第180話。グレモリー・グリモワールの日常…43…ディーテの思い出。
本日2話目の投稿です。
午後。
駅馬車が到着する。
新しい移住者がゾロゾロとやって来た。
工場従業員達だね。
ただし、工場は、まだ造っていないんだよ。
戦争騒ぎで計画の消化がままならない。
あー、私が、もう1人欲しい。
私は、患者さんの治療をする。
積み出しが終わり、駅馬車は出発して行った。
駅馬車と一緒にリーンハルトは【イースタリア】に戻って行った。
リーンハルトは、あの走行馬車に乗り込む際は、忌避感がありあり、という様子だったけれど。
ま、一度乗ってみれば、乗り心地は素晴らしいのだから、気に入るはずだ。
住めば都という言葉もある。
ちょっと違うか。
・・・
私は、フェリシアとレイニールに魔法を指導する。
「大切な、お客様がいらしているのですから、今日はよろしいのでは?」
フェリシアが気を使って言った。
「気にしなくて良いんだよ。この世界に私のスケジュールを変更させられる人間は、私以外にいないんだからね」
「あら、少しは、私の事も構って欲しいわ」
ディーテがやって来た。
どうやら【サンタ・グレモリア】の見学ツアーは終わったらしい。
あまり観るべき場所はないからね。
他の4人は、ホテルに入って寛いでいるらしい。
ディーテによると、【サンタ・グレモリア】の田舎の風情が気に入ってくれたみたいだ。
特に、集合住宅の上に木が植えてあるのが良いのだ、とか。
うん、あれは、私も上手く出来た、と自画自賛している。
豆腐建築を誤魔化す為だったけれど。
「ディーテ。ウチの子供達を紹介するね。はい、2人とも自己紹介して」
「フェリシア・グリモワールです。ディーテ様」
フェリシアは、緊張気味に挨拶した。
【大祭司】のディーテ・エクセルシオールの名を知らない【エルフ】はいない。
世界中に暮らす全【エルフ】族にとって、ディーテは伝説的存在……神にも等しい人物だ。
フェリシアとレイニールは、信仰とか崇敬とか、まだよくわかっていないから、たぶんサンタクロース的な人に会ったみたいな感覚なんだと思う。
「レイニール・グリモワールです」
レイニールは、姉ほどの気負いはなく、ペコリとお辞儀した。
「あら、フェリシアちゃん、レイニールちゃん、おりこうさんね」
「そうでしょう。自慢の子達だから」
「グレモリーちゃん、いつ子供なんか作ったの?この子達は、【エルフ】よね?つまり旦那は【エルフ】ね?どこの一族の男かしら?こんな重要案件を私に内緒にしているなんて、許せないわ」
「いや、養子だから」
「あら、本当、血縁はなさそうね……。この子達……【アースガルズ】の血脈だわ」
ディーテは、フェリシアとレイニールを【鑑定】しながら言った。
【アースガルズ】って言うのは、ノース大陸の中央国家【エルフヘイム】にある中央聖域から【門】を通って行く事が出来る、隠しマップ。
セントラル大陸の【ドラゴニーア】で言えば、竜城の【門】から行ける【シエーロ】と同じような位置付けの場所だ。
【エルフヘイム】の中央聖域には、【世界樹】が生えている。
【アースガルズ】への【門】が開く条件は、ノース大陸にある4つの遺跡をクリアする事。
【シエーロ】の場合、5大大陸にある全遺跡20か所をクリアしなくてはならないから、【シエーロ】の方がマップ解放の難易度が高いね。
「え?【大祭司】って、【鑑定】で、そんな事もわかるの?遺伝子情報とかを読み解く訳?」
「まさか。この子達の魔法適性から類推しただけよ。グレモリーちゃんの実子ではなく、【才能】持ちでもなくて、王家の血脈でもなくて、古に連なる家名も持たないのに、これだけの凄まじい魔力と魔法適性がある。可能性として考えられるのは、【アースガルズ】の血脈だからよ。因みに、私も生まれは【アースガルズ】なの」
ディーテは言った。
なるほど。
この子達が魔法の天才なのは、それが原因か。
「つまり、【アースガルズ】に行けば、フェリシアとレイニールの親類を見つけられるかな?」
【エルフ】は長命だ。
祖父母や、もっと古い先祖が生きていても不思議ではない。
「いればね。ちょっと待って」
ディーテは、自分の【宝物庫】から、小さな器具を取り出した。
「何するの?」
「遺伝子のサンプルを取らせて。【エルフヘイム】に情報を送って、照会してもらえば、親類がいればヒットするはずだから。フェリシアちゃん、レイニールちゃん、ちょと手を出して」
