第182話。グレモリー・グリモワールの日常…45…糾弾。
本日4話目の投稿です。
昼食。
ジェレマイアさんの料理でマクシミリアン一行をおもてなし。
何となく、【ブリリア王国】の大臣達からは……どうせ田舎料理だろう……という侮りが感じられたけれど、ジェレマイアさんが完璧にやってくれたよ。
大臣達は、ジェレマイアさんの料理の味に明らかに驚愕していた。
美味しいか?
どうだ、参ったか。
ジェレマイアさんは、世界最高の文明都市【ドラゴニーア】で生活していたピオさんや、贅を尽くした食事を食べ慣れているディーテやヨサフィーナさんをして、一流と太鼓判を押される料理人。
それに、この大臣達は、【湖竜】や【地竜】や【コカトリス】なんていう強力な魔物の肉など口にした事もないのだ。
頰っぺたが落ちるだろう?
ふっふっふ、オマイ達ごときに侮られるような【サンタ・グレモリア】ではないのだよ。
ざまあみなさい。
「この料理を作った料理人に挨拶したいのだが、構わないだろうか?」
マクシミリアン王が言った。
給仕をしてくれていたキャリスタさんが、夫のジェレマイアさんを呼びに行く。
すぐに、ジェレマイアさんが現れた。
「素晴らしい料理だった」
マクシミリアンは、言う。
「ありがとうございます」
ジェレマイアさんは、深々と頭を下げた。
「この料理は、南【ドラゴニーア】料理だと思うのだが……相違ないだろうか?」
「はい。【アルバロンガ】料理でございます。私の師匠は、【パダーナ】の出身で、若い頃、隣の【アルバロンガ】の地に移り料理修行をしたのです」
異世界的には、世界4大料理なるものがあるらしい。
精緻な技巧の限りを駆使した、セントラル大陸【ドラゴニーア】の西……【ラウレンティア】料理。
大衆的な料理ながら万民から支持される、セントラル大陸【ドラゴニーア】の南……【アルバロンガ】料理。
山海の野趣溢れる素材を使い、焼きの技術と、ソースへの拘りを芸術の域にまで高めたウエスト大陸【ガレリア共和国】の首都【マッサリア】料理。
四季折々の素材の味を究極まで突き詰めた、イースト大陸【タカマガハラ皇国】料理。
因みに【ブリリア王国】の料理は世界一不味い事で有名で、その次に不味いと云われている【ウトピーア法皇国】料理と並んで、馬鹿にされている。
「では料理長の出身は、何処なのだ?」
マクシミリアンは訊ねた。
「生まれも育ちも【アヴァロン】でございます」
「ほう。では【イースタリア】に師匠の店があったのだな?」
「いえ、師匠の店は【アヴァロン】にございます」
「なるほど。では、グレモリー殿が、料理長の腕を見込んで、請うて【サンタ・グレモリア】に招かれたのですね?」
マクシミリアンは、私に訊ねる。
マクシミリアン……オマイ、その話題を私に振るのか?
やぶ蛇、って言葉の意味を知っているか?
