであるグレモリー・グリモワールの戦闘力や魔法技術の影響力は大きく波及するのです。
丸っきりの放置は出来ません。
とはいえ、私は色々と忙しいですからね。
そういう意味で、世界銀行ギルドがグレモリー・グリモワールを監視してくれている状況は、ありがたい事です。
グレモリー・グリモワール関連の情報は、世界銀行ギルドの頭取ビルテさんから、詳細に上がって来ます。
ビルテさんは、グレモリー・グリモワールの調査に、副頭取のピオさんを張り込ませていました。
その報告が毎日、私にも伝えられています。
何だか、最近、グレモリー・グリモワールは、派手にやっていますね。
【高位】の魔物を【調伏】して、その魔物を【超位】に【進化】させ、数百頭の【高位】の魔物の群を従えたり……【ブリリア王国】に宣戦布告をして、和睦して、【ブリリア王国】と同盟を結んだり……北の大国【ユグドラシル連邦】の盟主国【エルフヘイム】の先代【大祭司】のディーテ・エクセルシオールを味方に引き入れたり、と。
私に関係する事では、マリオネッタ工房から、【自動人形】やスマホを購入してもいます。
マリオネッタ工房が製造する【自動人形】には、全ての個体にバック・ドア機能が組み込まれていました。
【自動人形】を用いて違法行為を行えなくしてありますし、いざという時には私やコンパーニアがバック・ドアから【自動人形】の制御に干渉する事も可能です。
スパイ・ソフトウェア?
いえいえ、セーフティ機能ですよ。
もちろんグレモリー・グリモワールが購入した【自動人形】にもバック・ドアが入っています。
なので、グレモリー・グリモワールが何をしているか……【自動人形】を通じて情報を取る事が可能。
これで、グレモリー・グリモワール側の情報を詳細に集められるようになるはずです。
ところで……世界銀行ギルドのビルテさんは、あのディーテ・エクセルシオールの、お孫さんだったのですね。
エクセルシオール……この家名を聞いて、何故、気付かなかったのか……うっかりです。
以前にビルテさんは……実家は【世界樹】にアクセス権限を持つ……とも言っていました。
【世界樹】にアクセス出来るのは、【エルフヘイム】の大祭司の一族である、エクセルシオール家。
こんな重要情報に思い至らないとは……。
私も大概……ポンコツです。
何となく、ディーテ・エクセルシオールは、ゲームのキャラという先入観があって、目の前で会って話していた生身のビルテさんと結びつかなかったのですよね。
それにしても、ディーテ・エクセルシオールです。
ゲームの時代の人種NPC最強キャラですよ。
ゲームの時代から、モブ・キャラではなく、名持ち。
ソフィアやファヴと同様に、この世界を代表するNPCの1人です。
それを味方にしてしまいましたか……。
敵に回したくはありませんね。
戦闘になれば瞬殺出来ますが、グレモリー・グリモワールは、私が手塩にかけて課金もしまくって育成したキャラですし、ディーテ・エクセルシオールも私の会社が生み出した看板キャラの1人です。
アレらを滅殺してしまうのは、惜しい気持ちもあるのですよね。
まあ、全ては、あちらの出方次第です。
ただし、ディーテ・エクセルシオールがグレモリー・グリモワールの陣営に加わった事で、私は、ある意味、安心していました。
何故なら、ディーテ・エクセルシオールは、ゲーム設定上、正義の側、にいるキャラクターとしてデザインされている存在です。
そのライト・サイドを代表するディーテ・エクセルシオールが、グレモリー・グリモワールに与する、という事は、グレモリー・グリモワールは、少なくとも、現状……悪ではない。
こう考えられます。
また、グレモリー・グリモワールが、無法な事を行おうとすれば、当然、正義のディーテ・エクセルシオールが制止するでしょう。
ディーテ・エクセルシオールは、導き手という稀有なキャラ特性を持たされています。
グレモリー・グリモワールの、お目付役としては、うってつけ、でしょう。
現在、グレモリー・グリモワール問題は、数段、危険性が減った、と、私は考えていました。
えーと……。
後の雑多な懸案は、行き当たりばったりでやるだけです。
もちろん手を抜かず一生懸命には、やるつもりですが……どうなる事やら……。
私は、リマインダーを閉じて、私室を後にしました。
・・・
竜城の大広間。
「おはようございます、ノヒト様」
大神官のアルフォンシーナさんが言いました。
傍には、神官長のエズメラルダさんと、大神官付き筆頭秘書官のゼッフィちゃんが控えています。
「おはようございます、アルフォンシーナさん、エズメラルダさん、ゼッフィちゃん」
「「おはようございます」」
エズメラルダさんとゼッフィちゃんが挨拶しました。
ほどなくして、トリニティが現れます。
トリニティは、私の従魔で、種族は【超位】の【魔人】である【エキドナ】。
次に現れたのは、アルシエルさん。
アルシエルさんは、虚無海に落っこちて、【シエーロ】に帰れなくなった為、私が保護して、しばらく行動を共にする事になりました。
種族は、【天使】で、位階は【智天使】。
続いて、やって来たのは、ファヴです。
ファヴは、サウス大陸の守護竜【ファヴニール】。
最後に、ソフィア達一行が歩いて来ました。
ソフィアは、セントラル大陸の守護竜【神竜】。
ソフィアの頭の上には、ウルスラが乗っています。
ウルスラは、ソフィアの盟約の妖精で、種族は【妖精女王】。
ソフィアの背後から、【神の遺物】の【自動人形】の2人。
オラクルとヴィクトーリア。
【自動人形】は機械ですが、【神の遺物】の【自動人形】は知性と自我と感情を持つ為、2人には【ドラゴニーア】で人権と国籍が与えられています。
なので、私も、オラクルとヴィクトーリアの事を、2体ではなく、2人と呼ぶように改めました。
さてと、朝食を頂きましょう。
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