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第167話。グレモリー・グリモワールの日常…30…子爵家令嬢のスキャンダル。

本日2話目の投稿です。

 午前。


 私は、集合住宅の建築を再開する。

 昨晩の内に、残りの住宅は基礎を造り、配管を通して、鉄骨フレームを組んでおいたので、作業は楽だ。


 5時間で、10棟が完成。

 全部で20棟、単身者千人を住まわせる。


 集合住宅は、単身世帯専用の住居という訳ではない。

 大家族は無理だけれど、夫婦と子供2人くらいなら、1戸で暮らせるはずだ。

 なので、集合住宅は、最大1千世帯、4千人までを収容出来る。

 これで、だいぶ住宅事情には、余裕が出来るね。


 集合住宅20棟の屋上に木を植樹した。

 ベンチを設置して、と。

 うん、悪くない。


 夏場なら、バーベキューとかビアガーデン的な使い方も出来そうな感じ。


 さてと、お昼ご飯を食べに行こう。


 ・・・


 昼食。


 ランチのメインは、【コカトリス】の唐揚げ。

 私のリクエストだ。


 村の周辺は原野フィールドだから、【コカトリス】は自然スポーンする。

【コカトリス】は、【高位】の魔物で、【石化(ミネラリゼーション)】を使って来る、それなりに厄介な敵だ。


 でも、村に近付くとキブリ警備隊にボコられる。

 数の暴力。

【コカトリス】は、群を作らない。

 対するキブリ警備隊は、【高位】の魔物【竜魚(ドレイク・フィッシュ)】が150頭以上。

 150倍強の戦力差だ。

 戦いにもならない。


 テーブルには【コカトリス】の唐揚げが山盛りに積み上げられた。


 ピオさん、エリアーナさん、ヘザーさんにとっては、唐揚げは珍しいメニューではない。

 アリスも唐揚げを食べた事があるらしい。

 その他のメンバーは唐揚げ初体験。


【ブリリア王国】では、食用油は貴重品。

 高いのだ。


 熱々の唐揚げを、口の中が火傷しそうになりながら、ハフハフ食べる。


 最高。


 ビールが欲しい。


 ビールは、買い付ける事は可能だけれど、トリスタン経由の買い付けでは、樽入りの炭酸が抜けたビールか、エールしか手に入らないのだ。

 ビン詰めビールは、陸上輸送では割れる恐れがある。


 それに、【アヴァロン】のビールは、品質がイマイチだって、ピオさんが言うので、【ドラゴニーア】からの定期運行飛空船が就航したら、【ドラゴニーア】からビンビールを輸入しよう。


 ビールは、餃子にも合うからね。


「あのさ、()()()()なんだけれど、どうしようか?」


「間者ですね?」

 グレースさんが確認する。


 実は、最近、私が感じている視線の犯人は、どこかから送り込まれた間者……つまり、スパイだと判明していた。


 私達は、その2人のスパイを泳がせている。


 スパイを送り込んで来たのは、恐らく領主のリーンハルト。


 リーンハルトは、以前、グレースさんとスペンサー爺さんを私への刺客として送り込んで来た前科があった。

 でも、今回、スパイを送り込んで来た目的は敵対的意図ではないはず。


【サンタ・グレモリア】は、リーンハルトに何も隠すような事はない。

 リーンハルトの側から敵対的な行動に出なければ、事を構える気はないし、上部組織として【イースタリア】の意向も尊重する。

 実際、少なくない税も納めているからね。


 ならば産業スパイ?

 これも心配ない。


【サンタ・グレモリア】で特筆すべき産業は【ハイ・ポーション】くらいだけれども、これは、技術自体は遍在している既存の技術だ。

 ただ、原料の【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】の血液が私にしか入手困難だ、というだけで、別に秘匿技術ではない。

 それに、リーンハルトは、【サンタ・グレモリア】に監督権を持つ領主なのだから、調べたい事があるのなら堂々と査察をすれば良いし、監視したい事があるのなら公式に監査官を任命して【サンタ・グレモリア】に常駐させれば良い。


 リーンハルトはスパイを送り込む必要がない。


 では何故、私達は、スパイを送り込んだのがリーンハルトだ、と考えたのかというと。

 村に潜り込んだ2人のスパイは、【マップ】の光点(マーカー)反応を見ると、白色だったからだ。

 白色の光点(マーカー)は、中立を示す。

 つまり、私達に害意はない。

 という事は、私達を敵視していない何者かが、【サンタ・グレモリア】の動向を探りたいのだ、という結論に至る。


 リーンハルトか、もしくは【イースタリア】の貴族か官僚の誰かが、単に情報収集役として、スパイを送り込んで来たのだろう。


 もしかしたら、娘のアリスが心配なリーンハルトの親心という可能性もある。


 スパイは、商業区の移住者の男性と、募兵に応じてやって来た女性の2人。

 どうしたものか?


