148話。アイス・ドラゴン・ドーム?
名前…リスベット
種族…【ダーク・エルフ】
性別…女性
年齢…15歳
職種…【丁稚】→【化学者】
魔法…【低位魔法】、【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【攻撃魔法】、【防御魔法】など。
特性…【才能…防御魔法】
レベル…21(最新)
研究者の道を歩み、薬学を極めたいという夢を持つ。
ファミリアーレでは最も魔法の素質に恵まれている。
魔法への取り組み方は理論派。
異世界転移、31日目。
10月1日。
リマインダーをチェックしましょう。
午前中。
私は、ソフィアから頼まれて【氷竜】の精肉と調理をしなければいけません。
その後は内職です。
ソフィアとウルスラは、朝食を食べてから二度寝。
オラクルと、ヴィクトーリアはソフィアに付き添い。
ファヴは、【ムームー】で大地の祝福。
トリニティは、軍と竜騎士団と衛士機構の訓練に参加するファミリアーレの様子を見に行くようです。
午後。
私とソフィアとファヴは、イースト大陸の西の国【アルカディーア】の王位継承権第一位のドローレス王女と謁見。
ドローレス王女は、【アルカディーア】が【ドラゴニーア】を盟主とする安全保障協定に参加する対価として、人質にやって来たのです。
【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】の同盟国である【グリフォニーア】に侵略しました。
しかし、【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】連合軍に反撃され、ボッコボコに負けて、無条件降伏。
現在、【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】軍の占領統治を受けています。
今回、次期女王となるドローレス王女を人質に差し出す事で、【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】から安全保障協定への参加を許されました。
政治の話は、私には関係ありませんが、ソフィアから同席を頼まれたのです。
謁見が終わったら、私はレジョーネと、少し、竜都を散歩する事にしました。
私達は、移動が【転移】ばかりなので、案外、竜都を知りません。
レジョーネのメンバーは、ほとんど竜都を見た事もないのではないでしょうか?
夕食は、ソフィアの希望で、ジャガイモ亭。
ジャガイモ亭は、おとぎ話のクラリッサ王妃の生家という事実が有名になったおかげで知名度が上がり、なおかつ、クラリッサ王妃の直系の子孫である、現リーシア大公が直接訪れて、公式に、お墨付きを与えた事で、箔が付き、連日予約客で満員。
【ドラゴニーア】全土から、さらに、【リーシア大公国】からも多くの観光客が訪れて来るのだ、とか。
なので、今日、ようやく予約が取れました。
今日から行うと宣言しているサウス大陸の、広域殲滅地上掃討作戦は?
もちろん早朝から着手していますとも。
神の軍団が、キッチリ追い込みをかけています。
大陸の端から横陣戦列を組んで飛びながら【超位ブレス】を撃ちまくるという原始的な追い込み猟。
神の軍団の結成は、本当に大きな出来事でした。
ちょっとアレやっといて、という私が大好きな丸投げ委託が魔物の討伐においても行えます。
また、現状、神の軍団のおかげで、都市防衛も盤石の構え。
私は楽が出来ます。
追い込み猟。
魔物は、当然逃げる訳ですが、良い具合に魔物が溜まったらレジョーネが魔物の群の鼻先に【転移】して一網打尽。
これで、あらかた目ぼしい所を狩ったら、残りは、ノーマンズ・ランド全域に私が極大魔法を1億発くらい打ち込んで掃除しておきましょう。
【超神位魔法……粒子崩壊】なら、1発で済みますが、後で生態系を回復する為に、ファヴが、大地の祝福、をしなければいけません。
兎にも角にも、サウス大陸の奪還作戦は、9割がた完遂してしまっています。
後は、消化試合という感じでしょうか。
もちろん、油断したり、気持ちを弛緩させてはいけません。
登山は下りの方が事故が多く、家に着くまでが遠足なのですから。
事務処理的に淡々とタスクをこなして行く。
これが大事です。
・・・
私が大広間に向かうと、アルフォンシーナさんとエズメラルダさんと秘書官ちゃんがいました。
「おはようございます、アルフォンシーナさん、エズメラルダさん、ゼッフィちゃん」
「おはようございます、ノヒト様」
アルフォンシーナさんが挨拶します。
「「おはようございます」」
エズメラルダさんとゼッフィちゃんが礼を執りました。
