第198。光をもたらす者…8…放蕩。
名前…ウリエル
種族…【擬似神格者…ケンタウロス】
性別…男性
年齢…なし
職種…【魔法装甲騎士】
魔法…多数
特性…飛行、【超位回復】、【自己再生能力】など。
レベル…99(固定)
【白の庭園】。
ルシフェルが【天帝】から拝領した領域である。
【白の庭園】は、【天界】の中央都市【エンピレオ】の城壁の外側南方にあり、広大な【庭園】の中心部には、壮麗な空中に浮かんだ城があった。
そこがルシフェルの居所である。
この魔法工学の粋を結集したような空中城は、英雄が建造した物であるらしく、その名を【ラピュータ宮殿】と登録されていた。
残念ながら、ルシフェルにも同じ物は造れない。
英雄大消失の後、英雄の不動産は、適正な価格で接収する、という措置が取られている。
一部、接収が不可能な物件も、【エンピレオ】の中心部には残されているが、大半は既に【天界】の最高執行機関に管理者が移譲されていた。
これは合法的な手続きであり、太古の昔から【創造主】ら旧時代の神々によって定められていた規約を根拠とする。
何でも、英雄は、ログインという特異な魔法で、彼らの本拠地である神界から、この世界に【転移】して来るのだそうだ。
その英雄が、神界から、こちらに長期間ログインしなくなると、英雄の所有不動産が使用されない状態で、放置される事になる。
それは、【創造主】ら旧時代の神々にとって、好ましくない状態であるらしい。
なので、概ね、1年を経過してログインしていない英雄には、神界の彼ら個人の居場所に、神々から……所有不動産を接収するが構わないか……という通知が行き、それでも放置状態が継続する場合、適正な対価を英雄の銀行ギルド口座に支払った上で接収が可能とされていた。
そうでなければ、何人であろうとも、英雄の所有不動産を勝手に接収する事など出来はしない。
英雄達を敵に回す事になるからだ。
英雄は、ほぼ例外なく強力な戦闘力を持つ上に不老不死で不死身。
一人、二人なら、どうにかなるにしても、英雄の総数は数百万から1千万超。
恐るべき戦力なのである。
ルシフェル達、【擬似神格】を持つ、新時代の【天使】も不老ではあるが、不死でも不死身でもないのだ。
英雄達と、全面戦争になれば、精強な天軍3億と言えども、時間の問題で滅ぼされてしまうと予測されている。
【天帝】の計算によると、およそ10年で滅ぼされてしまうらしい。
古の時代から、英雄は、特別視されて来た。
彼らが、この世界の真の所有者である、とする学説すらある。
英雄と敵対する事は絶対に避けなければならない。
本気で、やり合えば、彼らには、【創造主】ら神話時代の神々でしか対抗出来ないのだ。
それは、最強の【天使】たる天使長ルシフェルであろうとも例外ではないのである。
「ルシフェル様、お戻りはいつになりますか?」
ルシフェルの従者ベルフェゴールが言った。
彼女は【智天使】。
筆頭従者であるルキフゲ・ロフォカレとルキフゲ・フォカロルの2人がルシフェルの公務の代理を務める事が多くなり、最近では、ルシフェルの身の回りの世話は、ベルフェゴールの役目になっている。
「緊急時には戻るよ。せっかく戦争が収まったんだから、休暇しなくちゃね」
「あの……どうしても、行かれるのですか?」
「何故だい?」
「ミカエル様から、ルシフェル様が、ご公務以外で【魔界】に、お出掛けの際には、お止めするように、と申し付けられているのですが……」
ベルフェゴールは、困惑気味に言った。
「ベルフェ。お前は、いつからミッキの従者になったんだい?」
「と、申されましても、ミカエル様に叱られるのは、私や、ルキフゲ・ロフォカレ殿、ルキフゲ・フォカロル殿でございます。お怒りになられた、ミカエル様は、それはそれは恐ろしく……」
「それが、お前達の役割じゃないか。じゃあ、しっかり留守番を頼むよ」
ルシフェルは、屋敷を後にする。
「お待ち下さいませ、ルシフェル様ぁ……あー、行ってしまわれた……。また、ミカエル様から、折檻されるのね……」
ベルフェゴールは、うな垂れた。
・・・
ルシフェルが【知の回廊】に、やって来ると、【知の回廊】の正面ファサードの前に腕組みして仁王立ちする女性の姿。
怒り心頭に発する、という様子である。
「おい、ルシフェル」
ミカエルは、碧眼を細めてルシフェルを睨み付けた。
「おはよう、ミッキ」
