第161話。グレモリー・グリモワールの日常…24…カタログ通販。
ウエスト大陸の詳細…その1
中央国家【サントゥアリーオ】
東の都市【アモエヌス】
西の都市【エリュテイア】
南の都市【アドラシオン】
北の都市【シュオル】
スポーン・エリア
【アモエヌス】の東、【黄金の丘】
エリア・ボス…【キマイラ】
【エリュテイア】の西、【竜の湖】
エリア・ボス…【湖竜】
【アドラシオン】の南、【ルピナス山脈】
エリア・ボス…【ヒュドラー】
【シュオル】の北、【黒の森】
エリア・ボス…【マルコシアス】
朝食後。
朝便の駅馬車が到着。
本格的に、資材が運ばれて来るようになった。
駅馬車の総数が増えた事で、かなり、輸送効率が上がっている。
ベアリング、ダンパー、サスペンション付きの新型馬車も、【ゴーレム馬】も、すこぶる評判が良い。
あとはエアチューブ・タイヤがあれば、なお良いんだけれど。
それは、追い追いだね。
私は、駅馬車でやって来た患者さん達を治療。
臨月の妊婦さんがいた。
何でも、転んで破水してしまったのだとか。
治療。
うん、母子ともに異常なし。
でも、一応、大事を取るなら入院してもらいたいね。
出産というのは、現代地球でも、100%安全とは断言出来ない。
母子ともに全く問題がなくて、医療機関の診療が完璧でも、ごく稀に、回避出来ない痛ましい事故が発生する事がある。
現代医学の粋を以ってしても、その、ごくごく稀な悲劇は防ぎきれないのだ。
この異世界の医療は、魔法が発達した地域なら現代地球よりも、はるかに優れている。
末期ガンや治療法がない感染症なんかも完治させられるからだ。
でも【ブリリア王国】の医療は遅れているし、【イースタリア】には、そもそも【医療魔法士】は、いない。
「大事を取るなら、【サンタ・グレモリア】病院で出産する事を、お勧めするよ。あなたの家は、どの程度の生活水準」
「夫が、【イースタリア】の兵士をしております。嫁ぎ先は、【イースタリア】で理髪店を営んでおります。実家は野菜農家です」
妊婦さんは言う。
うん、庶民だ。
「なら、入院費用は無料。付き添いの方は、妊婦さんのお母さん?お姑さんじゃなくて、実母さんね。悪いんだけれど、妊婦さんは、このまま入院してもらうから、あなたは【イースタリア】に一度戻って、ご家族に、入院する事になった、と伝えて来て。あなたが、こちらに戻るまでの間、妊婦さんは、私と病院のスタッフが面倒みるよ」
入院するつもりで準備して来た?
あ、そう。
「なら、せめて、ご家族に、お手紙でも書いてあげて。駅馬車隊に預ければ届けてくれるから。あくまでも、大事を取っての入院で容態は安定しているから心配はない、って伝えてあげてよ」
心配しているだろうからね。
聞けば、初産だというから、なおさらだ。
妊婦さんは入院。
妊婦さんの、お母さんは、泊まり込みの付き添い。
妊婦さんの家族への伝言を預かった駅馬車隊は、【イースタリア】に帰って行った。
私は、病院スタッフに妊婦さんを、任せる。
注意点を申し送りした。
様子は見に来るけれど、急変があったら、すぐ報せるように。
緊急呼び出し用に、携帯型魔法通信機があれば良いんだけれど……。
私は、自分の携帯型魔法通信機が壊れた際の予備として保管してある最後の1台を、病院スタッフに預けて、使用方法を教えた。
道具のストックより、人命の方が優先だからね。
・・・
よし、頑張るぞ〜っ!
私は、【サンタ・グレモリア】役所、兼、代官屋敷の建築に取り掛かった。
既に、基礎工事と、地下部分と、配管関係は工事が完了している。
あとは、上物を仕上げれば、良い。
まずは、柱を立てて、梁を渡し、筋交を通す。
うーむ、効率が悪いね。
私は、図面を見ながら、鉛筆舐め舐め……。
鉄骨で四角いフレームに筋交をクロスさせた部材をたくさん造れば作業効率が上がるんじゃないだろうか?
