第143話。クイーンの趣味。
名前…ジェシカ
種族…【犬人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【コソ泥】→【盗賊】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【解錠】
特性…【才能…潜入、解錠】、【狙撃】
レベル…20(最新)
好奇心旺盛で仲間想い。
傷付いた仲間の薬を買う為に、盗みを働いてしまい保護観察処分を受けた。
名前…ウルフィ
種族…【ガルム】
性別…雌
年齢…0歳
職種…従魔
魔法…魔法適性あり(未覚醒)
特性…【群狼】、【空駆】、【潜入】
レベル…1(最新)
ジェシカの従魔。
異世界転移、30日目。
1ヶ月ですか……感慨は特にありませんね。
今日の予定。
午前中、レジョーネと【タナカ・ビレッジ】に向かいます。
【砲艦】をクイーンに譲渡する為でした。
【砲艦】は、村の防衛に役立ててもらいます。
現在、私が建築したコンパーニアの支社に、交代で黒師団の部隊が駐留しているので、防衛戦力は過剰なくらいですが、私とソフィアにとって、【タナカ・ビレッジ】がサウス大陸で、最も重要な拠点。
防衛は疎かに出来ません。
昼前。
嬉しい事があります。
注文していた家具が、ようやく納品されるのですよ。
まだ、完成品を見ていません。
楽しみですね。
午後は、千年要塞周辺の捜索活動。
これは、大変ですが、捜索は今日一日です。
何とか頑張りましょう。
夜は、ファヴに対して謀叛の陰謀に加担した、イングヴェ王子の取り調べ。
結局、私も参加する事になりました。
気が重いですね。
そして、深夜0時、新月の周期スポーンがあります。
今回は、ファヴと、神の軍団全軍で、サウス大陸の周期スポーンに対応し、私、ソフィア、オラクル、トリニティ、ウルスラ、ヴィクトーリアでセントラル大陸の周期スポーンに対応。
問題ないですね。
ファミリアーレは、午前中は、軍、竜騎士団、衛士機構に混ざって訓練。
午後は、ロルフはマリオネッタ工房、リスベットはアブラメイリン・アルケミー、他のメンバーは自由時間という名の勉強と自主練です。
ファミリアーレは、偉いですね。
サウス大陸が片付いたら、たくさん甘やかしてあげましょう。
私が、大広間に向かうと、皆、勢揃いしていました。
「おはよう」
「おはようなのじゃ」
ソフィアは、自分専用の子供椅子に座って足をブラブラしながら言いました。
アルフォンシーナさんに、きちんと立って挨拶するように促され、素直にもう一度……。
「ノヒト。おはよう、なのじゃ」
「ソフィア、おはよう。今朝は何だか、ご機嫌だね」
「今朝早くにソフィア財団から連絡が来たのじゃが、資産投資を本格的に開始したのじゃ。もはや、独立採算で、運営費が回る目算が立ったのじゃ」
「それは、朗報だね」
「なのじゃ」
「おはようございます、ノヒト様」
アルフォンシーナさんは、恭しく礼を取りました。
「「おはようございます」」
オラクルとヴィクトーリアは、完璧なシンクロ率。
「おはようございます」
ファヴは、ペコリとお辞儀しました。
「おっは〜」
ウルスラは、片手を上げて挨拶。
私は、エズメラルダさん、ゼッフィちゃん、【ムームー】のチェレステ新女王、【パラディーゾ】のローズマリー大巫女とスカーレット巫女長と、順番に朝の挨拶。
さてさて、朝食を頂きましょう。
・・・
朝食後。
自然と話題は、サウス大陸の陰謀の話になりました。
全容解明とはいきませんが、陰謀の背景と、陰謀に関わった人物の相関関係は、かなり整理されて来ているようです。
陰謀の起案者は、イングヴェ王子。
彼が主犯でした。
イングヴェ王子の最終目的は、自身が【パラディーゾ】の王となる事。
まず、イングヴェ王子は、妻のマーゴット妃を通じて【パラディーゾ】の旧貴族派を焚き付けたのです。
彼らは、事前にファヴから、貴族爵位の復活を拒否されていたので、貴族爵位の復活と領地を与えられる見返りにイングヴェ王子の陰謀に加担。
【パラディーゾ】の旧貴族家は、イングヴェ王子の【パラディーゾ】王就任を後押しする政治工作を【アトランティーデ海洋国】内で行なっていました。
工作資金は、【アトランティーデ海洋国】内の有力な商人達から集めていたようです。
この商人達には……イングヴェ王子の【パラディーゾ】王就任が成った暁には、政商、としての権益を認める……との【契約】が取り交わされていたようですね。
次に、イングヴェ王子は、【パラディーゾ】、【オフィール】、両国政府を唆しました。
【ムームー】を攻めて、【ティオピーア】と【オフィール】で半分ずつ併合してしまえ、と。
