第160話。グレモリー・グリモワールの日常…23…マジック・ツリー(魔法の木)。
ウエスト大陸の地理。
中央国家【サントゥアリーオ】…守護竜【リントヴルム】が人種を追放し【大森林】に飲まれる。
東の国【ガレリア共和国】
西の国【ブリリア王国】
南の国【イスプリカ】
北の国【ウトピーア法皇国】
北東の遺跡…ダンジョン・ボス【ザルティス】。
北西の遺跡…ダンジョン・ボス【オルフェーシュチ】。
南東の遺跡…ダンジョン・ボス【マラク】。
南西の遺跡…ダンジョン・ボス【ア・ズライグ・ゴッホ】。
9月21日。
早朝。
いつもの時間に、フェリシアとレイニールが、私を起こしに来た。
昨日、夜間建築をしていたから、まだ眠い……。
【避難小屋】を出て、空を見上げる。
快晴……秋晴だねぇ。
「ふわあーー……うへぇ……」
ちょっと、お下品な大アクビが出た。
村人さんが、私を見て、クスクス笑う。
恥ずかしい姿を見られてしまった。
目があって赤面していたら、村人さん達は、私に笑顔で礼を執る。
「おはよう」
「「「「「おはようございます、グレモリー様」」」」」
村人さん達は挨拶した。
「グレモリー様、見回りに行きましょう」
フェリシアに促される
「早く〜」
レイニールは、【魔法のホウキ・レプリカ】に跨って、準備万端という様子。
さてと、今日も1日、張り切って行きますか。
私達は、まだ薄暗い早朝の青空に舞い上がった。
・・・
私とフェリシアとレイニールは、編隊を組んで飛ぶ。
「お家が増えてる」
レイニールが言った。
「昨日の夜に建てたんだよ」
「私も、グレモリー様のように建築が出来ますか?」
「うーん、まず、【超位】級の【魔導師】にならないと、だね。そうすれば、生産系の【魔法の木】も生えるよ」
掘っ建て小屋なら、魔力さえあれば【低位地魔法】でも造れる。
でも、強度を高めるには、永続的に発動する【バフ】をかけられなくてはならない。
【効果付与】は多少難易度が高い。
さらに、金属などの建材を魔法で加工するなら、【加工】も必須だ。
生産系の魔法は、生まれつきの【才能】の影響が大きな魔法系統だから、後天的に身に付けるのは、結構大変。
そして、建築物の構造計算をしたり、建材の性質を覚えたり、設計や建築工学の勉強もしなくてはならない。
でも、私の子達は、桁違いに優秀だから、土木・建築魔法も覚えられると思う。
「マジックツリー?木を生やすんですか?」
フェリシアは、訊ねた。
ああ、【魔法の木】ね。
「【魔法使い】はね、新しい系統の魔法を覚えると、その先にある、より高度な魔法を勉強する。複数の魔法を組み合わせて、より効果が高い運用を目指したりもする。そんなふうに、基本的な魔法から、枝葉のように、魔法の応用や、より上位の魔法が使えるようになって、行使する魔法系統が増えて行く。その魔法の系統図を、木に見立てて、【魔法の木】って呼ぶんだよ。だから、新しい系統の魔法が使えるようになることを【魔法の木】が生える、って表現する」
「そうなんですね、【魔法の木】……」
フェリシアは、メモを取り出して、私が言う事を書き留めていた。
「フェリシアは勉強熱心で偉いね。でも、よそ見をして、手放し飛行は危ないから気を付けて。私は、昔、周囲の注意を怠って飛んでいたら、【サンドワーム】に食べられかけた事があるよ」
「はい、わかりました」
フェリシアは、慌てて、メモをしまう。
あれは、イースト大陸の大砂漠を低空飛行していた時、延々と単調な風景が続くので、ついウトウトしていたら、頭からパックリやられた。
エタニティー・エトワールさんが救出してくれたから、ギリギリ死ななかったけれど、危なかったんだよね。
注意一瞬、怪我一生とは、あの事だよ。
・・・
見回りの最後は、キブリ警備隊への餌やり。
また、数が増えたね……。
どうやら、キブリは、【竜の湖】に【竜魚】がスポーンする度に、シバキ回して手下に加えているらしい。
これ、キブリは、もうすぐ【進化】するんじゃね?
【進化】は、魔物のボス個体が、上位種に変異する現象。
従える群の規模が増えると、ある時、突然、上位種に変わるんだよね。
本来は、【魔狼】とかの群を作る習性がある魔物に限った設定。
【竜魚】は、非群生だ。
でも、私は、キブリなら、もしかしたら……と考えている。
もしも、進化したら、種族名は【竜王魚】かな……。
もしも、本当にキブリが【進化】したら、博物史に新しいページが書き加えられるね。
・・・
朝食。
今日からは、朝ご飯会議に、エリアーナさんも参加する事になった。
諸々の懸案事項を、みんなから報告してもらって、私が決裁して行く。
その後、私は、ふと思い出して、ピオさんに質問した。
「ピオさん。あのさ、世界銀行ギルドの頭取って、エクセルシオールって家名なんだね?もしかして種族は【エルフ】なんじゃない?」
これ、昨日のエリアーナさんとの初対面の場で、出て来た情報だ。
世界銀行ギルドの頭取の名前は、ビルテ・エクセルシオール。
私がよく知っている子の名前は、ディーテ・エクセルシオール。
つまり、親戚なんじゃね?