フェリシアとレイニールは、不安そうに私の顔を見る。
「痛い事はしないでよ」
私は、フェリシアとレイニールを庇いながら言った。
「大丈夫。サーチするだけだから、痛みはないわ」
ディーテは、フェリシアとレイニールの手の平に器具を当てる。
フェリシアとレイニールは、まだ、不安気だ。
「はい、OK。これで、今日中には結果が送られてくるわよ」
ディーテは、言う。
あ、そう。
「あのう、グレモリー様。もしも、私達の親類が見つかったら、どうするんですか?」
フェリシアは、不安気な様子で訊ねた。
「グレモリー様と離れ離れになるのヤダ」
レイニールが言う。
あ、それを心配している訳か。
「大丈夫。フェリシアとレイニールは、私の子供だから、どこにもやらないよ。ただ、もしも、フェリシアとレイニールのお爺ちゃんやお婆ちゃんがいたら、たまには会えたら良いでしょう?私と一緒に会いに行こう」
「はい。グレモリー様と一緒なら、会いに行きたいです」
フェリシアは、ようやく安堵したように言った。
「お爺ちゃんとお婆ちゃん?」
レイニールは小首を傾げる。
「うん、フェリシアとレイニールのお父さんとお母さんの、そのまたお父さんとお母さんだよ」
「ふーん」
レイニールは、ピンとこない、様子だ。
【イースタリア】の孤児院の子供達は、あまり家族や親類の情報を知らされていないらしい。
子供を寂しがらせたりしないようにする目的だと思うのだけれど、それは、良し悪しだと思うんだよね。
時には、自分達の境遇と向き合う必要もある。
どっちにしろ、世間の荒波に負けないように、強く生きていかなければならないのだから。
私は、【サンタ・グレモリア】に移った孤児達には、原則わかっている情報は、ありのままに伝える方針に変えた。
両親が犯罪者だった、などという場合を除いてだけれど。
「ディーテ。フェリシアとレイニールについて、もう一つ聴きたい事があるんだけれどさ」
「何かしら?」
「この子達……何だか、私の使徒って扱いになっているんだよね」
「そうね」
「何で?」
ディーテは、引退したとはいえ、元【大祭司】。
つまり、ノース大陸の守護竜【ニーズヘッグ】の使徒筆頭という位置付けにあった訳だ。
きっと、使徒、というモノについて詳しく知っているに違いない。
いわば、使徒界隈の専門家なのだから。
「使徒っていうのは、極論するなら眷属と同種のモノね。眷属は強制的に従わせる訳だけれど、使徒は自ずから従う者達よ」
「使徒になる条件て何?」
「色々とあるけれど、ザックリと言うなら、対象への無条件の信頼、よ。信仰対象に無条件の信頼を預ける事が絶対条件。それこそ対象の為なら喜んで死ねるくらいにね。そして、それは自発的なモノでなければダメ。宗派によっては、帰依、とも言うわ」
「親子関係とか、夫婦関係とか、そういうの?」
「いいえ、それ以上のモノよ。親子の信頼や、夫婦の信頼は、種の保存本能というモノに支配されていて無条件でも自発的でもない」
「うーむ、よくわからないね」
「まあ、この説自体、経験則的にそうであろう、ってくらいの説得力しかないのよ。もしも、使徒条件が明確にわかっていたら、使徒を簡単に増やせて楽なんだけれどね」
「つまり、何も確たる事は言えない、って訳だね?」
「身も蓋もない事を言えば、そうね。とにかく、信頼に足る論理的根拠がないにも関わらず、相手に無条件の信頼を預ける……これが、使徒の条件、だと考えてられているわ。だから、作為的に使徒を作る方法は、発明されていないわね。あくまでも偶然の産物なのよ」
「あ、そう」
とりあえず、理由はわからなかったけれど、問題は解決したね。
つまり、フェリシアとレイニールが、何故、私の使徒になったのか、は考えてもわからないのだから、考える意味がない、という事だけはハッキリした訳だ。
・・・
夕方の駅馬車が到着した。
朝から順次やって来た工場従業員さん達は、総勢100人。
グレースさんが入村手続きをしていた。
工場……造らなくちゃ。
でも、保育園と学校の増築の方が、優先順位は高いね。
工場従業員さんは、すぐ働き始める訳ではない。
色々と、村のルールや施設の使い方などを覚えてもらう必要もあるからね。
なら、工場は明日以降で大丈夫。
私は駅馬車を見送った。
ふと、気がつくと、フロレンシアがルパートと手を繋いで歩いている。
デートかな?
