第144話。弟子達の成長。
名前…モルガーナ
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…15歳
職種…【小姓】→【騎士見習い】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…飛行、【才能…鼓舞】
レベル…25(最新)
竜騎士団への入団を夢見ている。
名前…ジャスパー
種族…【青竜】
性別…雄
年齢…0歳
職種…従魔
魔法…多数
特性…飛行、ブレス、【超位回復・超位自然治癒】
レベル…99
モルガーナの従魔であり騎竜。
【ドラゴニーア】竜城。
お昼には、まだ、だいぶ時間がありますね。
どうしましょうか?
「ノヒトよ。ファミリアーレの訓練を見学に行くのじゃ」
ソフィアが言いました。
そうですね。
そうしましょう。
私達は、闘技場に向かいました。
・・・
闘技場。
集団戦の演習が行われていました。
「おーー、やっておる、やっておる」
ソフィアは愉快そうに言います。
ファミリアーレ、対、【ドラゴニーア】軍100人。
双方、戦列を組んだ模擬殲滅戦のようです。
軍の側は、将軍ヨハネスさんが指揮する第1軍の選抜隊のようですね。
前衛に長槍隊と【斧槍】隊、中衛に抜刀隊、後衛に魔法弓士隊と魔導士隊。
騎兵がいませんが、かなり本格的な陣容です。
対するファミリアーレは、というと。
前衛に9体の【自動人形】・シグニチャー・エディションが【大盾】を構え……中衛はグロリア、ハリエット、サイラス、ロルフ……後衛は、アイリス、ジェシカ、ティベリオ、リスベット……上空にモルガーナという布陣
モルガーナは、騎竜のジャスパーには乗らず、自分の翼で飛行しています。
当然ですね。
ジャスパーが参戦したら、ブレス一発で終わってしまい、訓練にはなりません。
どうやら、ファミリアーレ側の指揮はティベリオが執っているようです。
「始めっ!」
軍の長官イルデブランドさんが開始の合図を告げました。
イルデブランドさん自ら訓練を見ているのですか?
これは、兵士達は手を抜けませんね。
「斉射!」
第1軍の将軍ヨハネスさんが命じます。
途端、無数の矢と魔法が放たれました。
訓練用の丸い球体の鏃ではなく、実戦用の鏃が使われています。
魔法も、殺傷力のある本気のモノ。
おいっ!
マジか?
闘技場では、死んでも復活するとはいえ、致命の一撃を食らえば、文字通り、死ぬほど痛いのです。
15、6歳の子供達相手に実弾を撃ち込みますか?
まったく……【ドラゴニーア】軍のスパルタ方式の訓練は過激過ぎですよ。
一斉射撃された、矢と魔法が【自動人形】隊の【大盾】と【防御】で防がれます。
「突撃!」
第1軍の将軍ヨハネスさんが号令をかけました。
途端、軍の歩兵隊は、疾走。
ガシャーーンッ!
物凄い音がして、双方の前衛が激突しました。
「そーーりゃーーっ!」
ハリエットが【自動人形】隊の壁を、ピョーンッ、と飛び越えて斬り込みます。
グロリア、サイラス、ロルフも【自動人形】隊の壁を割り開くようにして突出。
白兵戦になりました。
軍の魔導士隊が【飛行】を使って、近接航空支援を行いますが、モルガーナとジェシカにより、次々に撃墜されて行きます。
モルガーナの【グングニル】は、一投で2、3人の魔道士を串刺しにしますし、ジェシカが新しく覚えた【狙撃】の能力は、百発百中。
リスベットの【防御】により、ファミリアーレは、死角からの攻撃を防いでもらっています。
ん?
アイリスがいない。
アイリスは、いつの間にか、敵陣背後に回り込み、ヨハネスさんと斬り合っていました。
【マッピング】を起動していなかったとはいえ、私の【魔力探知】を巻くとは、アイリスの【潜伏】は進化しています。
ヨハネスさんは部下と協力してアイリスを追い詰めました。
アイリスは、片方の口角を上げて不敵に笑います。
刹那。
どこから現れたのか、ジェシカの従魔ウルフィが出現して、アイリスを口に咥え空中を走り、味方陣地に向かって撤退しました。
ははは、面白い。
私は【マッピング】を起動して、ウルフィが潜んでいる事に気付きました。
ウルフィは、【空駆】と【潜入】が使えるようになっています。
【空駆】は、ウルフィの種族【ガルム】の種族特性。
【潜入】は、おそらく、パスを通じて、ジェシカの能力を覚えてしまったのでしょう。
まだ赤ちゃんとはいえ、さすがは【高位】の【魔狼】というところでしょうか。
アイリスは敵の大将であるヨハネスさんの暗殺には、失敗しましたが、十二分に役目を果たしました。
アイリスの目的は、ヨハネスさんの指揮を、一時的にでも、妨害する事だったのでしょう。
実際、ティベリオの【統率】とモルガーナの【鼓舞】によって完璧な統率と士気で戦うファミリアーレに対し、ヨハネスさんがアイリスに襲撃された事で、軍の方は混乱しています。
すぐに、ヨハネスさんが指揮を執れなくなったと判断した副官役の士官が指揮を引き継ぎましたが、タイムラグが発生しました。
時間にして十秒。
しかし、白兵戦中に十秒もの間、指揮の空白が発生すれば、どうなるか?
