第158話。グレモリー・グリモワールの日常…21…スカウトと面接。
【サンタ・グレモリア】
庇護者
グレモリー・グリモワール
グレモリー・グリモワールの従者・養子
【エルフ】姉、フェリシア
【エルフ】弟、レイニール
村長・代官
アリス・イースタリア
副村長
グレース
副村長代理・【サンタ・グレモリア】守備隊、及び、【サンタ・グレモリア】衛士隊、総隊長
スペンサー
副守備隊長
衛士長
副衛士長
料理長
ジェレマイア
メイド長
キャリスタ
ジェレマイアとキャリスタの愛息子
アーヴィン
村人
60世帯300人
【竜魚】警備隊
キブリと、その子分約150頭
銀行ギルド【サンタ・グレモリア】支店
世界銀行ギルド副頭取、兼任、英雄調査部スーパーバイザー
ピオ
支店長
エリアーナ
冒険者ギルド【サンタ・グレモリア】出張所
所長
ヘザー
昼食。
今日のメニューは、白パンと、【パイア】の肉団子と野菜入りのスープ。
肉団子……ねえ。
ふと、気がつくと、調理をしてくれたと思う、村の娘さん達が私の表情を、不安気な様子で窺っていた。
これは、アレだ。
私が餃子やコロッケみたいな挽肉料理を紹介したから、挽肉料理にチャレンジしてみた、という訳なんだろうね。
まだ、私がミンサーを造ってあげていないから、きっと、包丁で刻んでミンチを作ったのだと思う。
手間暇がかかっているね。
不味くはない……と、一応は言っておこう。
見た目からの予想を1mmも上回らない、ただの肉団子スープだった。
いや、日本人がイメージする、美味しい肉団子スープを想像してはダメ。
出汁とか、フォンとか、そういう食文化は、【ブリリア王国】では、贅沢な貴族料理なのだから。
味を正確に表現するなら、塩味のお湯に野菜や肉のエキスが出た、旨味の少ないボヤけた味のスープだ。
ウチの村に移住して来た村人さん達は、元は貧困層。
【ブリリア王国】の庶民は、出汁ガラみたいな具が申し訳程度に入った味の薄っすい塩スープを、いつも喜んで食べている。
彼らは、皆、スープに入っているくず肉が一粒多いとか、そう事で、兄弟喧嘩が勃発するような、貧困な食生活をおくっていたのだ。
高級食材の【パイア】や新鮮な魚が、いつも食卓に並び、調味料を好きなだけ使える私の村は、【ブリリア王国】の平均から言えば、これでも相当、裕福な場所らしい。
にしても……つなぎや具のない、ただの肉団子。
肉団子は、下味も特になく、スープの中でグツグツ茹でている為、相当、煮崩れてパッサパサだけれど、元の【パイア】の肉が美味しいので、辛うじて不味くはない。
でも、日本の家庭で、このクオリティの料理が出て来たら、苦笑いすると思う。
レストランだったら、その店には二度と行かないレベルだ。
相当頑張って贔屓目に見て、不味くはない。
そうとしか表現のしようがない味だった。
「お、美味しい……よ」
私が、言うと、調理をしてくれた村娘さん達が嬉しそうな顔をして見せた。
私以外の人は、普通の顔をして食べている。
「ピオさんは、【ドラゴニーア】で、いつも美味しい物を食べていたんだよね?コレを、どう思う?」
私は、思わず訊ねてしまった。
「私は、元冒険者ですから。食べられる物なら、何でもありがたく頂きますよ。森の中で、食料がなくなって、1週間サバイバルした事もありますしね。生き延びる為に、草の根っこや、蛇や、昆虫を食べたりしました。その時の事を思い出せば、何でも食べられます」
そう言えば、ピオさんは、あの激マズの冒険者用携帯食を平気で食べていた。
聞いた人を間違えたね。
村娘さん達が料理下手な訳ではない。
これは、ただ経験がないだけなのだ、本物の江戸前の握り寿司の味を知らなければ、カリフォルニアン・アボカド・チリ・ロールとかを、寿司、と言われれば、そうなんだ、と信じてしまう。
そういう事だ。
肉に塩をかけて焼くか、肉と野菜を塩味で煮込むか……。
それしか調理法を知らなければ、世界で一番味覚にうるさい日本人が美味しいと思える料理を作るのは、難しい。
これは、第2回料理教室の開催を急がなくてダメだね。
・・・
昼食後。
昼便の駅馬車が到着。
駅馬車隊のメンバーが、私が何も言わなくても、充魔力装置を利用し、【ゴーレム馬】のバッテリー代わりの【魔法石】を交換していた。
「ランプ確認よし、交換よし」
駅馬車隊員さんは、指差し確認・声出し確認をしている。
私が教えた、日本の駅員さん方式だ。
うん、キチンとやっているね。
私は、この他にも、報連相、とか、そういう事にうるさい。
駅馬車隊の隊員から、呼ばれた。
乗客に急患がいるらしい。
私は、急いで馬車に駆け寄った。
重篤な患者さん。
高熱を出した、小さな男の子だ。
太腿に大きな傷痕。
新しい治療痕だ。
傷は、【治癒】で治療されているらしく、塞がっているけれど……この治療は、全然なってない。
血管は繋がっているけれど、大腿骨は砕けていて、神経は繋がっていない。
内部の炎症と化膿が酷い。
誰が、こんなメチャクチャな治療をしたのか?
