第18話。ダンジョン考察。
冒険者クラス、及び、ランク。
ドラゴニウム・クラス。(竜鋼)
オリハルコン・クラス。
アダマンタイト・クラス。
ミスリル・クラス。
ゴールド・クラス。(金)
シルバー・クラス。(銀)
アイアン・クラス。(鉄)
カッパー・クラス。(銅)
レザー・クラス。(革)
上位3クラス…高位冒険者。
中位3クラス…中位冒険者。
下位3クラス…低位冒険者。
ドラゴニウム・クラスで、高位の魔物と互角。
ミスリル・クラスで、中位の魔物と互角。
アイアン・クラスで、低位の魔物と互角。
と見なされている。
人種は、超位以上の魔物とは、一対一では対抗出来ないという定説が一般的。(極めて困難だが、実は不可能ではない)
私とソフィアは、孤児院の出身者で就職口にあぶれ国外退去となる可能性がある子供に仕事を与え【ドラゴニーア】の在留資格を取得出来るように取り計らう事を決めました。
これはゲームマスターと【神竜】という公人としての立場ではなく、ノヒト・ナカとソフィアという一私人としての立場で行います。
私達は当面魔物の討伐などで稼ぎ、それを元手に会社を起業して永続的に孤児達の雇用を生むという方針で意見の一致をみました。
ソフィアは、今日は朝早くから市場に行った為に随分眠そうです。
「もう眠るのじゃ」
ソフィアは寝室に向かいました。
・・・
さてと、私はソフィアに造ってあげると約束した50mの【アイアン・ゴーレム】の設計図を書きますか……。
これを私が一人で製造するのは不可能だとは思いませんが、大変ですし時間もかかりますし第一面倒臭いです。
なので私は、基幹部以外は丸っと外注してしまうつもりでした。
その為の設計図です。
骨格・可動部・外装などは外注。
私自身は【コア】となる【魔法石】に【魔法公式】を刻み回路系を組み上げ、基幹部を構築する役割を受け持ちます。
それには、まず巨大な【アイアン・ゴーレム】を起動させられる性能の巨大な【魔法石】……つまり【ダンジョン・コア】を入手しなければいけません。
これが想定していたより大変な事になりそうです。
現在、私がいるセントラル大陸には【遺跡】が4つと【隠しマップ】があります。
セントラル大陸の北東・北西・南東・南西にあるのが4つの【遺跡】で、大陸中央の【竜都】のランド・マークである【竜城】の最上階から【転移門】で繋がった先にあるのが【隠しマップ】です。
この大陸の基本構造は世界共通。
つまりセントラル大陸だけではなく、その他の大陸も主要都市と4つの【遺跡】の位置関係、そして【隠しマップ】がある事などオブジェクトの配置は同じでした。
【隠しマップ】は各大陸の4つの【遺跡】を全て攻略すると【転移門】が通行出来るようになります。
一種の裏面という扱いでした。
この各大陸から行ける【隠しマップ】なのですが……。
セントラル大陸の【隠しマップ】に限っては、5大大陸にある20箇所の【遺跡】を全て攻略しなければ辿り着けません。
ゲーム時代にゲームマスターとして活動していた私は、マイ・キャラを運営の管理端末の操作でマイ・キャラを、あらゆる【マップ】に自由自在に移動させられました。
なので、私が現在使用している……というか、私の自我が宿っているゲームマスター・アバターは、【遺跡】を攻略した実績が全くありません。
つまり、異世界転移して管理端末を操作出来なくなった現時点で、私は【隠しマップ】に行けなくなってしまったのです。
ただし、私は無敵のゲームマスターですし、【遺跡】の設定も全て知っていますので、今からでも全ての【遺跡】を攻略する事は難しくありません
セントラル大陸の【竜城】最上階から繋がる【隠しマップ】は2つありますが、1つは単なる部屋に過ぎません。
あの部屋はセントラル大陸4つの【遺跡】を攻略すれば【門】が通行可能になる【創造主の神座】と呼ばれる場所で、ユーザーが自分の過去の活躍をムービーで観たり、実績開放によって獲得した【称号】を見られるという……所謂トロフィー・ルームです。