その代わり、イングヴェ王子が【パラディーゾ】の王となる事を支持せよ、という訳です。
当然、【ティオピーア】と【オフィール】の侵略は、サウス大陸の守護竜たるファヴの意に反する暴挙である為、イングヴェ王子自らが軍を率いて、【パラディーゾ】の支援と防衛を名目に出兵。
【パラディーゾ】には、まだ国家が樹立されていませんので、国軍は編成されておらず、【パラディーゾ】の聖職者達は、イングヴェ王子の行動を追認するに違いない、と。
【パラディーゾ】に入ったイングヴェ王子は、【パラディーゾ】、【オフィール】両軍との戦線を意図的に膠着させ、互いの勢力圏を事実上確定させてしまいます。
その間に、【パラディーゾ】の旧貴族家と協力し、【パラディーゾ】内部で着実に足場を固め、やがて、イングヴェ王子の【パラディーゾ】の王位を既成事実化。
こんな所でしょうか……。
甘い。
甘過ぎです。
何故なら、私やソフィアやファヴ。
つまり、当然そんな陰謀の阻止に動くはずの存在を、完全に無視しています。
イングヴェ王子は、私達【神格者】は、政には不介入、であるという原則を過大に期待していました。
確かに私達は、政には、不介入です。
しかし、それは、為政者達が国際法と国際ルールに順じている限りにおいて、です。
イングヴェ王子は、戦略上2つの決定的なミスを犯しました。
1、【ティオピーア】と【オフィール】の侵略を国家紛争ではなく、義勇兵や民兵による勝手な行動という名目にしてしまった事。
2、【アトランティーデ海洋国】国内で多数派工作に失敗している事。
1つ目の失敗。
もしも、【ティオピーア】と【オフィール】の出兵が、国家紛争による侵略であったならば、私とソフィア、そして神の軍団は、介入出来ませんでした。
私と神の軍団は、国家紛争に介入出来ない、というゲームマスターの遵守条項に縛られます。
セントラル大陸の守護竜たるソフィアは、サウス大陸の内政問題に口を挟めません。
2つ目の失敗。
エイブラハム大公(現相談役)が率いるサウス大陸奪還作戦消極派が、ゴトフリード王の側に付いた事は、致命的でした。
王派と大公派という、【アトランティーデ海洋国】内の2大政治派閥が対立する構図が維持されていれば、両派の間を周旋しながらイングヴェ王子の【パラディーゾ】出兵に対して、支持を取り付ける事が可能だったのかもしれません。
事実、剣聖などは、当初【ムームー】の統治に関して、王子達の誰かを、【ムームー】の仮の王とする提案をしていたくらいなのですから。
この2つのミスにより、私達の介入を招き、【アトランティーデ海洋国】からの支持もなく、イングヴェ王子の陰謀の失敗が確定しました。
私が、イングヴェ王子の立場だったなら、どうしたか?
私なら、まず【アトランティーデ海洋国】の国益と、【アトランティーデ海洋国】の民の利を説き、エイブラハム大公(現相談役)を味方に引き入れます。
エイブラハム大公(現相談役)は、私利私欲を捨て【アトランティーデ海洋国】の国益を追求する政治家でした。
多少、周囲から卑劣漢だ、などと陰口を叩かれても、委細かまわず、【アトランティーデ海洋国】の民の行く末だけを第一の政治目的としていたのです。
なので、味方に転ぶ可能性はあり得たのではないか、と。
その上で、エイブラハム大公(現相談役)の派閥を扇動し、クーデターを起こし、ゴトフリード王を弑逆……つまり王を殺してしまいます。
王家や剣聖など、王派閥の貴族も全て皆殺し。
【アトランティーデ海洋国】王の座を力尽くで奪い盗るのです。
その後は、【ティオピーア】と【オフィール】と取引し、【ムームー】は、【ティオピーア】と【オフィール】に分けさせ、【アトランティーデ海洋国】は【パラディーゾ】を併合します。
サウス大陸の守護竜たるファヴが介入する可能性はあり得ますが、【アトランティーデ海洋国】の貴族と国民、【パラディーゾ】の聖職者と旧貴族家と入植者達の支持を固めていれば、あるいは、ファヴが、この乱暴な併合を、仕方なく追認した可能性もあったのではないか、と。
守護竜は、民の支持を受けている為政者や統治者を排除する事は、なかなか難しいのです。
私だったら、ファヴに対して、自分が統治する【パラディーゾ】と【アトランティーデ海洋国】の未来はこうなる、というビジョンを示し、堂々とファヴの説得を試みたでしょう。
説得に失敗すれば、ファヴに殺されるでしょうが……。
無理筋かもしれませんが、それ以外に、この陰謀を成し遂げる道筋はなかったのです。
これが現実主義というモノ。
イングヴェ王子は、何故、そうしなかったのか?
