第145話。謎の異邦人。
名前…サイラス
種族…【オーガ】
性別…男性
年齢…15歳
職種…【暴れ者】→【戦士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…無痛】
レベル…21(最新)
心根は優しいが、【オーガ】特有の力を持て余して暴れ者となった。
午後。
ファミリアーレと別れたレジョーネは、武装して【アトランティーデ】王城に【転移】しました。
剣聖一行をピックアップして、千年要塞に【転移】。
行方不明の冒険者達の捜索活動を開始する前に、まずは冒険者ギルドで用事を済ませましょう。
昨日の買取依頼の結果。
【高位】の魔物2160頭。
コアは私が管理。
肉は【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に譲渡。
残りを私以外の6人で山分け。
1人当たり、27万金貨(270億円相当)。
保有現金(可処分所得)。
私……1085万金貨(1兆850億円相当)。
ソフィア……2027万金貨(2兆270億円相当)。
ファヴ……1404万金貨(1兆4040億円相当)。
オラクル……1387万金貨(1兆387億円相当)。
トリニティ……678万金貨(6780億円相当)。
ウルスラ……322万金貨(3220億円相当)。
ヴィクトーリア……322万金貨(3220億円相当)。
そして……。
レジョーネとファミリアーレをパーティとして分離する手続きを行いました。
これは、ファミリアーレとも話し合っています。
いざ正式にパーティ分離となると、何だか、少し、感傷的な気分になってしまいましたが、これは必要な措置として割り切りましょう。
何も、弟子達との絆が切れてしまう訳ではありません。
・・・
さてと、お仕事です。
今日の捜索の作戦指揮所は、冒険者ギルドの千年要塞支部。
救援班の冒険者パーティと、救護班の冒険者ギルド職員の皆さんは、全員気合いが入った表情。
昨日、7人の救出という目に見える成果があったからでしょう。
今日は、どうなるか、は、わかりませんが、モチベーションは大事です。
さあ、出陣。
レジョーネは、飛行しながら【マッピング】ローラー作戦を開始。
私は、上空高高度から、超広範囲サーチをします。
次々に、人種かもしれない、と疑われる魔力反応に救援班を送り込みますが、ハズレの報告ばかり。
しかし、冒険者達の報告はキビキビとしていて……次の場所を指示して下さい……と催促して来ます。
私は、やる気のある冒険者達に引っ張られるように、キツいサーチの制御に当たりました。
調べるべき魔力反応を示す場所も少なくなって来た時です。
「生存者発見!救護班を送って下さい!」
【大密林】との境界近くに送ったチームからの報告でした。
・・・
千年要塞。
ボロボロの状態で死にかけていた、若い女性が救助されて来ました。
意識不明の重体。
怪我は、魔物に襲われたものではなく、どうやら刃物による傷。
それも、強力な魔力を込めた一撃を食らっているようです。
すぐに、【完全治癒】で、治療。
ですが……珍しいですね。
あまりにも、珍しいので、私は初見で……すわ、英雄か……と誤解しましたよ。
しかし、【鑑定】の結果、違いました。
名前…アルシエル
種族…【天使】
性別…女性
年齢…177歳
職種…【智天使】
魔法…【高位攻撃魔法】、【高位防御魔法】
特性…飛行、【高位回復・高位自然治癒】、【才能…攻撃力A】
レベル…99
ユーザーであったなら、年齢の項目に、なし、と表示されます。
つまり、この【天使】……アルシエルさんは、NPCでした。
因みに、【天使】は長命なので、アルシエルさんは、【人】の感覚ならば、まだ思春期の少女くらいの年頃です。
この世界では、原則としてNPCの【天使】は、【天界】にしかいません。
【地上界】にいる【天使】は、ほとんど全てユーザーがキャラメイクした【天使】。
なので、咄嗟に私は……彼女はユーザーかもしれない……と勘違いしてしまったのです。
私のプライベート・キャラのパーティ・メンバーにも、種族が【天使】のエタニティー・エトワールさんがいました。
因みに【地上界】というのは、【天界】の住人から見た、この惑星の呼称。
この惑星の住人は、自分達が住む大地を、単に、世界、と呼ぶ事が普通です。
【天界】は、地球人が一般的に想像するような、天界、とは違いました。
つまり、【天界】の方が、【地上界】より、魂の位階が高い、とか何とか、そういう事はありませんし、形而上学的な何かによって支配されている場所でもありません。
単なるマップであり、ゲームフィールドなのです。
【天界】は、【ドラゴニーア】の中央神殿……つまり竜城から、特別イベントで行ける隠しマップでした。
【天界】に行く為には、世界の全ダンジョン制覇を成し遂げた上で、レベル・カンストしていなければいけないのです。
私のプライベート・キャラの自宅や別荘は、この【天界】にありました。
【天界】は、セントラル大陸の数倍という巨大な大陸で、虚無海という、亜空間の海に浮かんでいます。
この虚無海に落っこちると、【地上界】……つまり、今、私がいるマップに飛ばされてしまう、という仕様でした。
つまり、この【天使】は、何らかの原因……おそらく戦闘で虚無海に落ちてしまったのでしょう。
ふーむ、【天使】、それも【智天使】。
次席位天使ですか。
この世界の【天使】は、神学的、宗教学的な設定は与えられていません。
単なる生物の一種族なのです。
アングルとしては、【魔人】と、【巨人】と、魔物とは、敵対的。
特に、【巨人】は【天界】にも、たくさん住むので、双方鋭く対立し、日夜、戦争に明け暮れている、という設定がされていました。
【天使】は、人種からは敬意を払われる存在ですが、【天使】の方は人種を多少見下しています。
とはいえ、人種に害意を持つ訳ではなく、どちらかと言うと、か弱い生き物だ、という認識をしている程度でしょう。
【天使】は、守護竜に対しては敬意を払うという設定がされていました。
しかし、守護竜は現世神……【地上界】の神様です。
つまり他所の家が信仰する神様みたいな感覚なのでしょう。
【天使】は、守護竜には祈りません。
ゲームマスターである私は?
