第181話。グレモリー・グリモワールの日常…44…正式和睦成立。
本日3話目の投稿です。
9月29日。
早朝。
私は、フェリシアとレイニールに起こされた。
「おはよう」
「おはようございます。グレモリー様」
「おはようございます」
【漆黒のトンガリ帽子】を被って、【魔女のトンガリ靴】を履く。
さてと、今日も1日頑張りますか。
あ、そうだ。
「フェリシア、レイニール。そう言えばね、昨日、調べてもらったら、フェリシアとレイニールの、お爺ちゃんも、お婆ちゃんも、もういなかったんだよ。ごめんね」
「大丈夫です」
フェリシアは微笑んだ。
「グレモリー様と一緒なら平気」
レイニールも屈託なく言う。
私は、2人を抱きしめた。
私達は、見回りに出掛ける。
「出発進行〜」
「「お〜っ」」
私達が編隊飛行をしていると、ディーテが飛んで来た。
「みんな、おはよう」
ディーテは挨拶する。
「「おはようございます」」
フェリシアとレイニールは、挨拶を返した。
「おはよう、よく眠れた?」
「うん、とっても。毎朝、見回りしているんですってね。私も、ご一緒して良いかしら?」
ディーテは、訊ねる。
「構わないよ」
私達は、4人で見回りをした。
・・・
見回りの後は、魔法の朝練。
私は、【地竜】トラップから、【パイア】を逃して、フェリシアとレイニールに倒させた。
もう、2人とも問題なく倒してしまう。
時間が余ったので、私が【クレイ・ゴーレム・ドラゴン】を造って、訓練させる。
「凄いわね。いくら【アースガルズ】の血脈とはいえ、魔法を習い始めて1ヶ月にも満たないとは、にわかには信じられないわ」
ディーテが感嘆して言った。
「【エルフ】の基準で言えば、どのくらいのレベル?」
「エクセルシオールの一族にいれば、間違いなく私の後継者として育てたレベル。500年……いいえ、千年に1人のレベルね。それが、ここに2人もいる。ねえ、グレモリーちゃん、【エルフヘイム】にくれない。どちらか1人で良いから。大切にするわよ」
ディーテは言う。
「誰にも、あげないよ。ウチの子だからね」
「ダメ元で言ってみただけ」
ディーテは、手をヒラヒラと振って笑った。
嘘だね。
目がマジだったもん。
私とディーテの、やり取りをフェリシアとレイニールは、パスを通じて見聞きしている。
2人は、私がディーテの要求を突っぱねた事に安堵し、また同時に嬉しそうだ。
朝練終了。
私たちは、【パイア】を、何頭か取っ捕まえて、【地竜】トラップに補充してから村に戻った。
フェリシアとレイニールが仕留めた【パイア】2頭は、冷凍冷蔵庫に放り込んでおく。
こうしておけば、基本的に、古い物から順番に冒険者ギルドの解体職人さんが解体しておいてくれる。
フェリシアとレイニールにギルド・カードを作らせて、私のパーティ・メンバーとして登録をした。
なので、討伐実績は2人に付く。
魔物のコアは、私がもらう。
肉は、ジェレマイアさんが必要な分を確保して、余りは、商業区のホテル、レストラン、商店、村人さん達の家庭に格安で卸していた。
村人さんに格安で卸した分は、村人さん達の家庭で食べても良いし、値入れを添加して【イースタリア】などに転売しても構わない。
コアと肉以外の価値がある部位は、買取してもらう。
買取手数料を差し引いた金額を3等分して、フェリシアとレイニールと村の財源として振り込んでもらっていた。
・・・
村に戻って、キブリ警備隊への餌やり。
200頭の【竜魚】と、多数の稚魚達に、餌を投げてあげる。
「【超位】の【ヴイーヴル】を頂点にして、【高位】の【竜魚】の群が数百……ちょっとした国家戦力級だわね」
ディーテは驚いていた。
「うん、キブリ警備隊のおかげで、陸上と水中の魔物への守りは盤石だよ」
「なるほど。【エルフ】は、【調伏士】って少ないんだけれど、これは、国家が育成に動くべきだわね」
ディーテは、何度も頷いている。
「良いことばかりじゃないよ。【調伏】された魔物って、次世代に引き継げないからね。強力な【調伏士】が死んだら、ガクッ、と戦力が下がりかねない」
「でも、この【竜魚】は、【調伏】された魔物じゃないのよね?」
「そだよ。私が【調伏】したのは、群のボスのキブリだけ。あとは、キブリの配下だね。私は、キブリを通じて間接的に指示を出しているだけだよ」
