第157話。グレモリー・グリモワールの日常…20…賞金稼ぎ。
【ブリリア王国】
かつては工業先進国として列強の一角を占めていたが、英雄大消失以後の経済政策の失敗や度重なる戦争で衰退し、今は見る影もない。
国王
マクシミリアン・ブリリア
英雄の気風がある、と評されるが内憂外患に煩わされており、民の為の治世を標榜するが苦労している。
首都【アヴァロン】
東の街【イースタリア】
領主・侯爵
リーンハルト・イースタリア
戦争に強く善政を敷いている為、領民からの人気は高い。しかし、政治・経済に疎い生粋の武人肌である為、グレモリーからの評価は、とても低い。
領内に有望な開拓村【サンタ・グレモリア】を抱える為、領地発展に繋げたいと願っているが、その思いは空回りしている。
西の街【ウエスタリア】
南の街【サウスタリア】
北の街【ノースタリア】
拠点が多数の敵に襲撃された。
今回の敵は、【死霊術士】でキャラメイクを統一した連中。
【不死者の添乗員】の二つ名を持つ私と、【不死者】に特効を持つ【高位僧侶】のエタニティー・エトワールさんのコンビに、【死霊術士】のキャラメイクで挑むなんて、頭が空っぽなのか、ドMなのか、自殺志願者なのか……。
人数は、レベル・カンストの20人。
世界ランクには1人も名前が乗っていない。
少なっ!
そして、弱っ!
対するのは、私とエタニティー・エトワールさんと、オリジナル6さんの3人。
世界ランク1位の私と、世界ランク170位のエタニティー・エトワールさんと、世界ランク44位のオリジナル6さん。
楽勝過ぎる。
最近は、こんな事ばかりだ。
世界ランク1位の私をプレイヤー・キルして、名を上げたい的な有象無象。
こう頻繁だと、さすがに面倒なんだよね。
貴重な収入源だから、美味しく、ぶち殺してあげるけれどさ。
私が【エピカント】に拠点を持つ事が、ネット掲示板への誰かのカキコでバレてから、頻繁にこんな事になっている。
本来、ユーザーによる都市内での戦闘や破壊活動は全面的に禁止されていた。
つまり、こいつらは、愉快犯の荒らしの連中。
だから、アカウント停止とか、どうでも良いんだろうけれど、私達はBANされたら困る。
だから、正当防衛とはいえ、広域殲滅魔法とか都市に影響を及ぼすような強力な魔法での撃退は出来ない。
私達は、都市に影響を及ぼさない為に、自分の拠点内に敵を引き込んで戦っていた。
強力な結界を張って、拠点内を疑似バトル・フィールドにしてある。
後は、通報で、ゲームマスターが駆け付けるまでは、何とか、持ち堪えれば良い。
仮に殺されたり拠点が破壊されても、相手が違反行為者なら、運営からレベルや経験値やアイテムや建築物は、全て原状回復してもらえるからね。
でも、もしも迎撃しようとするなら、戦闘で消費したり、ダメージを回復・治癒したり、結界を張ったりする魔力コストや、使用アイテムの類は、全部持ち出しだ。
運営からも、違反行為の被害に遭ったら、下手に抵抗せずに、運営側に任せるように、って、指針が示されている。
違反行為の被害に遭うと、だいたい運営から超激レア確定のガチャ・チケットがもらえるから、コストの事だけを考えたら、無抵抗にやられるのが一番お得なんだけれど……。
私は、こんな奴らに、無抵抗にやられるなんて、絶対に嫌だ。
私が無抵抗にやられたとしても、こいつらは、自分はグレモリー・グリモワールに勝った事がある、なんて、ネット界隈で吹聴して回るんだろう。
ふざけるな。
善良なオタクを舐めるなよ。
喧嘩を売られたら、倍返しが基本。
思い知らせてやる。
私は、ゲーム内で、多少、他所様に、意地悪な事をしたり、迷惑をかけたりもする。
でも、運営側が定めたガイドラインを破った事は一度もない。
それは、踏み越えちゃいけない一線だ。
誤解して欲しくないんだけれど、私は、運営のガイドラインに則った戦闘行為なら、負けても相手を恨んだりしない。
ゲーム運営が定めたルールに公然と違反する連中が許せないだけ。
相当、卑劣な騙し討ちなんかに遭っても、私はルールで認められた方法ならば、仮に敗死しても、相手が上手だ、って、素直に認める。
このゲームは、そういう世界。
ゲームのルールに反しない限り、罠も毒も陰謀も策略も、全て認められている。
だから、面白い。
「エタさん、ゴキブリが3匹、そっちに行ったよ〜」
私は、言った。
「は〜い。いらっしゃいませ〜……【断罪】」
エタニティー・エトワールさんは、【聖槌】を薙ぎ払う。
途端、聖なる光が満ちて、3体の【デュラハン】を消し飛ばした。
おっ!