この壁と、ここと、ここと、ここは、同じ面積だから、出来るね。
とりあえず、鉄骨のフレームを60セット造れば良いか。
よし。
【エルダー・リッチ】達に手分けをさせて、鉄骨フレームを造らせて、私は、それを組み上げる作業に専念する。
おー、効率アップ。
さあ、どんどん行こう。
お昼前。
外装は、ほぼ出来上がった。
地上10階。
地下1階。
エレベーター完備。
1フロアずつの天井が高いので、かなりの高層建築になった。
5階までは、役所部分。
中央部を吹き抜けにしてある。
【ドラゴニーア】の竜城をイメージした。
真ん中吹き抜けのショッピングモール構造。
【ドラゴニーア】の竜城の内部は、広大な吹き抜け部分を、魔法的な何かによって制御された空中エレベーターが上下左右を縦横無尽に飛んでいるんだよ。
あれは、カッコいい。
さすがに、空中エレベーターは、真似出来なかったけれど、イメージだけは竜城のつもりだ。
6階〜10階が、アリスの執務エリア、兼、屋敷。
うん、立派な建物だ。
【アリス・タワー】と名付けよう。
アリスは、村の名前を【サンタ・グレモリア】と申請してしまった。
私の名前から由来した名称。
とても恥ずかしい。
だから、役所兼代官屋敷にアリスの名前を付けて、仕返しだ。
学校が終わったフェリシアとレイニールが、私を迎えに来る。
お昼ご飯の時間だ。
「うわー、おっきい!」
レイニールが口を開けてアリス・タワーを見上げる。
「アリスの屋敷だよ」
「凄いです。聖堂より高い」
フェリシアが言った。
まだ、内装が出来ていないけれど、出来栄えは、なかなかのモノだ。
自画自賛。
「さあ、お昼を食べに行こう」
私達は、現アリスの家、に向かった。
・・・
昼食。
ジェレマイアさんの料理は美味しい。
やっぱり、食事は、生活を豊かにするよね。
食後のデザートまで出るようになった。
最高だよ。
魔法通信機が鳴る。
トリスタンかな?
「はい、もしもし?」
ん?
私んじゃない。
「はい……はい……わかりました。その件は、私のデスクの一番上の引き出しに……はい。ありがとうございます。はい、では。失礼します」
ピオさんが、携帯魔法通信機で話していた。
私のと違う、緑色に輝く機種。
「ピオさん、それは?」
「ああ、スマホ、という新型の魔法通信機だそうです。頭取が【調停者】のノヒト様から2台頂き、うち1台を、エリアーナに預け、私に届けてくれました」
「それ、見慣れないデザインだね。私のと違う」
私は、携帯型魔法通信機を見比べた。
「はい、ノヒト様が、手ずから、お造りになった非売品だそうです」
「カッコいいね、グリーン・メタリックで。外装はミスリルかな?」
「そのようです」
「私も欲しいな。携帯型魔法通信機、もう手持ちがなくてさ。補充したいんだよ」
「これは、非売品でございますが、ノヒト様が設立したマリオネッタ工房では、市販用のスマホを開発しているようです。既に、予約を受け付けておりますよ」
へえ、ゲームマスター、会社を設立したのか?