【天使】は、守護竜を間に挟まず、【創造主】を直接崇拝していました。
おそらく、【天使】にとっての天使は、ゲームマスターのはず。
つまり、ゲームマスターである私にも、それなりの敬意を持ってくれている、とは思いますが……どうでしょうか?
アルシエルさんは、2対4枚の白い翼を持つ美しい容姿をしていました。
NPCの【天使】には、ユーザーや人種NPCのような細分化された職種はありません。
【天使】は、強いて言うなら、全員が魔法を駆使する兵士。
職種欄の表示は、9つからなる生まれつきの位階に分かれるのです。
【熾天使】
【智天使】
【座天使】
【主天使】
【力天使】
【能天使】
【権天使】
【大天使】
【天使】
このNPCの【天使】の9つの位階は、上位に上がるほど、人口比が少なくなるように自動的に出生調整がされていました。
【熾天使】の位階にある者が死ぬと、新しい【熾天使】が生まれ、補充される、という仕組み。
この位階は、ピラミッド型のヒエラルキーを形成して軍隊組織の階級のように働きます。
つまり、【天使】は【大天使】以上には絶対服従。
【大天使】は、【権天使】以上には絶対服従……というように。
つまり、アルシエルさんは、【天使】の中では、相当、偉い立場という訳です。
【天使】の呼称は、種族の総称。
【天使】は、通常1対2枚の翼を持ちますが、【智天使】は2対4枚の翼を持ち、【熾天使】は、3対6枚の翼持ちます。
確か……翼の数は魔力の強さを表す……という設定でしたね。
【智天使】は、多種族で比較するならNPCの【聖格者】か一般ユーザーと同等のレベル。
【熾天使】は、ユーザーの【聖格者】と同等のレベルでしょう。
ユーザーがキャラメイクして選択した種族のスペック差は、ほとんどありません。
しかし、NPCの仕様では、【天使】は、【魔人】、【巨人】と並んで、最強の人型生命体という設定でした。
最強の人種と設定されている【ドラゴニュート】より確実に強いですね。
まあ、私やソフィアやファヴの敵ではありませんが……。
【天使】は、その涼やかで美しい容姿とは、ギャップがありますが、ゴリゴリの戦闘種族です。
【天使】は、基本的に理性的な性質ではあるものの、敵と判断した相手には、躊躇なく戦争を仕掛けました。
【魔人】や【巨人】と積極的に事を構えるくらいですから、腕っ節には、かなり自信があるのでしょう。
900年前の【天界】には数千万の【天使】がいたはずですが、戦えない子供以外は、全員、兵士でした。
農夫や牧童や職人や商人もいましたが、それらは副業。
つまり、彼らは全員が予備役。
戦時には、戦える【天使】は、全員、出撃します。
統治システムは、少数の【熾天使】達による合議制。
彼らは、軍も直接指揮します。
実質行政の実務は【智天使】達以下の位階の【天使】が行なっていました。
因みに、エタニティー・エトワールさんは、最終的には、3対6枚翼の【熾天使】級にまで成長しました。
3対6枚翼の外見は、何だか高貴でゴージャスな感じになります。
種族特性で、例外なく強力な魔法を駆使出来て、外見的にもカッコ良いので、ユーザーからは人気職でした。
あまりにも人気があり過ぎて、ユーザーのキャラメイクが、一時、【天使】ばかりに偏ってしまった為、下方補正がされ、【天使】は、翼を動かす以外の部位の筋力が、極端に低く設定され直されました。
つまり、重量がある武器は扱えませんし、自分の足で歩くとすぐバテます。
・・・
千年要塞、救護所。
集中治療室のスペースの問題で、この場には、医師・看護士と剣聖達冒険者ギルドの首脳の他は、私とソフィアとファヴだけがいました。
他のレジョーネのメンバーは、別室で休憩をしてもらっています。
救助された【天使】が意識を取り戻しました。
「私は、生きているのか?」
「アルシエルさん、私達が、あなたを救助し、治療しました」
「……あなたは?」
「ノヒト・ナカです。致命傷でした。あと数時間治療が遅れていたら、救うのは難しかったでしょう」
【ネクタール】は、死後1時間の猶予しかありませんし、私とソフィアは、身内以外の者に【ネクタール】を使うつもりもありません。
「そうか……助けてくれて、ありがたい。私は、【天界】に戻らなくては」
