第147話。新月の夜の多正面作戦。
名前…ロルフ
種族…【ドワーフ】
性別…男性
年齢…15歳
職種…【丁稚】→【鍛治士】→【鍛治師】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【加工】など。
特性…【才能…加工】
レベル…20(最新)
生産系の魔法が得意。魔法への取り組み方は実践派。
毎日、ひたすら魔法の練習を繰り返し、パーティメンバー最速で上位職にクラス・アップした。
竜都【ドラゴニーア】竜城。
アルフォンシーナさんにアルシエルさんの看護を依頼しました。
アルフォンシーナさんは、ソフィアとのパスを通じて、全ての事情を飲み込んでいたので、話が早いです。
レジョーネは、今晩の新月に発生する周期スポーンの打ち合わせをしました。
サウス大陸の方は、万全の備え。
何も問題ないでしょう。
ファヴと神の軍団が対応しますので。
セントラル大陸は、【静かの森】は、第1艦隊と第1軍と竜騎士団が対応……私が【サルバトーレ火山】に対応……ソフィアとオラクルとウルスラが、【ピアルス山脈】に対応……トリニティが【青の淵】に対応します。
しかし、トリニティが1人だと戦力的に、盤石という訳ではありません。
まあ、トリニティが負ける心配はないでしょう。
しかし、逃げられる可能性はあり得ます。
【古代竜】が全速力で飛行したら、トリニティの【飛行】では、追いつけません。
トリニティから逃げた、【青竜】が、その逃亡先で被害を出すかもしれないのです。
バランスを取るなら、オラクルを、トリニティの援軍に付けたいところですが、オラクルはソフィアの傍にいる、という事が使命。
私やソフィアが命じれば従いますが、本人は、ソフィアから離れる事を望まないでしょう。
「【重力魔法】で、動きを制限してからのトドメ、という形が理想じゃろう」
ソフィアが言いました。
「【重力魔法】を当てればね。その前に音速に加速されたら?遺跡の外では、トリニティの【短距離転移】は、使えないんだよ」
トリニティは、強力な【転移能力者】ですが、【短距離転移】は、遺跡の中でしか使えません。
音速に加速した【青竜】を捕捉し得る術がないのです。
「うむ。初弾が当たるかどうかが全て、という訳じゃな?」
「逃げられる可能性は低いと思うけれど、ギャンブルのチップにセントラル大陸の民の命は掛けられない」
「やはり、神の軍団を一個師団持ってくるべきじゃな」
「そうだね。大事を取るなら、それがベストだよ。セカンドベストは、今まで軍がやっていた儀式魔法で動きを封じる方法だけれど」
「うむ。今回は、より【静かの森】を厚くしてやりたい。軍は、動かしたくはないのじゃ。では、神の軍団を一個師団呼ぶのじゃ」
今回は、【静かの森】に軍と竜騎士団を集結させ、リスクなしの完全勝利を企図していました。
本来なら、【静かの森】もレジョーネと神の軍団で対応しても良かったのですが、軍の長官イルデブランドさんから……一箇所くらいは軍と竜騎士団にも花を持たせて欲しい……と懇願されています。
なので、安全マージンを目一杯取る為に【静かの森】から兵力を剥がして、他に向かわせる事は考えていません。
結局、私が一番初めに提起した方法に収まりました。
サウス大陸には、残りの4個師団にファヴがいます。
まず問題はないでしょう。
私は、サウス大陸の【パラディーゾ】から、黒師団を引き抜き、【青の淵】に【転移】で運びました。
ソフィアは、【ピアルス山脈】に【転移】。
私は、【サルバトーレ火山】に待機しました。
ファヴも緑師団と共に【大鉱脈】に着陣。
神の軍団は、赤師団が東の【大草原】……青師団が西の【卓状山脈】……白師団が【人食い沼】を包囲しました。
「全力であたりなさい。【古代竜】1頭だからと、油断しないように」
私は、【念話】で、順番に指示を飛ばします。
「任せるのじゃーーっ!」
「わかりました」
「畏まりました」
「仰せのままに」
さあ、もう間もなく時間ですね。
5秒前……4……3……2……1……今!
・・・
セントラル大陸。
【ドラゴニーア】の東【青の淵】。
トリニティ・黒師団vs【青竜】。
状況は、パスを通じて、詳細に伝わって来ます。
谷底に口を開けた深い断崖の底に、強大な魔力反応が出現しました。
トリニティは、同士討ちを防ぐ為に、【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】は、被っていません。
バッサーーッ!