おそらく、イングヴェ王子は、自らの名誉や大義や保身を追い求めたから。
まず、クーデターを先導し、ゴトフリード王を殺す事は、もちろん大罪。
その悪名は、歴史に永遠に記されます。
それを背負う覚悟が、イングヴェ王子には、なかったのでしょう。
【ティオピーア】と【オフィール】の出兵を義勇兵や民兵による勝手な行動という体裁にした事からも、イングヴェ王子の自分自身の美名を重んじる、甘っちょろい姿勢が透けて見えます。
イングヴェ王子は、臣下や民衆に褒め称えられたかったのでしょうね。
エリートにありがちな、お坊ちゃん気質ですよ。
守護竜は、人種の価値観による、善悪などは、問題にしません。
聖人君子であろうと、悪逆非道であろうと、守護竜は、普く庇護を与えますし、より多くの人種に安寧と繁栄をもたらせる者にこそ、王権を授けるのです。
ゴトフリード王に背いて殺し、【パラディーゾ】を力尽くで収奪し、陰謀で【ムームー】を売り渡しても、その先に民の安寧と繁栄をもたらせる、と守護竜を信じさせられれば統治者として認められるのですから。
まあ、これは、守護竜の裏設定で、人種はそれを知らされていませんけれどね。
もしも、この守護竜の裏設定を知らされたら、既存の、王権や政権を力尽くで打倒して、自分が王や統治者になり変わろうとする不遜なチャレンジャーが大量に発生して、世界は内戦だらけになると思いますので。
これは、易姓革命思想といって、血で血を洗う権力抗争に大義名分を与える、狂った考え方だ、と【創造主】は、言っていましたね。
それで、この世界の公式設定では、守護竜の王権神授の条件は秘匿されていました。
フジサカさん曰く、易姓革命思想は、考え方自体は、ある意味理想的なのかもしれませんが、その適正な運用を担保する事が絶対に不可能なので、誰にも管理や監督が出来ず、結果的に上手くいかないのだそうです。
つまり、世界の王や為政者に、王権や統治権を授ける役目の、現世神たる守護竜も間違う可能性がある、という事。
それが、裏設定にしてある理由でした。
話を戻すと、イングヴェ王子は、自らの美名を望んだ時点で、甘ちゃんだ、という事です。
なるほど。
だいたい、陰謀の全容はわかりました。
1つわからないのは、イングヴェ王子の動機ですが、こんな馬鹿で甘々なお坊ちゃんの考える事には全く興味はないので、どうでも良いですね。
・・・
朝食後。
私、ソフィア、オラクル、トリニティ、ウルスラ、ヴィクトーリアは、【タナカ・ビレッジ】に向かいました。
ファヴは、【ムームー】で大地の祝福に向かいます。
何だか、私が原因で、【ムームー】の生態系が破壊されているのに、ファヴにだけ仕事を押し付けているようで心苦しいですね。
ただし、私達は、サウス大陸の祝福は行えません。
ソフィアは、セントラル大陸の祝福は行えます。
ウルスラは小さな範囲で一時的な祝福が行えました。
しかし、サウス大陸の永続的な祝福は、サウス大陸の守護竜たるファヴにしか出来ないのです。
ファヴが大地の祝福をしている横でひたすら応援をしていても構わないのですが、それはファヴにやんわりと断られましたし、第一、そんな事をする意味がありません。
なので、私達は、別行動をして、やるべき事をやる事にしました。
・・・
【タナカ・ビレッジ】。
私は、到着をスマホで伝えます。
クイーンがジョーカーと【ガーゴイル】2体に警護されて現れました。
「いらっしゃいませ、皆様」
クイーンは、微笑んで挨拶します。
「おはようございます」
「なのじゃ」
私達は、クイーンの屋敷に向かいました。
おっ!
