表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/1238

第155話。グレモリー・グリモワールの日常…18…馬車製作。

名前…グレース

種族…【(ヒューマン)

性別…女性

年齢…39

職種…【暗殺者(アサシン)

魔法…なし

特性…【暗器(ヒドゥン・ウェポン)

レベル…35

 朝食後。


 フェリシアとレイニールと、グレースさんは学校。

 アリスと、ピオさんと、ヘザーさんは、事務仕事。

 私と、スペンサー爺さんは、駅馬車の到着を待つ。


 そう言えば、アリスは学校に行っていないけれど……。

 アリスは、既に読み書き計算は完璧に出来る。

 ピオさんによると、アリスの知識と教養は、大学卒業レベルらしい。

 なんでも、病気で外を出歩いたり出来なかった代わりに、セントラル大陸の【リーシア大公国】から、家庭教師を招聘して、自宅で毎日勉強をしていたのだ、とか。


 なら、アリスに学校は必要ないのかな。

【ブリリア王国】では義務教育制度はないし、教育も無償ではない。

 アリスは、侯爵令嬢……特権階級。

 勉強の必要を感じたら、リーンハルトに頼めば済む話。

 私が気にする必要もないか……。


 駅馬車隊の副隊長さんと話す。

 今日は、隊長さんは、お休みみたいだ。


「馬車が不足しています」

 副隊長さんは、言う。


 うん、それは、トリスタンにも言われた。

 何とかしなくてはならない。

 物資の運び込みの量が増えている。

 少しずつ鉱物関係が輸送されて来始めたからだ。

 それから、お酒。

 飲食店の開店準備で、たくさんのアルコール類が樽で入って来る。


 冒険者を迎えるには、酒場は必要。

 冒険者って、やっぱり酒飲みが多い。

 イメージ通りだね。


 そんな事より、馬車。


「とりあえず、何台必要なの?」


「多ければ多いほど、ですが、喫緊で20台。整備などで駐機する台数を考慮するなら30台はありませんと……。実は、鉱物などの日持ちがする物資は後に回して対応していますが、【イースタリア】の倉庫は、もう限界に近くなっています。トリスタン殿が、商業ギルドの倉庫を間借り出来ないか、交渉中ですが、間に合うかどうか……」

 副隊長さんが難しい顔をする。


 そんなに切迫しているの?

 トリスタンは……何とか致します……としか言わない。

 以前の私なら、任せる、で終わっただろうけれど、私は、なかのひと、に感化されて、今、凄くヤル気があるのだ。

 うん、何とかしてやろうではないか。


「明日までに、馬車を造っておくよ。とりあえず、今日中に鉱物を前倒しで送って欲しい。馬車の材料だからね」


「グレモリー様、馬車が賄えても、馬がありません。現在、【イースタリア】の荷駄馬は、可能な限り全て買い取って投入しております。軍馬を流用する訳には参りませんので……」


「近隣から買い付ければ?」


「はい。トリスタン殿が既に買い付けに動いております。しかし、その馬が届くのは一月はかかります。それに、馬を止め置く厩舎の数も、飼い葉も足らない為に、そもそもの問題として、十分な数は揃いません」


 うーむ。

 ま、何とかなるっしょ。


「なら、馬の代わりになるモノは、私が用意しておくよ。とりあえず、明日までに、馬車を30台動かせる状態にしておく。悪いんだけれど、今日の夕方便で、駅馬車隊の余剰人員を送ってくれない?明日の朝便の帰りに新しい馬車30台を動かして帰れるように」


「わかりました。トリスタン殿には?」


「一応報告しておいてね。私からも伝えておくけれど」


「了解しました」


 駅馬車が帰って行った。


 私は、トリスタンに連絡する。


「馬車が足りないんだって?私が造ったげるよ。明日の朝便の帰りで、馬車30台をそっちに送る。馬車30台を持って帰ってもらうから、今日の夕方便で人員を送ってくれない?」