「捕えて、目的を喋らせましょうか?」

 グレースさんが言う。


「どんな目的があるにせよ。村に害意がないのなら、問題はないとも思うけれどね。ま、監視されているのは、あまり良い気分ではないけれど」


「領主や、その側近が管理地に間者を送るのは、珍しくもありませんよ。それに、【イースタリア】が送り込んで来た間者ならば、【サンタ・グレモリア】の内情を、(つまび)らかに見せた方が、かえって良いでしょう」

 ピオさんが言った。


「そうだね。なら、引き続き、泳がせとこう」


「「「わかりました」」」

 アリスとグレースさんとスペンサー爺さんは、言う。


 ・・・


 昼食後。


 駅馬車が到着。

 患者さんの治療。

 そろそろ、【イースタリア】にも往診に行かなくちゃね。


 駅馬車隊の隊長さんと話していると、衛士長さんが、やって来て挨拶した。


「グレモリー様、愚息の働きぶりは、いかがでしょうか?」

 衛士長さんが訊ねる。


 ん?

 愚息?


「親父こそ、年寄りの冷や水にならないようにな」

 駅馬車隊の隊長さんが憎まれ口を返した。


 ヘェ〜、親子なんだね?

 そう言われてみれば、意志の強そうな目元と、太い眉毛が、そっくりだ。


「隊長さんは、良くやってくれているよ」


「そうですか」

 衛士長さんは、満足気に表情を緩ませる。


 駅馬車隊の隊長さんの名前は、ケネスさん。

 衛士長さんの名前は、ナイジェル爺さん。


 ケネスさんは、元【イースタリア】領軍の士官。

 でも、【イースタリア】の北の森で、魔物の間引きをしていた時に【闇狼(ダーク・ウルフ)】の群に襲われた。

 上司である貴族と他の部下達を逃す為に、兵士十数人と殿(しんがり)を務めたらしい。

 で、瀕死の重傷を負った。


 両脚と、右腕が【闇狼(ダーク・ウルフ)】に噛み千切られてしまった訳。


 奇跡的に領軍の援軍が間に合って、生命だけは助かったけれど、そんな身体では兵士は務まらない。

 もちろん、領軍からは除隊となった。

 で、聖堂で長期療養。


 私が、初めて【イースタリア】の聖堂で治療をした時、ケネスさんを治療して手足を生やしてあげたのだ。

 で、ケネスさんは、トリスタンが【サンタ・グレモリア】の物流を担う駅馬車隊を組織している事を知り、志願したという経緯がある。


 駅馬車隊の隊員には、ケネスさんのような傷痍軍人や、怪我や病気で除隊を余儀なくされた元兵士が多い。

 なので、私に対する忠誠心は高く、【マップ】の光点(マーカー)反応は、皆、真っ青だ。


 私からは、何も指示はしていないけれど【サンタ・グレモリア】に有事ある際は、駅馬車隊は駆け付けて【サンタ・グレモリア】の為に戦う、と誓っているのだ、とか。

 平素から駅馬車隊を統括するトリスタンからも、そのように命じられているらしい。

 正直、発足したばかりの【サンタ・グレモリア】守備隊よりも、駅馬車隊の方が練度も士気も高いんだよね。


 そんな事があり、半ば隠居の身であったケネスさんの父親であるナイジェル爺さんも、私の為に働きたいと現役復帰してアリスの招聘に応じたのだ、とか。


「ケネス、しっかり励めよ」


「親父もな」


 親子は、お互いに激励の言葉を交わし合う。


 駅馬車は戻って行った。


 ・・・


 私は、フェリシアとレイニールに魔法を教える。


 今日は、【回復(リカバリー)治癒(ヒール)】の指導。

 私とパスが繋がっている為、魔力の操作を直接、脳で感じられるフェリシアとレイニールは、【回復(リカバリー)】を簡単に覚えてしまった。


 問題は、【治癒(ヒール)】。

治癒(ヒール)】は、魔力の扱いの他、医学、解剖学、生理学、栄養学、衛生学、分子生物学……などなど、広範な知識と教養が必要となる。

