第174話。グレモリー・グリモワールの日常…37…追加ギフト。
本日9話目の投稿です。
9月27日。
フェリシアとレイニールに起こされた。
あー、眠い……これは、ヤバい。
耳の中でセミが鳴いているみたいな音が聴こえている。
耳鳴りだ……。
「フェリシア、レイニール、ちょっと待っていて。何か、ちょっとだけ体調が良くないみたい」
「大丈夫ですか?」
「グレモリー様、病気なの?」
2人は心配そうにする。
「うん、問題ない。ただの睡眠不足だから……」
私は、【宝物庫】から【エルダー・リッチ】を1体取り出して、【回復】と【治療】をかけさせる。
ん?
治らないんだけれど?
もう一度……。
ダメだ。
何でだ?
あれれれ……。
うわーっ、目が回る。
大して酷い症状ではないけれど、自己診断をする。
主訴は、耳鳴りと目眩……たぶん、原因は脳だね。
あれか。
この前、【湖竜】とやり合ったときに負った脳挫傷の後遺症か?
いや、おかしい、あれは完璧に治療したはずだ。
不味いね。
何かしら、性質の悪い病気になったのかもしれない。
自分自身を【鑑定】すると……。
おや?
異常は見当たらない。
おかしい。
そんなはずはないんだけれどな。
ステータス画面を開く。
状態異常は表示されていない。
ん?
何か、変なログが降りて来てるね……。
【追加贈物】→【開きますか?】
追加贈物……マジか?
よっしゃ〜っ!
ひっさびさに追加贈物が来たぜっ!
いつ以来だろうか?
下手すりゃ、5年ぶりとかかも……。
とりあえず、この訳のわからない体調不良は、これが原因だろう。
案外、添付ファイル開封型ウイルスだったりしてね、ははは。
そーれ、ポチッとな。
すると。
ステータス画面にウインドウが開く。
途端、私の耳鳴りと目眩は、ピタリと治った。
お客様は、従魔最終進化、対国家戦争勝利、信仰対象、の【秘跡】をクリア致しましたので、運営より【追加贈物】を進呈致します。
今後とも、当ゲームをお楽しみ下さい。
何か、知らん間に【秘跡】クリア条件を満たしていたらしい。
どれどれ……。
従魔最終進化……【調伏】した魔物を【超位】まで【進化】させる……難易度S。
対国家戦争勝利……ゲーム内の国家と、個人、又は、パーティで戦争を行い、ゲーム・ルール上適正な手段を用いて完全勝利する……難易度S。
信仰対象……NPCの信仰対象となり1人以上の使徒、及び、1万人以上の信徒から崇拝され、自らの神殿を建てる……難易度S。
えっ?
難易度S……それが3つも?
内容も、ユーザーが普通にプレイしていたら実現がメチャメチャ困難なモノばかり。
これ、実質クリア不可能な【秘跡】なんじゃないだろうか?
以上3点の【秘跡】クリアにより、お客様には、称号【導く者】と、以下の【追加贈物】が進呈されます。
1……【超位魔法】全覚醒。
2……【願いの石板】。
3……【宝物庫】。
すると、私の【収納】に2つのアイテムが贈られて来た。
「ヨッシャーーッ!」
私はベッドの上で跳び上がり、両手の拳を天高く突き上げる。
ガコッ!
「あ、痛ぁ〜っ!」
私は、【避難小屋】の、あまり高くない天井に両手を、ぶつけて悶絶した。
「えっ、あ、だ、大丈夫ですか?」
フェリシアは、困惑しながら、私を心配する。
「グレモリー様、どうしたの?」
レイニールは、何だか恐い物を見るような顔で言った。
私は出しっ放しだった【エルダー・リッチ】に両手を治療させる。
指の骨が3本折れちったよ。
私ってば、お馬鹿だね。
「へっへーん。今、運営から超激レア・アイテムをもらったんだ。それから、魔法が強化された。やったね〜っ!」
「グレモリー様、うんえい、とは?」
フェリシアが訊ねる。
あ、そっか。
NPCの、この子達は、運営って言ってもわからないよね。
「運営っていうのは、【創造主】の仲間ってか、身内みたいな人達だよ」
「くりえいたあ?」
レイニールがキョトンとする。
え、そっちもわからないの?