「明日の朝では、いけませんか?」


「私が造る馬車は、少し特殊なんだよ。操縦の仕方を教えなくちゃ、だからね」


「わかりました。夕方に人員を向かわせます。何人必要でしょうか?」


「30台でしょう……なら、60人いれば良いよ」


「60人ですね。手配致します」


「それから、今日は、鉱物をガンガン送って、馬車の材料にするから」


「畏まりました」


「頼むね」


「それから【イースタリア】の中に、ターミナルを造りたいのですが、700金貨ほど予算承認して下さいませんか?」


「構わないけれど、用地は?」


「既に取得致しました」


「なら、今晩、私がそっちに行って、サクッとターミナルの建物やら、馬の厩舎やら、造れば良いよね?700金貨を支出するまでもないよ」


「そうして頂けるなら、それが最も良いですが、よろしいのですか?」


「それが一番、手っ取り早いでしょ?」


「ありがとうございます。では、お待ちしております」


 私は、通話を終わらせた。


 さてと、忙しくなるぞ〜。


 私は、森に飛んだ。


 ・・・


 私は、村にほど近い森の中で、【死神の(サイス・オブ・)大鎌(グリムリーパー)】をブンブン振り回して、手当たり次第に木を伐採していた。

 魔法で、やった方が早いけれど、これは、いわばトレーニングだ。

 私は【湖竜(レイク・ドラゴン)】との一戦で死にかけて、魔法偏重の脆さを身に染みて理解したからね。

 ま、生粋の魔法職の私が、武器習熟度を上げても、焼け石に水かもしれないけれど、やらないよりはマシだ。

 寿命がないユーザーである私は、時間が有り余っているからね。


 おっ!

 長柄武器の熟練値が1ポイント上がったよ。

 やっぱ、武器の扱いも練習しないとね〜。


 切り倒された木は、枝を打ち、皮を剥いで、魔法で乾燥させ、材木にする。

 材木は、私の【ゾンビ】達が、馬なしの馬車に乗せて引っ張り村に輸送して行く。


 途中、魔物が襲って来たりするけれど、そっちは【エルダー・リッチ】達に任せて放置。

 私は忙しいのだ。


 村で使う薪用の木材も、ついでに採取しておこう。


 必要な、材木が揃ったら、村にとって返す。


 ・・・


 村に戻った私は、スペンサー爺さんに、薪用に乾燥させた木材を引き渡した。

宝物庫(トレジャー・ハウス)】から大量の薪材をバラバラと地面に撒き散らして、後は、村の男衆に運んでもらう。


 馬車造りをする為に移動。


 駅馬車ターミナルの一角。

 倉庫予定地の空き地。


 ここで、馬車を造る。

 素材を持ってこなくちゃね。


 村の鍛治小屋の資材置き場に運び込まれていた鉱物類を物色。

 鋼鉄、鋼鉄……。

 何だよ、まともな品質の鋼材がないじゃん。

【ブリリア王国】の文明の衰退ぶりは、結構、深刻なレベルだと思う。

 900年前は、工業先進国だったのに……。


 ちっ!


 ま、ない物は、愚痴っても仕方がないよね。

 とりあえず、鉄鉱石から鋼材を作らなくてはならない。


 私は、まず鉄鉱石を【加工(プロセッシング)】しながら、不純物を除去し、逆に炭素を添加して行く。


 だいたい良いね。

 無駄な物質が含まれていない、私好みの鋼鉄が出来た。


 次に鋼鉄を、ステンレス鋼材として加工する。

鑑定(アプライザル)】しながら、クロム、タングステン、モリブデン、バナジウム、そして魔力を添加した。

 最後に、密度を高めて行くと……。


 強化ステンレス魔鋼となった。

 これが全ての基本素材となる。


 馬車のフレーム、ベアリング、ダンパー、サスペンションを製作。

 ボールベアリングには潤滑剤が不可欠だ。

 魔法的に、摩擦を低減させる方法もあるけれど、私以外に整備が出来ないのでは、意味がない。

 シンプルにオイルを充填する方式にしよう。


 性能の高い潤滑油やグリースは、高品質の鉄鋼すら生産出来ない現在の【ブリリア王国】では、入手を望むべくもないので、森で見つけた木の樹液を絞って、不乾性の樹脂を生成。