【青竜】が垂直に上昇し、地上に飛び出した、刹那。
「【超重力】」
トリニティは、【超位闇魔法】を詠唱しました。
直撃!
グルァアアアーーッ!
【青竜】は、揚力を上回る巨大な負荷を受けて、翼をバタバタと羽ばたかせますが、あえなく地上に墜落しました。
トリニティは、三又槍【トライデント】に【超位】級の魔力を込めて、【青竜】に投擲。
グサーーッ!
背中に突き刺さった【トライデント】が激しいスパークを起こしました。
中枢神経を瞬時に焼き切られた【青竜】は、絶命。
大事をとって、黒師団を援軍に付けていましたが、杞憂に終わりましたね。
軍師団長のネロは、出番がなかったので、多少、不満気ですが、トリニティに睨まれると、素直に頭を下げて恭順の姿勢を見せました。
しっかり、教育が行き届いているようです。
トリニティは、私に……任務完了……を伝えてきました。
・・・
【ドラゴニーア】の西【静かの森】。
第1艦隊・第1軍・竜騎士団vs【翠竜】。
詳細は不明ながら、1人の負傷者も出さずに討伐を完了したとの報告がありました。
・・・
【ドラゴニーア】の南【サルバトーレ火山】。
私vs【炎竜】。
スポーン・エリアに指定されている火口に魔力反応が出現しました。
【炎竜】は、溶岩の中から飛び出しと、咆哮を上げながらヘイトを撒き散らします。
【炎竜】がスポーン・エリアの境界に到達した瞬間。
私は【短距離転移】を行使しました。
【転移】先は、【炎竜】に肉薄する距離。
私は、【炎竜】と一緒に、竜都【ドラゴニーア】の都市城壁外の北部、軍の大演習場に【転移】しました。
「【超重力】」
私は、大演習場の地面に【炎竜】を押さえつけます。
私は、竜封じの槍【アスカロン】を【炎竜】に突き刺しました。
ついでに魔力を練れないようにする【魔法陣】を【炎竜】に発動。
これで、よし、と。
・・・
【ドラゴニーア】の北【ピアルス山脈】。
ソフィア・オラクル・ウルスラvs【氷竜】。
私は、ソフィアの第2の脳フロネシスとパスを繋げ、ソフィアの様子を見ています。
【氷竜】は、スポーン直後に、ソフィアの【神竜の斬撃】で瞬殺されました。
「また、【氷竜】が手に入ったのじゃ。これを、ノヒトに料理してもらわねばの。すき焼きは最高じゃが、ステーキやドラゴンカツも良いの〜。あっ、ゆで卵入りのハンバーグを忘れてはならんのじゃ」
「よろしいですね」
「この、お肉、美味しいもんね〜」
ソフィアが【ピアルス山脈】の担当を主張した時から、それは想定済ですよ。
・・・
所変わって、サウス大陸では……。
【パラディーゾ】の東【大草原】。
パスを通じて、状況が伝わって来ます。
赤師団vs【バジリスク】。
赤師団長ロッソ以下による一斉ブレスで、【バジリスク】は、強力な【石化】効果を持つブレスを吐く事もなく、消滅。
素材回収が出来なくなりましたが、全力で当たれ、と命じたので、これが正解です。
・・・
【パラディーゾ】の西【卓状山脈】。
パスを通じて状況が伝わって来ます。
青師団vs【スフィンクス】。
青師団長アッズーロ以下による一斉ブレスで、【スフィンクス】は、スポーン直後に消滅。
・・・
【パラディーゾ】の南【大鉱脈】。
パスを通じて状況が伝わって来ます。
ファヴ・緑師団vs【鉱石竜】。
ファヴは、師団長のヴェルデ以下緑師団を万が一に備えて【大鉱脈】周辺上空に待機させ、1人で【大鉱脈】の中に【転移】しました。
戦闘の詳細は、わかりません。
しばらくして、ファヴから、【鉱石竜】を倒した、という【念話】での報告がありました。
・・・
【パラディーゾ】の北【人食い沼】。
パスを通じて状況が伝わって来ます。
白師団vs【ジャバウォック】。
