第169話。グレモリー・グリモワールの日常…32…ブラッディ・マーカス(血塗られた侯爵)。
本日4話目の投稿です。
【サンタ・グレモリア】病院の病室。
私が、緊急呼集して、ピオさんがやって来た。
ピオさんは……何が起きるのか楽しみ……という表情をしている。
実に腹黒い顔だ。
ヘザーさんは、私の討伐実績が膨大だった為に、資料の印刷に時間が取られているらしい。
面倒事に巻き込んで、ごめんよ。
まずは、パーシヴァルさんに、ピオさんを紹介した。
パーシヴァルさんは、ピオさんが世界銀行ギルドの副頭取だと知って驚いている。
私は、ピオさんに守秘の【誓約】をしてもらい、簡潔に状況説明をした。
コンラード家令嬢のフロレンシアは、クァエストル伯爵と婚約関係にありながら、不貞を働き、ルパートの子供を妊娠してしまった。
フロレンシアは、ルパートと愛し合っている。
フロレンシアのクァエストル伯爵との婚約は、リーンハルトが仲介した。
コンラード家は恐らく責任を取らされて取り潰しとなる公算が高い。
リーンハルトも批判は免れないだろう。
リーンハルトは、クァエストル伯爵への謝罪として、娘のアリスを差し出すつもりだ。
私は、アリスをクァエストル伯爵には絶対に渡さないし、アリスを差し出すくらいなら、【ブリリア王国】との戦争も辞さない。
ピオさんは、難しい表情をする。
「まともに考えれば、リーンハルト侯爵様の代案が最善でしょうね」
リーンハルトの代案とは、婚約不履行となったフロレンシアの代わりに、アリスをクァエストル伯爵に嫁がせる案だ。
私は、それは絶対に受け入れない。
アリスは未成年だし、私の村の村長であり代官だ。
私はアリスを信頼している。
いや、もはやアリスは、私の身内と言っても過言ではない。
百歩譲って、アリスがクァエストル伯爵に嫁ぐ事を望むならまだしも、そうではないのだ。
だとするなら、アリスがエインズリー家に輿入れするなんて事は、私の身内を誘拐される、という事と同じ。
私にとっては、十分な戦争案件だ。
ヘザーさんを待つ間、パーシヴァルさんとフロレンシアは、親娘の会話。
どうやら、パーシヴァルさんは、お家取り潰しになったとしても、フロレンシアを守る側に立つそうだ。
「お許し下さいませ、侯爵様。必要とあらば、私の首は差し上げます。ただ、妻子と使用人達は何とか生かしては下さいませんか?」
パーシヴァルさんは、リーンハルトに謝罪し懇願する。
「済んだ事を気にするな。お前の首もいらぬ。私が、お前の立場でも、この状況ならば同じ選択をするかもしれん。そもそも、今回の仕儀に立ち至ったのは、中央にコネを作らんとして、お前の娘をクァエストル伯爵へ嫁がせようとした事に端を発する。フロレンシアの気持ちを無視してしまって済まないと思う。これは、もはや私の問題だ」
「侯爵様……」
パーシヴァルさんは、涙ぐんでいた。
「ありがとうございます」
フロレンシアも、リーンハルトに深く頭を下げる。
リーンハルトは、当初、アリスをクァエストル伯爵に嫁がせようと思ったが、クァエストル伯爵側から断られたらしい。
当時のアリスは、私が白血病の治療をする前で余命幾ばくもない状態だったからね。
フロレンシアは、アリスの代役だったという訳だ。
「ところで、リーンハルト。あんた侯爵なんでしょう?なんで、たかが伯爵なんかの顔色を窺っているのさ?」
クァエストル伯爵は、役職こそ商務大臣だけれど、王都【アヴァロン】の法衣伯爵。
法衣爵位とは、領地を持たず、王からの給与で生活する、いわば旗本。
領地も持たない上に、爵位もリーンハルトより低い。
一方のリーンハルトは、代々軍役で功績がある名門侯爵家の当主で、自身も他国との戦争で多くの武功を挙げ、【イースタリア】という広大な領地を治めている。
【ブリリア王国】の国土の実に5分の1ほどを統治・管理する、いわば【ブリリア王国】王家譜代の大大名。
私は、普段、リーンハルトの事を超舐めているけれど、そう考えると存外リーンハルトって凄いんだね……。