 これを、獣脂と混ぜて即席の潤滑油を作った。


 工業技術や化学の知識は、パーティ・メンバーだった、ナイアーラトテップさんや、ピットーレ・アブラメイリンさんから教えてもらってある。

 あの2人は、戦闘では、ほとんど役に立たないポンコツだったけれど、生産職・研究職としては、超一流だった。


 ナイアーラトテップさんは、あの超大手の生産系ユーザー・サークル……ヴァルプルギスの夜、の()中心メンバー。

 ヴァルプルギスの夜、は、嘘か真か、NASAの現役職員とか、MITの教授とか、中央官庁の技官とか、そうそうたる顔ぶれが揃っていた最高のラボだった。

 ナイアーラトテップさんは、ヴァルプルギスの夜、所属時に、【ドラゴニーア】から依頼されて、世界最強の飛空艦隊の建造計画に携わったらしい。

 超大型空母【グレート・ディバイン・ドラゴン】や【グレート・ドラゴーニア】や、超弩級戦艦【グレート・ドレッドノート】級を建造したのだそうだ。

 それらの図面を引いたのが、何を隠そう、ナイアーラトテップさん。

 艦隊の図面は、【ドラゴーニア】の国家機密。

 国宝と指定されているらしい。


 ナイアーラトテップさんは、経済観念が欠落した少しヤバい人だったけれど、何げに凄い人だったのだ。


 金使いが荒過ぎて、ヴァルプルギスの夜から追い出されちゃったらしいけれど……。


 人口100万の地下都市(ジオ・フロント)を建築するとか、発想がブッ飛び過ぎているよ。

 ウチのパーティは、会計を別財布にしていたから、ヴァルプルギスの夜、みたいに資金を勝手に使い込まれたりしなかったけれどね。


 閑話休題。

 馬車フレームに木材でボディを組む。

 積載重量軽減の為に、既存の馬車にも搭載してある、浮遊魔法を行使する【魔法装置(マジック・デバイス)】をフレーム下部に設置。


 段々、形は見えて来たね。


 費用対効果を度外視すれば、陸上貨物輸送の理想は【浮遊移動機】だと思う。

【浮遊移動機】は、空中を浮いて、荷物を運べる装置。

 あれなら、数千トンの荷重に耐えう得るし、車輪式じゃないから、路面や車軸の摩擦なんかも丸っと無視出来るからね。


 でも、コストがかかり過ぎる。

 製造には、【高位】の【魔法石】と、ミスリルなんかの魔法鉱が材料として必要になるし、操縦する人員は浮遊移動機を魔力で制御しなくちゃならない。

 材料費と人件費、それが勿体ないよ。

 自動運行という方法もあるけれど、そんな高度なプログラムを刻むには、【超位】の【工学魔法】が必要だ。

 私は、【工学魔法】は【高位】までしか使えない。


 私の駅馬車は、せいぜい食料や鋼材なんかを運ぶ用途でしかないんだから、そんな過剰なスペックは必要ないからね。

 それに、もしも故障してしまった場合、文明の衰退した【ブリリア王国】のエンジニアでは、そんなオーバー・テクノロジーを修理出来ない。


 ま、馬車が無難だ。


 学校が終わったレイニールが私を探しに来た。

 お昼ご飯らしい。


 もう、そんな時間か……。

 潤滑剤の試行錯誤で、かなり時間を取られてしまった。


 私とレイニールは、アリスの家に向かう。


 ・・・


 昼食後。


 車輪問題か……。


 エアチューブ式のタイヤは天然ゴムが見つからなかったので、作れない。


 サウス大陸に行けば、野生のゴムの木が大量に自生しているんだけれど……。

 ない物は、仕方がないよね。


 植物樹脂を固化して、擬似ゴムとする。

 柔軟性と耐久性で、天然ゴムに劣るね。

 ま、【永続バフ】で何とかなるでしょう。

 いちいち魔力を食うのは、仕方がない。

 馬車が壊れるよりマシだ。


 空気で膨らませたチューブ式のタイヤではなく、中身がミッシリ詰まった擬似ゴムタイヤは、衝撃吸収の面で不安。

 相当な振動に曝されると思う。

 ダンパーとサスペンションと【バフ】で、車体は守られるだろうけれど、乗り心地は、あまり良くないだろうね。

 ま、回廊は接ぎ目のない平らな道だし、既存の馬車の振動対策だってロクなもんじゃなかった。

 今、使っている馬車は、私の馬車より、もっと酷いから、クレームは来ないだろう。


 故障した場合、速やかに修理が出来るように、ジャッキとスペアタイヤと工具を馬車の前部に搭載しておく。


 私が造った馬車に屋根はない。

 シンプルな荷台型。

 屋根や壁を造ると、その分、車体重量が増えて積載量が減るからだ。

 回廊に屋根があるから雨避けは、必要ない。

【イースタリア】の街中で、雨に降られたら、幌でも被せてもらえば良いだろう。


 箱馬車じゃないと、盗賊とかに襲われたら、馬車に立て篭っての防衛戦が出来ない、って、スペンサー爺さんに言われた。

 なるほど……。


 盗賊……出るんだ?