軍の統率は乱れます。
ファミリアーレが優勢に戦闘を進めました。
最後は、ハリエットとグロリアの二人掛かりで挑んで、ヨハネスさんを討ち取って、ファミリアーレの勝利。
うん、素晴らしい。
良くやりました。
まあ、実戦なら、私は、グロリア、ハリエット、サイラス、ロルフの突出も、アイリスとウルフィの敵陣潜入も許可しないでしょうが……。
「うむ。我も参加するのじゃ。イルデブランド、勿体ぶらずに闘技場の収容人数いっぱいまで、兵を増やすのじゃ」
「はっ!よし、増員するぞ。指揮は私が執る」
イルデブランドさんは、【魔鋼のバルディッシュ】の【竜の顎】を引っさげて参戦しました。
ファミリアーレ側にレジョーネが参戦し、軍側は、千人体制となりイルデブランドさん自ら指揮。
凄まじい白兵戦となりました。
ソフィアが本気で参戦すると、戦いにもならないので、ソフィアは、指揮に徹します。
また、オラクルとトリニティも、【超位魔法】は封印していました。
それでも、やはり、彼我の戦力差は明らか。
軍側は、絶望的な戦いになりました。
オラクル、ヴィクトーリアは、事務処理的に魔法を連発。
トリニティは、高笑いしながら魔法を連発。
ソフィアは、さすがというか、意外というか、見事な指揮を執り、巧みな用兵で、軍側を蹂躙します。
ソフィアは、戦術ステータスもカンストして、さらに突き抜けていますからね。
軍側は全滅。
ファミリアーレは、ハリエットとサイラスが戦死扱い。
彼らは、少し突出し過ぎました。
生き返るとはわかっていても、弟子達の首が飛んだりするのは、目を背けたくなる光景でしたね。
今日の訓練は終わり。
本来は、竜騎を用いた実戦訓練なども予定されていたようですが、ソフィアの乱入で予定変更。
迷惑ではないのでしょうか?
イルデブランドさんは……これだけ苦戦を強いられる訓練というモノは、それだけ価値があるモノです……との事。
あ、そう。
お邪魔でなければ良いのです。
しかし、ファミリアーレの成長は、著しいですね。
少し前までは、個人戦では士官レベルを圧倒しながらも、集団戦では、同数の兵士達にコテンパンに負けていたと聞いていました。
しかし、今は、集団戦でも、100人の兵士達を相手にして、味方の犠牲なしで勝ちきるレベル。
【自動人形】・シグニチャー・エディションが加勢していたとはいえ、【自動人形】隊は、攻撃には加わらず壁役に徹していました。
100人の兵士達を倒したのは、紛れもなくファミリアーレの力です。
それに、あの100人は、軍でも精鋭に類する兵士達でした。
ファミリアーレの力は、もはや、100人の【ドラゴニーア】の精鋭を全滅させるレベルだという事です。
うん、これは、もう良い頃合いですね。
私は、ファミリアーレをダンジョンに連れて行く決心をしました。
・・・
昼前。
礼拝堂の私室の前に、家具が並べてありました。
おーっ!
