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第170話。グレモリー・グリモワールの日常…33…ロスト・エンシェント・マジックス(失われた古代の魔法体系)。

本日5話目の投稿です。

 アリス・タワー。

 会議室。


 私達は、【サンタ・グレモリア】病院から、アリス・タワーに会議の場を移した。

 フロレンシアには、コンラード家の乳母ヒルダさんが付き添っている。


 私は、トリスタンに指示して、問題の当事者である牧童ルパートを【サンタ・グレモリア】に招聘する事にした。

 ま、念の為だ。


 状況を整理しよう。


 フロレンシアは、クァエストル伯爵との婚約関係にありながら、愛するルパートと不貞を犯し子供を妊娠した。

 パーシヴァルさんは、責任を取らされて、お家取り潰しになる可能性が高い。

 リーンハルトは、クァエストル伯爵とフロレンシアの婚約を仲介した立場上、引責を被る不味い状況にある。

 アリスは、クァエストル伯爵への謝罪の証として、クァエストル伯爵家に嫁がされる可能性があるが、本人は、それを望んでいない。


 そして、私は、それら全てを、暴力を背景にして脅迫し、無理やり有耶無耶(うやむや)にするつもり。


 スペンサー爺さんとグレースさんが、やって来た。

 事ここに至っては、スペンサー爺さんとグレースさんも一連托生。

 私が【ブリリア王国】と戦端を開けば、どっちにしろ2人も巻き込まれるのだからね。


「グレモリー様、持って参りました」

 スペンサー爺さんは、干物工場から生魚を1匹持って来てくれた。


「ありがとう、机の上に置いておいて」


 私はスペンサー爺さんとグレースさんに【契約(コントラクト)】させる。

 そして、事のあらましを説明した。


「なるほど、良くわかりました」

 グレースさんは、言う。


「戦ですか?まあ、年明けまで猶予が頂けるのなら、兵を鍛えられます。勝ち負けはともかく、無様な事にはなりますまい」

 スペンサー爺さんが言った。


 戦争になるかもしれない、と聞いた瞬間、スペンサー爺さんは、何だか、急に若返ってしまったね。


 時間的猶予は、フロレンシアがクァエストル伯爵家に嫁ぐ約束となっている来年年明け早々。

 そこまでは、何とか誤魔化して、時間稼ぎをしなくちゃならない。

 今回の件では、時間が私達に利する。


「じゃあ、話の続きだね。【死霊術(ネクロマンシー)】は、死体を操る。私は、たぶん歴史上最高の【死霊術士(ネクロマンサー)】だよ。私クラスになると、死体を瞬時に【ゾンビ】に変えられる。良い?見てて【不死者化メイキング・アンデッド】」

 私が、【不死者化メイキング・アンデッド】を詠唱すると、死んでいた魚が机の上でピチピチ跳ね始めた。


「生き返った?」

 リーンハルトが声を上げる。


「違うよ。死体を操作しているだけ。生きてはいない」

 私は、【不死者(アンデッド)】化を解除した。


 因みに、この、お魚は後ほどスタッフが美味しく頂きます。


「素晴らしい!これが【失われた古代の(ロスト・エンシェント)魔法体系(・マジックス)】」

 ピオさんは、何故か感動していた。


「何故、私が、私より低位の敵と戦う場合に、対人集団戦で無敵なのか、を説明するよ。例えば50万人の軍隊と私が戦うとする。敵は50万人の将兵。強さは、そうだね【高位】級が20万人、後は全部【中位】の戦闘職としようか……」


 この見積もりは、【ブリリア王国】側にだいぶ贔屓目にしてある。

【ブリリア王国】の総兵力は、額面上50万だけれど、国境や各都市に防衛戦力を残さなければならないし、兵站維持の為に後方支援も必要。それに、ピオさんの分析によると、【イースタリア】で聖女と崇められている私と、民に慕われているリーンハルトが共に挙兵すれば、【イースタリア】領軍の大半は、私達の側に付く、という読みもある。実際には最大でも25万人も動員出来ないし、【高位】の魔法職が、たったの1人しかいない【ブリリア王国】軍が、そんなに強いはずもないけれど、これはシミュレーションだから、最悪を想定しておく。