1撃3殺。
ナイス・キル。
後方支援職のエタニティー・エトワールさんから、こんなデタラメな威力の反撃を食らうとは予想していなかったんだろうけれど、カウンターで見事に入ったね。
【デュラハン】は、【不死者】系で最強の騎兵科。
なかなか強力な能力を持ち、近接戦なら、普通の【エルダー・リッチ】よりも強い。
敵側の最強戦力だ。
たったの50体しかいないけれど……。
弱すぎて、逆に気の毒になってくるね。
相手が悪かった。
私の【エルダー・リッチ】達は特別製だし、そもそも、近接しなければ遠隔攻撃がない【デュラハン】は脅威ではない。
私には敵わないから、後方支援をしているエタニティー・エトワールさんを狙ったんだと思うけれど、無駄無駄無駄。
エタニティー・エトワールさんは、純粋な、支援・防御・回復職だと思われているけれど、実は、攻撃も相当イケる。
対【不死者】なら、私より強いかもしれない。
エタニティー・エトワールさんは、超武闘派の支援職なんだよ。
因みに、敵が投入した大量の【ゾンビ】や【グール】や【スケルトン】は、私の拠点に仕掛けられた、弱い侵入者を無力化させる儀式魔法陣によるトラップで、全滅していた。
生き残ったのは【高位不死者】の【デュラハン】だけ。
よし、今度は、私の番だね〜。
「【壊死】」
私は、オリジナル・スペルを詠唱して、【不死者】を使役している敵の術者に向かってダイレクト・アタックを決めた。
【壊死】は、敵の肉体を構成する細胞組織に働きかけ、強制的に細胞自殺プログラムを発動させる凶悪な【超位魔法】。
【壊死】に暴露された敵は、生きながらグズグズに腐敗して行く。
【壊死】は、腐敗系の【高位魔法】である【腐敗】の強化版。
公式設定上、腐敗系は、【腐敗】が最上位とされているけれど、私は、その上を開発したのだ。
死体にも作用する【腐敗】と違い、【壊死】は生体にしか作用しない。
でも、その分、強力で回復・治癒が不可能な【超位】級の【呪】の効果も併せ持つ。
【壊死】は、その強力な威力もさる事ながら、生きたまま肉体が腐り落ちていく、見た目的にも目を背けたくなるくらいに相当エグい魔法。
ダークサイドのロールプレイをする私が、お気に入りとする得意魔法だ。
敵側は、私の【壊死】によって、5人が即死し、7人が回復不可能なダメージを受けた。
ふふふ……本来ならオマイらごときに、オリジナル・スペルを使うまでもなかったけれど、これは、同じ【死霊術士】のキャラメイクをしているオマイらに対する、私からの、ありがたい授業だよ。
授業料は、キッチリもらうけれどね。
連中は……何故、【魔法障壁】が無効になったの……って、キョトンとした表情をしている。
うん、ナイス・リアクション。
オリジナル6さんが、敵の後方に転移して、内側からオマイらの【魔法障壁】を消去しただけだけれど、何か?