ともかく、クァエストル伯爵などとは、比較にならないほど、リーンハルトの方が立場も実力も上のはずだ。
「クァエストル伯爵の姉君は王妃様……マクシミリアン王陛下の、ご正室でいらっしゃいます」
なるほどね。
正王妃と侯爵のジャンケンなら、そりゃあ正王妃の方が勝つわな。
・・・
1時間後。
ヘザーさんは、私の討伐実績を運んで来た。
私はヘザーさんにも守秘の【契約】をしてもらう。
あ、忘れちゃいけない。
リーンハルトとパーシヴァルさんにも守秘の【契約】をしてもらう。
で、ヘザーさんは、私の個人情報をリーンハルトとパーシヴァルさんに公開した。
「信じられない……本当に【神格】の守護獣【ベヒモス】を倒しているだと!これは、何かの間違いではないのか?」
リーンハルトが言う。
リーンハルト、それは、私が、嘘吐きだ、と言っているに等しい言動だよ。
何だか失礼なヤツめ。
「世界冒険者ギルドが、グレモリー・グリモワール様の討伐実績の正しさを保証致します」
ヘザーさんが、キッパリと言った。
「遺跡の完全攻略が300回以上。その内180回は、単身攻略です。こんなモノ……人種に出来る所業ではないですよ。私は夢を見ているのか?」
パーシヴァルさんは驚愕して言った。
「グレモリー・グリモワール様は、【ドラゴニーア】、【ユグドラシル連邦】両国より、それぞれ国家最高功労賞を叙勲された、歴史上類を見ないほどの、英雄の中の英雄でございますよ。世が世なら、グレモリー様は、大陸に覇を唱えるような偉大な、お方です。お二方とも、グレモリー様の事績に疑問を呈するなどとは、甚だ無礼でございます」
ピオさんが、少しだけ言葉に剣呑な調子を含めて言う。
大陸に覇を唱える、とか、それは、さすがに大袈裟……でもないか。
【ドラゴニーア】を建国した初代王として歴史に記された人物は、【神竜】に認められ、在野の魔導師の立場から立身してセントラル大陸を武力で統一。
今に続く、神竜神殿の源流を築いた、と設定されている。
ならば、私が、そうならないとも限らない。
「「これは、大変、ご無礼を申しました」」
リーンハルトとパーシヴァルさんは、声をユニゾンさせて、揃って私に頭を下げた。
えっへん。
勲章なんかもらっても役に立たない、なんて思ったけれど、こういう時には信用に繋がるんだね。
「で、解決策なんだけれど。まず、そのルパートは、私の家来だったという事にする。【サンタ・グレモリア】で私が保護するよ。シナリオとしては、こう……つまり、私がフロレンシアを気に入って、家来であるルパートの嫁に欲しがった訳ね。リーンハルトとパーシヴァルさんは、私の武力が民に向く事を恐れて、また、私を味方に付ける事を意図して不本意ながら私に従った。で、リーンハルトとパーシヴァルさんは、クァエストル伯爵に、こう言うんだよ……申し訳ないが、もはや仕方がなかった。違約金を支払うから納得して欲しい。もしも、納得してもらえないと、家来の結婚にケチを付けられたとして、グレモリー・グリモワールが怒り狂う。【イースタリア】は……いや、最悪の場合、王都【アヴァロン】すら、気難しいグレモリー・グリモワールなら火の海に沈めかねない……ってね。で、私の伝言をマクシミリアン王に伝えといて。今回、私が決定した顛末について何か一つでも文句があるなら、【ブリリア王国】軍、全軍を率いて、かかって来い。以上」
「幾ら何でも、そんなメチャクチャな……」
リーンハルトは、青ざめて言った。
「さすがに、それでは済まないか、と」
パーシヴァルさんも言う。
「ピオさん、どう思う?私達の勝利条件は、フロレンシアとルパートの結婚をマクシミリアン王に認めさせる。クァエストル伯爵に違約金以外の見返りは与えない。コンラード家も取り潰させない。もちろん、アリスは、私の手元に置く。リーンハルトとパーシヴァルさんには違約金以外に不利益が被らないようにする。出来るかな?」
「ははは……これは、難題ですね」
ピオさんは笑った。
やっぱ、無理筋だったかな?
