第142話。パラサイティック・ワスプ(捕食寄生蜂)。
名前…アイリス
種族…【猫人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【冒険者・銅】→【斥候】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…潜伏、索敵】、【心眼】
レベル…23(最新)
ハリエットと幼馴染。性格は寡黙。
ハリエットに生命を救われ、生涯ハリエットに付き従うと誓っている。
昼食後。
【ドラゴニーア】の竜城。
レジョーネは武装して礼拝堂に集まりました。
私は、【ゲームマスターのチュニック】という軽装。
さてと、サウス大陸で面倒な仕事をやらなくてはいけません。
ノーマンズ・ランドで消息を絶った冒険者パーティの捜索です。
きっと、もう全滅しているのでしょうね。
だとしても確認は必要です。
確認をせず、ノーマンズ・ランドを広域殲滅してしまうと、後で、寝覚めが悪いでしょうからね。
まあ、私は眠りませんが……。
私以外のメンバーは、面倒事、という認識はあまりないようです。
レジョーネは、都市周辺をローラー作戦で捜索していました。
その途中で見つかる魔物を狩り尽くしているのです。
退屈な単純作業ではありません。
しかし、私は、上空高高度から、延々とサーチをしながら、行方不明者と疑われる反応がある場所に、神の軍団に運ばせて救援班を送り込む役目でした。
これがキツイ作業なのです。
まず、超広範囲サーチの制御がメチャクチャしんどい。
そして、誤反応が多い……と言うか、昨日は数百件全てが外れでした。
それでも、そこまでは我慢して、職務として割り切ってしまえます。
問題は、救援班を担っている【高位】冒険者パーティのリアクション。
明らかに苛ついています。
私に直接クレームを言う冒険者は、いません。
しかし、態度は明らかに、不満タラタラです。
役割を交替して、あなた方がサーチをしてくれますか?
と、喉元まで、身も蓋もない言葉が出かかりましたよ。
まあ、必要な事ですし、捜索方法は、このやり方しかありません。
また、私以外には出来ない事でした。
やりたい、とか、やりたくない、ではなく、やるしかないのです。
私達は、サウス大陸に【転移】しました。
・・・
王都【アトランティーデ】王城。
ゴトフリード王、王家の面々と簡潔に挨拶。
私が、それを好むので、儀式典礼、外交上の公式な会談以外は、全て略式儀礼で行う、という共通認識が徹底されています。
私達は、剣聖達一行と手短に会議。
こちらも、時間の節約の為に、起立会議です。
「今日は、【オフィール】で捜索を行います」
「今日は、【オフィール】一帯は大雨だそうだ。大丈夫か?」
剣聖が心配します。
「どうしましょうか?雨中で、そのまま捜索する。雨雲の水分を一気に地上に降らせ、雲を消す。雲を亜空間に飛ばして消滅させる。という選択肢がありますが?」
「そんな事も出来るのか?いや、ノヒト様なら出来るんだろうな……」
剣聖は、溜息を吐きました。
「周辺の水源地に水を流して下さいませんか?それも、一気にではなく徐々に……」
剣聖の頭脳フランシスクスさんが言います。
「わかりました」
「はあ、試しに言ってみたのですが、本当に出来るのですね……」
フランシスクスさんは苦笑しました。
レジョーネと剣聖一行は、【オフィール】に【転移】します。
・・・
王都【オフィール】。
私は、フランシスクスさんから依頼された通り、周囲一帯の水源地に雨雲から搾り出した水を流す処理を行いました。
快晴。
うん、良い天気です。
早速、現地の冒険者ギルド職員から情報収集。
ふむふむ、有用な手掛かりは、何もありません。
遠巻きに、こちらを窺っている者達の姿が見えます。
【オフィール】の官僚と軍人ですね。
昨日の【ティオピーア】の時も、微妙な空気でした。
私達は、ガン無視していましたが……。
【ティオピーア】と【オフィール】は、事前の協定を反故にして、無人の【ムームー】に兵を進めて、侵略する陰謀を巡らせていたのです。