あ、そっか。
【ブリリア王国】では、妖精信仰なんていうカルト教団が幅を利かせているせいで、本物の神様の事を教えられていないんだね。
「【創造主】はね、この世界を創った一番偉い神様だよ」
「妖精様みたいに偉いの?」
レイニールは、訊ねる。
「妖精は、ちっとも偉くない……あ、いや、チュートリアルの【泉の妖精】とか、【妖精女王】とか、中には偉い妖精もいるけれど、【創造主】は、もっと、ずっと偉い。それからね、この国の聖堂で、お祈りされている妖精は偽物だから、本当はいないんだよ。だから、フェリシアもレイニールも、お祈りは、【創造主】と守護竜にしなければダメだよ」
「くりえいたあ、と、すごりゅー、って神様に、お祈りすれば良いの?」
「そうだよ。【創造主】と守護竜ね」
「くりえいたあ、と、しゅ、しゅごりゅう……」
「そうだよ」
私はレイニールの頭を撫でた。
「あの、神様から、何を頂いたんですか?」
フェリシアが訊ねる。
あ、それそれ。
「テッテレ、テッテッテーーッ!【願いの石板】と【宝物庫】」
私は、未来から来た青い猫型ロボットのモノマネをして言った。
もちろん、初代声優さんの方だ。
「グレモリー様、喉がガラガラです。風邪ですか?」
フェリシアが心配する。
あ、いや、そういう冷静なツッコミが来ると、いたたまれない……。
「グレモリー様の腕輪と同じだ」
レイニールが、私が手に持つ【宝物庫】に気が付いた。
ナイス、アシスト!
これで、自然な流れで、スベったモノマネをなかった事に出来る。
「うん。同じ物だよ。一気に1万tの容量アップだから助かるよ」
ここに来ての、【宝物庫】は、本当に嬉しいね。
【ゾンビ】や【エルダー・リッチ】なら200体、【古代竜】の死体を材料にした【腐竜竜】なら8、9体、追加出来る。
純然たる資材庫として使う手もあるね。
オリハルコン、アダマンタイト、ミスリルも送られて来始めたし、とりあえず、あの希少金属類を入れておこうかな。
「そちらの石の板は?」
「これはね、遺跡の【宝箱】から欲しい物が何でももらえる、凄い石板なんだよ」
何でもと言っても、厳密には、遺跡から出る可能性があるアイテム。
例えば、私の【避難小屋】は、【神竜】降臨イベント限定のアイテムだから、遺跡では出ない。
さて、何をもらおうかなぁ〜。
楽しみだなぁ〜。
ふふん、ふふん…。
「欲しいもの……お父さんとか?」
レイニールは、訊ねた。
レイニールの言葉で、私の浮ついていた心が、瞬間、キュッ、と締め付けられる。
フェリシアとレイニールの姉弟は孤児。
両親はいない。
「レイニール。生き物は無理なんだよ……」
私は、レイニールにどんな言葉をかけてあげるか悩んだ挙句、そんな愚にもつかない事しか言えなかった。
「そっか〜」
レイニールは少しだけ残念そうに言う。
「レイニールは、お父さんが欲しいんだね。お母さんは?」
フェリシアがレイニールに訊ねた。
おいおい、フェリシアちゃん、そのセンシティブな話題をグリグリ抉り込みなさんな。
ワザワザ藪を突いて蛇を出すような真似を……。
「お母さんはいるもん」
レイニールは、さも当然という顔でフェリシアに言った。
「レイニール、私達の、お母さんも死んじゃって、お父さんと同じ遠い所に行っちゃったんだよ」
あーー……フェリシア……酷過ぎるよ。
そんな現実を突き付けなくても……。
「うん、わかってるよ。でも、グレモリー様が、僕達の2人目の、お母さんだよって、アリスお姉ちゃんが教えてくれた」
レイニールがフェリシアに反駁する。
そうだ。
私とフェリシアとレイニールは、養子縁組によって法的には間違いなく親子になっている。
私は、フェリシアとレイニールを抱きしめた。
「そうだよ。私は、フェリシアとレイニールの、お母さんだからね」
「はい、ありがとうございます」
「グレモリーお母さん?」
「そうだよ」
「えへへ〜」
レイニールは、嬉しそうに笑った。
うん、この子達の為になら、私は頑張れるね。
「さあ、2人とも、見回りに行こう」
「はい」
「はーい」
私達は、親子3人で、【魔法のホウキ】と【魔法のホウキ・レプリカ】に跨り、離陸した。
・・・
村の見回りは、異常なし。
キブリが飛んで来て、朝の挨拶をする。
村の周辺は異常なし……湖の東側の対岸に何やら【人】がいた形跡がある、との事。
誰?
対岸だなんて、危ないね。
あっちは、全く間引いていない地域だ。
魔物が濃い。
キブリに案内させて、現場に急行した。
速っ!
【超位】の【飛行能力】、ヤバッ!
どこ?
私はパスを通じて訊いた。
この辺りでさぁ。
キブリはパスを通じて答える。
どうやら、キブリは【人】を実際に見た、という訳ではなく、直近で複数の【人】がいた事を、匂いで突き止めたらしい。
クンカクンカ……さすがに私の嗅覚では何もわからない。
うーむ、既に魔物に食べられた、とか?