「マクシミリアン。ジェレマイアさんは、息子のアーヴィンが【アヴァロン】で馬車に轢き逃げに遭い、重傷を負ったんだよ。妖精教会の中央聖堂に行ったら、店を売らなければならないような法外な治療費を要求され、なおかつ、傷の手当てはデタラメで、アーヴィンは死にかけた。2回目に妖精教会の中央聖堂に行ったら、今度は治療費が払えないなら診ないと治療を拒否されたんだよ。それで、私の噂を聞きつけて藁をもすがる思いで、家族で【サンタ・グレモリア】に、やって来たんだ。アーヴィンは私が治療した。あと数時間治療が遅かったらアーヴィンは助からなかった」
「なんと、それは……」
「良いかい?これが【ブリリア王国】の現実だ。【ブリリア王国】の王都たる【アヴァロン】の衛士隊は、白昼堂々大勢の人達が目撃している目の前で子供をはねた馬車すら逮捕出来ずにいる。無能で職務怠慢な腐った組織だ」
私が、事実、を告げると、マクシミリアンが連れて来た、1人の大臣の眉尻がピクリと動いた。
どうやら、こいつが、【ブリリア王国】の衛士を管轄する内務大臣らしい。
「王のお膝元の中央聖堂は、まともな医療技術すら持ち合わせておらず。善良で優秀な市民が路頭に迷うような法外で不当な治療費を請求し、あまつさえ、自分達の治療の失敗で死にかけている子供を……治療費が払えないから……と見殺しにする始末。人を殺して金を稼いでいるんだから、妖精教会の連中は殺し屋と同じだよなあ、マクシミリアン?」
私が、続けて、事実、を告げると、保健福祉大臣が青い顔をする。
「【イースタリア】では妖精教会の中央聖堂の命令で、【湖竜】への生贄として、孤児を食べさせるなどという醜悪極まりない事を平然としている。妖精教会の連中は地獄に堕ちれば良い。それに唯々諾々と従う、地方領主も同罪だ。そう思わないか?マクシミリアン」
私が、さらに追い討ちをかけると、保健福祉大臣は顔面蒼白となり、リーンハルトは苦虫を噛み潰したような顔をして下を向いた。
「マクシミリアン。これら全ては、王たるオマイの責任だ。私は、この国の王は、いる意味も、生きる資格もないと思うのだけれど、オマイはどう思うね?」
「仰る通り、全ては、王たる私の不明。申し開きのしようもございません」
マクシミリアンは、言う。
「いいや、オマイには、反省する気も、国を憂う心もない。オマイは……国難に立ち向かう英雄の気風がある勇王だ……なんて、太鼓持ちの大臣連中にゴマを擦られて、気持ち良くなっているだけの国家の寄生虫だと思うね」
マクシミリアンは、寄生虫、という言葉に反応して、目を見開いた。
怒ったのだろう。
「民の税で生かされているオマイが、民の為に働かないのだから、オマイは即ち、【ブリリア王国】の民に寄生する害虫だろう?」
「上手い事を、仰いますね」
ピオさんが、笑った。
「ならば、グレモリー殿になら妙策がおありか?」
マクシミリアンは、多少、色をなして言う。
ふん、逆ギレして来やがったな?
その挑発に乗ってやる。
「教えてやる。私が、オマイの立場なら、まず、剣を一本引っさげて、妖精教会の中央聖堂に乗り込んで、腐った高位聖職者を片っ端から斬り捨てるよ。その上で生き残りの聖職者達に、剣を突き付けて脅迫しながら……民の為になる聖堂運営をするように……と1人ずつ【契約】させるだろうね。オマイは、何故そうしない?」
「そんな無体な真似は出来ません。問題のある妖精教会とはいえ、医療を行うには、あの者達を使わなくてはなりません」
「マクシミリアン。今回、オマイは、私のところに、【医療魔法士】の卵である留学生を寄こしたな?それを、もっと早くしていれば良かっただけではないか?私が、この湖畔に住み着く前でも、【ユグドラシル連邦】や【ドラゴニーア】など医療先進国に留学生を送り出し、頭を下げて、金を払い、依頼する事は出来ただろう?何故、それをしなかった?」
「それは……」
「オマイは、そうやって、グダグダと愚にもつかない言い訳を自分自身にして、民の敵である妖精教会を、今日まで生き長らえさせている。どんな言い訳で取り繕ったとしても、事実として、オマイは、民の敵たる妖精教会の最大の擁護者なんだよ」
「妖精教会の中にも我が意を汲んでくれる、心ある聖職者もおります。その者達を支援し、腐った高位の聖職者の力を削ぎ、内部から妖精教会を浄化しようと……」
「聖堂の聖職者を全員、免許制にしろ。民の為に働く、と【契約】した者にのみ免許を発行するんだよ。そうすれば、そんなクダラナイ政治の駆け引きなんぞ必要ない」
「それを、妖精教会が黙って受け入れるとは、思えません」
「妖精教会の抵抗は無視しろ。政治的な圧力をかけられたら武力を用いて制圧しろ。妖精教会に傀儡にされたり、賄賂をもらっている貴族連中が妨害して来たら、その貴族家を廃して領地を取り上げ、志ある者に首をすげ替えろ」
「そんな事をすれば、内戦になります」
マクシミリアンは言った。
「それが狙いだ。戦争になれば、敵と味方の区別がわかりやすくなる」
「内戦になれば、民に無用な苦しみを与え、他国につけ入られます」
「民の苦しみは一時的なモノだ。病でも高熱が出る事があるけれど、あれは、体内に浸入した病の元を殺す為に体の免疫機能が戦っているから起きるんだよ。【ブリリア王国】は今、変わらなければ死ぬぞ。他国につけ入られるなら、戦え。その為に王はいる。それで負けるなら、それは、オマイが戦争に弱いからだ。私の知ったこっちゃない」
「国家運営とは、そのように単純なモノでないのです」
ほーう、私が国を運営した事がないとみて、そんな事を言っているな?