なので、運営側の私には、特段訪れる価値がない場所ですね。
もう1つの【隠しマップ】こそが重要でした。
そこは5大大陸にある20箇所全ての【遺跡】を攻略しなければ行けない、虚無海に浮かぶ【シエーロ】という大陸。
私が、この世界をプライベートで遊んでいた時に所有していた研究室や工房やガレージや格納庫など有用な資産がある自宅と2軒の別荘も全て【シエーロ】にあります。
特にガレージや格納庫には、私が造ったり購入したりした数々の玩具の類が置いてありました。
アレらがあれば、私の現在の不自由な状況を多少は好転させられるかもしれません。
アレらは、ゲームマスターの業務には関係がないプライベートな遊び場と遊び道具だったので、ゲームマスター・アバターの【収納】に入れて持ち歩いてはいなかったのです。
あの玩具の数々をソフィアに見せてやれば、きっと面白がるでしょうね。
いつかは全ダンジョンを制覇して【シエーロ】にある自宅や別荘へと自由に行き来出来る状況にしたいものです。
それから、私はゲームマスターとして【シエーロ】に戻らなければならない理由もありました。
あれは、ゲームマスターの職務遂行上、必須なのです。
話がズレました。
50mの【アイアン・ゴーレム】に必要な【ダンジョン・コア】の入手が想定していたより困難だという話です。
当初、私は今いるセントラル大陸の何処か手近な【遺跡】に潜り、手っ取り早く【ダンジョン・コア】を確保するつもりでした。
【ダンジョン・コア】は【遺跡】と一緒に成長します。
【遺跡】の設定上の最大の大きさは99階層。
つまり99階層の【ダンジョン・コア】が最大なのです。
【遺跡】の最小規模は30階層。
プレイヤーの誰かが【遺跡】をクリアすると、育った【遺跡】は一度30階層にリセットされます。
リセットから丸1年間、【遺跡】は、その規模を維持しました。
1年が経過すると【遺跡】は再び成長を始め規則正しく7日間で1階層成長します。
つまり、リセットから2年と17週で、【遺跡】は最大の99階層に成長しきります。
50mの【アイアン・ゴーレム】を私が納得するレベルで動かすには、最低限50階層超クラスの【ダンジョン・コア】が必要。
もちろん、それ以上であれば尚の事良しですが……。
問題なのは、現在セントラル大陸には50階層超に成長した【遺跡】が1つも存在しないという事なのです。
これは偶然ではありません。
セントラル大陸では魔物の討伐や【遺跡】の攻略を冒険者などの民間に任せきりにはせず、国家が主体となって行なっています。
つまり、セントラル大陸の4つの【遺跡】は【ドラゴニーア】の軍が巡回して順番に攻略をしていました。
これには理由があります。
【遺跡】の成長の上限は99階層。
【遺跡】は成長しきった後も内部で魔物を生み出し増やし続けます。
やがて、魔物が【遺跡】内に満ちて生息密度が設定値以上に高まった【遺跡】は、内部の魔物を【オーバー・ワールド】にオーバー・フローさせました。
この時に増え過ぎた魔物の余剰分だけでなく、【遺跡】が空っぽになるまで全ての魔物を溢れ出させるのです。
これは……【スタンピード】……と呼ばれていました。
【スタンピード】で【遺跡】から溢れた魔物は、攻撃性が高く狂乱・暴走状態になっているので、一度【スタンピード】が起きると魔物達はイナゴの群れが麦畑を荒らし尽くすように人種の生存圏を蹂躙します。
この【スタンピード】が、こちらの世界の住人にとっては想定し得る最悪の自然災害かもしれません。
【スタンピード】時には特に強力な個体である【ダンジョン・ボス】も暴走してしまいます。
本来【ダンジョン・ボス】になるような魔物は上位種なので相当程度高い知性を持っていますが、一度【スタンピード】が発生すると【ダンジョン・ボス】も知性を失い血に飢えた凶暴な魔獣となりました。