彼らは、政府は関与してしない事で、民兵や義勇兵による勝手な行動だ、などと、あくまで抗弁していましたが……。
そんな事をしたら、軍隊を皆殺しにして責任者を取り締まりまるつもりだ、と私は、【アトランティーデ海洋国】の首脳陣の前で宣言しました。
その情報が、【アトランティーデ海洋国】の、謎の内通者から、【ティオピーア】と【オフィール】の政府に漏れ伝わり、彼らは軍隊を撤収したのです。
つまり、私は、【ティオピーア】と【オフィール】の企みは全て知っていて、なおかつ、実行に移したら、実力行使で阻止する、という立場を明らかにしたという事。
【ティオピーア】と【オフィール】の政府の者達からすれば、私は敵。
それは、私も同じ事。
私は、【ティオピーア】と【オフィール】については、現政権が続く限り、【調停者】の職責として止むを得ない場合を除いて、いかなる助力もしない、と決めていました。
【アトランティーデ海洋国】と【ドラゴニーア】、及び、その同盟諸国も、【ティオピーア】と【オフィール】には、国交断絶を宣言しています。
なので、今回の捜索作戦にも、現地の【オフィール】政府当局とは一切協力せず、動いている訳です。
【オフィール】の王家にとっては、面子が丸潰れでしょう。
まあ、どうでも良い事です。
どちらにしろ、【オフィール】の王家は、あれだけの事を仕出かしたのですから、存続は不可能なのですからね。
はい、もちろん、ファヴの命令で、近い内に、お家取り潰しですよ。
ファヴは、民の命を奪う事には忌避感が強いですが、罪を不問にふす、という訳ではありません。
守護竜に叛意を示したら、どうなるのか?
覚悟しておきなさい。
実は【ティオピーア】の方は、既にケツを捲っています。
彼らは、十分な国軍兵力を編成出来ない為に、陰謀の出兵の主力を、傭兵に頼っていました。
今回の陰謀の顛末では、世界傭兵ギルドのトップが、公式に、私と、【ムームー】のチェレステ新女王と、【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王と、【ドラゴニーア】のアルフォンシーナ大神官に詫びを入れて来ています。
傭兵ギルドは、契約に基づいて行動しただけで、【ムームー】への出兵は、侵略ではなく、関係国の了解を得た上での防衛任務と聞かされていた……と、弁明。
確かに、魔法により、その内容の正しさが担保された、【ティオピーア】が発行した正式な契約書と命令書がありました。
幾ら何でも、侵略の意図を全く知らなかった、というのは、しらばっくれ過ぎだ、とは思いましたが、傭兵ギルドとは、契約至上主義。
そういう契約外の際どい事情は、見て見ぬふりをする組織なのです。
卑怯?
いいえ、私は、そうは思いません。
むしろ、任地で略奪などを働かせないように完全な統制が取れた民間軍事会社として、私は、傭兵ギルドの姿勢を好ましくさえ思いますよ。
で、傭兵ギルドに対して、虚偽の情報で違法な契約をした、として、【ティオピーア】は、世界傭兵ギルドから、契約違反で訴えられ、多額の慰謝料を請求されていました。
また、【ティオピーア】側の陰謀の首謀者達は、傭兵ギルドからの情報提供で、私が派遣した神の軍団によって全員捕縛してあります。
裁判は、【ムームー】のチェレステ女王が戴冠後に行われる予定。
まず間違いなく首謀者達は死刑になり、【ティオピーア】は、【ムームー】のチェレステ新女王からも、莫大な賠償金を請求されるでしょう。
もはや、【ティオピーア】は、国としては、終わりです。
進退極まった【ティオピーア】の政府は、【ムームー】への恭順の意を示し、今後、100年間は、【ムームー】から総督を迎えて、事実上の属国となる道を選択しました。
そうでなければ、【ムームー】に宣戦布告を行なったのと同じ状況なのです。
傭兵ギルドに見捨てられた【ティオピーア】に防衛戦力はほとんどいません。
対する【ムームー】には、神の軍団緑師団400頭が、手ぐすねを引いて出撃を待っているのです。
絶望的な状況。
絶対に勝ち目がありません。
つまり、【ティオピーア】は、無条件降伏したのです。
一方で、【オフィール】。