「ノヒト様、【ドラゴニーア】の冒険者ギルドと、【センチュリオン】の冒険者ギルドより、ノヒト様のアイテムが届いております。後ほど、お収め下さいませ」
アルフォンシーナさんが言います。
ああ、私の【宝物庫】ですね。
魔物の量が多くて保管が出来ないので、【宝物庫】ごと預けていたのです。
セントラル大陸では、軍や竜騎士団が魔物を討伐して軍が管理・運営する工場で解体されている為に、冒険者ギルドは魔物の買取などは、あまり大量には行える体制にはなっていません。
サウス大陸の冒険者ギルドが特別なのです。
「わかりました。ありがとうございます。ああ、そうだ。ゼッフィちゃんにプレゼントがあります。マリオネッタ工房の新製品の試作モデルなのですが、使い心地を確かめて意見を聞かせて欲しいのです。使ってもらえませんか?」
私は、ゼッフィちゃんにタブレット端末を渡しました。
今朝、ふと思い立って造ってみたのです。
【超位】の【魔法石】をタブレット状に伸ばして、ミスリル合金でカバーを付けただけ。
基本機能はスマホと同じ。
画面が大きく、筆記式の端末で、通話機能がない代わりにデータ通信の機能が向上させてあります。
このタブレット端末は、竜城の記録装置にリンク。
上手く出来たので筆頭秘書官のゼッフィちゃんに、モニターとして使い心地を試してもらおう、と考えました。
改善点などを聞いて製品化し、売り方はコンパーニアの首脳陣に丸投げしてしまいます。
優秀な部下達を持つと、楽ですね。
「こうして、筆記しながら、昨年の【ルガー二】の税収は、とか、直近四半期の【ラウレンティア】の出生率は、とかいう情報を瞬時に調べられますよ。便利でしょう?」
ゼッフィちゃんは、アルフォンシーナさんの顔とタブレットを見比べています。
「ゼッフィ。使わせて頂きなさい。私達も、伝統に固執するばかりではなく、新しい物は取り入れて変化して行くべきなのかもしれません」
アルフォンシーナさんは言いました。
「はい。アルフォンシーナ様」
ゼッフィちゃんは、いつも使っているペンとメモ帳をしまい、タブレットを受け取ります。
私は、その場で、ゼッフィちゃんと、アルフォンシーナさんと、エズメラルダさんの魔力反応をタブレットに登録しました。
竜城の記録装置は、初期オブジェクトなので、不壊・不滅。
絶対に壊れないコンピューターなのです。
なので、紙媒体より確実。
タブレット端末で入力すれば情報管理もし易いはずです。
それに、魔法通信は原理的に外部から情報を盗んだり、ウイルスを送り込んだりが不可能なので、情報セキュリティも高まるでしょう。
ゼッフィちゃんは、何だか、嬉しそうにタッチペンを走らせていました。
気に入ってくれたのなら何よりです。
「強力な【バフ】がかかっていますので、相当、乱暴に扱っても壊れませんからね」
「とんでもないです。大切に致します」
ゼッフィちゃんは、ニッコリ笑って言いました。
トリニティが現れ、ファヴが現れ、ウルスラを頭に乗せたソフィアが現れ、オラクルとヴィクトーリアとディエチがソフィアの後ろに付いて現れます。
1人1人と挨拶を交わして、朝食。
・・・
朝食後。
午後の謁見の式次第を確認しました。
やはり、他国の王位継承予定者を迎えるので、正式な儀式典礼の格式が求められるようです。
その後、サウス大陸の諸々について情報共有。
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア、ディエチは、再び寝室に戻りました。
ソフィアとウルスラは、二度寝です。
普段なら、アルフォンシーナさんから……規則正しい生活を……と、お小言がありそうな場面ですが、今日は、私が許可していました。
昨日は、未明まで起きていましたからね。
こういう日は、少し朝寝させても良いでしょう。
私は、【氷竜】の調理をする為に、竜城の厨房に向かいました。
・・・
厨房。
私は、【掘削車】の選別機能で、既にブロックごとに解体された肉を、さらに精肉します。
筋をトリミングしたり、余分な脂肪を削ったり、肉をスライスしたり。
私の調理速度は、機械より速いのです。
出来ました。
これを調理して行きます。
部位毎に最適な調理をして行きますが、ソフィアの注文を聞いて、要望があったメニューは、多めにしました。
厨房担当の【女神官】の皆さんが手伝ってくれるので、あっという間に調理完了。
お昼は、【氷竜】尽くし。
竜城で働く人達の分も作りました。
残りは【宝物庫】にしまってソフィアに渡しておきます。
後は、昼食の時間を逆算して加熱調理をしたり、温め直せば良いでしょう。