「その場合、【調伏士】が失われた時点で、残った魔物はどうなるのかしら?」
「飼い慣らされた個体は、野良には戻らない。【ドラゴニーア】の【竜騎士】が乗る騎竜みたいな事だね」
「なら、グレモリーちゃんのやり方が一番合理的なのね。さすがだわ」
「意図的にした訳ではないから、結果オーライだけれどね」
「なるほど、研究する価値はあるわね」
「私達は、アリス・タワーで朝ご飯を食べるけれど、ディーテはどうする?」
「なら、ご一緒させてもらうわ。4人も連れて行って良いかしら?」
「うん、良いよ」
・・・
朝ご飯会議。
「マクシミリアン王陛下は、現在【イースタリア】に到着されました。この後、午前10時にこちらに参ります」
アリスが報告した。
「あ、そう。わかった」
マクシミリアンを迎える式次第を確認する。
内容はウイリアムを迎えた時と同じだ。
儀仗も軍楽隊もなし。
式典も晩餐もなし。
私は、事務的な効率を重視する。
それは、事前にマクシミリアンにも通告してあった。
秒単位でキリキリ動いてもらうからね。
「グレモリー殿。我らにも何か役割をくれぬか?お客扱いではなく、住民の1人と考えてもらって構わん」
元【エルフヘイム】の女王ヨサフィーナさんが言った。
「なら、有事の際は航空戦力と考えて構わないかな?指揮命令系統は、独立していて構わないけれど、【サンタ・グレモリア】が攻撃された時は、敵の航空戦力や遠隔攻撃戦力を叩いてもらいたい」
「承知した」
ヨサフィーナさんは頷く。
「ヨサフィーナちゃん。何でも、この村では、朝ご飯会議といって、毎日朝食を摂りながら朝議も一緒にやっているらしいわ。いっその事、私達も、毎朝参加してはどうかしら?グレモリーちゃん、アリスちゃん、よろしくて?」
ディーテが提案した。
「アリス、どうしたい?」
「はい、もちろん結構でございます」
アリスが言う。
「ヨサフィーナちゃん。私達も、明日から毎日参加させてもらいましょう」
ディーテが言った。
「畏まりました、ディーテ様」
ヨサフィーナさんは了承する。
こうして、ディーテ達も朝ご飯会議に参加する事が決まった。
・・・
朝食後。
駅馬車が到着。
私は、患者さんを治療。
駅馬車を送り出した。
「相変わらず見事としか言いようがないわね」
ディーテが言う。
「何が?」
「治療よ」
「あんなのは慣れだよ」
「【エルフヘイム】は、グレモリーちゃんの指導を基に医療技術を発展させて来たつもりだけれど、まだまだ、本家には敵わないわね」
私のスマホが鳴る。
アリスからだ。
「はい?あ、そう。わかった」
どうやら、マクシミリアンが【イースタリア】を発ったらしい。
私達は、港に向かった。
・・・
港。
私は、真っ先に、港とターミナルビルの境目の段差を平らに均した。
忘れない内にやっておかないと、また変なフラグが立つかもしれないからね。
マクシミリアンが到着した。
大型の軍艦、大型の輸送船、護衛の【砲艦】が20隻。
軍艦と【砲艦】は、【魔導砲】を上空に向け、さらにカバーを被せて入港してくる。
・・・
【ブリリア王国】のマクシミリアン・ブリリア王が、座乗艦のタラップを先頭で降りて来た。
後ろから、リーンハルトと若い青年が付いて来る。
今回は仰々しいフル装備の衛兵なんかはいない。
ま、艦の中にはいるんだろうけれどね。
迎える【サンタ・グレモリア】の側は、アリスを真ん中に、グレースさんとスペンサー爺さんが両脇に立つ。
私とディーテ達は、ターミナルの方から見守っている。
「王陛下。ようこそ、おいで下さいました」
アリスは、気品に満ちたカーテーシーをしてみせる。
「久しいの、アリス辺境伯。会うのは、いつ以来か?」
マクシミリアンは言った。
「5年でございます」
アリスは答える。
本来、侯爵家の令嬢であるアリスは、もっと王と頻繁に会っていてもおかしくない。
でも、アリスは、長く白血病で臥せっていたからね。
「そうか。堂々たる領主振りになったな」
マクシミリアンは、目を細めた。
「ありがとうございます。この両名が、グレース・シダーウッドとスペンサー・サイプレスです」
「「お初に、お目にかかります。王陛下」」
グレースさんとスペンサー爺さんが深く礼を執る。
「マクシミリアン・ブリリアだ。アリスを盛り立ててやってくれ」
「「はっ!」」
「アリスは、知っておろう。倅のアーチボルトだ」
「アリス辺境伯殿、お久しぶりです」