この確認しておきたい重要情報……昨日は、私の長ったらしい肩書きの方がインパクトがあり過ぎて、スルーしちゃったんだよね。
「よく、ご存知で。私共の上席者であるビルテ・エクセルシオールは、【ハイ・エルフ】でございます」
【ハイ・エルフ】?
へえ、凄いじゃん。
それよりも、エクセルシオールって家名だよ。
あの、ディーテ・エクセルシオールの親戚か、子孫かもしれない。
ま、日本人の感覚で云う、佐藤さんとか鈴木さんみたいに、【エルフ】には珍しくもない家名なのかもしれないけれどね。
「そのビルテ頭取は、【エルフヘイム】の大祭司ディーテ・エクセルシオールの親戚かな?」
「はい。【エルフ】族最大の傑物……ディーテ・エクセルシオール様は、ビルテの、ご祖母上でございますよ。ディーテ様は、かのノース大陸の危機を救世した大英雄様の偉業をパートナーとして助けた伝説的な偉人。正に歴史の紡ぎ人でいらっしゃいます」
へえ〜。
あのディーテの孫なのか……。
ディーテは、私と一緒に冒険していた時は、まだ少女の面影を残していた。
もちろん、独身で子供もいなかったよ。
あの後、家庭を持ったんだね。
幸せになっていたなら、嬉しいな。
「ディーテは、今も生きているのかな?」
【ハイ・エルフ】は長命だ。
寿命的には生きていても不思議ではない。
「はい。大祭司の座は、ご長女……つまり、ビルテの、お母上の現大祭司様に譲られましたが、ご存命だと伺っております」
「ディーテか……懐かしいね。会いたいなぁ。元気にしてるのかな……」
「ディーテ様を、ご存知なので?」
ピオさんが驚いた。
「うん。ディーテと一緒に旅をしたからね。【ニーズヘッグ】が【世界樹】の根っこを嚙って木を枯らしちゃうからって、世界中を2人で冒険して回って、大変だったんだよ」
【ニーズヘッグ】が【世界樹】の根っこを嚙る理由は、歯が痛いからだった。
【世界樹】は、霊験あらたかな聖木。
その枝は、未加工の状態ですら、強力な魔法触媒となる。
高度に魔法的な加工をすれば【神の遺物】に匹敵する魔法杖も製作可能。
実は、私の【魔法のホウキ】の材料は、【世界樹】の枝だ。
そう設定されている。
また、葉や樹液には、【エリクサー】と同等の効能がある他、最高性能、かつ、副作用が全くない鎮痛・鎮静作用があるとされていた。
亜空間に休眠している【ニーズヘッグ】は、亜空間に繋がっている【世界樹】の根っこを嚙って、歯の痛みを止めているという設定。
でも、【ニーズヘッグ】が、カジカジし過ぎると、【世界樹】が枯れてしまう。
強力な自己再生能力がある【世界樹】も、守護竜の【ニーズヘッグ】に嚙られまくると、さすがに枯れてしまう訳。
で、だいたい数百年から千年周期で、【世界樹】は、樹勢が衰えて来てしまうのだ。
【世界樹】が枯れると大変な事になる。
【世界樹】は、不滅の聖木だから、枯れても、また萌芽から大樹に育つのだけれど、亜空間にまで根っこを伸ばす大きさに育つまでには長い年月がかかるのだ。
で、歯が痛い【ニーズヘッグ】が痛みに耐えかねて、【エルフヘイム】の【神位結界】を張れなくなる。
すると、【エルフヘイム】を含むノース大陸は、常冬の氷河に覆われて滅んでしまうのだ。
それを防ぐのが、このクエストの目的。
枯れかけた【世界樹】の樹勢を回復させる肥料を生成する為に、世界にある5つの貴重な素材を集めなくてはならない。
これが、メッチャ大変なんだよ。
何せ、ほとんどが【神格】の守護獣が持つ素材なんだからね。
【フェンリル】の牙。
【レヴィアタン】の翼皮膜。
【ベヒモス】の蹄。
【ジズー】の羽。
そして、【ネクタール】。
【神格】の守護獣から素材を取る為に、私は、何度も何度も死んだよ。
討伐するなんて、とんでもない。
その時は、まだ私の【エルダー・リッチ】軍も、【腐竜】達も、いなかった。
当時は、絶対に勝てっこない絶望的な戦力差があったんだよ。
私が【ベヒモス】を倒せたのは、【エルダー・リッチ】200体と、【腐竜】8体の現有戦力を揃えた後の話だからね。
それでも死ぬ前提で特攻を仕掛けて、【フェンリル】に噛まれて死ぬ寸前に牙を削り取ったり、【ベヒモス】に踏み潰されて死ぬ寸前に蹄を削り取ったり……。
それも、一度では上手くいかず、成功するまで100回以上、繰り返してさ。
本当に鬼畜難易度過ぎて発狂しかかったよ。
ま、初めから1人だけで挑むなんていう想定のクエストじゃなかったんだろうね。
当時の私は、ボッチだったからさ……。
確か、参加可能人数は、通常パーティ人数の上限である9人だったはず。