厨房担当の【女神官】の皆さんに、お任せしておけば大丈夫です。
私は、厨房を後にしました。
・・・
私室。
私は、内職を始めました。
大量の【自動人形】・シグニチャー・エディションに手伝わせて、色々と作製します。
【砲艇】製造の経験から着想を得た、【快速船】を造りました。
船の構造は大体わかりましたからね。
竜鋼を惜しげもなく船体に使った、強靭な構造。
竜鋼の無垢材では量が足りないので、竜鋼は薄く外装に張り付けるようにして、ダブついているアダマンタイトを芯材にします。
ふふふ、【超位魔法】も跳ね返しますよ。
武装は、今の所なし。
必要があれば装備出来るように配線関係は敷設してありますが、当面は甲板に出て魔法を撃てば良いでしょう。
全長100m、重量1千t……。
デカ過ぎましたか……まあ、良いでしょう。
ブロック工法で造っているので、私室の中でも何とか作業が可能です。
いずれ、工作用に専用ガレージかドックが欲しいですね。
動力は【超位】の【魔法石】を99個も用いた魔法タービン・ファン方式。
バカみたいな馬力があります。
魔法を直接噴き出させても、作用反作用の法則を無効にするギミックで推進力には使えないので、魔力でタービン・ファンを回転させ、圧縮空気を後方から噴きださせる方式にしました。
【飛行】の魔法を行使させる方式より、魔力効率が良いので、タービン・ファンの採用です。
まあ、離着陸や緊急制動には、【飛行】を使いますが……。
船名……カティサーク。
やはり、【快速船】の名前と言えばこれでしょう。
リマインダーのアラームが鳴りました。
もう、お昼ご飯の時間ですか?
まだ、カティサークの内装が……。
仕方がありません。
今晩仕上げましょう。
工作に没頭していると、時間経過があっという間ですね。
私は、私室を片付けて、外に出ました。
・・・
昼食。
サウス大陸で大地の祝福を終えたファヴと、訓練を終えてシャワーを浴び着替えて来たファミリアーレが合流します。
昼食のメニューは、もちろん【氷竜】尽くし。
ソフィアが、孤児院出身者の寮代わりになっている宿屋パデッラに【氷竜】料理を差し入れしていたらしく、ファミリアーレは味見程度は、していたそうです。
美味い!
フィレ肉のステーキが最高です。
ファミリアーレも、【氷竜】料理を堪能していました。
ゼッフィちゃんは、アルフォンシーナさんの背後から、興味津々という表情。
もちろん、竜城で働く【女神官】と竜騎士団の分も、たくさんありますからね。
後で、皆で食べて下さい。
・・・
昼食後。
ソフィアから1枚の画用紙を渡されました。
何だか、意味不明な図形か記号かが、クレヨンで描かれていますね。
鏡餅みたいな形に見えます。
「何これ?アルファベットのAかな?」
「ドームじゃ。【氷竜】ドームの設計図じゃ」
ソフィアは、フンスッと胸を張りました。
いやいや、設計図って、一筆描きの半円の上に、もう一つの半円が重ねて描いてあるだけなのですが?
線が、たった2本です。
スケールも素材指定も構造計算もしていない落書きを、設計図と呼ぶとは……。
それに、【氷竜】ドーム?
何じゃそりゃ?
「で、これが何?」
「造って欲しいのじゃ」
「私が?」
「建設会社に頼んでも構わないのじゃが、【氷竜】を強制スポーンさせて、大量に狩れるようにする施設じゃから、それなりに丈夫でなければダメなのじゃ。たぶん、ノヒトにしか造れないと思うのじゃ」
なるほど。
ソフィアの考えている事がわかりました。
【氷竜】のスポーン・エリアを頑丈なドームで覆い、そこにソフィアが出掛けて行って、強制エンカウントを引き起こす。
ソフィアは、そこで、最大数119頭の【氷竜】を狩り、肉が美味しい【氷竜】をいつでも大量にゲット出来るようにしたい訳ですね。
強制エンカウントの余波で、発生した魔物も、ドームによって外部に逃さない為、周辺の都市や街に被害を及ぼす心配もない、と。
これは、【ドラゴニーア】軍が演習場として管理している【静かの森】にある城塞と同じ運用目的なのでしょう。
【静かの森】には、スポーン・エリアを囲むように巨大な城壁があります。
城壁の上には、【魔導カノン】と儀式魔法陣を発動させる機構があり、エリア・ボスが周期スポーンすると同時に、城壁の上から、中心のスポーン・エリアに向かって一斉に飽和攻撃を仕掛け、エリア・ボスの【翠竜】をボコ殴る用途の軍事施設でした。
これは、それと同じような運用思想の施設なのでしょう。
しかし、スポーン・エリアのバトル・フィールドを全て覆う、半径数百mのドームで、なおかつ、スポーンした【氷竜】の内部からの攻撃に耐え、さらに、建築する足場は切り立った山の上。
はぁ?