馬鹿め。
私が、マクシミリアンに反駁しようとすると、機先を制して、ディーテが話し始めた。
「マクシミリアン王。グレモリーちゃんは。900年前【イスタール帝国】の帝位に就いた事があるのよ。たった半年間の臨時皇帝だったけれどね。当時、【イスタール帝国】は世界最貧国だった。周りは砂漠だらけ、主要な産業もない。グレモリーちゃんは、半年間で矢継ぎ早に政策を打ち出し、国家の悪習を全て破壊し、教育制度や医療制度を整備し、国を富ませ、軍を強化し、今に続く強国【イスタール帝国】の礎を築いたのよ。従う者には慈愛を持って向き合い。従わない者には苛烈に対峙した。恐るべき手腕だったわ。世界に冠たる【アシュールバニパル大図書館】や、学問の殿堂【イスタール帝国大学】は、グレモリーちゃんが創ったのよ。私は、グレモリーちゃんを何度も【ユグドラシル連邦】の盟主にしようと頼んだくらい。まあ、【ユグドラシル連邦】は、最悪、という訳ではないから断られ続けているけれどね。もしもグレモリーちゃんが、一言、やる、と言ってくれたら、私は、すぐにでもグレモリーちゃんを【ユグドラシル連邦】の盟主にするわよ。マクシミリアン王、グレモリーちゃんは、あなたみたいな愚鈍な王とは、格が違うわ」
ディーテが言った。
勝負あり。
マクシミリアンは、もはや何も言い返せない。
ま、あれは、私の力というより、私を手伝ってくれた、千人のユーザーが優秀だったから出来た事だけれどね。
私が担った役割は、暴力装置。
ユーザーの皆や私達に与する【イスタール帝国】の臣民の、実力行使を担う後ろ盾となり、従わない反対勢力を徹底的に破壊・蹂躙しただけだ。
マクシミリアンは、【アヴァロン】に戻り次第、直ちに聖職者免許制を導入し、以前の約束通り、妖精教会を5年以内に必ず廃教する、と【契約】した。
・・・
昼食後。
私は、駅馬車を受け入れ、患者さんを治療し、駅馬車を送り出した。
今回から、フェリシアとレイニールにも、私が治療する様子を見せる事にする。
【ブリリア王国】からの医療留学生も見学していた。
彼女達は、人数が多いので、交代で見学する。
マクシミリアンは、アリス、リーンハルト、皇太子アーチボルト、大臣達と国軍司令官と近衛騎士団長……それからオブザーバーとして世界銀行ギルド副頭取のピオさんと、元【エルフヘイム】の女王ヨサフィーナさんと、元【エルフヘイム】の祭司長イーリスさんを交えて今後の方策を決めていた。
さしずめ【ブリリア王国】国家改革会議。
私は、その場にいた、マクシミリアン、リーンハルト、皇太子アーチボルト、大臣達、国軍司令官、近衛騎士団長に対して……【ブリリア王国】の民に奉仕し、それを推進するマクシミリアンに忠誠を誓う……という【契約】をさせた。
これは、王であるマクシミリアンが命じると問題がある。
何故なら、王が臣下を全く信頼していない、という事になるからだ。
でも、部外者の私が無理やり強要するなら問題ない。
ま、私に焚き付けられて決意を固めた今のマクシミリアンが命じれば、断る臣下はいないと思うけれどね。
事ここに至って断るのは、マクシミリアンに謀反を起こそうとしている連中だけだろう。
因みに、アリスには【契約】はさせていない。