見事な出来栄えです。
釘も接着剤も使われていない組み木の技法でピタリとはめ込まれた机や椅子。
紙一枚入る隙間もありません。
机や椅子やテーブルには、ゴテゴテとした装飾はありませんが、目立たない所に妖精の彫像が彫ってあったり、蔦が巻き付いている浮き彫りがされていたりという細かい意匠が施されています。
凄い。
これは美術工芸品と呼ぶ価値があります。
早速、私室に運び込み、設置しました。
キングサイズベッド4つ、ベッドサイドテーブルと椅子4セット、机と椅子4セット、食卓用の長テーブル2つと、椅子20脚、ローテーブルとベンチが4つ、作業机と椅子4セット。
これで、よし。
私は、初めの発注の後、何回も追加注文をしたのですが、あの【ドワーフ】の親方は、いつも2つ返事で引き受けてくれて、なおかつ、納期は守ってくれました。
もちろん、追加料金は振込みましたが、ありがたい事です。
今度、訪ねて行ってキチンと、お礼を言いましょう。
・・・
私が私室を出ると、シャワーを浴びて着替えたファミリアーレとレジョーネが集まっていました。
今日の昼食は、みんなで外食する予定です。
午後の捜索は、ゆっくりで良いのですよ。
残りの捜索範囲は、千年要塞を中心とした一帯。
範囲が狭いのです。
ほどなくして、ファヴもサウス大陸から、帰還しました。
食事処の候補は色々とありましたが……お寿司を食べたい……というアイリスの希望を採用して、お寿司屋さんに予約を取っています。
私も、お寿司な気分でしたので。
お寿司屋さんは、中央卸売市場の隣にある老舗の竜宮寿司で修業した大将が切り盛りする、評判の超高級店。
屋号は、乙姫寿司。
私達は、コンパーニア本社オフィスに【転移】しました。
・・・
ハロルドとイヴェットに挨拶。
イアンは、今日、【センチュリオン】に出張しているそうです。
支社と工場開設の準備なのだ、とか。
「ノヒト・オーナー。【砲艇】は、ウチで扱えないという事ですが。理由は、兵器だから、ですか?」
ハロルドが質問しました。
「はい。孤児院出身者支援と兵器産業を結びつけるのは、孤児院出身者支援事業が社会からの支持を失いかねないと判断しました。【砲艦】は、ニュートン・エンジニアリングとダビンチ・メッカニカに任せます。ウチは携わりません」
「わかりました」
ハロルドは、頷きます。
私は、戦争は例外なく陰惨で背理的な、悪、だと思います。
そういう意味で、防衛戦争というモノは、必要悪なのかもしれません。
しかし、武器・兵器は、必ずしも、悪ではない、と考えています。
もしも、武器・兵器が絶対悪で、存在を許してはならない物だとするなら、それを主張する者は、警察官が携帯するピストルや警棒を否定するのでしょうか?
私は、武器や兵器は、道具であって、それを、どんな目的で使い、また、その結果責任を問われるべきは、人だと思います。
武器や兵器は、善悪で計るものではないのではないでしょうか?
何故なら、ただの物なのですから。
ただし、武器や兵器を、民間人が自由に手に入れられる状況は、私は、なくすべきだと思います。
この世界は、魔物の脅威などもあり、残念ながら、そうなってはいませんが……。
とにかく、私は、警察官の携帯するピストルと同様に、武器や兵器自体を否定しません。
とはいえ、コンパーニアの事業は、孤児院出身者支援事業です。
武器や兵器を売ったお金で孤児院出身者を養うのは、私にも幾ばくかの忌避感がありますし、社会の支持も得られにくいでしょう。
なので、私は【砲艇】の製造販売を、コンパーニアとは完全に切り離す事にしました。
私達は、コンパーニアのみんなに挨拶して、本社オフィスを後にします。
・・・
乙姫寿司。
「ごめん下さい。予約していた、ノヒト・ナカです」
「いらっしゃいませ」
乙姫寿司の親方が威勢の良い声をあげました。
ここの、親方は、女性でした。
だから、乙姫?
ともかく、今日は、私達で貸切です。
私達は、カウンター席に並んで座りました。
「お任せで順番に握るのと、好きな物を好きなだけ注文して頂くのと、どちらに致しますか?」
親方は、言います。
「好きなだけなのじゃ」
ソフィアは、迷わず言いました。
「ソフィア、ちょっと待って。お寿司はね、旬の素材を、職人さんが吟味して、最高の状態で食べられるように細かな仕事をしている物なんだ。順番にも意味があるんだよ。だから、お任せにしよう」
「じゃが、お腹いっぱいにならないかもしれないのじゃ」
「なら、ソフィアは、順番に出してもらう一品一品の量を増やしてもらおう。それなら、良いだろう?」
「うむ、わかったのじゃ」
今回は、お任せで。
私達は、皆、普通の人達より、たくさん食べる、と、お伝えしました。
ソフィアだけは、一品を5人前ずつにしてもらいます。
まずは、酢の物。
貝類や、タコ、イカ、コハダを細かく刻んで、湯がいた海藻や葉物野菜やキノコとあえた、上品な先付けです。
握りの先頭を切るのは、ヒラメの二貫。
一貫は生で、もう一貫は昆布じめです。
美味い。
キス、マコガレイ、マダイ、と白身が、生と昆布締めで二貫ずつ。
ネタに合わせて、それぞれ、締め加減が微妙に異なるという丁寧な仕事。
親方は、ウルスラ用には、小さな、お寿司を握ってくれました。
お心遣い、ありがとうございます。
続いて、クロマグロの赤身。
くう〜堪らん。
私は、マグロの赤身が大好きです。
旬の野菜の蒸し物。
上にかかっているソースは?
