第163話。グレモリー・グリモワールの日常…26…アース・ドラゴン(地竜)トラップ。
名前…フェリシア
種族…【エルフ】
性別…女性
年齢…13歳
職種…【魔導士】
魔法…【闘気】、【風魔法】、【回復・治癒】、【気象魔法】など。
特性…【グレモリー・グリモワールの使徒】
レベル…6
朝食後。
駅馬車が到着。
資材関係が大量に運ばれて来る。
荷降ろし積み出しの指揮は、スペンサー爺さんではなく、衛士長さんが担当。
スペンサー爺さんは、アリス・タワーの方で備品の搬入作業を指揮している。
私は、患者さんの治療を行った。
治療が終わった後、駅馬車隊の隊長さんとお話し。
「【ゴーレム馬】と新型馬車を売って欲しいとの引き合いが凄い数来ていますよ」
「うん、トリスタンから聞いているよ」
「お売りになってはいかがでしょうか?」
「馬車は製造ラインが出来たら販売用を生産しても良いよ。でも【ゴーレム馬】は、充魔力装置がなければ運用出来ないから無理でしょう?それに、耐久保証は、1年が限界だし」
「ミスリルの【ゴーレム馬】なら、自立運用出来て、耐久性も高いとか?」
「うん。ミスリルと、【高位】の【魔法石】があればね。それなら、メンテナンスして使えば、50年やそこいらは軽く保つよ」
「売れるのでは?」
「うーん、売れるとは思うけれど。私がいなくなった後に継続出来ない一過性のビジネスモデルは、【サンタ・グレモリア】の為にならないと思う。【ゴーレム馬】は、あくまでも緊急措置だと考えておいてよ」
「なるほど、良くわかりました」
駅馬車隊は、戻って行った。
・・・
さてと、今日は狩をする。
【高位】の【魔法石】が枯渇した。
これを補充しなければいけない。
私は、まず【腐竜】と【エルダー・リッチ】を全て、出動させ、村の防衛に残す。
今までは、村を離れる時は、フェリシアとレイニールさえ無事なら良かった。
万が一の時には、フェリシアとレイニールが【避難小屋】に逃げ込めば、正直、他の村人さんは……なんて、気持ちがあったんだよね。
今も、フェリシアとレイニールが最優先には変わりないけれど、村人さんの防衛も、それなりには一生懸命やろうという気持ちに変わって来ている。
世界の為に働いているゲームマスター、なかのひと、の行動に感化されていた。
責任が重くなるのって、本当は鬱陶しいんだけれどね。
私は、溜息を吐いて、【魔法のホウキ】に跨って、村の外に飛び立った。
・・・
今日の獲物は、【高位】の魔物。
【高位】の【魔法石】を獲る事が目的だからだ。
でも、森の奥には入れない。
村の防衛に【腐竜】と【エルダー・リッチ】を残しているからだ。
【腐竜】と【エルダー・リッチ】を操作するには、パスが繋がる10km圏外から離れられない。
つまり、森の奥に入れないのだ。
どうする?