ルシフェルは、気さくな様子で挨拶する。
「おはよう、ではない。朝議に顔を出さず、よもや、【魔界】に降りる気では、あるまいな?」
「朝議には、代理としてルキフグスを送っている。雑用は、あいつらで事足りるだろう?」
「朝議を雑用扱いとは……。お前は、天使長の責任を何と考えるのだ?下の者に示しがつかないではないか?」
ミカエルは、金髪を逆立てて言った。
「天使長の立場なんか、知った事ではないね。ミッキに譲っても構わないよ」
「な、何を馬鹿な事をっ!」
ミカエルは、色をなして言う。
言葉に本当の怒気が混ざった。
「戦なら、あと200年は起こらない。戦う以外に、僕でなければならない仕事はない。戦がない間くらい暇潰しをしなければ、息が詰まるよ」
「【天帝】は……【魔界】遊びも、ほどほどにせよ……と、申されたはずだぞ」
「だから、ほどほどに【魔界】に出掛けるところなんじゃないか?それとも、ほどほど、とは、行くな、と同義という事かい?それは、言語定義的に、おかしいね」
「いや、今日という今日は、朝議に出てもらう」
「ミッキ。既に決断した僕の行動を、お前に止められる、と?」
「くっ……」
ミカエルが、どんな手を使っても、ルシフェルを止める事は出来ない。
ルシフェルの決定は、即ち【天帝】の決定であり、また、ルシフェルは、その気になれば、全【天使】を相手取っても勝つ、絶対的強者なのだから。
「ミッキ。例の森の奥で、【古代竜】の巣を見つけたんだ。スポーン個体ではなく、最低でも10世代以上は繁殖で種を繋いでいる個体なんだよ。これは、調査のしがいがある。もしも卵があったら、お土産に持って帰って来るよ。その【古代竜】の巣の近くに面白い集落を見つけた。【古代竜】に捕食されず、半ば、共生関係にあるみたいなんだよ。興味深いだろう?魔物と人種が共生可能だとすれば、これは【魔界】統治のあり方に一石を投じる事になるかもしれない。これは、必要な調査なんだ」
ルシフェルは、取り付くシマもなく、去ってしまう。
「まったく、兄様ったら、いつも魔物や人種の相手ばかり……私だって構って欲しい……」
ミカエルは寂しげに呟いた。
・・・
【知の回廊】。
天軍最高執行機関……【熾天使】会議。
豪壮な造りの長机に7つの椅子。
4人が座り、主座を含む3つが空席。
10人ほどが傍に起立している。
「ガブ。待っていても、ルシフェルは来やしないぜ。この面子だと、お前が序列最上位者なんだから、とっとと進行してくれよ。俺は、この後、訓練なんだ」
ウリエルが言った。
「あー、面倒だな。なら、さっさと終わらすよ。まず、対【巨人】方面は?」
ガブリエルは、投げやりな口調で言う。
背後に居並ぶ担当者から、幾つかの報告がされた。
目新しい情報はない。
事前にルシフェルが想定した通り、と。
「ルシ兄が【ティターン】の王を討ち取った事が大きいね。これで、奴らは、また、お家騒動を始めるでしょ?」
ガブリエルは立場上、一応、報告をまとめてみるような振りをする。
「はい。我輩の主人たるルシフェル様が光の刃を放ち、【ティターン】の王の首を斬り飛ばしました」
ルキフゲ・ロフォカレが片眼鏡をキラリと光らせて言った。
「軍勢の大半も滅ぼした訳だし、新しく軍団を再編しなくちゃならないだろうしね」
末席からラファエルが言う。
「はい。吾輩の主人たるルシフェル様が、お得意の【光子砲】で、ドカーーンッ、で、ございます」
ルキフゲ・フォカロルが片眼鏡をキラリと光らせて言った。
ルキフゲ・フォカロルは、ラファエルに捕獲されて膝の上に抱かれている。
ルキフグスは、ラファエルからは、愛玩用のぬいぐるみ扱いをされていた。
ルキフグスにとっては、ペット扱いも、しつこく構われるのは大の苦手だったが、然りとて【熾天使】であるラファエルに歯向かう訳にも行かず……いつも、ルキフグスの2人でラファエルへの対応を押し付けあっている。
「ルキフグス。話が進まないから、少し黙っていろ」
ウリエルが言った。
「しかしながら、ウリエル様、この度の戦役では、いつもながら、我輩の主人たるルシフェル様の功績が第一と【天帝】様も、お認めでございます」
ルキフゲ・ロフォカレが言う。
「然り然り。吾輩の主人たるルシフェル様の代理として朝議に参加しております故、申し上げるべきは、申し上げなければいけません」
ルキフゲ・フォカロルが言った。
ゴツンッ!
