第189話。グレモリー・グリモワールの日常…52…真打登場、即退場。
【サンタ・グレモリア】辺境伯領
北方の原野…【地竜】トラップ
↑
【サンタ・グレモリア】の4つの街区
中央…【サンタ・グレモリア】神殿
北東…商業区
北西…領軍訓練場
至る【イースタリア】←回廊→至る【竜の湖】
南東…行政区
南西…農業区
深夜。
私は、湖畔の上空で滞空していた。
私の両隣には、キブリとディーテ。
背後に、イーリスさん、ヨサフィーナさん、クラーラさん、ロヴィーサさん達【ハイ・エルフ】の古老4人。
私の【エルダー・リッチ】200体と、【腐竜】8体と、【スケルトン】50体が【砲艦】10隻を操縦して、湖の上空で迎撃体制を取る。
今日は新月。
周期スポーンの日だ。
フェリシアとレイニールは【避難小屋】にいる。
アリス達首脳陣は、アリス・タワーの地下壕に、村人さん達は、割り振られた地下施設に避難。
キブリ警備隊が堀を固め、私の【ゾンビ】200体と、【スケルトン】350体が村の中と城壁の上で防衛する。
マクシミリアンとリーンハルトは、軍艦に乗り込み上空で待機。
その周囲を【ブリリア王国】軍の【砲艦】10隻が護衛。
万が一の時は、マクシミリアン達は撤退も視野に入れている。
ふん、マクシミリアンの弱虫め。
前回の周期スポーンの時には不覚をとったけれど、今回は、同じ轍は踏まない。
【超位】の【ヴイーヴル】に【進化】したキブリと、ディーテ達と、【砲艦】が加わった。
万が一にも、【湖竜】1頭に遅れを取る事はない。
さてと、そろそろ時間だ。
1分前。
「総員戦闘配置につけっ!」
30秒前。
「攻撃用意っ!」
10秒前。
「魔力収束開始っ!」
5……4……3……2……1……今っ!
途端、【竜の湖】の湖底に強大な魔力反応が出現した。
【マップ】の光点は、真紅。
【湖竜】は、巨体をくねらせ尻尾を振り垂直に浮上して来る。
ザバーーッ!
「てぇーーっ!」
200体の【エルダー・リッチ】が最大出力の【排出】を発動……【湖竜】の魔力を強制排出させた。
カッ!……ズドガーーンッ!
キュイーーン……チュドーーンッ!チュドーーンッ!チュドーーンッ!チュドーーンッ!チュドーーンッ!……。
刹那の後、キブリの【超位ブレス】と、10隻の【砲艦】が【魔導砲】で砲撃……【湖竜】の【魔法防衛】を破壊。
ヒュンッ!……ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクーーッ!
間髪を容れず、4人の【ハイ・エルフ】の古老達も、【超位風魔法】の【真空斬】を放つ……【湖竜】の【防御】を破壊。
ドムッ!
そして、ディーテが【超位気象魔法】の【大気圧殺】を発動……【湖竜】に極大ダメージが入った。
真打登場。
仕上げは、私だっ!
「【重力崩か】……あっ……」
私が、【超位闇魔法】の【重力崩壊】を発動させようとした時……。
【湖竜】の光点反応が【マップ】から消える。
死んだのだ。
……って、おーいっ!
【湖竜】は、私のトドメの一撃を待たずして、絶命。
ディーテの【大気圧殺】で、【湖竜】を倒しきってしまったのだ。
私の出番は?
