第188話。グレモリー・グリモワールの日常…51…内憂外患。
本日2話目の投稿です。
夕食。
メニューは、餃子尽くし。
焼きは、もちろん、水餃子、蒸し餃子、揚げ餃子。
中身の具材にも、【パイア】、【コカトリス】、【地竜】ベースとバリエーションをつけてある。
私は、やっぱり、【パイア】とキャベツとニラの焼き餃子がしっくり来るね。
キャベツの代わりに白菜なら、なお良し、なんだけれど。
白ご飯が欲しいよ。
【地竜】と玉ネギのベースで、チーズを中に入れて、水餃子タイプにしたのも、面白い。
ラグー(ミートソース)が、かけてあって、ボロネーゼ……つまり【アルバロンガ】風のアレンジだね。
マクシミリアン達には、湖魚の塩釜焼きと、【地竜】の尾肉のローストのメニューが提供された。
好評だね。
彼らは挽き肉が苦手らしいから、もう初めっから選択肢にもしない。
嫌いな物を無理やり食べさせる趣味はないよ。
私は、食の好み、には案外うるさい。
料理くらい好きな物を食べたいと思う。
他人に強要されるのは、真っ平ご免だ。
だから、基本的にマクシミリアン達の行動には厳しい私も、食べ物の趣味には、とやかく言わない。
私が、逆の立場なら、絶対に機嫌が悪くなるだろうしね。
「マクシミリアン、アーチボルト。あんた達、私が造った護身用のペンダント、肌身離さず持っておきな。寝る時も、入浴する時も、外したらだめだかんね」
「はい。ご配慮、かたじけなく……」
マクシミリアンは、苦笑気味に言った。
「あ、ありがとうございます……」
アーチボルトは、明らかに苦悶の表情を浮かべている。
私は、マクシミリアンと皇太子アーチボルトに【防御】と【魔法防御】の【超位バフ】と、【迎撃魔法】の【効果付与】が付いたペンダントを渡した。
これが、デカイ。
何しろ、ペンダント・ヘッドは、【高位】の【魔法石】が、丸ごと一つ。
なので、マクシミリアンもアーチボルトも首がもげそうになっている。
素の【バフ】ではなく、【高位】の【魔法石】を奮発して、触媒としているから【中位】級の攻撃なら複数回に耐え得る。
【高位】となると砕けるかもしれないけれど、何とか一撃は辛うじて耐えられるんじゃないだろうか?
ま、こいつらは、ベースが弱いから、期待出来ないかもしれないけれど……。
【バフ】の効果は、相対的な物なのだ。
自分と相手との力関係による。
つまり、弱い個体が、強力な攻撃に耐えるには、強力な【バフ】が必要。
素の位階が【中位】クラスのマクシミリアンは、【低位】の攻撃なら、私の【超位バフ】が効いた護身用ペンダントで無効化出来る。
【中位】の攻撃ならダメージは入るけれど、即死は免れるだろう。
【高位】なら、一撃は辛うじて耐えられる……と思う。
【超位】の攻撃には、効果はない……つまり即死。
マクシミリアンは……初代【ブリリア王国】王である英雄王の生まれ変わり……とか云われているだけあって、生意気にも【中位】クラスの戦闘力があるんだよね。
ま、私なら、一瞬でプチッと、やれるけれど。
私がマクシミリアンとアーチボルトにあげた護身用ペンダントが、デカくて重いのは、仕方がない。
私の【漆黒のローブ】、【漆黒のトンガリ帽子】、【魔女のトンガリ靴】みたいな【神の遺物】の魔女コスプレや……フェリシアとレイニールが持っている【神の遺物】の護身アイテムのペンダントと違って、マクシミリアンとアーチボルトにあげたのは私が造った手製のアイテム。
一回こっきり使い捨てではなく、継続して十分な性能を発揮させるには、このくらいのデカさは必要なのだ。
【神の遺物】の、ありがたみがわかるね。
まあ、ディーテが持っている【世界樹】の枝とか、私の私有物資であるオリハルコンやミスリルを使えば、多少の軽量化は出来ただろうけれど、こいつらには勿体ない。
マクシミリアンとアーチボルトは、首が圧迫されて、うっ血していた。
ちっ、仕方がないね。
「ちょっと待ってな……」
私は、マクシミリアンとアーチボルトの護身用ペンダントを改良する。
首かけ式ではなく、革紐を取り付け両肩掛け式に変えてやった。
リュック・サックを胸の前に持っているような格好になる。
「ありがとうございます。だいぶ首が楽になりました」
マクシミリアンが言った。
「はぁ〜……。ありがとうございます」
アーチボルトも、首をさすって、一息吐く。
私は、マクシミリアンとアーチボルトに【治癒】を、かけてやった。