「クイーン。あの壁に掛けられた額は?」
「おーーっ、我の、礼状ではないか?」
それは、昨日、ソフィアが大儀式魔法で作った、ソフィア財団の寄付者に対する、お礼状でした。
文字が浮き上がり、光っています。
「はい。ソフィア様の財団に、少額ですが寄付をさせて頂きました。それを、ソフィア財団の方が、昨晩、【転送】で送って下さいました。次は、ソフィア様のヌイグルミを頂こうと思っております」
「クイーンよ。気持ちは嬉しいのじゃが。寄付は、強制ではないのじゃぞ。我らの便宜に対する返礼なら無用じゃ」
「いいえ。これは、私の楽しみなのです。私は飲食など、人種の方々がするような嗜好を行えません。個人の収入を得ても、村を開発する以外に使い道もないのです。なので、何か趣味を持つ事にしました。私は、趣味としてソフィア様グッズの収集をしようと思ったのです。今、エースに依頼して飾り棚を造らせております。その飾り棚に、ソフィア様のグッズを並べます」
クイーンは、ニッコリと笑いました。
「クイーンよ。後で、もう1通手書きの礼状を書いて渡すのじゃ……」
ソフィアは、バツが悪そうに言います。
大儀式魔法で大量複製した、お礼状は、つまりズルですからね。
まあ、2千万通もの、手書きのお礼状だなんて、物理的に困難でしょうから、止むを得なかったっとはいえ、ソフィアも申し訳なく思っているのでしょう。
「納品いたしました原料と、試作品の【ハイ・エリクサー】の品質はいかがでございましたか?」
クイーンが訊ねます。
「申し分ありませんよ。【魔法草】は最高品質。【ハイ・エリクサー】に関しては、アブラメイリン・アルケミーの試作品より、優れています」
【タナカ・ビレッジ】の工場は、【自動人形】だけの手による完全管理体制。
アブラメイリン・アルケミーの製薬工場では、人種が介在しています。
その分、品質にバラつきが出ていました。
しかし、これは、徐々に品質の改善が行なわれ、やがては最高品質にまで、上がるでしょう。
「それは、良かった。中央卸売市場に輸送した、農作物の競り値も高額なようで、有難いです。ノヒト様には感謝致します」
クイーンは、頭を下げました。
「私は仲介したに過ぎません。農作物の評価が高いのは、クイーンの努力と工夫の賜物です」
「ありがとうございます。マスター・エンペラー・タナカも喜んでくれるでしょう」
「クイーン。【タナカ・ビレッジ】の防衛力強化の為に、【砲艦】を置いて行きます。クルーに5人必要ですが、これは、【砲艦】の操艦に最適化した【自動人形】・オーセンティック・エディションを造りましたので、使って下さい」
「何から何まで……。どうやって、お返ししたらよいのやら……」
「クイーンよ。我の家族であるオラクルとヴィクトーリアにとって、其方は、いわば親戚のような存在じゃ。オラクルとヴィクトーリアの親戚は、すなわち我の親戚なのじゃ。我は、親戚への便宜に、見返りなど求めぬ」
ソフィアは、言います。
「その通りですよ。私達が、そうしたい、と考えてする事です。クイーンは、迷惑でなければ、それを受けてくれれば、それで私達は満足です」
「迷惑だなんて、とんでもない。では、ありがたく、ご厚情にあずかります」
クイーンは、再び頭を下げました。
「では、早速、配備してしまいましょう」
私は、【収納】から【砲艦】と、5体の【自動人形】・オーセンティック・エディションを取り出します。
【自動人形】達を起動し、クイーンにマスター権限を与え、私とソフィアにマスター代行権限をもらいました。
【砲艦】は、【タナカ・ビレッジ】の上空に飛翔し、【自動人形】達は、プログラム通り、24時間365日の警戒任務を開始します。
これで、よし。
私達は、クイーンと、今後の事を少し話し合い、【タナカ・ビレッジ】を後にしました。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。
活動報告、登場人物紹介も、ご確認下さると幸いでございます。