・・・
湖畔。
村の防衛体制は、解除されていた。
村人さんは家に帰っている。
マクシミリアン達も、軍艦を降りて、ホテルに戻ったようだ。
現在、キブリ警備隊が【湖竜】の死体を、湖の底からサルベージしている。
「初弾を撃ち込むべきだった……」
私は、ガックリと肩を落としていた。
「まあ、こっちはノーダメージで、敵を完全に倒しきるっていう目的は達成したんだから、良いんじゃない?」
ディーテは、私を慰める。
そうだけれど……。
今回は、マクシミリアンやリーンハルトに私の凄さを見せ付ける、というデモンストレーションの意味もあったんだよ。
【湖竜】の死体に向かって【超位魔法】を撃ち込む、っていう選択肢もあったけれど……。
そういう無意味な追い討ちって、ユーザー界隈では、ダサい、と見做されるから、やりたくない。
特に魔法職は、不必要な魔力消費は、するべきじゃないしね。
仕方がない。
もう、寝よう。
・・・
10月1日。
私とフェリシアとレイニール……そしてディーテは、気持ちも新たに、朝の見回りに出掛けた。
上空から見る【サンタ・グレモリア】の全景。
一辺2kmの正方形の城壁で囲まれた区画が4つ、四角形に配置されている。
田んぼの田の字みたいに見えるね。
城壁は高さ20m、四方の角には尖塔が建つ。
城壁の周りを幅50mの深い水堀が囲んでいる。
中央には、一際目を引く、【サンタ・グレモリア】神殿。
祈りの主体は、【創造主】と、ウエスト大陸守護竜の【リントヴルム】。
密かに、私の事も祈っているらしいね……。
それは、頼むから、やめて欲しい。
南東にある行政区。
東側に米畑と村人さん達の家々、馬の厩舎、学校、保育園、公衆浴場、鍛治小屋、私の作業所(元アリス屋敷)……私の寝床である【避難小屋】やフェリシアとレイニールの家もここにある。
中央北に駅馬車ターミナルと倉庫群。
中央南にアリス・タワー。
西側北に病院と孤児院。
西側南に【魔法草】畑と、【ハイ・ポーション】工場。
北東にある商業区。
東側は大通りを挟んで、商店、工房、ホテル、レストラン、ギルドの建物が建ち並ぶ。
東側の裏通りには、安宿、大浴場、工場群。
西側北に港とターミナル。
西側真ん中に卸売市場の予定地。
西側南に団地。
北西にある【サンタ・グレモリア】領軍の訓練場。
だだっ広い訓練場と、兵舎、資材置き場、火薬庫にする予定の掩蔽庫。
南西にある農業区。
畑は未耕作。
果樹園もしたいけれど、果物の木もない。
作業小屋や家畜の厩舎や倉庫などが壁際に整然と並ぶ。
北に5kmほど離れた場所に【地竜】トラップ。
これが、【サンタ・グレモリア】の全てだ。
私の村も大きくなったんだね〜。
感慨深いよ。
・・・
見回り終了。
フェリシアとレイニールの魔法の朝練。
ディーテも一緒だ。
【地竜】トラップから、【パイア】を放して、フェリシアとレイニールに狩らせる。
フェリシアとレイニールは、もはや、問題なく【パイア】を倒してしまう。
「ねえ、ディーテ。チュートリアル受けてみる気ある?【ラウレンティア】に寄港したら、神殿に転移座標を設置して、【転移】で、【サンタ・グレモリア】と往き来が出来るから。【サンタ・グレモリア】に一旦戻って、ディーテを迎えに来る事が出来るよ」
「あー、英雄が受けるっていう、最初の試練ていうアレね?」
「そう」
「英雄以外も受けられるのかしら?」
「と、思うけれど?」
「私、何度も神殿とか聖域を入念に調べてみたけれど、出来なかったわよ」
「えっ?マジで?」
「うん。何か、礼拝堂の彫像をどうにかするんでしょう?」
「うん。クルッと一回転回す」
「あのさ、アレ、そもそも回せるようには出来てないわよ。台座と一体化した構造だし、【創造主】の魔法で創造された構造物だから、どんな事したって不変だもの」
ん?
いや待て、確かにNPCがチュートリアルを受けた、なんて話は聞いた事がない。
えっ!
つまり、フェリシアとレイニールは、チュートリアルが受けられないの?
それは、あり得る……。
うーむ。
ま、やるだけやってみて、無理なら仕方がないか……。
「ならさ、フェリシアとレイニールで試してみるから、それでチュートリアルが出来たら、ディーテ達もやってみたら?」
「出来ないと思うわよ。私、アレが出来たら、兵士達を【英雄】並に強化出来るんじゃないかって考えて、何百年も研究したんだから」
どうしてNPCに発動しないんだろう?
何か発動条件とか、ユーザーとは違う発動キーがあるんだろうか?
そうだ。
あのチュートリアルの魔法陣の上にNPCを立たせて、私が、チュートリアル発動キーの彫像のオブジェクトを回してあげたら、どうかな?
いけるんじゃね?