ヤブ医者め。
男の子を抱きしめている、お母さんは、泣きながら、声をかけている。
「アーヴィン、目を開けてっ!今、聖女様が診てくれるから」
男の子は、意識はあるけれど泣きもせず、薄ぼんやりとした真っ白な表情で、どこか空中を眺めている。
意識は朦朧として、呼吸も浅い。
唇は紫色で、脂汗をボタボタ流しながら、ガクガク震えていた。
【鑑定】。
怪我は、もちろんだけれど、症状として、一刻を争うのは、敗血症だね。
男の子の気付けをしてから……炎症と化膿を治し……敗血症を引き起こしている細菌を除去……骨と組織の再生……神経の接合……腿の傷痕も消して、完治。
ふー……危なかったよ。
もう、数時間したら死んでいたと思う。
男の子は、穏やかな顔で寝息を立て始めた。
「さっきの腿の傷は?」
「はい。脚の骨が……」
男の子の父親らしき人物が言った。
男の子の父親によると、彼ら親子3人は、王都【アヴァロン】で料理店を営み暮らしていたらしい。
男の子の傷痕は馬車に轢かれた怪我。
どうやら、轢き逃げだそうだ。
可哀想に。
脚を轢かれ、骨が折れて肉と皮膚を破り、外に飛び出した、と。
なるほど、開放骨折というヤツだね。
男の子は、治療の為に、【アヴァロン】の妖精教会の中央神殿に運び込まれた。
治療は受けられ、傷は塞がったものの、高額な治療費を請求され、経営していた料理店は、治療費を工面する為に人手に売り払ったのだ、とか。
この酷い治療内容で、家業を売るほどの治療費を請求するとか、あり得ない。
そんな医療魔法使いは、泥棒……いや、殺し屋だ。
妖精教会……やっぱり、腐っている。
あいつらは、間違いなく私の敵だね。
男の子は、アーヴィン。
父親は、ジェレマイアさん。
母親は、キャリスタさん。
ジェレマイアさんとキャリスタさんは、息子アーヴィンの容態が良くないので、再度、中央神殿に連れて行ったものの、もう治療費が支払えず診療を拒否されてしまった。
借金をしようにも、担保に出来る物もなし。
途方に暮れていた。
そんな時に、お客さんから聞かされた噂話を思い出したのだ、とか。
その、お客は、商業ギルドの職員で、【イースタリア】からの魔法通信で、それを知ったらしい。
【イースタリア】には、怪我人も病人もいない。
湖畔の聖女と呼ばれる偉い【魔法使い】が現れて、【イースタリア】の怪我人や病人をみんな治療してしまったからだ。
そして、その湖畔の聖女は、無償で治療してくれるらしい。
ジェレマイアさんとキャリスタさんは、藁をも掴む思いで、アーヴィンを連れ、はるばる【アヴァロン】から、【イースタリア】まで来たそうだ。
馬車での移動なんて、何ヶ月もかかってしまう。
ジェレマイア一家は、大枚をはたいて、飛空旅客船に乗った。
【イースタリア】は主要都市ではないから、定期飛空船は、運行していない。
人が操縦する飛空船は、航路ギルドが管理する定期飛空船より、運賃が高額なのだ。
その長旅の途中から、アーヴィンの容態が、ますます悪化し、どんどん衰弱して行った、と。
【イースタリア】に到着すると、湖畔の聖女は、【サンタ・グレモリア】にいる、とわかり、慌てて駅馬車に乗ったのだ、とか。
なるほどね。
「とりあえず、アーヴィンは、しばらく入院。栄養のある物を食べさせて、体力の回復をしなくちゃならない。それに、神経組織を再生してあるから、しばらくは、歩くのに苦労するよ。そのリハビリも必要だからね」
「アーヴィンは、また歩けるようになるのですか?」
キャリスタさんが訊ねる。
アーヴィンは、事故以来、歩くどころか、自力で立ち上がる事も出来なくなったそうだ。
あのデタラメな治療なら、そうなるだろうね。
「当然だよ。私が治療したんだからね。立って歩くだけなら、もう出来るけれど、治療した脚の組織が馴染むまで3日くらい歩行訓練をすれば、完全に元通り。さあ、馬車を降りて。病院は、あの建物だよ。受付で手続きをしてね」
「あのう、聖女様。私達は、治療費が払えませんが……」
ジェレマイアさんが言う。
「ウチの病院は、私が、その必要がある、と判断した患者さんで、入院費用が払えない場合は、無料だよ」
「「ありがとうございます、ありがとうございます……」」
ジェレマイアさんとキャリスタさんは、何度も何度も礼を言う。
私は、他の患者さん達も、サクサク治療を済ませた。
やがて、荷の積み替えを終えた、駅馬車は【イースタリア】に戻って行く。
・・・
【サンタ・グレモリア】病院。
病室。
病院開設以来、初めての入院患者という事で、ナース役の聖職者達は、大張り切り。
看護の注意点と、病院食とリハビリのメニューを伝えて、あとは丸投げしておく。