村の近くは、散々狩ってしまったから、【高位】の魔物はいない。
ランダムのスポーンを待つのは非効率だ。
で、私は考えた。
【地竜】トラップ。
この【竜の湖】周辺の原野は、【パイア】のスポーン・エリア。
【パイア】を餌とすると肉食の魔物もスポーンするし、【パイア】を追って隣接フィールドからも魔物がやって来る。
原野フィールドなら、【コカトリス】がスポーンするし、【地竜】も狙い目だ。
この【地竜】を効率的に捕らえるのが【地竜】トラップ。
原理は簡単。
【パイア】を集めて一箇所に集めておき、逃げないように堅牢な檻で囲むだけ。
後は、【パイア】を襲いに来る【地竜】を待ち伏せて狩れば良い。
実に原始的だ。
因みに、こちらの人種に【パイア】を馴致して飼う牧畜文化はない。
魔物である【パイア】は、自然スポーンする為に、飼って増やすメリットが少ない事が、その理由。
飼いならされた【パイア】は、世代を経ると【ヒュージ・ピッグ】という家畜に変化する。
【パイア】も【ヒュージ・ピッグ】も、とにかく飼いづらい。
厩舎の中で暴れて壊し、逃げ出すので、魔法的に補強された頑強な建物が必要になる。
当然、魔法建築物は、建築するのもメンテナンスするのも費用がかさむ訳だ。
【パイア】も【ヒュージ・ピッグ】も大きいので肉はたくさん取れるし、肉質も良いけれど、家畜の豚に比べて出産数が少なく、また、成長に年月がかかる。
十分に成長した成獣として原野にスポーンする【パイア】を狩る方がコストがかからないのだ。
閑話休題。
【地竜】トラップ。
本来は、自動的に【地竜】を倒し、解体し、精肉処理までしてしまうオートメーション施設の事を、【地竜】トラップと呼ぶ。
私1人では、そんな高度な施設を造れない。
私は、【超位】のプロトコルが作れないからね。
ナイアーラトテップさんがいればな……。
プロトコルだけじゃない。
アイテムや素材全般が、今の私は足りていないんだよ。
私の【神の遺物】のアイテム類は、【シエーロ】の自宅に置きっぱだ。
そして、高付加価値の素材を満足に集められない現状。
庇護対象の村を持った事で、私の行動は制約されてしまっている。
村を守る必要がなければ、フェリシアとレイニールを連れて、さっさと遺跡にでも出かけて行ったはずだ。
フェリシアとレイニールに遺跡を全クリアしてもらわないと、2人は【シエーロ】への門を通れないからね。
3人で、遺跡のクリアを目指しながら、毎日遺跡に通えば、稼げるし、必要なアイテムや素材も集められる。
それが出来ないのが、痛いよね。
私に【転移】があればな……。
素材が集まらないと、計画が進まない。
私が【サンタ・グレモリア】を離れられる条件は、私抜きで【サンタ・グレモリア】が【湖竜】を撃退出来る事。
そのレベルまで村の防衛能力を引き上げるのは、5年以内と予測していた。
トリスタンにも、そう啖呵を切ったんだよね。
でも、現状、計画は遅々として進捗していない。
軽く考えていた。
私は、村を発展させ収入を増やせばいける、と踏んでいたのだけれど……。
ピオさんからの情報で、それが簡単ではない事がわかって来た。
私の当初の予定では、村を裕福にして、それで【神の遺物】の【魔導砲】や【砲艦】なんかを買い付けて、村を防衛すれば済む話だと考えていたのだけれど……。
英雄大消失以来、異世界では高性能の【神の遺物】が、あまり市場に出回らなくなっているらしい。
NPCでは、遺跡の深層階で戦うには戦闘力不足。
つまり、レア・アイテムは、手に入らない。
稀に手に入っても、絶対量が少ないから、全て国家の管理になる。
なので、市場に出回るのは、ゴミ・アイテムばかり。
現在、【魔導砲】も【砲艦】も、市場で購入可能なアイテムではなくなっているのだ。
困った。
強力な火力を備えた【神の遺物】の遠隔攻撃兵器なくして、NPCだけで、【古代竜】に抗する事なんか出来っこない。
本当に困った。
私は、そんな事を考えながら、【地竜】トラップを完成させ、【パイア】の群を檻の中に確保。
よし、これで、【地竜】が誘き寄せられれば、警報装置が発報する。
私は、5頭ほどの【パイア】を食料用にシメて、村へと戻った。
ついでに、村に魔物が近付いた時にも、警報音が鳴るようにしておこう。
トラップの警報音と混同しないように、音を少し変えておけば良いね。
これで、良し。
・・・
村に戻った私は、【パイア】を冷蔵倉庫に保管。
アリス・タワーに向かった。
今後は、食事はアリス・タワーで行う。
昼食のメニューは……。
おーーっ!
パスタ……いや、デュラム小麦ではないから、パスタ風うどんか?
まあ、とにかく、白パン以外の炭水化物は久しぶりだ。
うどんに、かかっているのは、シンプルなトマトソース。
メインは、ゴロゴロ大きめの野菜と、魚が丸ごと1匹入った、アクアパッツァかブイヤベースみたいなスープ。
目先が変わって嬉しい。
肝心の味は?