私は、パスを通じて訊ねた。
そんなはずはありやせん……この対岸一帯もおいら達の縄張りでさぁ……魔物が近付けばわかりやす。
キブリは、パスを通じて答える。
とりあえず、警戒を厳重に……人種が魔物に襲われているようなら助けてあげて。
私は、パスを通じて指示した。
ガッテンでさ。
キブリがパスを通じて答える。
私とキブリは、村のある西側の湖畔に戻った。
・・・
私とフェリシアとレイニールは、魔法の朝練。
今日は、私の覚醒したばかりの【超位魔法】の試運転も兼ねている。
何せ、私が今まで持っていなかった【超位魔法】が全て覚醒したのだから。
私は、ダメージ判定が入る……いわゆる【攻撃魔法】は【超位】までが、一部種族オリジナル魔法や、【気象魔法】などのレア系統を除いて、全て使えた。
人種の魔法職としては、ゲージ・マックスの【超位】の威力値を叩き出す、ブッ壊れ性能の攻撃バカ仕様。
防御系や回復・治癒系などの戦闘フォーマットに表示される魔法系統も、ほぼほぼ【超位】まで使えていた。
ただし防御系は、弱体化補正されていたんだよ。
そして、生産系、錬金系、など非戦闘系の魔法は【高位】までしか使えなかった。
でも、現在、私は、全ての【魔法の木】が生えている。
いやぁ、こうして魔法系統図を表示してみると、まだ、こんなに使えない魔法があったんだね。
しかし、私は、これで名実共に、超絶最高な魔法の天才、となったのだ。
わっはっはっはっは!
「【ゴーレム製造】」
私は、そこら中にある【魔法粘土】を材料にして【クレイ・ゴーレム】を2体造った。
見た目は【高位】の【ゴーレム製造】で造った【クレイ・ゴーレム】と変わらない……けれど。
私は、フェリシアとレイニールに、2体の【クレイ・ゴーレム】を攻撃させる。
凄いよ。
【超位】の【ゴーレム製造】。
ほとんど、【ゾンビ】を操る感覚で操作出来る。
動きは滑らかでヌルヌルだし、耐久力もエゲツない。
壊れても瞬時に【修復】出来る。
さらに、魔力効率は段違い。
【高位】より高性能でありながら、消費魔力は変わらない。
これが【超位】の力か……。
何たる万能感。
ヤバい、楽しい〜。
いや、実際、私は万能に近い能力をもらったのではないだろうか?
【気象魔法】だって使える。
さっき意味もなく、村の上空に虹を出してみたりした。
虹って、大気中の水蒸気の粒子に太陽光がプリズム効果で分光されて見える自然現象だったと思うんだけれど……。
これを、魔法を組み合わせて再現するには、どんな【魔法公式】を組めば良いのか、なんて皆目見当もつかなかった。
それが【気象魔法】なら、詠唱1つで、ポンッ、と出たよ。
【気象魔法】……チート。
【加工】も【超位】になったから、【工学魔法】が【超位】まで使える。
これで、プロトコル制御の工場も造れるよ。
【超位】の【飛行】。
生身の肉体で、音速の壁を突き抜けられるね。
【魔法のホウキ】と併用すれば、とんでもないスピードが出る。
たぶん、【古代竜】より、速い。
地味にヤバいのは【超位】の【効果付与】。
【超位】の【バフ】には、【致命無効】の効果が付くんだよ。
これは、同位階の相手からの攻撃は、まともに食らっても、1回だけ【バフ】で即死ダメージを回避出来る。
つまり、【超位】級の私の場合、自分の身体、又は、【効果付与】可能な装備類のどっちかに【超位バフ】をかけておけば、同じ【超位】級の【古代竜】の攻撃を一撃だけ即死ダメージを食らっても、ダメージのゲージが空になる事はない。
これ、あまり大した効果じゃないように思うんだけれど、敵に使われると、メッチャ嫌な【バフ】効果だ。
私、防御力が紙だから、必殺の一撃を耐えられてカウンターを食らうのが一番おっかないからね。
その、紙防御力問題も【超位バフ】で改善されたよ。
さっきの骨折みたいに肉体が虚弱なのは、変わらないから油断は禁物だけれど……。
そして、もちろん【転移】。
私も、とうとう念願の【転移能力者】になれた。
転移座標がないから、まだ【シエーロ】の自宅には、戻れないけれど、一度自宅に戻って転移座標を設置すれば、次からはいつでも一瞬で自宅に帰還出来る。
そうすれば、フェリシアとレイニールも一緒に【転移】で自宅に連れて帰れるね。
運営様、マジでありがとやんした。
フェリシアとレイニールを相手にミッチリ1時間、魔法の訓練をしてから、キブリ警備隊に餌をやる。
私達は、朝食を食べる為に、アリス・タワーへ向かった。
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