・・・
夕食後。
マクシミリアン達と、何度も話し合った今後の事について、再確認。
私は、大切な事は、しつこいくらいに繰り返し言って聴かせる性分なんだよ。
【ウトピーア法皇国】への対応は、だいたいOK。
マクシミリアンは、【ウトピーア法皇国】に恭順の姿勢を見せて、情けないくらいに下手に出て、相手を油断させ、どうにかこうにか1週間の時間を稼ぐ。
その間に、私が【シエーロ】の自宅から、虎の子のグリモワール艦隊を引っ張り出して来れれば、私と【ブリリア王国】の勝ち。
敵は、50人規模の斥候部隊を出して、威力偵察している段階だ。
ディーテがペッシャンコにしたスパイ部隊の他にも、【ノースタリア】にも、先行偵察部隊が潜入しているのだろう。
既に【ウトピーア法皇国】軍は、総攻撃の準備が整っていると見て差し支えない。
つまり、マクシミリアンの恭順が、私達の罠だ、と【ウトピーア法皇国】側に悟られた時点で、即、全面戦争になると思っておかなければならないのだ。
マクシミリアン、上手く立ち回れよ。
で、考慮すべき事案は、他にもある。
国内の反マクシミリアン派だ。
こいつらが何をするか、わからない。
ピオさんの読みだと、本来、【ウトピーア法皇国】軍が侵攻を開始した時点で、国内で反乱や破壊活動や後方攪乱などを仕掛けるのが、常道だというけれど……クーデターや暗殺工作も可能性としては、あり得るらしい。
なので、護身用ペンダント、という訳だ。
マクシミリアンに叛意を持っている可能性があるのは、3派。
妖精教会。
元【ブリリア王国】主席国家魔道士だったティモシー・ウィングフィールドと、その弟子達。
バーソロミュー公爵と、その一派。
妖精教会は、現在、表立ってマクシミリアンと敵対している訳ではない。
でも、マクシミリアンは妖精教会の改革を企図しており、既得権を守ろうとする妖精教会側との関係は微妙だ。
早晩、マクシミリアンは、妖精教会を潰しに動く。
私との約束だからね。
相手の鼻が利くなら、その動きを既に察知しているかもしれない。
潰される前に機先を制して、向こうから仕掛けて来る可能性はあり得る事だ。
ティモシー・ウィングフィールド……こいつは失脚している。
近い内に処刑されるのだ、とか。
処刑される理由は、【サンタ・グレモリア】に来てやらかしたからだ。
私が原因で殺されるのだから、多少、気が咎めたりしたけれど、良く良く話を聴くと、このティモシー・ウィングフィールド……私との一悶着の他にも色々と問題があるジジイだったらしい。
主席国家魔道士とかいう立場を使って、若い娘さんを半ば誘拐してイタズラをしたり、とか、貧困層の路上生活者を拉致して魔法の実験台にしたり、とか……。
聴くだけでも、おぞましい事を色々とやっていたのだ。
マクシミリアンがティモシー・ウィングフィールドを拘束して、屋敷を家宅捜査して、それが明るみに出たらしい。
で、このティモシー・ウィングフィールドの弟子達が結構いる。
こいつらは、全員逮捕されて、現在、思想矯正を図られているのだけれど、矯正不可能と判断されれば、全員師匠のティモシー・ウィングフィールドと一緒に処刑。
つまり、追い詰められたティモシー・ウィングフィールドと弟子達には、マクシミリアンに叛意を向ける理由がある。
でも、全員、逮捕拘束されている状況だから、何ほどの事が出来るとも思えないけれどね。
可能性は少ないけれど、ティモシー・ウィングフィールドの協力者なんかがテロを起こすくらいの事はあり得るかもしれない。
一番、警戒が必要なのは、バーソロミュー・ウエスタリア公爵。
バーソロミュー公爵は、【ウエスタリア】の領主で、マクシミリアンの叔父さんだ。
バーソロミュー公爵は、マクシミリアンの母親の弟らしい。
彼は、王家の外戚で、公爵という地位にもあり、隠然たる政治的影響力がある。
で、このバーソロミュー公爵の奥さんの一族が、エインズリー家。
はい、また出て来ましたエインズリー家。
エインズリー家の当主は、商務大臣だったクゥアエストル・エインズリー伯爵。
【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】と【アヴァロン】を巡回する事になった定期運行飛空船の誘致の件で、国家予算を横領着服していた例のヤツだ。
この件でクゥアエストル伯爵は、既に商務大臣を解任されている。