ピオさんによると、ゲームマスター、なかのひと、は、孤児院の出身者の支援事業として、会社を起業して、セントラル大陸中の孤児院出身者を雇用しているそうだ。
やっぱり、私とは、やろうとする事のスケールが違う。
立派な人なんだろうね。
「そのスマホ、幾らくらいするの?」
「1台1千金貨だとか。性能を下げた廉価版なら、もっと安価ですが、それでも5百金貨ほどします」
うーん、安いのでも、私のと同じ値段か……。
でも、携帯型魔法通信機は、ロスト・テクノロジー。
他に生産出来る会社もない、とするなら、これを買わざるを得ない。
「それ、私も予約したいんだけれど……」
「えーと、でしたら、銀行ギルドで予約申請手続きを代行いたしましょう。エリアーナ、後ほど、手続きを……」
ピオさんがエリアーナさんに言った。
「畏まりました。実は、マリオネッタ工房の商品カタログを持って参りましたが、お読みになりますか?」
「うん、見たい」
エリアーナさんが、自宅から、マリオネッタ工房の商品カタログを持って来てくれた。
エリアーナさんの自宅は、農業集落に増築した新しい家屋。
家具類はないけれど、家賃は無料だ。
「旅の途中の暇潰しに読もうと思って持って来ただけで、私には高価過ぎて手が出ませんから、カタログは差し上げます」
エリアーナさんが言う。
「良いの?ありがとう」
どれどれ……。
表紙に……スマホ発売決定、予約受付中……の文字が踊る。
表紙をめくると……。
おーーっ!
スマホ。
何だか、型が独特だね。
球体だ。
でも、スペックは、凄い。
マリオネッタ工房・スマホ・オリジナル・モデル……1千金貨。
通話、メール、チャット通話、チャットメール、リアルタイム・データ通信、リアルタイム動画通信、サーバーリンク、各種【魔法装置】リンク、データ管理、表計算ソフト、魔力充填なしで半永久的に使用可能……などなど。
図解や写真付きで、詳しく使用方法が解説してある。
カタログというより、ガジェット専門誌みたいな誌面だ。
ふむふむ……。
これ、下手したら、地球のスマホより高性能なんじゃないかな?
もちろん、私が使っている携帯型魔法通信機よりも高性能。
1千金貨……日本円で1億円は、高価だけれど、私は大金持ちだ。
買いだね。
マリオネッタ工房・スマホ・レプリカ・モデル……5百万金貨。
廉価版の方は、通話専用機と、メール専用機の2機種か……。
こっちは機能から考えると、かなり割高だね。
でも、科学技術や魔法技術が衰退した今の世界なら、通話さえ出来たら劇的に便利になる。
こっちの世界のNPCは、データ通信とか、サーバーリンクとかは、今のところ必要ないだろうし。
レプリカ・モデルを買う人も結構いるだろうね。
私はカタログの最後のページにくっ付いている発注表を切り離す。
うん、日本の通販カタログみたいだ。
カキカキ、カキカキ……。
良し。
私は、フェリシアとレイニール、アリスとグレースさんとスペンサーさん、トリスタン用に10台のオリジナル・モデルを注文した。
数が合わない?
4台は私の分。
私は、収集癖があるから、ストックは必須なんだよ。
レプリカ・モデルも50台買っておこう。
こっちは、駅馬車隊と病院スタッフ用にする。
パラパラパラ……。
ん?
【自動人形】・オーセンティック・エディション……2千5百金貨。
【自動人形】・レプリカ・エディション……1千金貨。
へえ、市販の【自動人形】?
珍しいじゃん。
何これ?
性能が詳しく書いてある。
性能評価には、魔法ギルドと、商業ギルドの認証があるね。
つまり、このカタログ・スペックは、正確な数値という事だ。
これは、【神の遺物】の【自動人形】ではない。
純正の【神の遺物】の【自動人形】は、凄まじい戦闘力がある。
魔法は、私の【エルダー・リッチ】と同等で、近接戦闘力もバカ高い。
つまり、私の【エルダー・リッチ】より、だいぶ強い。
【腐竜】なら、勝つと思うけれど……いや、【神の遺物】の【自動人形】が【神の遺物】装備に身を固めていたら、やられるかもね。
【神の遺物】の【自動人形】の凄さは、戦闘力だけじゃない。
何と、機械なのに、知性と自我があるのだ。
超激レアで、世界の全遺跡を10周以上回った私も、とうとう1体も手に入らなかったんだよ。
ナイアーラトテップさんが、1体持っていたんだよね。
何か、キモい名前を付けて、ビキニ鎧とかのコスプレをさせて愛でていた。
イエス・ドール、ノー・タッチ、とか言っていたね。
ドン引きだったよ……。
私も市場に流れていた物を買おうと思ったけれど、市場価格は、クッソ高かった。
当時は……コレを買うなら飛空船買った方がマシだ……なんて強がって見せたけれど、実は、ナイアーラトテップさんの事が超羨ましかったんだよね。
欲しかった……で、自作した。
そしたら、全然、性能が足りないんでやんの。
あの時、私が全力で造った最高性能の【自動人形】と、このオーセンティック・エディションは、同等の性能だね。
私の【ゾンビ】と同じくらいか……。
でも、操作管制の必要がなく自立行動してくれる【ゾンビ】と考えるなら、この値段は安いくらいだね。
私が、苦労して自作した【自動人形】は、かなり高額な材料費がかかった。
魔法金属とかを、ふんだんに使っていたからね。
あの莫大なコストをかけた、私の【自動人形】と同等の性能か……。
さすがゲームマスターが設立した会社だね。
凄い技術力だよ。
迷わず買いだ。
オーセンティック・エディションを、とりあえず10体注文。
カスタムは、どうするか?