何だか白いペーストに黒いツブツブが入っています。
「白トリュフとキャビアのソースです」
親方が教えてくれました。
世界三大珍味が2つ来ましたよ。
マアジ、マサバ、サンマと青魚の酢じめが続き。
クロマグロの中トロ。
美味い!
【タカマガハラ皇国】の【オーマ】から入った、今日一のクロマグロだそうですよ。
サザエのつぼ焼き。
マダコの桜煮。
タラバガニの殻焼き。
からの、クロマグロの大トロ。
畳み掛けて来ますね〜。
変り種の、生湯葉に柑橘を絞って口直し。
ムラサキウニの軍艦巻き。
イクラの軍艦巻き。
メインの一品は、今が旬の2種を、調理法も焼物と煮付けの2種類から、選べました。
ムツと【巨鮭】。
迷いますね〜。
私が選んだのは、親方オススメのムツの煮付け。
とろけるような味わいですね。
至極です。
マグロの漬けと、煮穴子が出て。
車海老。
生と、茹でと一貫ずつ。
この、絶妙な茹で加減。
芯に生の部分を残して、甘味を最大限引き出した逸品。
お吸い物と、巻物5種。
梅しそ巻き、カッパ巻き、トロたく巻き、かんぴょう巻き、穴キュウ巻き。
カッパ巻きすらも、隠し包丁が入れてある仕事の細かさ。
そして、シメは、甘くてフワッフワの卵焼き。
「一通り握りました。お代わり、お好みがあれば、仰って下さいね」
親方は言います。
ならば、遠慮なく。
私は、マグロの赤身、中トロ、大トロ、漬け、のマグロ尽くしと、茹で海老をおかわり……それから、カツオとコハダの握りを注文。
他のみんなも思い思いに注文。
「【クラーケン】はないのか?」
ソフィアが訊ねました。
「あいにく、【クラーケン】は、河岸に上がりませんでした。スルメイカは、ございます」
「イカではないのじゃない。【クラーケン】でないとダメなのじゃ」
「ソフィア。ないものは仕方がないよ」
「なのじゃな……」
「あいすみません……」
「いえいえ、とんでもない」
ソフィアは、卵焼きを切らずに丸ごと、それも5本欲しいと、要望。
「ソフィアお姉様。この茶碗蒸しなる料理も卵料理だそうですよ」
ファヴが言います。
「なぬーーっ!これも、5個欲しいのじゃ」
追加注文が何周か回って、デザート。
果物と、葛切りと、シャーベットから選べる、と。
迷わせますね〜。
「果物は何ですか?」
「本日は、マンゴーです」
「では、それで」
みんなも、好みで注文。
ソフィアは、当たり前のように、全種類。
「ソフィア。葛切りを一口味見させておくれ」
「嫌じゃ。これは、我の物じゃ」
あ、そう。
ああ、トリニティが味見させてくれました。
ありがとう。
代わりに、マンゴーを一口どうぞ。
・・・
私達は、乙姫寿司を後にしました。
大満足です。
お会計は、凄い事になりましたが、その価値はありました。
これは、コンパーニアのみんなにも食べさせてあげたいですね。
私は、来週、乙姫寿司の出張を、お願い出来ないか頼みます。
親方は、2つ返事で引き受けてくれました。
来週、私が管理するホテルを会場にして、コンパーニアの【ドラゴニーア】本社所属の社員・従業員に、お寿司を、ご馳走してあげましょう。
実は、今日も来週も、乙姫寿司は、本来、定休日だったのです。
実は、この乙姫寿司の親方の旦那さんは……グロリア、ハリエット、アイリス、ジェシカに、とても良くしてくれていた、新人冒険者達の世話役ドナテッロさんなのです。
いや〜、世間は狭いですね。
こんな立派な、お寿司屋さんで奥さんが稼いでいるからこそ、ドナテッロさんは、冒険者ギルドでボランティアみたいな仕事をしていられる訳です。
穀潰し?
確かに、現在の夫婦間の収入は……。
いやいや、それは、ドナテッロさんが可哀想ですね。
今でこそ、半ば引退したドナテッロさんの収入は少ないですが、かつてはドナテッロさんも名うての冒険者パーティの一員としてバリバリ稼ぎ、この乙姫寿司の開店資金を出したのもドナテッロさんなのだそうです。
ともかく、ドナテッロさんのコネクションで、3年先まで、予約がいっぱいの乙姫寿司で、美味しい、お寿司を頂けるのですから、ドナテッロさんには、感謝しなければいけません。
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