第176話。グレモリー・グリモワールの日常…39…王命無視。
名前…キブリ
種族…【竜魚】→【進化】→【ヴイーヴル】
性別…雄
年齢…99歳
職種…従魔
魔法…【高位水魔法】→【進化】→多数
特性…ブレス→【進化】→ブレス、飛行
レベル…99
駅馬車ターミナル。
私は、リーンハルトから依頼された馬車を製造していた。
村の上空では、キブリと、【腐竜】8体が旋回中。
そして、【エルダー・リッチ】200体と、マクシミリアン側から鹵獲した【砲艦】が上空を漂っている。
【砲艦】を操縦するのは、私の【スケルトン】達5体。
警戒は怠れない。
【イースタリア】にいる【ブリリア王国】の船団には、まだ【砲艦】が6隻いるのだ。
それが、攻撃を仕掛けて来ないとも限らないからね。
白ヒゲジジイと、衛兵達と、3隻の船のクルー達は、捕虜とした。
第3王子は、リーンハルトが昼便の駅馬車で【イースタリア】に連れて帰る事になっている。
【イースタリア】で待つ、船団に乗り、【アヴァロン】に戻るか、あるいは、【サンタ・グレモリア】に攻めてくるか……。
どっちでも良いよ。
私は、魔法が強化されて、全面戦争でも全く負ける気がしない。
フェリシアとレイニールは、私の側で、馬車が組み上がって行くのを興味深そうに眺めている。
戦争が始まるかもしれない状況だけれど、フェリシアとレイニールは、全く動揺はない。
私とパスが繋がっているからだ。
私の心は、不思議なほど、穏やかに凪いでいる。
精神耐性の影響もあるのだろうけれど、それだけじゃない気がするよ。
私は、腹を括ったのだ。
戦う。
今日は、村の学校も保育園も休みにした。
村人さんは、皆、すぐ子供達を連れて避難出来る体制で、簡単な仕事をしている。
10台の馬車は、あっという間に出来てしまった。
【超位】に覚醒した生産系魔法は、凄まじい。
【エルダー・リッチ】達に手伝わせていないにも関わらず、前回より早いペースで、馬車が完成した。
この10台は、駅馬車と同じ仕様。
リーンハルトが乗るという、侯爵家用の箱馬車は、図面から描き起こさなくちゃならない。
デザインがなぁ〜。
何というか、私の設計センスにはエレガントさがない。
私が、図面を描くと、貴族の馬車が、装甲車にしか見えないんだよ。
何だか、首なし騎士の【デュラハン】とかが牽引していそうな外観。
一応、機能は優秀なんだよ。
私は、【超位】の【加工】が使えるようになったおかげで、生木の樹液から天然ゴムに似た組成の物質を生成出来るようになった。
なので、エアチューブタイヤが造れたよ。
乗り心地は、抜群だ。
おっと、スマホが鳴った。
昼食の時間。
ちょうどキリが良いから、リーンハルト侯爵家用の馬車は、午後に回そう。
私は、フェリシアとレイニールを連れて、アリス・タワーに向かった。
・・・
昼食。
食事の雰囲気は悪い。
重苦しいね。
無理もない。
一度、テンションを上げて戦争に備えた後、【ブリリア王国】が半ば降伏するような形で和睦を申し入れて来た。
【サンタ・グレモリア】の住人は、戦争を避けられ、また、有利な条件で和睦出来た事に安堵してしまった。
その後に、また、ちゃぶ台返し。
ひっくり返したのは、私だけれども。
人は、テンションを高めた後に、弛緩して、また、テンションを上げて、という振れ幅の大きな精神作用に耐性がない。
どんなに忍耐力がある者でも、これをやられると心が折れる。
だから、村人さん達は、今回は、前回より厳しい様子だ。
商業区の何割かの村人さん達は、【サンタ・グレモリア】を離れる、という……。
仕方がない。
私は後悔していない。
後悔するべきは、あの白ヒゲジジイを和睦の大切なセレモニーの場に寄越したマクシミリアンだ。
「陛下からは、謝罪が来ております」
リーンハルトが言った。
私が馬車を造っている間に、リーンハルトは、アリスからスマホを借りて、【アヴァロン】に連絡して、マクシミリアン王と善後策を打ち合わせしていたのだ、とか。