うーん、美味しい。
私の陣営にジェレマイアさんが加入したのは、トリスタンの加入と同じくらいに大きな出来事だね。
ジェレマイアさん、実は、【アヴァロン】の料理コンペで優勝した経験もある、有名なシェフだったらしいよ。
こんな有能な人材を【アヴァロン】から追いやってしまう、妖精教会って、本当にバカなんじゃないかな?
ま、妖精教会がバカなおかげで、私は、ジェレマイアさんを雇えたんだけれどね。
「お味は、いかがでしょうか?」
ジェレマイアさんが厨房から現れて訊ねた。
「最高。ボロネーゼとかも作れる?」
「はい。私が修行した店は、【アルバロンガ】料理などが有名な、セントラル大陸南部の料理を出す店です。師匠が【パダーナ】人なので」
「なら、ピッツァとかも焼ける?」
「はい」
「なら、今晩はピッツァで」
「畏まりました」
元のアリスの家の厨房は、薪オーブンとカマドだった。
あれでは、本物のピッツァは焼けない。
でも、ジェレマイアさんが来た事を考慮して、私は、アリス・タワーの厨房は相当気合いを入れて造ってある。
ふふふ、ピッツァ窯も造っておいたのだよ。
・・・
昼食後。
駅馬車を迎え、患者さんを治療した後は、フェリシアとレイニールに魔法を教える。
2人は、掛け値なしの天才。
私とパスが繋がっている事も大きいけれど、覚醒した瞬間から既に複数の魔法適性を持っていた。
潜在能力がメッチャ高い。
特に、フェリシアの【気象魔法】の適性。
こんなの【気象魔法】の【才能】持ちのユーザー以外では、【エルフヘイム】の元【大祭司】のディーテ・エクセルシオールしか知らないよ。
【気象魔法】というのは、独立した魔法系統ではない。
気象に関わる魔法系統が得意になり、ブーストされる、という設定。
つまり、雪や雹を降らせる【地魔法】、雨を降らせる【水魔法】、風を吹かせる【風魔法】、雷や稲妻を起こさせる【雷魔法】が得意になりブーストされる。
さらに、気象とは直接的には関係ないけれど、【火魔法】と【雷魔法】は、プラズマを司るという点で、同じ系統に属する為に、【火魔法】も得意になりブーストされるのだ。
つまり、四大元素魔法全てと【雷魔法】の合計5系統が強化される。
これは、とんでもない。
四大元素魔法の内1系統だけが強化されるという魔法職に【精霊魔法使い】がいる。
【精霊魔法使い】は、地水火風いずれかの属性の精霊と盟約を結び、一つの系統に特化して強化されるのだ。
その代わり、その他の系統が弱体化するという代償を払わなくてはならない。
【気象魔法】は、代償なしに5系統が強化される。
強化率は、1系統に特化した【精霊魔法使い】より劣るけれど、弱体化のペナルティーが発生しない為に、総合力では、【気象魔法】の方がお得だし、汎用性も高い。
また、本来なら【魔法公式】を組むのと、魔力制御がクッソ難い、【大気】なんかの高難易度の【気象魔法】が、詠唱一つで行使出来る。
【大気】は、魔力をバカ食いするから、まだフェリシアには使えないけれどね。
レイニールだって潜在能力では負けていない。
大抵のユーザーなら、リセマラで、今のレイニールと同じ適性が生えたら、納得してゲームを始められるレベルだ。
驚くべき事は2人が、チュートリアルに付随する贈物をもらっていないのに、この潜在能力を持っている事。
これは、NPCに生まれるのは一時代に1人とかいうくらいに類い稀な能力だ。
とにかく、これは、一種のチート。
2人を上手に育ててあげなくちゃね。
・・・
夕刻の駅馬車がやって来て、荷降ろし積み出し、傷病者の治療が終わり、夕食の時間。
リクエスト通りにピッツァが出て来た。
美味いよ〜。
何か、泣けて来た。
私は、お寿司の次にピッツァが大好きだ。
ピオさん、エリアーナさん、ヘザーさん以外のメンバーは、ピッツァを初めて食べたという。
大好評だった。
これは、商業集落にピッツェリアを作って、村人さん達にも食べさせるべきだね。
うん、リマインドしておこう。