白師団長ビアンキ以下の一斉ブレスで【ジャバウォック】は、消滅しました。
・・・
完全勝利。
私は、黒師団を持ち場の【パラディーゾ】に【転移】で送り届けました。
その他の神の軍団も、任地に戻って行きます。
私が、【炎竜】を地面に縫い付けた、竜都【ドラゴニーア】都市城壁北方の大演習場に戻ると、そこには、レジョーネが集結していました。
そして、もう1人。
竜騎士団【センチュリオン】部隊長だったゼイビアさんが、いました。
ゼイビアさんが、ここにいるのは理由があります。
「ゼイビアさん。この度は【ムームー】の近衛竜騎士団長に就任されるそうですね。おめでとうございます」
私は、ゼイビアさんに祝いの言葉をかけました。
「ありがとうございます」
ゼイビアさんは、敬礼をします。
ゼイビアさんは、チェレステ新女王に付いて【ムームー】に向かう1人でした。
奥さんの先祖が【ムームー】の出身という事で志願したそうです。
で、私とソフィアから、ゼイビアさんに転勤と昇進の、お祝いを渡す事にしました。
それが【炎竜】。
【炎竜】をゼイビアさんの騎竜にしてあげようという訳です。
その為に、私が【炎竜】を【調伏】して、マスターをゼイビアさんにしてしまおう、という考えでした。
本来なら、特定の国に与してはならない、というゲームマスターの遵守条項に違反する為、特定の国の軍人に私が【調伏】した魔物を譲渡する事は出来ません。
しかし、今、ゼイビアさんは、【ドラゴニーア】竜騎士団からは正式に除団し、【ムームー】の竜騎士団に所属前。
一民間人に過ぎません。
民間人に個人的に便宜を図る事は、ゲームマスターの遵守条項に何ら抵触しません。
ゼイビアさんは、【ムームー】の竜騎士団長に就任が決まっているとはいえ、それは、あくまでも、その予定、というだけの事。
グレーゾーンですが、ゲームマスターの遵守条項に明記されていない事は、私が判断して良い事になっています。
私は、ギリギリセーフと解釈しました。
という訳で、【炎竜】を【調伏】して、ゼイビアさんにマスター権限を移譲。
「それから、これも使って下さい」
私は【収納】から、一揃いの鎧と、槍と、剣を取り出して、ゼイビアさんに渡しました。
これらは、ダンジョン・ボスを倒して出現した【宝箱】の中に入っていた、竜鋼で、私が造った物。
【竜鋼のフルプレート・メイル】と、【竜鋼の投槍】と、【竜鋼のグラディウス】という【竜騎士】の定番装備。
しかし、通常、竜騎士団は、鎧にはアダマンタイト装備を用いるので、竜鋼の装備は、数段強力でした。
私が、持てる技術の全てと、ありったけの魔法技術を注ぎ込んで造った、傑作ばかりです。
性能の大した事がない【神の遺物】より、生産系ステータスがカンストした私が造った竜鋼装備の方が、あるいは性能が高いかもしれません。
「これは?」
「餞別じゃ。長く【ドラゴニーア】に仕えてくれた労いと感謝……それに、其方には迷惑をかけたからの」
ソフィアは、言います。
ソフィアは、【青の淵】に不用意に踏み入って、【青竜】との強制エンカウントを引き起こし、【センチュリオン】で騒動を起こしました。
その時に陣頭指揮を執って事態収拾に当たってくれたのが、【センチュリオン】で竜騎士団の部隊長をしていたゼイビアさんなのです。
また、私がモルガーナの騎竜にする為、【青竜】を【調伏】した時にも、周辺監視を行ってくれました。
私もソフィアも、ゼイビアさんには、随分お世話になっているのです。
「ゼイビアよ。鎧を着て、【炎竜】を駆り、飛んでみては、どうじゃ?」
「はっ!では、お言葉に甘えまして、失礼致します」
・・・
ゼイビアさんは、上空を音速で旋回。
ズガーーンッ!
ドカーーンッ!