「まず前提として、私は【超位】級の相手でなければ、どんなに不意を突かれても問題なく瞬殺出来る。つまり、【ブリリア王国】軍に【超位】の戦闘職がいないのならば、私は、例え100万人が相手でも、半年やそこいらの籠城戦なら戦い抜いてみせる。50万人なら楽勝。私の戦力は【エルダー・リッチ】200体、【ゾンビ】200体、【スケルトン】400体、【腐竜(アンデッド・ドラゴン)】8体。私は、まず【腐竜(アンデッド・ドラゴン)】と【エルダー・リッチ】を全軍投入して、敵の航空戦力を無力化する。仮に10万の【翼竜(ワイバーン)】騎竜隊と、10万の魔導士隊としようか。おそらく、彼我の損害は、双方全滅。でも、私の【不死者(アンデッド)】達は四肢を切断されても、まだ戦える。それに、私は、最大1万までは、【不死者(アンデッド)】を使役出来るから、全滅した敵の戦力を瞬時に【不死者(アンデッド)】化して、味方に出来る。この時点で、彼我の戦力差は、敵30万、対、私1万」


 一同は、頷いた。


不死者(アンデッド)】は不滅ではない。

 頭部や脊椎を破壊されれば、機能停止する。

 それに、私が同時管制出来る【不死者(アンデッド)】は、カタログ・スペック上は1万が最大だけれども、1万体の【不死者(アンデッド)】を同時管制したら、数分で私の脳細胞は沸騰し、脳神経回路は焼き切れるだろう。

 ギリギリ、9千体……それが限界だ。

 でも、そんな弱点を、今、この場で自らバラす必要もない。


「敵の30万人の軍には、既に航空戦力はいない。私の【不死者(アンデッド)】1万を押し出して、敵にぶつける。私は、上空から、【超位魔法】で航空支援。この戦闘で出た敵側の死者は、瞬時に【不死者(アンデッド)】化されて、私の指揮する【ゾンビ】達は倒されても、倒されても、数が減らない。すると、どうなる?」


「これは、蹂躙戦ですね。敵の航空戦力を潰しきった時点で、籠城するグレモリー様の民に犠牲は発生しない。一方、敵は、1人、また、1人と兵士が死ぬ度に、等加速度的に、消耗する。完勝です」

 ピオさんが、さも愉快そうに言った。


「私と戦争するなら、【超位】級の戦闘職を突撃させて、私を真っ先に殺さなくちゃならないんだけれど、【ブリリア王国】には、【超位】級の戦闘職がいないから、それが出来ない。私は、【ブリリア王国】を滅ぼせるよ。因みに、この世界の住人の【超位】戦闘職は、単純計算で、英雄(ユーザー)である私の半分の戦闘力しかない。つまり、私を仕留めるには【超位】戦闘職が2人以上……いや、広域残滅魔法を使えば、NPCの【超位】戦闘職なんか、100人同時でも殺せるから、実質、私を殺すのは、無理だね。さらに言うと、私は英雄(ユーザー)の【超位】戦闘職でも、最大50人を相手取って全滅させた事もある。私は、準備を整えて待ち構える防衛戦なら、守護竜と戦ったって、簡単には殺されないよ。どう、勝てるでしょう?」


「勝てますね。当初、良くて1割の勝率と分析していましたが、グレモリー様の、お話を聞く限り、圧倒的に味方有利。これは、完全な勝ち戦です」

 ピオさんは、言う。


「で、だ。リーンハルト。あんたは、どうすんのさ?戦になれば、【イースタリア】の民に犠牲は出るかもしれない。でも、私は、政略結婚とか、そういうのが大嫌いなんだよ。あんたのやった事は、貴族なら普通かもしんないけれど、私に貴族の常識は関係ない。アリスは身内だし、フロレンシアは、私の患者だ。私は、2人を守るよ。王妃の弟?マクシミリアン王?【ブリリア王国】?上等だよ。みんな、まとめて、なぎ払ってやるから、かかって来い」


「しかし、やはり王に謀反は働けません」


「ならば、お父様。私が【サンタ・グレモリア】領主として立ちます。【ブリリア王国】と、お父様と、戦います」

 アリスが言った。


「グレモリー様、何とか穏便には済ませられませんか?」

 リーンハルトは、言う。


 あー、こいつ理解してないわー……。

 何か、イライラして来た。


「あんた、バカぁ?」


「へ?」


「これは、戦になったら今みたいなシナリオになるから、必死にマクシミリアン王を説得しろ、って話なんだよ。ピオさんは、そういう策を立ててくれたんだ。話を聴いてなかったの?」