一報を聞いて、マクシミリアン王は、愕然としたらしい。
マクシミリアン王は、出発に際して、第3王子と、ティモシー・ウィングフィールドと、船団の指揮官と、士官全員に厳命した。
くれぐれも無礼がないように、と。
にも関わらず、ティモシー・ウィングフィールドは、あんなふうだったし、【砲艦】は砲を向けながら港に乗り付けた。
あれは、マクシミリアン王の預かり知らない事だったらしい。
それが本当かどうかは、だいぶ疑わしいけれどね。
仮にマクシミリアン王は、そんな事を指示していなかったとしても、上の者の態度を部下は敏感に感じ取るモノだ。
私は、マクシミリアン王の【サンタ・グレモリア】に対する腹の中にある無意識の侮蔑が部下に伝わって、ああいう行動を誘発したのだ、と思う。
私の仮説の真偽のほどは、ともかく、その後のマクシミリアン王の行動は早かった。
マクシミリアン王は、ティモシー・ウィングフィールドの処刑を決定。
罪名は国家反逆罪。
王都【アヴァロン】にいるティモシー・ウィングフィールドの弟子達は、全員、逮捕され思想矯正を図り、それが不可能なら師匠と同様に処刑となるらしい。
船団の指揮官は管理責任を追及され処刑。
士官は、全員、王命無視の罪で、不名誉除隊処分となり、鉱山での強制労働の刑罰が科されるそうだ。
また、【砲艦】の艦長は不敬罪、及び、国家反逆罪で処刑となる。
末端の兵と船団のクルーは、上官の命令に従っただけなので、罪には問われないそうだ。
アリスは……そこだけは勘弁して欲しいと……マクシミリアン王から懇願されたらしい。
ま、私の知った事ではないね。
今回の件で誰に、どんな処分が下されたとしても、私には1mmも関係がない。
でも、裁判も開かれないのかな?
かつての先進国【ブリリア王国】は、どうやら蛮族の支配する未開地に成り下がってしまったようだね。
「マクシミリアンの謝罪って、一体誰に対して、何をした事に対する謝罪なの?」
「もちろん、グレモリー様に対する臣下の非礼なる行いに対する謝罪でございます」
「違うよね」
「は?」
「【サンタ・グレモリア】の村に砲を向けて威嚇した罪。白ヒゲジジイが【サンタ・グレモリア】を卑しい乞食の住む村だ、と公然と侮辱した罪。白ヒゲジジイがナイジェル爺さんに対して害意を持って暴行し怪我を負わせた罪。これに対する謝罪じゃなきゃ、私は受け付けない」
「畏まりました。すぐ陛下に、グレモリー様の、ご意向を、お伝え致します」
リーンハルトは、アリスを見る。
アリスは、黙ってスマホをテーブルに置いた。
リーンハルトは、黙ってスマホを受け取る。
「貸して下さい……お借りします……ありがとうございます……だよね?リーンハルト」
「え?」
「私はね。例え、3歳の子供にドングリをもらっても、お礼を言うよ。人にモノを頼む時は、お願いをして、お願いを聞き届けてくれたら、お礼を言う。あんたもマクシミリアンも、それが出来ないからダメなんじゃないの?あんた達は、貴族として他人から立派に見られるように育てられて来たのかもしれないけれど、立ち居振る舞いが、いちいち気に入らないよ。はい、やり直し」
「アリス、王陛下に連絡をしたい。魔法通信機を貸してくれないだろうか?」
「どうぞ、お使い下さいませ」
「では、借りる。ありがとう」
うん、それが人として正しいよね。
リーンハルトは、マクシミリアン王と話し合う。
しばらくして。
「ありがとう。助かった」
リーンハルトが、アリスにスマホを返した。
「はい、どういたしまして」
「お伝え致しました」
リーンハルトが私にも言う。
「で?」
「王陛下は、グレモリー様の、仰る通りだと……」
「で?」
「はい?」
「マクシミリアンは、どう落とし前を付けるつもり?」
「少々お待ち下さい。アリス、済まない、またスマホを貸して欲しい」
「はい、お使い下さい」
「ありがとう」
リーンハルトは、再びマクシミリアンと話し合い。
通話後、リーンハルトは、アリスにスマホを返して、礼を言った。