千二百年前、セントラル大陸を震撼させた【テュポーン】の猛威も、この【スタンピード】によるモノだったそうです。
【スタンピード】が起きると、その大陸は阿鼻叫喚の地獄絵図のような有様になりました。
実際、私がログインしなかった900年の間に起きた【スタンピード】によって、幾つもの国が滅んでしまったそうです。
【遺跡】が99階層に成長しても、必ずしも【スタンピード】を起こす訳ではありません。
適切に【遺跡】内の魔物を討伐し、魔物が増え過ぎないように生息密度を適切に管理・調整してやれば良いのです。
これは一般に……間引き……と呼ばれていました。
【遺跡】は魔物から取れる素材や【魔法石】、または【宝箱】に入っているアイテムなどを産出する、言わば無限鉱山の意味合いもあります。
【遺跡】は階層が深くなる程危険性が高まりますが、その分獲得出来る素材やアイテムの質も高くなるので、99階層の【遺跡】は人種にとって宝の山。
従って、あえて99階層の【遺跡】を維持・管理して、それを資源として活用しようとする国家もありました。
むしろ【遺跡】を管理するという国策が主流の考え方かもしれません。
長年の研究の成果と経験則によって【遺跡】の法則が一定程度解明されていて、【遺跡】は適切に管理すれば安全であるという認識が定着しているからです。
しかし、これは当然リスクもありました。
99階層の【遺跡】は間引きを失敗すれば、【スタンピード】を起こす時限爆弾のようなモノ。
このリスクを嫌って【ドラゴニーア】などセントラル大陸では各国申し合わせの上、【ドラゴニーア】軍が【遺跡】を巡回して管理していました。
【遺跡】が成長しきる前に軍が【ダンジョン・コア】を採取して、【遺跡】の成長をリセットしてしまう訳です。
安全保障上の危機管理という訳ですね。
【ダンジョン・コア】を失った【遺跡】は成長していた内部空間を消滅させて30階層にリセットされました。
その後、新しい【ダンジョン・コア】が生まれ、【遺跡】は再び30階層から成長し始めるのです。
【ドラゴニーア】軍は【遺跡】が最小30階層の1年間の間に【遺跡】を攻略していました。
つまり、セントラル大陸には50階層超の【遺跡】は存在せず、その大きさに見合った【ダンジョン・コア】も存在しません。
端的に言えば、【スタンピード】という災害を予防する為に……敵が弱い内に叩く……という事ですね。
【遺跡】の魔物のレベルは、原則として【遺跡】の階層に準拠します。
30階層の魔物はレベル30……99階層の魔物はレベル99という具合に……。
アルフォンシーナさんによると【ドラゴニーア】の兵士の平均レベルが20程度だという事です。
ゲーム時代の感覚では随分と弱くなっている気もしますが、まあ良いでしょう。
ゲーム時代より弱体化しているとはいえ、現代においても【ドラゴニーア】軍は世界最強ですから、諸外国の軍隊はもっとレベルが低く平均10程度と言われています。
因みに一般的な人種NPCの成人平均レベルは5程度。
つまり、基本的に【遺跡】の魔物は強いのです。
【ドラゴニーア】は数万〜十万単位の大軍を投入して、また強力な装備や兵器などで戦闘力をブーストして【遺跡】の魔物を揉み潰していました。
数の暴力ですね。
しかし、レベルが同じでも種族の違いや、人種と魔物では強さは違うので単純な比較は出来ません。
レベルは、あくまでも目安です。
レベル20の【人族】は同じレベルの【ドラゴニュート】には勝てず、レベル20の【ドラゴニュート】も同じレベルの【竜】には勝てません。
そして、レベル20の【竜】も、同じレベルの【古代竜】には勝てないのです。
この差を埋めるのが兵数、魔法、装備、アイテム、戦術……などなど。
戦い方がない訳ではありません。
そして、もう1つ。
【ドラゴニーア】軍が、なるべく小さな階層の内に【遺跡】攻略をする理由に【ダンジョン・ボス】の存在があります。
【ダンジョン・ボス】はレベル99で固定。
強力な戦闘力を誇る個体です。