私は、思うところあって、ジェレマイアさんを病室の外に呼んだ。
「あのさ、ジェレマイアさんは、料理人なんだよね?」
「はい。【アヴァロン】で、5代続くレストランを経営しておりました。もう、人手に渡してしまいましたが……」
「家は?」
「もう、ありません。店舗の奥が自宅でしたので……」
「財産は?」
「全て換金して、【イースタリア】までの旅費にしました。その残りの現金が、わずかばかりありますが、それが全財産です」
「なら、もう【アヴァロン】に戻る理由もないね?」
「ええ、まあ……。知人に頼み込んで、働き口を探さなくてはいけません」
ジェレマイアさんは、ガックリと肩を落とした。
「はい、採用。ジェレマイアさんを、この村の代官屋敷の料理長として雇います。キャリスタさんは、メイドかな。給料は、夫婦2人で、月に【ドラゴニーア金貨】5枚で、どう?」
ピオさんに聞いた【ドラゴニーア】の物価換算なら、たぶん、日本円で、月給50万円くらいの感覚だと思う。
夫婦2人分で、フルタイム労働、原則休みなし、と考えたら、そう高い給料じゃない。
でも、物価が安い【ブリリア王国】なら、【ドラゴニーア】の数倍くらいの価値にはなるから、そこそこの高額収入だろうね。
「え?」
「私に雇われる気があるなら、今日から、すぐ働いて欲しいんだけれど?」
「あ……はい、では、妻と相談して参ります」
ジェレマイアさんは病室に戻って行った。
・・・
ジェレマイアさんと、キャリスタさんと、アーヴィンは、【サンタ・グレモリア】の住人になった。
ジェレマイアさんは、【サンタ・グレモリア】の代官屋敷料理長。
キャリスタさんは、【サンタ・グレモリア】の代官屋敷メイド長。
うん、得難い人材を得たね。
これで、今晩から、塩味だけのスープと、パッサパサの肉団子なんか食べなくても良い。
キャリスタさんは、入院するアーヴィンの付き添いをしている。
ジェレマイアさんは、早速、アリスの家の厨房に入った。
・・・
アリスの家。
私は、3人の老人と対面していた。
この老人達……歳は、間違いなく年寄りだけれど、カクシャクとしていて、ガタイも良い。
これは、面接。
この人達は、私の村の衛士長候補者だ。
しかし、また、何で、老人ばかり?
どうやら、【イースタリア】の兵士や騎士を定年退職した人達らしい。
アリスは、経験豊富で優秀な人材を求めたら、こういう選択になった、と言う。
若くて優秀な人材は、当然、現役の兵士や衛士として現職にあるし、【イースタリア】から無理やり引き抜く訳にはいかない……かと言って、優秀じゃない人材はいらない。
定年退職した人でも、能力と意欲があって健康に問題がなければ良いはずだ。
また、経験豊富な人材なら、新設の衛士隊の指導役としても、期待出来るだろう。
つまりは、そういう事らしい。
なるほど、アリスの選択は理にかなっているね。
3人とも、人柄に問題はなさそう。
スペンサー爺さんの元部下と、別部署の知り合いらしいしね。
スペンサー爺さんは、元【イースタリア】騎士団の副団長だったのだ、とか。
へえ〜。
副団長と言っても、団長は、家柄で選ばれた、お飾りの役職なので、実質、騎士団の指揮官は、スペンサー爺さんだったらしい。
へえ〜。
「3人とも、採用。スペンサー爺さん、この3人を【サンタ・グレモリア】の常設軍の副官に1人、衛士長に1人、副衛士長に1人、で仕事を割り振ってよ」
「わかりました」
スペンサー爺さんは、言った。
「皆さん、よろしくね」
「「「よろしく、お願い致します」」」
「因みに、スペンサー爺さんは、【サンタ・グレモリア】の副村長代理で、常設軍の指揮官で、衛士長の上位指揮者も兼ねるから。皆さんの上司だからね」
「「「はっ!スペンサー殿、よろしく、お願い致します」」」
「スペンサー爺さんの役職名は、【サンタ・グレモリア】副村長代理兼任総隊長にしよう。【サンタ・グレモリア】守備隊、及び、衛士隊の総隊長って意味だよ。略称は、総隊長だね」
「「「スペンサー総隊長、よろしく、お願い致しますっ!」」」
「うむ、よろしく」
スペンサー爺さんは、普段の柔和そうな表情を、一瞬、ピリッと引き締めて言った。
3人の家族は、【イースタリア】から【サンタ・グレモリア】に移住してもらう事にする。
子供さん達は、もう独立しているから、それぞれ、奥さんだけを連れて来るそうだ。
今日は、夕刻の駅馬車で、【イースタリア】に戻り、数日後、改めて、奥さんと引っ越して来る。
家を建ててあげなくちゃね。
ジェレマイアさん一家の分もだ。
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