学習しないね。
そのまま回線を開きっ放しにしておけば良いのに。
別に料金はかからないんだからさ。
「マクシミリアン王陛下は、無条件降伏し、賠償金を支払います。金額をご提示下さいませ。その上で、王位を退く、と。兵卒の捕虜に関しては、上官の命令に従っただけなので、ご温情を賜りたい、と。捕虜返還の身代金は支払います。金額をご提示下さい。第3王子に関しては、グレモリー様に殺生与奪を委ねるそうです。どうぞ、お好きなように処断して下さい、と」
「あ、そう。なら、アリスに任せる」
「畏まりました。賠償金は必要ありません。その代わり、【サンタ・グレモリア】は、【ブリリア王国】からの永久免税特権を要求します。マクシミリアン王に関しては退位を望まず、二度と、このような事が繰り返されぬよう綱紀粛正を徹底して頂きます。捕虜返還の身代金は、1人当たり【ドラゴニーア通貨】で、100金貨。他には、【砲艦】50隻の譲渡。オリハルコン、アダマンタイト、ミスリル鉱をそれぞれ100tの譲渡。そして、マクシミリアン王自ら、3日以内に【サンタ・グレモリア】に謝罪へ来る事。こんな、ところでいかがでしょうか?」
アリスは、事務的な口調で言った。
「悪くないね。でも【砲艦】50隻は、多いね。【ブリリア王国】が国を守れなくなる。せいぜい10隻だね」
「わかりました」
「こいつの処遇はどうしようか?」
私は、第3王子を指差した。
第3王子は、ゴクリ、と生唾を飲み込む。
「いかが致しましょう……。私は、どうでも良いのですけれど。マクシミリアン王という方の思慮の足りなさが、今回の件でよくわかりました。マクシミリアン王と縁戚になるのは、ご遠慮申し上げたいと思います」
「ま、こいつが何かしたって訳じゃないけれどね。別に失礼な事を言われた訳でも、害意を向けられた訳でもない。今回の船団の指揮権も持っていなかったらしいしね。婚約破棄の上で放逐で良い?」
「はい。結構です」
「そゆこと。第3王子君は、無罪放免。リーンハルト、マクシミリアン王に、この第3王子を処分するような事は望まないと伝えておいて。私は、連座責任とか、そういう前時代的な発想は大嫌いなんだよ」
「畏まりました」
「あと、スマホが欲しいなら、【ドラゴニーア】のマリオネッタ工房、っていう会社がスマホを造っているから、注文したら良いよ」
「検討致します。ありがとうございました」
「あの、私にも発言を、お許し願えないでしょうか?」
第3王子が言った。
「うん、言ってみな」
「こちらに残して頂けないでしょうか?アリス辺境伯の婚約者で、などという贅沢は申しません。兵役でも労役でも何でも致しますので……」
「何で?」
この状況で残りたいって、よっぽど、頭がアレだよ。
「こちらの村が気に入りました。そういう理由ではダメでしょうか?」
うーん……。
第3王子……思考が謎だ。
この状況を理解していないんじゃないだろうか?
本当に頭がアレなのかな?
それとも、とてつもなく大物なのか?
こいつの頭がアレそうな無邪気な顔を見ていると、何かしらの陰謀を企んでいるような様子には見えない。
これで、陰謀を企んでいるのなら、逆に部下に欲しいくらいだよ。
「アリスに任せる」
「ならば、守備隊の後方支援として書類仕事でもやらせてみます」
こうして、第3王子は、【サンタ・グレモリア】に残る事となり、マクシミリアン王は、明後日の朝にやって来る事になった。
・・・
昼食後。
駅馬車が到着。
私は、患者さんを治療。
駅馬車を送り出す。
それから、私は、フェリシアとレイニールに魔法の指導。
2体の【クレイ・ゴーレム】を操って、フェリシアとレイニールと戦わせながら、私は片手間で、リーンハルト侯爵家用の馬車を造る。
今日の魔法の訓練は早めに終了。
「フェリシア、レイニール。お風呂に入って来なさい」
「はい」
「はーい」
・・・
エリアーナさんが、行政区にやって来た。
私に用?
アリスも?