あの子は、私の身内だし、【サンタ・グレモリア】は【ブリリア王国】の傘下には入っているけれど、一応、対等の同盟関係だからだ。
私は、改革会議には、参加しない。
私には関係ないし、興味もないからね。
私は、日課のフェリシアとレイニールへの魔法の指導をしている。
【クレイ・ゴーレム・ドラゴン】を造り、フェリシアとレイニールに戦わせていた。
私は、【クレイ・ゴーレム・ドラゴン】を操作しながら、離れた場所に座っている。
私の隣には、ディーテが座っていた。
「さっきの、お芝居だったでしょう?」
ディーテが言う。
「何が?」
「アレは、マクシミリアン王に気合いを入れて奮起させる為の、お芝居。グレモリーちゃんは、いつもそうよね?傍若無人で悪逆非道の演技をして悪者然とした立ち回りをして非難を一身に受けて、それで他人を英雄に仕立て上げるのよ。私の時もそうだし、【イスタール帝国】の時もそう。危機を救い、偉業を成したのは全部グレモリーちゃんの手柄なのに、必ず、賞賛は他人に譲っちゃう。また、自分が悪者になって、マクシミリアンを【ブリリア王国】救世の英雄に仕立て上げようとしているんでしょう?」
「ディーテの考え過ぎだよ。私は、行き当たりばったりで、直情即断。お馬鹿だから、難しい事なんか何も考えていないよ」
「いいえ、誤魔化しても私には、わかっているから」
「あ、そう」
「それじゃあ、グレモリーちゃんは、褒められないわよ」
「興味ないよ。他人から褒められたい、っていう気持ちが周囲にバレる奴って一番ダサいじゃん。私は、やりたいようにやる。それだけ」
「手伝うわ。それで目的を達成したら、私が褒めてあげる。その為に来たんですもの」
「あ、そう。物好きだね?」
「グレモリーちゃんほどではないと思うんだけれど」
「次の一手はどうなるかな?【ウトピーア法皇国】が攻めて来るのが先か、国内の貴族や妖精教会の反乱が先か……」
「両方かもしれませんよ」
ピオさんが、やって来て言う。
私は【マップ】で気付いていたけれど、ディーテはピオさんの不意の登場に驚いていた。
ディーテほどの絶対的強者に気配を悟られないとか、ピオさんの神出鬼没っぷりはマジでヤバイね。
ピオさんの担当する【ブリリア王国】の財務健全化策と景気浮揚策は、既にピオさんが用意していた詳細な試案書があり、それをマクシミリアンと財務大臣に手渡して用は足りたらしい。
さすがピオさん、仕事が早いね。
「どゆこと?」
「【ウトピーア法皇国】と、マクシミリアン王の治世の足を引っ張る国内の貴族と妖精教会とは、利害が一致しています」
ピオさんは、言った。
「なるほど。【ウトピーア法皇国】が、【ブリリア王国】の反王派貴族や、妖精教会の黒幕だっていう事?」
「はい。私が【ウトピーア法皇国】の指導者なら、そのような謀略を仕掛けますので」
なるほどね。
・・・
夕方の駅馬車が到着。
私は、患者さんの治療をした。
フェリシアとレイニールと医療留学生達は見学。
駅馬車を送り出した。
「さてと、晩ご飯を食べに行こう」
「はい」
「はーい」
私は、フェリシアとレイニールを連れて、アリス・タワーに向かった。
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