「いや、まあ、わかってはおりますが……。まかり間違えば、戦になるのですよね?」


「そうだよ。だから、死ぬ気で説得しろ、って事。民を死なせたくないんでしょう?」


「侯爵様、私は死ぬ覚悟を致しました。【アヴァロン】に参上仕り、陛下に直接言上致します」

 パーシヴァルさんは言う。


 そゆこと。

 パーシヴァルさんは理解しているね。


「説得出来ればよし、説得に失敗すれば戦。そして戦になれば、こちらが勝つ。こんだけ有利な交渉条件なのに、立ち(すく)むの?リーンハルト、あんた弱虫だね。もう、良いよ。帰りな。【サンタ・グレモリア】は、現時点をもって、【イースタリア】からも、【ブリリア王国】からも独立する。スペンサー爺さん、リーンハルトを摘み出して、2度と、私の前に近付けさせないで。あ、それから、例のスパイも、永久追放ね」


 私は、【イースタリア】に篭城するつもりだった。

 でも、リーンハルトが日和って敵に回るなら、それは、かえって都合が良い。

 私は【サンタ・グレモリア】に篭城する。

【サンタ・グレモリア】なら、キブリ隊200弱も戦力に加えられるからね。

 より、優位になった。


 交渉で、どうにかする事は、不可能になったけれど、戦争は最初から望むところだ。

 この戦争に際して、私は一切法に反してはいない。

 婚約不履行は、違約金で解決出来る。

 それを、貴族の名誉、なんていう愚にもつかない不文律を持ち出されたって、貴族ではない私には全く関係ない。


 私は、自分に非がない事で、一歩も譲る気はない。

 相手が、王様でも神様でもだ。

 それが、私のポリシー。

 それでも文句があるなら、かかって来い。


 私は、グレモリー・グリモワール。

 いつ、何時、誰の挑戦でも受ける。

 1、2、3、ダァ〜ッ!


「グレモリー様、確認いたしますが、独立は現時点でよろしいのですか?」

 ピオさんは訊ねた。


「そうだよ」


「畏まりました。少々、お待ち下さいませ」

 ピオさんは、スマホを取り出して、どこかに通話する。


「あ、スペンサー爺さん。さっさとリーンハルトを叩き出して。そいつのシミッタレた顔を見ているとムカムカするからさ。縛り上げて、馬車に乗っけて、今日の夜中に【イースタリア】に着くように送っとけば良いから。あと、私のスマホは取り上げといて」


「はっ!侯爵様、お許しを」

 スペンサー爺さんは、リーンハルトをスリーパーホールドで、キュッ、と絞めた。


 リーンハルトは、もがいて何か訴えようとしていたけれども、声が出ない。

 私は、リーンハルトを無視。

 リーンハルトは、やがて、グッタリとする。


「死んだのですか?」

 アリスが悲痛な顔を見せた。


「いえ、意識を刈り取っただけです」

 スペンサー爺さんは、言う。


 スペンサー爺さんは、リーンハルトから、スマホを取り上げて、腕を後ろ手に縛り、目隠しして猿ぐつわを噛ませて担いで行った。


「パーシヴァルさんは、どうする?」


「止むを得ません。【イースタリア】の妻と息子は、処刑されるでしょうが、私はフロレンシアと共に、【サンタ・グレモリア】に残ります」


 あ、そう。


「私が、ひとっ飛びで助け出して来るよ。使用人までは無理だけれど、奥さんと息子さんくらいなら、何とかなるっしょ。屋敷はどこ?」


「ありがとうございます。地図は、ございますか?」


「ふむふむ、領主屋敷の北側だね。なら、すぐ行って来るね」


「お待ちを、手紙と命令書をしたためますので。これを屋敷の者達に見せて下さい」


 手紙には……私は【ブリリア王国】と【イースタリア】から離反して【サンタ・グレモリア】に与し、戦う……皆の者は、自由の身だ……今日まで、良く仕えてくれた……屋敷にある物は餞別がわり、売り払って金に換えて構わん……と書いてある。