「あなたは【転移】が使えませんよね?どうやって帰るつもりなのですか?」
「ここは、【地上界】だな?」
「そうです」
「【ドラゴニーア】……という場所に向かう……【ドラゴニーア】の中央神殿という場所に、【天界】に戻れる【門】があるはず……。くっ、身体が……」
アルシエルさんは身体を起こそうとしますが、力が入らないらしく上手く行きません。
元来、筋力が弱い種族である【天使】が、【完全治癒】によって再生された、新しい肉体組織を扱いきれていない状態なのでしょう。
「アルシエルさんは、致命傷を受けていました。治療はしましたが、組織が馴染むまでは、身体を制御する事が難しいですよ。数日は安静が必要です。【ドラゴニーア】は、このサウス大陸の北、セントラル大陸の中央国家です。よろしければ【ドラゴニーア】に連れて行ってあげましょう。私達は、【転移】が使えますので」
「【転移】を?ならば、【天界】に連れて行ってはもらえないだろうか?」
「残念ながら、私達の誰も【天界】に転移座標を持たないので、【天界】への直接【転移】は出来ません」
「そうか……」
「事情を、お伺いしても?もちろん、お話したくないのであれば伺いませんが」
「私は、虚無海に落ちてしまったのだ」
「刃物傷による深傷を負っていたようですが、どうしてですか?」
「ルシフェル様が、神に背いて、内戦となった。私は、ミカエル様の側について戦ったのだが、やられた。くっ、アマイモンめ……」
内戦?
それは、穏やかではないですね。
「【天界】の神とは【創造主】じゃな?」
ソフィアが訊ねました。
「いや、【創造主】も【超越者】も【調停者】も太古の昔に滅んだ。私達は、【知の回廊】様に、お仕えしている」
【知の回廊】が神?
どゆこと?
意味がわかりません。
【知の回廊】は、単なる人工知能です。
知性と自我を持ちますが、断じて神などではありません。
「アルシエルとやら。このノヒトは、【調停者】じゃぞ」
ソフィアが言いました。
「そんな、まさか?」
「【鑑定】が使えるならば、確かめてみよ」
ソフィアがアルシエルさんを促します。
「何だと?そして、あなたと、あなたは、守護竜?何がどうなっているんだ?」
アルシエルさんは、激しく混乱していました。
「アルシエルさん。実は、私達は、今、重要な任務の途中なのです。数時間、待っていてくれれば、アルシエルさんを【ドラゴニーア】に運ぶ事は可能です。しかし、アルシエルさんが、私達の協力を必要としない、と言うなら、無理に引き止めるつもりはありません。しかし、【転移】を使えないアルシエルさんが全速力で移動するより、数時間、待ってもらって、私達と一緒に【転移】で【ドラゴニーア】に向かった方が早いですよ」
「……そういう事ならば、待たせてもらおう」
・・・
私達は、捜索作戦に戻りました。
「助かりました。もう、諦めかけていたのですよ」
冒険者パーティのリーダーが言います。
私達は、生存者6人を救出していました。
彼らは、魔物に襲撃されながらも、打ち捨てられ廃墟となった集落に逃げ込み命を長らえていたのです。
その集落は、ユーザーが築いたと思われる開拓村で、堅牢な建物と、強力な魔導兵器が配備されていた為に、魔物の攻撃を耐え忍べたのだ、とか。
【収納】を持つメンバーと、【不思議な鞄】を持っていた彼らは、水と携帯食がありました。
しかし、篭城した建物の防衛兵器が、炸薬式の火砲だった為に、弾薬が尽きかけており、あとは、保って数日というところ。
「地図に載っていない開拓村だった。発見されたのは、ノヒト様のおかげだ」
剣聖が礼を言いました。
「ともかく、救助出来て良かったですよ。明日から、予定通り、広域殲滅作戦に移ります」
「ああ、存分にやってくれ」
剣聖は、覚悟を決めて言います。
明日、レジョーネと神の軍団による地上掃討作戦が開始されれば、仮に生存者がいても、広域殲滅攻撃に巻き込まれて、死亡するでしょう。
もちろん、サーチは使いますので、レジョーネが奇跡的に生存者を発見すれば救助しますが、神の軍団には、【マッピング】機能がないので、そちらは、どうしようもありません。
私達は、千年要塞に戻りました。
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