微に入り細に入り色々と設定出来るけれど、面倒だね。
マリオネッタ工房が用意しておいてくれてあるタイプ別の選択肢から、5体を秘書タイプ、5体を看護士タイプ、として選んでおいた。
役所の職員と、病院のスタッフにする。
銀行ギルドで、マリオネッタ工房に入金をして、注文票を機械読み取りしてもらった。
予約受付完了の受領書をもらう。
うん、良い買い物をしたね。
スマホと【自動人形】が届くのが楽しみだよ。
・・・
午後。
私は、フェリシアとレイニールに魔法を教える。
【中位魔法】に覚醒するまでは、基礎の反復練習。
地味だけれど、これが大事だからね。
遠巻きに、子供達が私達を眺めながら、真似している。
「【火】」
「【放電】」
子供達は、カッコイイ決めポーズ付きで、魔法ゴッコをしていた。
あの子達は、いつも私達の訓練を見学しているから、きっと魔法を習いたいんだろうね。
教えてあげても良いけれど、君達は、潜在能力的に、魔法詠唱者としては大成出来ないと思う。
ごめんよ。
・・・
夕方。
夕刻の駅馬車が到着。
患者さんの治療。
アリス・タワーや、病院や、ホテル……などの家具類が運ばれて来るようになった。
駅馬車を見送る。
私は、病院に向かう。
妊婦さんは、母子ともに異常なし。
料理長ジェレマイアさん、キャリスタさん夫妻の1人息子アーヴィンは……。
おっ、歩行訓練中。
うん、問題なさそうだね。
きっと子供だから、組織が馴染むのが早いんだろう。
私の姿を見つけた、キャリスタさんと、アーヴィンがやって来た。
「さあ、アーヴィン。聖女様に、お礼を言いなさい」
キャリスタさんが促す。
「聖女様、ありがとうございます」
アーヴィンは、ペコリと頭を下げた。
「もう、良いね。退院しても良いよ。キャリスタさん、ベッドとかが届いたから、お家に運んでおいたよ」
ジェレマイア一家は病院に寝泊まりしている。
「家ですか?」
「うん。とりあえず、生活は始められると思う。何か必要な物があったら、アリスか、グレースさんか、スペンサー爺さんにでも頼むと良いよ」
「ありがとうございます」
キャリスタさんは、頭を下げた。
「アーヴィンは、明日から保育園ね」
「ほいくえん?」
「うん、お友達がいっぱいいるよ。お父さんと、お母さんは、村長さんの家で働くからね。でも、すぐ近くにいるから、アーヴィンが寂しかったら、いつでも会いに行っても良いよ」
「わかった」
アーヴィンは、頷く。
「キャリスタさん、じゃあ、そういう事だから、よろしく」
「わかりました。何から何まで、ありがとうございます」
私は、夕ご飯を食べに、アリスの家に向かった。
・・・
夕食後。
私は、アリスタワーの内装工事に取り掛かる。
今日も、夜なべ仕事になりそうだね。
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