フロレンシアは、悪阻が酷くて、大事をとって入院していたけれど、今朝から退院していた。
2人が、私に気が付いて挨拶する。
仲が良くて、微笑ましい。
「フロレンシア、ルパート。その後どう?」
何が、どう、なのか、と思うんだけれど、この言葉は魔法の言葉だ。
特に、相手に訊ねたい事もない時に、どう、と訊ねれば、問題や懸案がある時は、相手の方がそれを教えてくれる。
曖昧な表現って、存外役に立つ。
「問題ありません」
フロレンシアは、お腹を撫でて言った。
「グレモリー様。馬の世話係を付けて下さってありがとうござます。さすがに1人で50頭の馬の世話は無理でしたので」
ルパートは礼を言う。
「ルパートには、先々、畜産の責任者もしてもらわなくちゃ、だからね。あの人達は、ルパートの部下として考えて構わないよ」
「ありがとうございます」
フロレンシアは、【イースタリア】にいた時は、旧コンラード屋敷で20人の使用人に囲まれて暮らしていた。
でも、これからはルパートと2人暮らし。
すぐ近くにパーシヴァルさんも奥さんもいるのだから、何とかやって行けるでしょう。
食事は、ジェレマイアさんが作って、2人の家にアリスの使用人(元コンラード家の使用人)達が運んでくれているし、掃除洗濯なんかもやってくれる。
フロレンシアは、産休が終われば、アリス家の家宰として働いてもらう予定だ。
フロレンシアは、アリスと匹敵するくらいの才媛。
アリスが高額な報酬で雇われた家庭教師陣に指導されて知識と教養を身に付けたいのに比べ、貧乏子爵家に育ったフロレンシアは全て独学だ。
もしかしたら、学識の素養はフロレンシアの方が、アリスより高いかもしれない。
フロレンシアなら、十分にアップルツリー家の家宰の役目を果たせるだろう。
・・・
夕食。
今夜のメニューは、さつま揚げの入ったポトフ風おでん、切ってレバーペーストを塗ったカマボコ、チクワと野菜の炒め物……などなど、魚の練り物尽くし。
実は、村の新たな産物として、魚の練り物を商品化する事にした。
それを使った試作メニューの試食を兼ねている。
ディーテ達も、面白がってホテルからやって来て試食会に参加した。
湖魚は、白身の淡白な種類が多くて、臭みも少ないので練り物には向くと思う。
とりあえず、カマボコ、チクワ、さつま揚げを作ってみた。
さつま揚げは、【ブリリア王国】では食用油が高価な事もあって、販売価格が高額になってしまうから、どうかな、と心配したけれど、ジェレマイアさんに味見してもらったら……少々高くても売れる……と、お墨付きをもらえた。
さつま揚げは、魚のスリ身を練りあげて、油で揚げる。
野菜を細かく刻んで混ぜ込んだり、ウインナー巻きやげそ巻きみたいに変わりダネも色々作ってみた。
カマボコとチクワに関しては、スリ身を練り上げて、棒にくっ付けたり、板にコテで塗り付けたりして、焼いたり蒸したりすれば、良い。
日本のカマボコやチクワに比べると、ややプリプリ、モチモチ感が少ないようだけれど味は悪くない。
売れそうだ。
実は、今、【サンタ・グレモリア】は、深刻な人手余りに悩まされている。
人手不足ならぬ、人手余りだ。
異世界は、農作業が楽なので、皆、午前中には仕事が終わってしまう。
各戸に、魔法IHコンロが導入され始めて、火付けや、薪割りの手間がかからなくなったのも大きい。
村人さん達は暇なので、趣味で園芸や陶芸なんかを始めた人達もいる。
【魔法粘土】は、そこら中から無限に採れるので、皆、商業区の陶工の親父さんの見様見真似で、不恰好な皿やコップを作っているのだ。
ジェレマイアさんが開く料理教室も連日満員。
人手余りの理由は、異世界農農業がイージー・モードな事ばかりじゃない。
駅馬車隊の隊員達の家族や、コンラード家の使用人さん達の家族が移住して来たからだ。
70世帯300人弱。
この人達は、皆、勤労意欲と、【サンタ・グレモリア】に対する忠誠心が高いので、家事だけではなく、村の事業に参加したい、と積極的。
なので、以前から暇な傾向があった既存の村人さん達の仕事が、ますます少なくなってしまった。