世界最強と言われる【ドラゴニーア】軍の精鋭と言えども、所詮は人種の中での最強に過ぎません。
強い魔物と戦えば苦戦は必至。
ましてや【ダンジョン・ボス】は魔物の中にあっても別格の存在。
実際に千二百年前にはスタンピードで地上に現れた【ダンジョン・ボス】の【テュポーン】によって、セントラル大陸は、あわや滅亡の危機に瀕しています。
【デュポーン】の脅威は、当時の大神官が自分の生命を触媒にして【大儀式魔法】を行い【神竜】を顕現させ、【テュポーン】を打倒し、辛くも人種は滅亡を免れました。
この【ダンジョン・ボス】が生まれる条件が【遺跡】が50階層まで成長した時点なのです。
【ダンジョン・ボス】は50階層で生まれ、その後は常に【ダンジョン・コア】を守るように最下層に存在。
【ダンジョン・ボス】を生み出し50階層を超えた【遺跡】の攻略難易度は別次元に跳ね上がります。
つまり【ダンジョン・ボス】が生まれる前に【遺跡】を攻略リセットして、スタンピードのリスクを未然に防いでしまおうというのが【ドラゴニーア】の対【遺跡】政策。
因みに、遠征に出ていた【ドラゴニーア】艦隊は、今回セントラル大陸北東の【遺跡】を見事攻略して凱旋したのだそうです。
さて、どうしますかね……。
ソフィアに約束した巨大【アイアン・ゴーレム】には50階層超クラスの【ダンジョン・コア】が必要ですが、セントラル大陸には50階層超の【遺跡】は存在しません。
また【自動人形】の修理に必要な素材である【魔法石】の【コア】を持つ【ダンジョン・ボス】も、同じく50階層以上の【遺跡】がセントラル大陸にない為に入手不可能です。
国家の安全保障政策に絡む事なので、私の都合で……【ダンジョン・コア】と【ダンジョン・ボス】の【コア】が必要だから、【遺跡】を攻略しないで50階層まで成長を待って欲しい……などとは頼めません。
致し方ありませんね。
何処か他の大陸の【遺跡】を目指しますか……。
ソフィアを連れて行くなら普通に考えて【ドラゴニーア】の友好国に向かうのが良いでしょう。
ソフィアの正体が露見した場合に【ドラゴニーア】の敵性国では面倒が起きるかもしれません。
ならば、候補地はノース大陸の【ユグドラシル連邦】か、サウス大陸の【アトランティーデ海洋国】などですね。
【ユグドラシル連邦】に行きましょう。
彼の地には【世界樹】がありました。
【世界樹】は【神格】を持つ大樹で、この世界の【完全記憶媒体】としての機能を持っています。
現状の私が世界内最高の知性が存在する【シエーロ】に戻る事が出来ない以上、私が異世界転移した理由を知り得る可能性があるのが【世界樹】でした。
【遺跡】攻略のついでに、一度【世界樹】が生えている【エルフ】の国【エルフヘイム】を訪ねてみるのは合理的な考えです。
他にもドワーフの国【ニダヴェリール】で優れた鍛治技術で製造された武器などを見て回るのも一興。
良し、決定。
さてと、では北方の寒冷地対策の準備が必要ですかね?
私もソフィアも暑さ寒さには完全耐性がありますし不死身です。
寒冷地の魔物に特別有効な武器の類はありますが、私の【神の装備】シリーズなら、どちらにせよイチコロでしょうしね……。
どうしましょう?
まあ暇ですから色々とボチボチ準備してみますか……。
吹雪の中に薄手の衣服でウロついていたら、悪目立ちします。
私とソフィアにはコスプレ以上の意味がないとしても、防寒着くらい着ていないと現地の人達から奇異な目で見られるのは明らか。
【収納】には防寒着も入っていますが、せっかくの旅行ですから最新デザインの物を買っても良いですね。
私は海外旅行の度にスーツケースを新調するタイプなのですよ。
せっかくゲームの世界に転移したので、多少は異世界観光なども楽しみたいですからね。
お読み頂き、ありがとうございます。
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