オリジナル6さんは、ゲームでも希少な【転移能力者】。
この拠点の内部には、オリジナル6さんの、転移座標が無数に張り巡らせてある。
つまり、この拠点の中にいれば、魔力が続く限り、オリジナル6さんは、超強力。
種族【ヴァンパイア】のオリジナル6さんは、【転移】の時に黒い霧が残るエフェクトが出て、カッコ良いんだよね〜。
オリジナル6さんは、その為に、【ヴァンパイア】を選んだみたいなもんだ、って言っていた。
まだまだ行くよ〜。
「【墓掘人】」
私は、今度もオリジナル・スペルを使い、瞬時に敵の死体と怪我人を全て【ゾンビ】化した。
【墓掘人】は、【ゾンビ】化の魔法系統としては、たぶん最強。
たぶん……というのは、非公開のオリジナル・スペルで、同様の効果を発揮する魔法が存在せず、比較対象がないからだ。
でも、【墓掘人】より強力な【ゾンビ】化魔法を、私は知らない。
死体を一瞬で【ゾンビ】化するだけでも強力だけれど、【墓掘人】は、死体だけでなく回復不可能な致命傷や不治の病に罹患した者までも、即座に【ゾンビ】化してしまう、桁違いにヤバイ魔法だ。
これ、私しか使わないオリジナル・スペルじゃなかったら、パッチで弱体化設定されるんじゃないかな?
そのくらい、チートな魔法なんだよ。
【墓掘人】。
つまり、この墓掘人は、死者を埋葬する為に、お墓を掘るんじゃなくて、墓地を掘り返し死体を【ゾンビ】に変える、お仕事、という訳。
普通、ユーザーは死ぬと、あらかじめ復活場所に指定している、いずれかの神殿で蘇る。
でも、復活のギミックが発動して、死体が消滅する前に、死体を何者かに奪われてしまうと、ペナルティーが発生する。
所有権登録をしていない装備品と【収納】内のアイテム類が全て回収不可能になるのだ。
もちろん、それらは、全て私の物になる。
こういう時の為に、アイテム関係の所有権を帰属させる登録制度がある訳。
登録金をケチったり、手続きを面倒がったりすると、私みたいな規格外の魔法を駆使するエゲツない敵に負けた場合、アイテムがソックリ奪われてしまう。
こいつらは、所有者登録なんかしているはずはない。
だって、荒らし行為をしている連中だ。
違反行為者は、運営側に証拠を残すような事はしない。
敵は、仲間が一瞬で【ゾンビ】化されてしまった事実に驚愕し、敵わない、と悟って逃げ始めた。
撤退なんて格好良いもんじゃなく……潰走だ。
あははは……逃すと思うかい?
逃げ出した連中を待ち構えていたのは、私の【腐竜】達。
こんがり丸焼きだ。
最強兵種は、こういうふうに切り札として使うべきでしょう。
けっ、雑魚どもが。
私達が臨戦態勢で待ち構えている拠点に攻め込んでくるなんて、自殺行為を通り越して、もはや慈善活動だよ。
ま、同情なんかしないけれどね。
こういう荒らし行為をする連中は、メンタル系の治療施設に隔離した方が良い。
ルール違反をして他人を不愉快にして喜ぶなんて、どう考えても脳の機能が正常じゃないからね。
さてと、敵の装備品を剥いで、【収納】の中身を物色……。
ちっ、ロクな物を持っていやがらねぇ〜。
強力な毒とか、強力な爆弾とか、【ポーション】とか……これは、魔導書?