リーンハルトとパーシヴァルさんも……そりゃそうだろう……という表情だ。
「他の誰でもない、グレモリー様になら出来ますね。リーンハルト侯爵様とコンラード子爵様は……貴族の名誉がどうのなんて事を言っている場合じゃない……と、話を強引に有耶無耶にしてしまいましょう。グレモリー・グリモワール様を敵に回すのと、味方につけるのと、どちらが【ブリリア王国】の為になるか、と、マクシミリアン王に問い質すのです。リーンハルト侯爵様は、グレモリー様の人質として愛娘のアリス様を差し出した。コンラード子爵様は、グレモリー様への貢ぎとして愛娘のフロレンシア様を差し出した。そのおかげで、グレモリー・グリモワール様は、現状【イースタリア】との友好を受け入れて下さっている。グレモリー様は、【サンタ・グレモリア】を守護し、【湖竜】の脅威から【イースタリア】を守ってくれてもいる。リーンハルト侯爵様とコンラード子爵様は、2人とも愛娘をグレモリー・グリモワール様に差し出して、【ブリリア王国】を災禍から救ったのだ、とマクシミリアン王の御前で言い張るのです。もしも、この件で、【ブリリア王国】より、けん責を受けるのならば、【イースタリア】は、【ブリリア王国】から独立し、新たに【グリモワール王国】を樹立する、と脅しましょう。これで、万事上手く行きます」
「本当ですか?」
パーシヴァルさんが訝しげに訊ねた。
「幾ら何でも、陛下に弓引くなどとは……」
リーンハルトも難色を示す。
「リーンハルト侯爵様、コンラード子爵様。お二人とも、その了見が甘いのです。ハッタリとは死ぬ覚悟を見せる事。死んでも構わないではなく、初めから死ぬつもりで交渉するのです。お二人は……【ブリリア王国】の為に、目に入れても痛くない愛娘を泣く泣くグレモリー・グリモワール様に差し出して民を守ったというのに、マクシミリアン王は、なおも、私達に酷な要求をするのか。そんな国ならば忠誠を尽くすに値しない……と堂々と啖呵を切って見せるのですよ。事と次第によっては、力及ばずながらも、一戦交えるぞ……という、その覚悟が、交渉相手を怯ませます」
ピオさんは、言った。
「いや、しかし、それは……」
リーンハルトは、なおもグチグチ言う。
「しっかりなさいませっ!これは戦争です。実際に、一触即発の状況なのですよ。お二人が判断を誤れば、【ブリリア王国】とグレモリー・グリモワール様は、戦争になります。世界銀行ギルドとしては、グレモリー様を全面的に支援致しますよ。さあ、腹を括りなさい。お二人が【ブリリア王国】に忠誠を示したければ、グレモリー様が【ブリリア王国】に宣戦布告するような事態を全力で避けるべきです。芝居でもペテンでも、とにかく命懸けで必死にマクシミリアン王を説き伏せるのです。その必死な思いが説得力となります」
ピオさんは言った。
「わかりました」
パーシヴァルさんは言う。
「パーシヴァル、これは、まかり間違えば……いや、まかり間違わなくても、陛下に対する謀反なのだぞ」
リーンハルトが言った。
「お父様は、この期に及んで、まだ保身ばかり気になさるのですね?ガッカリ致しました。良く考えて下さいませ。この策でもっともリスクを負っているのは、どなただと思うのですか?グレモリー様です。グレモリー様が一番危険な道を歩いておられるのに、お父様は、逃げ腰です。【ブリリア王国】に、その人ありと他国より恐れられる、【血塗られた侯爵】の二つ名は、もはや過去の栄光なのでございますね?見損ないました」
アリスが言う。
【血塗られた侯爵】?
何、その中二病感満載な二つ名は?
「しかし、万が一の時は、【イースタリア】の民に犠牲が出る」
「リーンハルト。【ブリリア王国】軍、全軍に包囲されたとして、【イースタリア】は、どのくらい篭城出来る?」
「せいぜい、半年です」
「【ブリリア王国】軍に【超位】級の魔法戦闘職は何人いる?特に【聖魔法】系の攻撃職は?」
「人知を超えた【超位】級の魔法職などおりません。主席国家魔道士のティモシー・ウィングフィールド老師殿が最高位で、ただ1人の【高位】級魔法職だとか。それから、【聖魔法】で攻撃魔法を扱うなどという神話のような魔法職など世界中探してもおりませんよ」
「ふふふ……楽勝」
「「え?」」
リーンハルトとパーシヴァルさんは、言った。
「あのね。私の第1職種は、【大死霊術師】。【死霊術士】は、位階の低い敵を相手取っての対人集団戦では無敵なんだよ」
「【死霊術】!【失われた古代の魔法体系】!」
ピオさんが、驚愕する。
「うん。【死霊術】は、忌み嫌われているから、誤魔化していたけれど。私は【死霊術士】なんだ」
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