いや、悪い事ではない。
手が空いたところで、何か他の仕事を見つけて、どんどん事業拡大してくれれば良いのだ。
でも、既存の村人さん達は、手が空くと、何をすれば良いかわからず、昼間から酒を飲み始めてしまう。
うん、農業に従事している村人さん達は、元は貧困層。
初等教育すら受けていない人がほとんどだ。
読み書き計算が出来ない。
計画を立てたり、将来設計をしたり、という観念が少し希薄だ。
なので、自分に充てがわれた仕事が終わると、何をすれば良いかわからず、暇を持て余す。
別に怠けている訳ではない。
村人さん達は、仕事があれば真面目に一生懸命に働いてくれるのだ。
扱き使って過重労働を科すのは論外としても、逆に手が空き過ぎるのもよろしくない。
なので、商業区の空き物件の幾つかを練り物工場、兼、販売店にした訳だ。
これで雇用を生み出し、人手余りを解消する。
試食会は、好評。
練り物は売れる、という手応えを得た。
ディーテ以外の【ハイ・エルフ】の古老の皆は、魚の練り物は、初めてだったようだけれど、気に入ってくれたらしい。
ヨサフィーナさんなどは、各種さつま揚げを【収納】に大量ストックしていた。
ヨサフィーナさんは、【エルフヘイム】の前女王。
随分と庶民的な女王様だ。
・・・
夕食後。
私は保育園と学校を増築する。
既存の保育園と学校の上に建て増しして5階建てにした。
現状の人数なら、3階建てなら十分に収容出来るけれど、基本的に余裕を持って建築しておいたほうが良い。
大は小を兼ねると言う。
私が【エルダー・リッチ】達と建築していたら、ディーテが、やって来た。
散歩らしい。
【エルフ】は夜目が効くから暗さは、ヘッチャラなのだ。
ディーテは、しばらく私の作業を見学していたけれど、その内手伝ってくれ始める。
ディーテのおかげもあって、あっという間に完成。
「王家の、ご先祖様達、綺麗に使ってくれているみたいね」
ディーテが言った。
「うん。誰も欠員はいないよ。傷付いても丁寧に修復しているしね」
「お墓の下で朽ちていくより、グレモリーちゃんの手足となって働く方が良いわね」
「そうであってくれたら良いんだけれどね」
私は、【エルダー・リッチ】を回収する。
ディーテから、フェリシアとレイニールの親類について情報があった。
どうやら、遺伝的に最も近い人物でも、5親等も離れているらしい。
フェリシアとレイニールの先祖は、古代に【アースガルズ】で、内戦が起きた時に負けた側の人達で、その近縁者は、皆、あまり幸せではない亡くなり方をしているそうだ。
つまり、フェリシアとレイニールは、【アースガルズ】から逃げて来た一族の末裔という事。
ディーテからフェリシアとレイニールの情報がもたらされても、親類は、特に喜ぶでもない様子だったのだ、とか。
「どうする?会うなら、段取りはするわよ」
「あまり歓迎されそうもないんだね。なら、会わせないよ。ま、その内、【アースガルズ】には連れて行ってあげても良いけれどね。あの子達のルーツだからさ」
「そう」
ディーテは微笑んだ。
私とディーテは、その晩遅くまで、昔話や近況報告などをして過ごした。
ディーテは色々あったみたい。
子供や孫達に恵まれて幸せを感じた話。
愛する夫や子や孫に先立たれて悲しみを感じた話。
私が知らない900年間の空白期間の出来事。
私の方は、900年前のある日から、気が付いたら900年が一瞬で過ぎ去っていた事。
【湖竜】と戦って、キブリを【調伏】して、フェリシアとレイニールを保護して……からの今日までの、あれやこれや……。
一つ確認出来た事は、ディーテとの友情は、900年前と何も変わっていないって事だね。
「ねえ、グレモリーちゃん。私、死ぬまでの、あと何百年か、グレモリーちゃんと一緒にいても良い?」
ディーテは、言った。
「好きなだけいたら良いよ」
「ふふふ、ありがとう。そうするわ」
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