ゼイビアさんは、【竜鋼の投槍】を、人がいない安全な場所に何度か撃ち込みます。
しばらくして、【炎竜】は、高度を下げて、静かに着地しました。
「このガレオンも、この槍も、本当に素晴らしいです。本当に、ありがとうございます」
ゼイビアさんは、声を弾ませて言います。
ガレオンとは、ゼイビアさんのパートナーとなった【炎竜】の名前。
【調伏】の主従としてパスが繋がっているので、既に相性は抜群です。
「うむ。チェレステの事、くれぐれも頼むのじゃ。守ってやってくれ」
ソフィアは、言いました。
「はっ!誇りに賭けてっ!」
ゼイビアさんは、敬礼します。
私達は、大演習場に隣接する騎竜繁用施設に向かいました。
ゼイビアさんが【ムームー】に出発するまで、ガレオンを預かってもらいます。
私達は、ゼイビアさんを連れて、竜城に帰還しました。
・・・
竜城。
ゼイビアさんと別れ、私達も解散。
ウルスラは、もう眠っていますし、ソフィアもアクビを繰り返していました。
アルフォンシーナさんが、ソフィア達を迎えに来たので、もはや瞼が重くて、起きていられないソフィアを引き取ってもらいます。
ソフィアは、オラクルに抱き上げらると、寝落ちしました。
ファヴも、自分の部屋に向かいます。
さてと、私は、内職に……。
ん?
「トリニティ。どうしました?」
「実は、気になる事が……」
何でしょうか?
私とトリニティは、私室に入りました。
「あの、アルシエルという【天使】の話です。アルシエルの話によれば、【天界】は、この世界に戦争を仕掛けようとしているのですよね?何故、ノヒト様もソフィア様達も、落ち着いていられるのですか?」
トリニティは、眉間にシワを寄せて言います。
確かに、アルシエル達、【天界】の【天使】が言う所の【魔界】は、この【ドラゴニーア】がある5大大陸の裏側とはいえ、一繋ぎの地平にある同じ世界です。
私は、ゲームマスターという世界の外側に帰属する存在ですが、ソフィアにとっては、【地上界】は、住処。
住処を侵されて、平気なのか?
トリニティは、そう言いたいのでしょう。
「ソフィアは、セントラル大陸の守護竜だから、セントラル大陸の平和を脅かさない限り動かない。私は、ゲームマスターの遵守条項があるから、国家紛争には介入しない。でも、【天使】が私の家族や身内や味方に手を出したら、私は【天使】を滅ぼすかもしれない。ソフィアも、セントラル大陸の民に【天使】が危害を加えたら、同じだと思うよ。それ以外の事は、申し訳ないけれど、静観するしか出来ないね。幻滅したかい?」
「いいえ、わたくしはノヒト様とソフィア様のなさる事ならば、全てに同意を致します。わたくしが気になるのは、【天使】の集団としての脅威度です。いかなる相手であれ、ノヒト様やソフィア様に被害を与え得るとは思えませんが、アルシエルなる者は、私よりは弱いとはいえ、今まで出会った人種の誰よりも強力でした。あのクラスが多数いるならば、ノヒト様やソフィア様が大切にしておられる者達に危険が及ぶのでは、と」
「そうだね。可能性という意味でなら、あり得るだろうね。もちろん、私は、身内を守るけれど」
「どうなさるのですか?」
「身内が攻撃されない限り、世界の遺跡を全て攻略した後も、【天界】に攻め込むような事は、するつもりはない」
「ですが……」
「トリニティ、漠然とした不安があるのは、相手を知らないからだね。【天使】の戦力を教えておくよ。【天使】は特殊でね。生まれながらに能力が決まっているんだ。最上位に位置する【超位】級の【熾天使】が10人いる。その下に、アルシエルと同等の力を持つ【智天使】が100人いる。後は、下位にいくほど、人口比が増えて行く。各位階の人数は設定された数を超えないようにプログラムされていて、欠員がいない場合。新生児は、全て、最下位の【天使】として生まれる。【高位】以上の戦闘力を持つのは、上位の【熾天使】、【智天使】、【座天使】、【主天使】までで、3千人超。それ以下は、【中位】以下。つまり、どんなに数が増えても、強力な個体の数は増えない。私やソフィアやファヴには、絶対勝てない。私の身内が危害を加えられないように守るけれど、そちらは、100%ではない。だから、敵対しないのが一番安全ではあるけれど、どうなるかは、相手の出方次第だね」
「なるほど。戦えば必ず勝つけれど、被害の覚悟はしなくてはならない、と」
「そういう事だね」
トリニティは、多少、気分が楽になった様子で、自分の寝室に戻って行きました。
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