仕方ないんだよ……【ゾンビ】を連れて歩く【死霊術士】は、みんなから嫌われていたから。
因みに、負け惜しみじゃないけれど、カンスト・ユーザー9人でも、大して難易度は変わらないんだよ。
とにかく、【フェンリル】とか【レヴィアタン】とか、【神格】の守護獣って、100人とかの大規模レイドで挑んでも全滅するくらい、クッソ強いからね。
このクエストをクリアするまでに、エゲツないほど課金したよ。
当時の年収の3年分くらい……。
ようやく、【神格】の守護獣の素材を全部集めたんだけれど、今度は【ネクタール】が入手出来なかった。
【ネクタール】は、遺跡の深層で、ごくごく稀に【宝箱】から出る、超激レア・アイテム。
何と、死んでも誰かに【ネクタール】を飲ませてもらえば、ノー・コストで復活するという奇跡の飲み物だ。
結局ダンジョンは7周も回ったんだよね……。
こうして手に入れた素材を【調合】して、出来た肥料を【世界樹】にかける。
すると、【世界樹】は、また、数百年単位で元気に生い茂るのだ。
たぶん、正攻法でクリアしたのは、私だけなんじゃないかな。
少なくとも、公式のログには、私の名前しか記録されていなかったと思う。
このクエストの難易度は、超絶級に指定されていた。
私は、クエストを全クリアしている。
たぶん、全クリアなんて達成したのは、私が世界唯一だと思うよ。
その全てのクエストの中でも、この【世界樹】のクエストは、1、2を争う大変さだった。
もう一度やれ、と言われたら断るだろうね。
あまりにも難易度が高過ぎるクエストだからって、その後は、【神竜】とか守護竜の降臨イベントの報酬で、その肥料の完成品がもらえる設定が加わったくらい。
つまり、レベル・カンストして守護竜を降臨させるだけで手に入る……。
私は、あんなに苦労したのに……。
ま、正攻法じゃなければ、イベント・クエストのクリアとは認められない設定だから、私の名誉は残ったね。
実利は、年収3年分を溶かした現実として、跳ね返って来たけれどさ。
「ま、まさか……グレモリー様は、大英雄、青衣の大魔導師?」
ピオさんは、ワナワナと震えながら言った。
「ん?何それ?」
「青衣の大魔導師という方が、ノース大陸を救った伝説は、世界中の人が知っている英雄叙事詩でございます。その青衣の大魔導師に付き従って、数々の偉業を成し遂げ、ノース大陸を救世した事により、ディーテ・エクセルシオール様は、万民から崇敬されているのです。グレモリー様が青衣の大魔導師様なのですか?」
青衣?
ああ、確か、あのクエストの時、【エルフヘイム】で行動する時は、今着ている【漆黒のローブ】じゃなくて、【深海のローブ】を着ていた。
ノース大陸の真冬……クッソ寒くてさ。
【漆黒のローブ】も気候順応性は相当あるんだけれど、さすがに、マイナス30度とかは耐えきれなかったんだよね。
手持ちのアイテムで、マイナス30度なんて低温に耐えらるのが、【深海のローブ】しかなかったんだよ。
【深海のローブ】は、着ると深海でも歩けるっていう装備。
超水圧に耐え、水中呼吸が出来て、水中での活動を助ける各種機能が付いている【神の遺物】だ。
で、深海は太陽光が届かないから、冷たい。
なので【深海のローブ】には、低温完全耐性の機能も付いていたって訳。
「私は、900年前に【世界樹】の根っこを嚙る【ニーズヘッグ】を何とかする、っていうクエストをディーテと2人でクリアしたよ。その時に私は【深海のローブ】っていう青いローブを着ていたけれど。私が、その青衣の大魔導師かどうかは、知らないね」
「間違いない。文献によれば、青衣の大魔導士は、長い黒髪の少女であった、とあります。グレモリー様が青衣の大魔導師で、大英雄……。これは、大変な歴史的事実を知ってしまいましたね……」
ピオさんは、感嘆した。
ふーん。
どうやら、私が、その青衣の大魔導士みたいだね。
ま、昔の話には、だいたい尾ひれが付くんだよ。
私は、当時、そんな大英雄なんて、偉そうな扱いは受けなかった。
むしろ、【エルフ】族の王家の墓を掘り返して、死体を持って行っちゃったから、物凄い大ひんしゅくを買って、【エルフヘイム】では歓迎されていなかったよ。
ノース大陸を救ったのは事実だから、恨まれこそしなかったけれど、間違いなく軽蔑はされていた。
きっと、時間が経過して歴史が事実よりも美化されているんじゃないかな。
ま、どうでも良いけれど。
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