ガブリエルが隣に立つルキフゲ・ロフォカレの頭を強か殴りつける。
「痛いっ!」
ルキフゲ・ロフォカレは頭を押さえて悶絶した。
「ここにいる者は、そんな事は、お前達ごときに言われるまでもなく、わかっているんだよ」
ガブリエルが言う。
ルキフゲ・フォカロルは、今日に関しては、ラファエルの玩具にされている役目の方がマシだったか、と考えていた。
「で、ベリアル。つまるところ、どのくらい敵に損害を与えた事になる?」
ガブリエルは訊ねる。
「少なくとも、次の王位を争って100年、さらに軍の再編に100年、というところでしょうか」
ベリアルは答えた。
「わ、吾輩の主人たるルシフェル様も、ご同様の読みでございます」
ラファエルの膝の上から、ルキフゲ・フォカロルが慌てて言う。
これは、ガブリエルの隣に立ったルキフゲ・ロフォカレの方が言うはずの報告だったが、ルキフゲ・ロフォカレはガブリエルに殴り付けられたダメージから回復していない。
【巨人】と一括りに呼ぶが、その種族は複数ある。
【ティターン】族、【ギガース】族、【サイクロプス】族、【トロール】族……など。
彼ら種族の代表が争って、最強の個体が【巨人】の王となる。
それぞれに誇り高く自立心が強い【巨人】達は、一度、王が失われると、次の王が決まるまで、激しい王位争いが起きるのだ。
「ミッキ姉は、どう考えているか……だけれど……」
ガブリエルは言う。
「私も同じ考えだ」
ミカエルが現れて言った。
「あ、ミッキ姉、後はよろしく。私は、会議の仕切りは向いてないから。で、ルシ兄は?」
ガブリエルは、言う。
「ルシフェルは、また【魔界】遊びに行ってしまった……」
ミカエルは溜息を吐いた。
一同は苦笑する。
「では、ミカエル。しばらくの間は辺境は監視を継続して、砦の人員は交代させましょう」
ベリアルは言った。
「うん、それで構わない」
ミカエルは頷く。
「ルキフグス、ルシフェル様が戻られたら、そのように、お伝えしなさい」
ベリアルは言った。
「畏まりました」
ルキフゲ・フォカロルは、ラファエルに抱きしめられながら言う。
「か、畏まりました……」
ルキフゲ・ロフォカレは、陥没した頭を押さえながら言った。
・・・
【魔界】中央大陸。
【魔界門】を有する領域【アバドン】。
【アバドン】とは【天帝】が名付けた、この地域の名称。
天軍が【魔界】の先住民が呼んでいた地名を使う事はない。
「アザ、調子はどう?」
ルシフェルは、【アバドン】の防衛に当たるアザゼルに挨拶する。
「異常ありません。どちらかに、お出ましで?」
「うん、【エルデラン】に向かうよ。しばらく、向こうにいる」
「わかりました」
ルシフェルは、北に向かって飛び立った。
・・・
中央大陸には、【魔界門】がある中央の【アバドン】……東の【マールトリア】、西の【ホールブルク】、南の【ロラント】、北の【エルデラン】という都市がある。
また、東西南北の各大陸にも、同じような都市があるのだ。
不思議な事に、これらの都市は、天軍が新世界【魔界】を発見した900年前には、既に完成された状態で存在していた。
完成された、とは即ち【天界】と同等の技術水準で……という意味である。
文明が未熟な【魔界】にあっては異質。
何しろ、天軍の先見偵察隊が【魔界】に初めて降り立った時、【魔界】の先住民達は、未だ鉄器すら満足に持たない程度の文明しかなかったのだから……。
これらの都市は、オーバーテクノロジーである為に、現地の先住民達には、使いこなせないほど先進的な技術が使われていた。
つまり、この都市は、【創造主】が創り出したモノ。
英雄らが暮らしていたのだろうか?