 経験と熟練が必要で、一朝一夕とは、いかないのだ。


 また、私のように【鑑定(アプライザル)】を使えないフェリシアとレイニールは、患者さんの身体を観察し、時には問診して、診断を下さなければならない。

 つまり、コミュニケーション能力や話術にも長けていなければならないのだ。

 これは、なかなか大変。


 私は、ナイフで自分の手の平を切る。

 その傷をフェリシアとレイニールに治療させる訳。


 フェリシアとレイニールは、交代で止血と消傷を行なった。

 同時に、衛生学の知識に基づいて感染などを起こさないようにも気を配る。


「だいたい良いね。2人とも、私がいない時に、お互いの手を切って練習したりしたらダメだよ。事故が怖いからね。約束だよ」


「わかりました」

「はーい」


 うーむ、やっぱり視線を感じるね。

 例のスパイの1人が見ている。

 無視、無視。


 こうして午後はミッチリ【治癒(ヒール)】の訓練に当てた。


 ・・・


 夕方。


 駅馬車が到着。

 患者さんを治療をした。


 駅馬車隊の隊長ケネスさんがやって来て報告する。


「最後尾にコンラード子爵家の馬車が付いて来ています。治療を希望されています」


 コンラード子爵家は、リーンハルトの家臣。

 リーンハルトは、侯爵という、それなりに偉い地位にあるらしく、配下に爵位持ちの貴族を複数召し抱えているらしい。


 ふーん。


 私が、子爵家の馬車に近付くと、年配の男性が馬車を降りて待っていた。


「私は、コンラード子爵家の執事オスカーでございます」

 執事のオスカーさんが挨拶する。


「誰が患者さん?」


「コンラード子爵家令嬢、フロレンシア様でございます」

 オスカーさんが言う。


「中にいるの?」


「はい」


「あ、そう。なら入るよ」

 私は、一声かけて馬車に乗る。


 馬車の中には、貴族の、ご令嬢と1人と、その看護をする年配の女性がいた。

 ご令嬢は、若い。

 まだ、十代だろう。


 付き添いの女性は、ご令嬢の容態を説明する。

 10日ほど前から吐気が続き、全く食事が出来ないほどだと言う。

 主訴は、嘔吐と倦怠感……熱は平熱。


 なるほど。


 私は、【鑑定(アプライザル)】した。


 ふむふむ、なるほどね。


「ねえ、あなたの立場は?」

 私は、ご令嬢を看護している年配の女性に訊ねた。


「コンラード子爵家の乳母ヒルダでございます」


「なら、ある程度、子爵さん()の事情に関与しても良い立場なのかな?」


 乳母さんは、私の言葉の意味がわからない、という表情をする。


「あ、つまり、乳母さんは、ご令嬢の病気の()()が何であれ、それを知っても大丈夫な立場の人?後から、子爵から罰せられたりしない?」


 私は部外者だから、こんな事、いちいち確認する必要もないのだけれど、後からコンラード子爵家の秘密を知る者だから、と、この乳母さんが秘密保護の為に手討ちになったりしたら可哀想だからね。

 一応、聴いておく。


「姫様の事は何でも知っております。私は、コンラード子爵家の当主パーシヴァル様の乳母も務めておりました。子爵家の秘密を知っても何ら問題ございません」


「あ、そう。彼女は結婚しているの?」


「いえ」


「その予定は?」


許婚(フィアンセ)がいらっしゃいます。【アヴァロン】の商務大臣であるクァエストル・エインズリー伯爵様です。来年、1月に婚礼が行われます」

 ヒルダさんは、言った。


 商務大臣のクァエストル。

 そいつは、【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】と【アヴァロン】間の定期運行飛空船の件で、私達の足元を見て、不公平な経費負担を強要して来た奴だ。