パラパラ、ふむふむ……魔法の使用マニュアルだね。
マニュアルを見なけりゃならないレベルで、私達に挑もうとか……つくづく残念な連中だよ。
・・・
侵入者の死体は、綺麗にメンテナンスして、私の軍団に組み込んだ。
ユーザーの肉体は頑丈だし、こいつらは、それなりに強力な魔法職だったからね。
良い【ゾンビ】や【エルダー・リッチ】になる。
本来なら、ユーザーの死体を【不死者】化して隷下に収めるなんて、運営側は想定外だっただろうし、そんな事は許可されない。
でも、私は、運営側と交渉して、アカウント停止される事が確定したユーザーの死体に限っては、例外的に【不死者】化しての使役を認めてもらった。
私や、私の拠点を襲撃して来る連中は、多い。
私を討ち取れば、このゲームでは有名になれるからね。
ルールに則った戦闘や、戦闘を許可されたエリアでの戦闘であれば、相手を返り討ちにしても、当然、死体は手に入らない。
でも、相手が不正プログラムを使用していたり、戦闘不許可地域に指定されている都市内の拠点を攻めて来れば、それはルール違反。
つまり、そういう連中は、私が倒して【不死者】化して使役出来る訳。
だから、私の軍団は、半端なく強力なんだよ。
そうこうしていると、ようやくゲームマスターがやって来た。
おっせーんだよ。
この荒らし連中は、永久アカウント停止は、もちろん、個人情報を複数の大手ネットセキュリティの会社に公開されて、一生、世界中のネットゲームにアカウントを作れなくなるそうだ。
あ、そう。
そんな事、私達には、全くカンケーねーし。
で、ガチャのチケットは?
早よ、よこしなさいな。
私達に1人当たり5枚ずつ?
合計15枚?
はあ?
少なくない?
ウチはパーティ・メンバー5人なんだけれど?
今は、非戦闘職2人は、本拠地の方に避難させてあるけれどさ。
それに相手は、20人だったんだよ?
私達のパーティ全員で20枚?
せこっ!
パーティ・メンバーで、均等に割ると、1人4枚じゃん?
不吉な数字だよね?
25枚?
キリが悪いね。
50枚ちょうだい。
多過ぎる?
何枚なら妥当だと?
ギリギリ30枚?
45枚。
だって、運営は何も働いてないじゃん?
こいつらは、私達が自力で撃退して摘発に協力したんだよ?
よし、OK。
ふふふ……また、儲かった。
これで、パーティで【神の遺物】が45個、ゲット出来るね。
しばらく、この【エピカント】の拠点は維持して、荒らしホイホイとして活用し、超激レア確定ガチャのチケットを稼ぐ狩場にしよう。
これだから、荒らしの相手は、やめられん。
ネット掲示板に、私の拠点をバラしたのって?
それは、トップシークレットだよ……高性能マッチポンプとも言う。
違反行為をしている荒らしやチーターなんかに、あえて罠を張り巡らせた自分の拠点を攻めさせて撃退して稼ぐ手法を、【賞金稼ぎ】と呼ぶらしい。
私達のパーティは、その先駆者だ。
いやぁ〜、今日も儲かったなぁ〜。
さあ、みんなでガチャを引こうじゃないか。
もちろん、ナイアーラトテップさんと、ピットーレ・アブラメイリンさんも一緒にね。
あの2人は、戦闘には参加しないけれど、私達の陣営の完全勝利に貢献してくれている。
この拠点の防衛ギミックを設計・建築したのは、ナイアーラトテップさんだし、各種トラップや敵の能力を低下させる儀式魔法陣を組んでくれたのは、ピットーレ・アブラメイリンさん。
あの2人も、私達、戦闘職組と一緒に戦ってくれたのと同じだ。
分け前は公平にしなくちゃね。
何が出るかな、何が出るかな、【神の遺物】のガチャ、ガチャ〜。
・・・
目が覚めた。
「グレモリー様、起きて〜」
レイニールが私を揺すっている。
「おはよう」
「おはよう、だなんて、今は、お昼ですよ」
フェリシアが笑った。
あ、そうか、昨日、徹夜したから、朝から昼まで仮眠していて、お昼ご飯に起こしに来て、って、頼んだんだったね。
何だか、とても愉快な夢を見ていた気がするんだけれど……思い出せない。
うーむ……ま、良いか。
どうせ、夢なんて、とりとめもない事なんだから……。
私は、【漆黒のトンガリ帽子】を被って【魔女のトンガリ靴】を履いた。
さてと、お昼ご飯は、何だろな?
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