「とにかく、まずはフェリシアとレイニールで試してみるよ。そんで、いけたら、ディーテ達も挑戦してみたら良い。村の防衛力を下げたくないから、いっぺんには無理だけれど、順番にね。チュートリアルは時間の流れが世界とは違うから、中で何日過ごしても、外の世界では、あっという間。だから、時間はかからないから」
「わかったわ。それで、チュートリアルって、具体的に、何をして、試練を終えたら、どうなるの?」
「ユーザーが、この世界の戦闘の仕方を覚える為のモノだよ。亜空間フィールドで敵と戦うんだけれど、闘技場のギミックと同じで、チュートリアル中は死んでも何度でも復活出来る。それでチュートリアルを終えると贈物が最低一つもらえるよ。それから、私の予想では、ディーテ達、この世界の住人は、チュートリアルを経験すると基本戦闘力が高くなる」
昔、ゲーム発売当初。
チュートリアルは、強制イベントじゃなかった。
チュートリアルを受けに行くまでも冒険の内だったんだよね。
で、チュートリアルを経ないで、ゲーム本編をスタートすると、贈物をもらえないし、NPC並に弱かったんだよ。
確か、48時間でパッチがかかって、それ以降は、チュートリアルがゲーム開始直後の強制イベントになった。
つまり、逆に言えば、チュートリアルを受ければ、NPCもユーザー並に強くなるんじゃないか、って思う。
「私が期待したように、英雄並になるのかしら?」
「少なくとも、肉体強度、身体能力、演算速度、魔力、やなんかは、ユーザーと同等になる……と思う。熟練を要する技術系は、たぶん変わらないはずだけれどね」
「魔力が英雄並になるって、凄くない?私なら、グレモリーちゃんと同等になるって事でしょう?」
「そだよ」
「ねえ、グレモリーちゃん。もし仮にチュートリアルを受けられたとして……それ、情報を秘匿しなくちゃダメよ。強化されるのが味方だけなら良いけれど、敵対勢力が強化される事になったら大変だわ。それに、味方が裏切る可能性もあり得る。危険なモノよ」
なるほど。
そういう危険性は考えてもいなかった。
注意が必要だね。
私は、NPCにもチュートリアルが本当に受けられるなら、とりあえずフェリシアとレイニール、そしてディーテ達【ハイ・エルフ】……それから、アリス、グレースさん、スペンサー爺さん、パーシヴァルさん、衛士長のナイジェルさん、領軍副官のハビアーさん、副衛士長のイェーツさん、駅馬車隊長ケネスさん、副駅馬車隊長ザックさん……そして、ピオさんにも、チュートリアルを受けさせる事にした。
私の【眷属】のナディアも身体が万全になったら受けさせるつもり。
トリスタンとかジェレマイアさんとかは、どうしようか迷うところだね。
別にチュートリアルは、戦闘職でなくても受けられるし、恩恵がある。
うーん、ま、2人は追い追いで良いか。
チュートリアルを受けさせる時には……私と私の身内に敵対しない事と、チュートリアルの事を口外しない……って【契約】させる。
これは、ディーテから……絶対に【契約】を、させなくちゃダメだ……って言われた。
そんなに神経質になる事かな?
ゲームの時は、ユーザーは皆、チュートリアルを受けていた訳だし……。
ま、ディーテが言うなら、そうするけれど。
【サンタ・グレモリア】兵士全員にもチュートリアルを受けさせても良いけれど、まだ早い。
彼らは、そこまでの信頼がないからだ。
チュートリアルで強化されて、調子に乗って暴れられても面倒だしね。
・・・
キブリ警備隊に餌やりをする。
キブリ達も増えたね〜。
「キブリ。1週間、村を離れるけれど、私のいない間、村の皆を守ってね」
キブリは翼をピシッと上げて……ガッテン承知の助……と返事をした。
うん、頼むよ。
キブリは、魔物だからチュートリアルは受けられない。
私、別荘のラピュータ宮殿で飼っていた【ドラゴネット】の竜之助で試した事があるんだよ。
【ドラゴネット】っていうのは、小さな【ドラゴン】の種類。
成長しても、中型犬くらいまでにしかならない。
小さいけれど、【ドラゴン】だから強力。
魔法もブレスも【高位】までを使う。
私は竜之助を抱っこしたまま、チュートリアルに飛んだら、竜之助だけ、チュートリアルの魔法陣の上に取り残された。
魔物、動物、【不死者】や【ゴーレム】なんかの無生物、妖精、精霊……などは、チュートリアルに参加出来ない。
私は、こういうのを、いちいち調べる性質なんだよね。
・・・
朝ご飯会議。
私とフェリシアとレイニール、そしてグレースさんは、今日、飛空船で、【ドラゴニーア】に出掛ける。
諸々の申し送り事項は、もう済ませてあった。
最悪のシナリオは、私が何らかのトラブルで戻れなくなる可能性。
次は、私が帰る前に【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】の間で、戦争が始まってしまう事。
その他にも、想定しておく事態は、たくさんあった。
それら全てに対応策を用意してある。
ピオさんの頭脳がフル回転だったよ。
ディーテ達が守っていれば、少なくとも【サンタ・グレモリア】だけは耐え凌げるはず。
【サンタ・グレモリア】さえ無事なら、ぶっちゃけ【ブリリア王国】は……という事だ。
あ、そうそう、【サンタ・グレモリア】の行政上の区分を、村から街、に引き上げる事が決まった。
だからどう、という事はない。
【サンタ・グレモリア】は、【ブリリア王国】から免税特権が与えられているから、税法上の扱いなどは変わらないからね。
ま、箔付け、みたいなもんだと思う。
街か……。
【サンタ・グレモリア】辺境伯領には、現在1800人+400頭ほどの人口+魔物と稚魚がいる。
順調に発展しているね。
ピオさんは、【サンタ・グレモリア】を10万都市にする、と言っていた。
そうなったら、良いね。
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