取り調べの中で、余罪がポコポコ出て来ている為、厳しい処分が下される見込みだ。
ただし、クゥアエストルの死刑と、エインズリー伯爵家の取り潰しは、どうやら免れる事になりそうなんだよね。
クゥアエストルは、早晩、弟に当主の座を譲って、残りの人生を幽閉されて生きるらしい。
甘い判決にも思う。
でも、マクシミリアンには、エインズリー家を完全に切れない理由がある。
クゥアエストルの姉で、エインズリー伯爵家の娘が、マクシミリアンの正王妃だから……。
エインズリー家を潰すような事になれば、正王妃も泥を被って、ただでは済まない。
この正王妃さんてのは、アリスやリーンハルトの話を聴く限り、弟のクゥアエストル伯爵とは違って、なかなか出来た女性らしい。
才色兼備で、優柔不断なマクシミリアンの尻を叩いて奮起させている女傑みたいだ。
妖精教会の改革も、元はと言えば、この正王妃さんが言い出しっぺなのだ、とか。
だから、離縁とか排除とかは、しない方が、マクシミリアンの為にも、【ブリリア王国】の為にも、なるそうだ。
ま、私も、本人に非がないのに親族の罪で連座して罰を受けるなんて、馬鹿げているとは思うよ。
ただし、二重規範は、嫌いなんだよね。
マクシミリアンの正王妃の実家だから甘い処分にする……なんて、筋が通らない。
私は、エインズリー家の取り潰しはするべきだと思うし、それで、正王妃に累が及ぶなら、それは止むを得ないと思う。
でも、そこに口を出すつもりはない。
私は【ブリリア王国】の、お家事情には関係ないからね。
エインズリー家は、【サンタ・グレモリア】とも因縁がある。
件の定期運行飛空船誘致に関わる横領・着服事件の他にも……クゥアエストル・エインズリー伯爵は、パーシヴァル・コンラード家の娘フロレンシアの元婚約者だからだ。
この婚約の破棄に、私はズッポリ関与している。
【サンタ・グレモリア】と【ブリリア王国】が全面戦争になりかけたのも、これが発端。
パーシヴァルさんは、元リーンハルトの直臣から、現在アリスの重臣にコンバートされた【サンタ・グレモリア】所属の子爵だ。
つまり、私の身内でもある。
話を戻そう。
【ウエスタリア】領主のバーソロミュー・ウエスタリア公爵。
マクシミリアンとは、政治的立場を異にする。
マクシミリアンは、【ウトピーア法皇国】と対決派で、妖精教会を改革しようとしている。
バーソロミュー公爵は、親【ウトピーア法皇国】派で、妖精教会擁護派だ。
政治的には、水と油。
表面上、鋭く対立はしていない、とはいえ、燃料をくべれば、いつ燃え上がってもおかしくないそうだ。
【ブリリア王国】が【ウトピーア法皇国】と、開戦に至ったら、バーソロミュー公爵と彼の一派は、【ウトピーア法皇国】側に寝返りかねない。
貴族社会のドロドロな権力闘争とか政治工作とか、本当に面倒臭い。
身内に優しく、敵はブッ飛ばす……これが一番わかりやすいよ。
「この3派が、丸っと【ウトピーア法皇国】側と通じている可能性もある、って、ピオさんは疑っているんだね?」
「あ、いえ、確証はありません。ただし、私が【ウトピーア法皇国】側で、対外工作を指揮する立場にいれば、おそらく、そういう謀略を仕掛けると思いますので」
ピオさんは、微笑んだ。
ゾクッ、としたよ。
真っ黒ピオさんだ。
ピオさんが味方で本当に良かったね。
マクシミリアンには、内外に敵は多いけれど、悲観するような状況ばかりじゃない。
【ブリリア王国】の軍と衛士と騎士団は、マクシミリアンがガッチリとグリップしている。
マクシミリアンは、政治と経済は、アレだけれども、少なくとも戦争に強い王であるのは事実みたいだ。
軍を自ら率いて、何度も親征を行なっていて、長年戦場で苦楽を共にし同じ釜の飯を食って来た、将兵や衛士や騎士達からの支持は絶大らしい。
私とマクシミリアンが敵対した時、武人派貴族筆頭格のリーンハルトは最後までマクシミリアンを裏切らなかったしね。
うん、軍を味方に付けている為政者は、強い。
これは、反王派にはない、マクシミリアンのストロング・ポイントだよ。
後は、どう転ぶか、出たとこ勝負になるけれど、なるようにしかならないからね。
国内の反王派の連中との争いは、マクシミリアンに任せて、私は私の、やるべき事をやるだけだよ。
つまり、【ウトピーア法皇国】を討つべし。
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