いや、それは、おかしい。
何故なら、英雄が生活を営んでいた形跡が全くないのだ。
【魔界】の先住民が略奪してしまった可能性もないとは言えないが……何らかの痕跡のようなモノが発見されてもおかしくはない。
この旧時代の都市が、どういった経緯で創られたのか?
【天帝】は……【創造主】が【天使】によって先住民を支配させる為に創り出した都市機能だ……などと言うが、それは、話半分に聞いておかなくてはならない。
【天帝】は、事実と願望を同列にして話すきらいがある。
それを信じきっている【天使】も多いが、上級の【天使】は、神話と考古学とを混同したりしない。
中央大陸を平定した後、ルシフェルは、5つの都市に【白の庭園】で飼育した人種を入植させている。
中央大陸の各都市は、ルシフェルにとって、勝手知ったる庭のような場所。
・・・
【エルデラン】の北。
深い森の奥。
ここに、とある【古代竜】が住んでいた。
ルシフェルは、既に、この【古代竜】と邂逅しており、今回は3度目の会談である。
この【古代竜】の個体は、他の【古代竜】と少し違っていて、ルシフェルや人種に対して敵性反応を示さないのだ。
ここに住む【古代竜】自身から聴いた話によると、知性の高い一部の魔物は、スポーンして数百年経過すると、学習し経験を積み、自然に無意味な攻撃性が薄れるモノなのだ、という。
また、スポーンではなく繁殖によって産まれた個体などは、親が子供に教える事で、それを覚えるのだ、とか。
これは、ルシフェルにとっては、青天の霹靂、ともいえる固定観念の破壊を引き起こす知識だった。
【天帝】は……魔物は【天使】とは共存不可能で、滅ぼさなければならない存在だ……と教える。
だが、間違っている……いや、【天帝】は意図を持って【天使】に虚偽の情報を流布し、その行動原理を恣意的に統制しているのだ。
扇動……いや洗脳と云うべきかもしれない。
もはや、ルシフェルは、【天帝】の言葉と、科学的根拠とが相反する場合、科学的根拠を信ずるようになっている。
つまり、ルシフェルは、もう【天帝】に盲従するつもりはなかった。
ルシフェルは、巨大な洞窟の中へと歩を進める。
【古代竜】が巣の中で首をもたげた。
「【天使】のルシフェルよ。今日は何の用だ?」
【古代竜】は言う。
念話ではなく、音声言語を使っていた。
この【古代竜】は、極めて知性が高い。
「オムニッセント、研究の為に卵をもらいたい」
ルシフェルは言った。
オムニッセントとは、この【古代竜】の個体名。
近くにある集落の人種達が、この【古代竜】を、そう呼んでいた。
博識な、この【古代竜】を、全知、を意味するオムニッセントと呼び、半ばローカルな神として崇敬しているらしい。
集落の人種達は、オムニッセントに供物を捧げ、代わりにオムニッセントは、集落を魔物の脅威から守っているのだ。
魔物である【古代竜】が、そのような事をするなんて……。
ルシフェルは、そんな事例を聞いた事がなかった。
オムニッセントによると、最低限、【古代竜】のような高い知性がある魔物でなければ、こういう現象は起こり得ないそうだが、それでも、魔物と人種が共存可能だ、などという事実は、ルシフェルを驚かせるには十分な発見である。
この現象を利用すれば、何か面白い事が起こせるのではないか?
人種の繁栄と、【魔界】の秩序と調和の構築に役立つかもしれない。
ルシフェルは、そう考えていたのである。
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