 私の、ぶっ飛ばすリストにも、上位に名前が書いてある。

 会った事はないけれどね。


「あ、そう。一応、確認しておくけれど、その商務大臣と、ご令嬢は婚前交渉とか、そういうのはあるのかな?」


「何をバカな!あ、いや、失礼しました。姫様は、許婚(フィアンセ)のクァエストル商務大臣閣下と直接お会いした事もありませんので、もちろん清らかな身でございます」

 ヒルダさんは、色をなして否定する。


 あー……。

 こいつは、面倒な事になるね。

 私には、関係ないけれど……。


 私は、執事さんにも声をかけ馬車に乗せ、馬車の扉を閉めた。

 馬車の中には、私、ご令嬢のフロレンシア、乳母のヒルダさん、執事のオスカーさんの4人だけ。


「【防音(サウンド・プルーフ)】。これで、馬車の中の音は、外に漏れないよ。単刀直入に言うね。ご令嬢は、妊娠している。嘔吐は悪阻(つわり)だね」


「まさか!」

 オスカーさんは、声を上げて、ご令嬢を見る。


「何という事……」

 ヒルダさんは、絶望的な表情をした。


 フロレンシアは、2人から目を逸らす。


 フロレンシアは、許婚(フィアンセ)がいる立場で妊娠した。

 相手の男は、許婚(フィアンセ)ではない。

 つまり不貞を働いた事になる。

 許婚(フィアンセ)は、フロレンシアの実家コンラード子爵家より格上の伯爵。

 これは、ヤバイ。


 リーンハルトも自分の臣下と、国家閣僚との結婚なのだから、当然、関係者だ。

 オスカーさんを詰問したら、リーンハルトが縁談を取りまとめた当事者だ、とゲロったよ。

 つまりリーンハルトも、ただでは済まないだろうね。

 私には、一切関係ないけれど。


「とにかく、そういう事だから」


「すぐに、旦那様に、お報せしなければ……」


「あ、ちょっと待った。ご令嬢は、前置胎盤ていう状態にある。入院させるよ」


「ぜんちたいばん?」


「前置胎盤。この状態で出産すると、子宮内で大量出血する事がある。最悪、母体が死ぬかもしれない。流産の可能性も高い。安静が必要だから、入院させる。万が一の時には、私がいれば、助けられるからね」


「し、しかし……」

 オスカーさんは、混乱していた。


「とにかく、無事に出産するには、安静にして、急変に対応出来る医療環境が必要。私は、最近、【アヴァロン】の最高の医療機関であるはずの中央聖堂が施術した患者を治療したけれど、【アヴァロン】の医療レベルはゴミ以下だよ。私が、その患者を治療しなければ死んでいた。つまり、【ブリリア王国】には、この病院以上の医療機関なんか存在しない。入院させて、ウチの病院で出産しなければ、ご令嬢は死んじゃうかもしれない。だから、入院させる。理解した?」


「旦那様に連絡致します」


「うん、誰か伝令を立てて、駅馬車で【イースタリア】に向かわせるんだね」


「私が参ります。これは、誰かに知られて良い話ではありません」

 オスカーさんが言う。


「あ、そう。なら、ご令嬢は病院に移すよ。御者さん、馬車を病院の馬車入口まで誘導して」


 子爵家の馬車は、病院に馬車入口に付けられ、フロレンシアは病室に移された。

 乳母のヒルダさんは、ご令嬢の付き添い。

 執事のオスカーさんは、馬車を取って返して全速力で【イースタリア】に戻って行った。


 私は、病院スタッフに諸々の注意事項を申し送りする。

 病院スタッフは、貴族令嬢の看護に緊張気味だ。


「プロとして、必要な看護をすれば良い。貴族だからって気後れしたり、遠慮しない事。この病院に入院する患者は、王様であれ、神様であれ、私のルールに従ってもらう。あなた達は、自信を持って職責を果たしなさい」


「「「わかりました聖女様」」」

 病院スタッフは、言う。


 病院スタッフは、いまだに私を聖女様と呼ぶ。

 勘弁して欲しい。


 ・・・


 夕食。


 私は、一応、アリスにだけは、フロレンシアの状況を教えておいた。

 コンラード子爵家は、リーンハルトとアリス親娘のイースタリア家の直臣。

 クァエストル商務大臣との間に問題が生じれば、アリスにだって影響が及ぶ。

 なので、この事は、リーンハルトにも連絡済。

 後は、政治家同士で、どうにかするだろう。


 ま、どうなるにしても、私は関係ないからね。


 ・・・


 夕食後。


 私は、やりかけだった、港の建物の内装を仕上げた。

 全て、終わったのは、深夜。

 また、睡眠不足になるね。

お読み頂き、ありがとうございます。


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活動報告、登場人物紹介も、ご確認下さると幸いでございます。

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