後は、お寿司とかの日本料理……もとい、【タカマガハラ皇国】料理があれば文句はないんだけれど……。
ジェレマイアさんは、【タカマガハラ皇国】料理は、そういう料理がある、という程度の知識しかないそうだ。
まあ、家庭料理程度なら、ジェレマイアさんなら、私がレシピを教えれば、美味しく作ってくれるに違いない。
肉じゃがとか、筑前煮とか、ぬか漬けとか……大して好物でもなかったけれど、今は、無性に食べたいんだよね。
それから、味噌汁……これを忘れちゃいけない。
もうすぐ、お米も収穫出来るしね。
和食が食べられるよ。
そう考えたら、居ても立っても居られない。
すぐ行動だ。
私は、トリスタンに連絡する。
「トリスタン。醤油と味噌とミリンと【タカマガハラ皇国】の清酒と鰹節と出汁昆布と焼き海苔と緑茶と……えーと、あと梅干しを仕入れてくれない?商業ギルドに依頼すれば輸入出来るでしょう?うん、輸送料とか割高でも構わないから。そうだなぁ、とりあえず、醤油とミリンと清酒は樽で、味噌と梅干しはカメで、鰹節と出汁昆布と海苔と緑茶は10kgずつ仕入れてよ。うん、冷蔵速達でね。品質?もちろん最高級品で。あと、他にも必要な食品を思い付いたら追加するから。はい、よろしく」
私は、ジェレマイアさんに、注文した品物が届いたら、それらのストックを切らさないように、と指示した。
これで、よし。
ますます、お米の収穫が楽しみになったね。
・・・
夕食後。
私は、商業集落の城壁拡張工事に着手した。
【エルダー・リッチ】と【ゾンビ】をフル稼動。
魔力消費がキツイけれど、今は、【ハイ・ポーション】もある。
問題ないね。
深夜0時を回る頃には、城壁と堀が完成した。
キブリにパスを通じて、拡張された新しい堀の警備を指示しておく。
ガッテンだ……との返答。
キブリは、睡眠していた感じだったね。
起こしてしまって、ごめんよ。
次に港の工事に着手。
【光源】を灯して、図面を見ながらの作業だ。
アプローチ・ラインは、村の上空を避けるようにした方が安全だよね。
なら、双方向の出入港ではなく、地上に村がない方向からの離着陸動線にしなくちゃならない。
方向転換出来るように、一部は、ターン出来る区域を設けて……。
管制塔は、こっちの方が良いか……。
旅客ターミナルは、商業集落側に置いて、貨物ターミナルは、その隣。
うん、イメージ出来た。
よし、やるぞ〜っ!
・・・
未明。
国際飛空船港は、建物だけは全て完成した。
内装は、明日だね。
眠い……。
さてと、寝るか〜……。
帰宅しようとした時。
けたたましい警報音が鳴り響いた。
【地竜】トラップだ!
私は、【魔法のホウキ】をかっ飛ばして、【地竜】トラップに急行した。
よしよし、かかっている。
それも、2頭。
番かな?
別に恨みはないけれど、勘弁しておくれよ。
「【光線】、【光線】」
硬っ!
さすがは、【地竜】。
……って、感心している場合じゃない。
「なろっ!【光線】、【光線】」
ヤバッ!
ブレスを収束してるっ!
「【光線】、【光線】」
ふーーっ、やっと仕留めた。
【超位魔法】だと、せっかく造った【地竜】トラップが壊れるから、【高位魔法】の【光線】の使用だったけれど、【地竜】がブレスを吐こうとしていやがった。
何気に危なかったね。
私は防御力がペラッペラの紙だから、【高位】のブレスでも、直撃喰らったらイチコロだよ。
あっ!
【パイア】が【地竜】の死体を食べようとしている。
そっか、【パイア】は、雑食性だったね。
「【轟雷】しっ、しっ、あっち行けっ!」
私は、【パイア】を追い払った。
オマイ達は、囮なんだから、地面に生えてる草でも食っとけ。
【地竜】なんて、贅沢なんだよ。
私は、【エルダー・リッチ】と【ゾンビ】達に手伝わせて、【地竜】を村まで運び、冷蔵庫に放り込んだ。
さて、寝よう。
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