「至急、【ブリリア王国】の通貨の信用裏付けを停止して下さい。はい、寝言では、ございません。【サンタ・グレモリア】は、現時点をもって【ブリリア王国】との交戦状態に入りました。はい、戦争です。グレモリー・グリモワール様が、盟主として立ち、挙兵されたのです。私は、グレモリー様が勝利するという確信を持っています。世界銀行ギルドとして、グレモリー様に付く事が正解と具申致します。はい、私の生命に賭けて誓います。【誓約(プレッジ)】。え?本当ですか?それは、心強い。はい、そうですか。ありがとうございます。では、お待ちしております」


 ピオさんは、スマホで、誰かと話していた。

 話の内容から、たぶん、世界銀行ギルドの頭取だろう。

 ま、私は私の仕事をしなくっちゃね。


「じゃ、アリス。戦時体制だから、村人さん達を守って、キブリ達がいるから、そう簡単にはやられないよ」


「はいっ!」


 私は、フェリシアとレイニールにパスを通じて、思念を飛ばし、【避難小屋(パニック・ルーム)】に避難させる。

 同時に、キブリにも、【サンタ・グレモリア】を守れと、指示。

 トリスタンにもスマホで連絡して、事情を説明した。

 トリスタンは、【イースタリア】に残る駅馬車隊を率いて【サンタ・グレモリア】に駆け付ける、と言う。

 私は、トリスタンに、私に従う者は、家族を連れて【サンタ・グレモリア】に来るように指示。

 従わない者は、退職金を渡してあげるようにも言っておいた。

 無理強いをするつもりはないからね。


 私は、【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】に跨り、【イースタリア】に向かって離陸した。


 ・・・


 途中、【サンタ・グレモリア】から、【イースタリア】に帰還中の駅馬車隊に追い付いた。


 駅馬車隊の隊長ケネスさんと、話す。

 どうやら、たった今、トリスタンから連絡が来て、今から【サンタ・グレモリア】に引き返すつもりだったらしい。


「【イースタリア】に向かって家族を乗せて【サンタ・グレモリア】に連れて来なよ。それから、私に味方するのが嫌なら、引き止めないからね。今まで、良く働いてくれて、ありがとう」


「聞いたか?俺は、グレモリー様に従うぞ。お前達は、どうする?」

 ケネスさんは、言った。


「もちろん、グレモリー様と一緒に戦います」


「そうだ、そうだ。俺達の主君はグレモリー様だ」


「やるぞーーっ!」


「グレモリー様に救われた生命だ。グレモリー様の為に使うぞ」


「「「「「えいえいおーっ!」」」」」


 あ、そう。

 ま、ともかく、家族を無事に回収しておいで。


 私は、駅馬車隊と別れて、【イースタリア】まで、かっ飛ばした。


 ・・・


【イースタリア】。


 私は、門番さんに、笑顔で挨拶。

 まだ、私がリーンハルトと敵対した状況は、知られていない。


 私は、大門を抜けて、再び【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】で、飛び上がった。

 コンラード家屋敷を目指す。


 あった。


 コンラード家の門番さんに、コンラード子爵夫人を呼んでもらう。

 湖畔の聖女グレモリー・グリモワールだ、と名乗ったら、すぐ、コンラード子爵夫人が面会してくれた。


 ・・・


 人払いをしてもらい。

 パーシヴァルさんの手紙を見せた。


 それからは、怒涛の展開。

 コンラード子爵夫人は、屋敷の使用人を集め、暇を出す、と命じた。

 つまり、解雇。

 これは、使用人達を守る為。

 私に与するという事は、【ブリリア王国】のマクシミリアン王への謀反。

 反乱は重罪だ。

 罪を犯したくない者を無理に従わせる事もない。


 でも、使用人達は、全員、パーシヴァルさんに従う、と言う。


 使用人達は、家族と共に、【サンタ・グレモリア】に向かう、という算段になった。


 私は、再度、トリスタンに連絡。

 駅馬車に、みんなの家族を乗せて、【サンタ・グレモリア】に輸送するように依頼する。

 駅馬車隊の差配は、トリスタンに任せておけば良い。


 私は、コンラード子爵夫人と、パーシヴァルさんの息子さんを【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】に乗せて、【サンタ・グレモリア】に取って返す。


 さあ、戦争だ。

お読み頂き、ありがとうございます。


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活動報告、登場人物紹介も、ご確認下さると幸いでございます。

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