アーチボルト皇太子が言った。
「お久しぶりですアーチボルト殿下」
マクシミリアンとアーチボルト皇太子とリーンハルトは、こちらに歩いて来た。
そのタイミングで、パーシヴァルさんと、衛士長のナイジェル爺さんと、オスカーさんが、【ブリリア王国】側の大臣数名と軍司令官と騎士団長をエスコートする。
うん、実務者同士はあっちで挨拶すれば良い。
「お初に、お目にかかります。マクシミリアン・ブリリアでございます。ディーテ・エクセルシオール様、グレモリー・グリモワール殿」
マクシミリアンは、私達の前で深々と頭を下げ、恭しく礼を執った。
私とディーテは、1mmも頭を下げない。
これは、ピオさんのシナリオに沿った事前の根回しによる流れ。
本来、在野の世界市民である私より、国家元首であるマクシミリアンの方が儀礼格式は高い。
でも、マクシミリアンは、私に無条件降伏した。
つまり、私より立場は下という事になる。
無条件降伏とは、相手に殺生与奪の権利を与える、という事。
つまり、私に跪いてもおかしくない。
でも、それでは、不味いのだ。
権威が失墜するマクシミリアンはもちろん、私も避けたい状況なんだよね。
家臣が見ている前で、私に謙れば、ただでさえ弱体化したマクシミリアンの求心力は完全に失われてしてしまう。
私は、マクシミリアンを利用して、【ブリリア王国】の中枢に巣食うの邪教……妖精教会を潰すつもりだ。
マクシミリアンを完全に失脚させてしまうのは私の本意ではない。
なので、ディーテという存在を借りた。
ディーテ・エクセルシオールは、元【エルフヘイム】の【大祭司】。
現役時代なら肩書きの権威は、マクシミリアンより一段高い。
でも、現職ではないので、一段下がり、ディーテとマクシミリアンの儀礼格式は、同格。
さらに、大国【ユグドラシル連邦】と【ブリリア王国】を比較すれば、【ユグドラシル連邦】の方が格式が高いので、ディーテが一段上。
そして、ディーテの個人の偉業が、マクシミリアンを大きく上回るので、ディーテが二段上という解釈が成り立つらしい。
儀礼格式上、ディーテに対してマクシミリアンが謙るのは当然。
それをしても、マクシミリアンの権威を毀損などしない。
つまり、マクシミリアンは、私にではなく、私の隣に立つディーテ・エクセルシオールに礼を執ったのだ……と言い張る事が出来、これ以上権威は傷付かない訳だ。
同時に私は、マクシミリアンが私に礼を執った、と公式に言い張る事が可能。
お互いに損はない。
これは、全部ピオさんの策略。
あの人は、やっぱり凄いよ。
・・・
アリス・タワー。
私達は、具体的な諸々の事務処理を行った。
取り決められたのは以下の内容。
【サンタ・グレモリア】は、【ブリリア王国】の国土の一翼をなすが、独立自治を認められる。
【サンタ・グレモリア】は、【ブリリア王国】から永久免税特権を与えられる。
【サンタ・グレモリア】と【ブリリア王国】は、相互不可侵を約定する。
【サンタ・グレモリア】と【ブリリア王国】は、安全保障協定を結ぶ。
【ブリリア王国】は、【サンタ・グレモリア】に【砲艦】10隻を無償譲渡する。
【ブリリア王国】は、【サンタ・グレモリア】に、鍛治・鉱業ギルドの審査基準における最高品質の、オリハルコン鋼材、アダマンタイト鋼材、ミスリル鋼材をそれぞれ100t無償提供する。
【サンタ・グレモリア】は、【ブリリア王国】から留学生を継続的に受け入れ【医療魔法士】として指導・育成する。
留学の経費は【ブリリア王国】が全額負担する。
留学生は留学期間中は、【サンタ・グレモリア】の病院で働く。
これらが、アリスとマクシミリアンの間で、世界銀行ギルド副頭取ピオさんを保証人として、【契約】された。
和睦成立。
早速、【砲艦】10隻が受け渡され、輸送船に乗って来ていた【医療魔法士】候補の留学生50人が受け入れられた。
私とマクシミリアンは、ガッチリ握手する。
「今後ともよろしく、お願いする」
「それは、アリスに言うんだね」
「アリス辺境伯、今後ともよろしく」
「王陛下。こちらこそ、よろしく、お願い致します」
さてと、この後も予定が立て込んでいる。
でも、その前に、お昼ご飯だ。
腹が減っては戦は出来ぬ、だからね。
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