「【ブリリア王国】国庫から、【サンタ・グレモリア】の自治体法人口座に入金が行われました。身代金……という事ですが、ご確認下さいませ」
エリアーナさんが報告する。
「はい、間違いないようです」
アリスが言った。
「畏まりました。こちらは、【ブリリア王国】より、非課税の扱いとなっております」
エリアーナさんは、礼をして商業区の方に戻って行く。
結構、移動が大変そうだ。
村の端から端まで歩くと4km以上の距離がある。
これは、何か、村の中を移動出来る交通機関が必要かもしれないね。
「案外、すぐに支払いましたね?」
アリスが訊ねた。
「ま、払う気があるなら、すぐ払うでしょう」
「では、【イースタリア】に連絡して、捕虜を収容してもらう船を呼びましょう」
「うん」
アリスは、【イースタリア】に連絡。
【イースタリア】の領主屋敷から、停泊する船団に伝令が走って、捕虜の引き取りに【サンタ・グレモリア】に船が何隻か迎えに来る。
アリスが通話を終えると、すぐスマホが鳴った。
アリスは、通話に出る。
「はい。ええ、少しお待ち下さい。グレモリー様、マクシミリアン王が、明後日に謝罪に来る折に、以前取り決めた和睦条件の誓詞を調印してもらえるのだろうか、と、訊ねておいでです」
「うん、構わないよ」
「構わない、との事です。はい、では……」
アリスは通話を終える。
「ふふふ……」
私は、思わず笑ってしまう。
「どうしたんですか?」
「マクシミリアン王は、私に、だいぶ虐められたから、きっと求心力が弱まっているよね?」
「自業自得かと」
「でも、妖精教会を潰すには、マクシミリアン王は、利用価値がある。だから、失脚させちゃダメだ。だから、次は、マクシミリアン王を助けてやらなくちゃならない。そんな事を考えている自分が可笑しくてね。つい、笑っちゃったんだよ」
「具体的に、どのように助けるのですか?もう、マクシミリアン王の権威は地に堕ちている、と存じます。政権は死に体。クーデターが起きても不思議ではありません。マクシミリアン王は、元来が内政手腕ではなく、軍事の才能で国民の支持を得ている王です。1村に過ぎない【サンタ・グレモリア】に一戦もせず降伏です。もはや、名誉は回復出来ないのではないかと。戦争で支持を得ているのは、父も同じですが……」
「私もわからない。だから、困った時はピオさんに頼る。晩ご飯の時にでも策略を聞いてみよう」
「ふふふ、そうですね」
・・・
夕方の駅馬車が到着。
患者さんを治療。
駅馬車を送り出した。
・・・
夕食。
ピオさんから、マクシミリアン王の汚名挽回策を色々と教えてもらった。
なるほど。
ピオさんは、天才だね。
職種が【賢者】なだけあって、本当に賢いよ。
・・・
夕食後。
【ブリリア王国】船団が3隻入港。
今回は【砲艦】が1隻もいない。
多少は、気を使い始めたらしいね。
最初から、そうしていれば面倒な事にならなくても済んだのに……。
私は、捕虜を全員返還する。
白ヒゲジジイは、急にヨボヨボになっていた。
もはや、自力では、まともに立って歩けないほどに老衰している。
【排出】は、とっくに解除して、【回復】もかけた。
何故?
どうやら、魔法が永久に使えなくなった、と知って、ショックのあまり、気力が萎えてしまったらしい。
気の毒とは思わない。
私は、白ヒゲジジイが、ナイジェル爺さんに一言謝れば、魔法を使えるように戻してあげるつもりだった。
でも、結局、白ヒゲジジイは、一言の謝罪もしなかったね。
ムカつく。
リーンハルトも、私達に挨拶して船団に乗り込んだ。
【イースタリア】で降ろしてもらうらしい。
これで、【サンタ・グレモリア】に残るのは、第3王子だけだ。
・・・
夜、私はリーンハルト侯爵家用の馬車を完成させた。
悪くない出来だ。
頑丈さは、折り紙付き。
防御性能を突き詰めて、アダマンタイトやオリハルコンをジャブジャブ使ったら、予算的に足が出た。
ま、良いか。
明日は、ディーテが到着する予定。
会うのが楽しみだな。
アクビが出る。
今日も何だか疲れた。
もう、寝よう。
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