「ソフィア。これ、とんでもなく難しいよ。設計も、工事も、強度も、工期も、何もかも困難極まりない」
「地上で造って、ノヒトが【収納】に入れて運び、【ピアルス山脈】の山頂に被せて来れば良いのじゃ」
被せて?
いやいや、そんな簡単な話じゃないですよ。
まず、杭を打ち込んで、その上に土台を造って、ドームを建築……。
まあ、難工事には間違いありませんが、私になら出来そうですね。
問題は、【氷竜】の攻撃に耐え得る建材か……。
ソフィアも中で暴れる訳ですし。
【神竜の咆哮】は、耐久不可能だとしても、【超位魔法】くらいではビクともしないレベルの強度が必要です。
最強の【永続バフ】をかけた、オリハルコンとアダマンタイトの複合材なら可能か……。
【超位】の【魔法石】を大量に使って【自動修復】を効かせ続ければ良いでしょう。
竜鋼なら最適なのでしょうが、さっき全部使ってしまいましたから、もうありませんしね。
そもそも、こんなバカでかいドームを造れるほどの量の竜鋼は、元々、持っていませんでした。
しかし、オリハルコンとアダマンタイトが、どのくらいの量が必要なのでしょうか?
想像も出来ませんね。
手持ちの材料では、とても足らない、という事だけは確かです。
「ソフィア。素材が足らないよ」
「ノヒトは、金属を複製できるではないか?あれで、チョチョイのチョイなのじゃ」
「却下。市場に混乱を及ぼすからね」
私は、ゲームマスターの遵守条項を持ち出して断りました。
一応、ゲームマスターの遵守条項的には……世界の経済に混乱を生じさせない……という記述があるだけです。
私の胸先三寸で、どうとでも解釈は可能ですが……。
私は必要に応じて、物質複製をしています。
しかし、高価なオリハルコンとアダマンタイトを半径数百mの範囲を覆う巨大な構造物を造るのに必要な量、複製するとなると、さすがにホイホイとは出来ません。
実際、私は自分で使う色々な種類の鋼材を100万金貨(1000億円相当)支払って購入していました。
因みに、竜鋼は、【創造主】の魔法で創られた、謎金属、なので、私にも複製は不可能です。
「市場に流通させる訳ではないのじゃ。問題なかろう?」
「セントラル大陸の周期スポーン・エリアは、【ドラゴニーア】軍が管理してエリア・ボスを討伐している。私が、これを造れば【ドラゴニーア】の軍に、間接的な利益供与をした形になる。一国に与する事は出来ないんだよ」
「造って欲しいのじゃ。我は、【氷竜】が大好物なのじゃ。気が向いた時に、【氷竜】を、たくさん狩れる施設が欲しいのじゃ」
「こんな巨大なドームを造らなくても、ソフィアの目的にかなう方法はある。要するに、強制エンカウント時に同時スポーンする魔物を外部に逃がさなければ良いだけなのだから、神の軍団でスポーン・エリア周辺を固めて、ソフィアが中で暴れれば良い」
「神の軍団を投入しても良いのか?」
「グレーゾーンだけれど、ギリギリセーフかな。少なくとも、物質複製や、私が施設建設をするよりはね」
「ならば、サウス大陸が片付いたら、定期的に狩りをするのじゃ。約束なのじゃ」
「うん。サウス大陸が片付いたらね」
また、安請け合いしてしまいました。
何だか、ソフィアの頼みは断りにくいのですよね……。
これは、あれか。
ソフィアの【才能】……【交渉】系最上位の【常時発動能力】である【天意】が効いているのでしょうか?
私は、当たり判定なし、のはずなんですが、これは、攻撃、とは判定されていない、という事なのですね?
つまり、これは、私も別に嫌な事を強要されている訳ではない、という事。
ソフィアは、案外、その辺りのギリギリを攻めるのが、上手いんですよね。
もしかしたら、ソフィアは、始めに受け入れ不可能な高いハードルを、あえて提示して、断らせた後、代替案として本命の要求を飲ませる、という高度な交渉術を使っている可能性も……。
まあ、ともかく、約束してしまった以上は、仕方がありません。
今後、【ピアルス山脈】のスポーン・エリアは、ソフィアの狩場となるでしょう。
さしずめ、ソフィア専用牧場でしょうか……。
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