 他の大陸はどうか知らないけれど、ウエスト大陸では盗賊は珍しくないらしい。

 この辺りは、【湖竜(レイク・ドラゴン)】の縄張りだし、そこそこ危ない魔物もスポーンするから、盗賊は活動していなかったけれど、今後は、どうなるかわからないって言われた。


 うーむ……。


 いや、屋根も壁もいらないよ。


 私の村と【イースタリア】の間で、仕事をするような、気合いが入った盗賊がいるなら逆に会ってみたいものだ。

 殺人とか、取り返しがつかない前科持ちじゃなければ、脅かして【契約(コントラクト)】で行動を縛り、村の兵隊として死ぬまで、こき使ってあげるよ。


 私の駅馬車を襲ったら、マジで酷いからね……。


 とりあえず、馬車は完成。

 次は、()の方をなんとかしなくては……。


 私が、()の骨格を造っていると、フェリシアとレイニールが呼びに来た。

 夕ご飯の時間らしい。


 むむむ、これは、今晩は徹夜作業か?

 安請合いするんじゃなかったかも。


 ・・・


 夕食後。


 最終便の駅馬車が、駅馬車隊の隊員を60人運んで来た。

 彼らは、明日の朝に私が造った新型馬車を【イースタリア】に操縦する役目の隊員達。


「食事は済んだ?」


「はっ!【イースタリア】で済ませて参りました」

 駅馬車隊の代表が言った。


 とはいえ、【イースタリア】の出発は夕方の早い時間だったはず。

 中途半端な時間だ。

 きっと夜中に、お腹が空くだろうね。

 後で夜食を差し入れをしてあげよう。


「宿泊は、商業集落のホテルでも構わないし、農業集落の集会場でも構わないよ。朝食は、病院の聖職者さん達と一緒に食べてね」


「はっ!」


 60人の駅馬車隊は、結局、集会場に雑魚寝するみたい。

 ホテルの個室は立派過ぎるとか何とか、遠慮されてしまった。

 安宿の方は、まだベッドとかが設置されてないからね。


 グレースさんに、駅馬車隊へ、後で夜食を差し入れしておいてくれるように頼む。


 メニュー?


 適当で。

 肉の燻製と魚の干物と、あとワインで良いよ。


 私は、【スケルトン】と【腐竜(アンデッド・ドラゴン)】を【宝物庫(トレジャー・ハウス)】から取り出した。

 それを、城壁の上に並べておく。


 ごめんよ。

 資材を運ぶから、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】のスペースが必要なんだ。


 今夜、雨は降らないよね?

 うん、大丈夫そうだ。


【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】は、パスの限界距離である10kmより遠い。

 つまり、この子達は、私が【イースタリア】に行っている間、ただの死体だ。


 鍛治小屋の鉱物や、大量の材木を【宝物庫(トレジャー・ハウス)】に詰め込む。


 私は、フェリシアとレイニールを【避難小屋(パニック・ルーム)】に入れた。

 今晩は、私が村を離れるから、安全の為。


「ここにある本は読んでも良いからね。時間が来たら眠ること。良いね?」


「「わかりました」」

 姉弟は素直に頷く。


 2人は、私の言葉に1mmの疑いも持っていない。


 フェリシアとレイニールには、私が戻るまでは、扉に鍵をかけて、外に出ないように言う。

 こうしておけば、もし万が一、キブリ警備隊で対応しきれない強力な魔物に村が襲われても、フェリシアとレイニールだけは生き延びられるからね。

 仮に、私が戻れなくても、食料は2週間やそこいら分は備蓄があるし、飲料水は無尽蔵に出るから、そうとうな期間、籠城出来るはず。


 ま、フェリシアとレイニールの為なら、私は【ゾンビ】になっても絶対に戻ってくるけれどね。

 あくまでも、念の為。


 私は、【魔法のホウキ(ブルーム・スティック)】に跨って、【イースタリア】に向かった。

お読み頂き、ありがとうございます。


ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。


活動報告、登場人物紹介も、ご確認下さると幸いでございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