【オフィール】の女王は、この陰謀の首謀者とされる貴族達を、勝手に処刑してしまいました。
私や、【ムームー】のチェレステ新女王の許可なく、です。
死人に口なし。
これは、都合の悪い事を処刑した貴族達のせいにした、口封じ。
悪質な隠蔽工作です。
それは通りません。
私は許しませんよ。
事情聴取をする前に、容疑者と証人を、無許可で殺害した、として、【オフィール】の女王は、罪状を増やしただけでした。
気の毒ですが、彼女は、良くて極刑は免れないでしょうね。
悪くすれば、王家一族郎党が連座で全員処刑されるでしょう。
王とは、知らなかった、という言葉を吐く事が許されない職責なのです。
例え、本当に何も知らなかったとしても、国家が行なった事の結果責任は、全て王が取らなくてはならない。
その重責と引き換えに、王権を授けられているのです。
【オフィール】女王。
あなたの運命は、【ムームー】のチェレステ新女王が握っています。
精々、最期は、王の格式で埋葬してもらえる事を、【ムームー】のチェレステ新女王に頼むのですね。
・・・
私は、【オフィール】の上空高高度に滞空し、超広範囲サーチをしています。
昨日と同様、空振り続き。
反応を調べに行くと、大概は、魔力溜まりでした。
陽が傾いて来て、今日もまた、成果なし……かと、思っていた時です。
「ノヒト様、いました!冒険者達を見つけました。現在、魔物の群と交戦中!援護を願いたい!」
【オフィール】の東、中央国家【パラディーゾ】との国境に横たわる巨大な高地【卓状山脈】に派遣したチームからの報告でした。
私は、すぐに、近くの神の軍団を現場に急行させます。
【卓状山脈】の中央には、周期スポーン・エリアがありました。
エリア・ボスは【スフィンクス】。
しかし、解せません。
【卓状山脈】は、【大密林】の中なのです。
冒険者パーティがそんな危険な場所に向かうはずはないので、ここも、当然、外れだと思っていました。
何故?
ともかく、報告を待ちましょう。
・・・
王都【オフィール】。
私は、救出された冒険者達を治療していました。
冒険者達は、7人。
とある冒険者パーティが全員生存していました。
しかし、生存、と呼べるのは、私がいたからです。
この状態になると、通常のトリアージならば死亡判定が下されました。
救出された冒険者パーティのメンバー達は、全員、魔物に卵を産み付けられた状態だったのです。
その魔物は、【捕食寄生蜂】。
【捕食寄生蜂】は、動物を襲い餌とする他、繁殖の為に、卵を産み付ける習性があるのです。
体長2mの巨大な蜂で、強力な麻痺毒を持ち、大群で襲ってくる厄介な蟲でした。
【捕食寄生蜂】の巣から救出された冒険者達は、【オフィール】から出発し、東に向かいました。
彼らは、【大密林】には、近付かず、狩をしていましたが、【捕食寄生蜂】に襲撃され、麻痺毒で仮死状態にされ、【卓状山脈】に運ばれてしまったのです。
そして、【捕食寄生蜂】の巣で、女王蜂に卵を産み付けられた、と。
卵を産み付けられた動物は、【捕食寄生蜂】の幼虫の餌になるのです。
餌が腐らないように、【捕食寄生蜂】は、動物を麻痺毒で仮死状態にして、生かしておくのですよ。
卵を産み付けるられた動物の中で孵化した幼虫は、動物の体内を食べて成長し、最後は体を食い破って外に出て来ます。
何とも恐ろしい蟲でした。
【捕食寄生蜂】に、卵を産み付けられた、動物は、トリアージで、死亡判定が出されます。
【捕食寄生蜂】が卵を産み付ける場所が、頚椎と頭蓋骨の繋ぎ目にある脊柱管の中という場所であり、中枢神経に食い込んでいる為に、外科手術などで切除しようと試みても、宿主とされた動物は必ず死んでしまうからでした。
つまり、生きていても、救からないのです。
しかし、私なら、救えました。
【捕食寄生蜂】の卵を、分子レベルでバラバラにして無害化した上で、老廃物として患者の体外に排出してしまえば良いのです。
その上で、破壊された肉体組織を再生し、治療。
これで完治します。
これで、よし。
「治りました。もう、大丈夫です」
冒険者7人が意識を取り戻す度に、おーっ、という歓声が上がりました。
さてと、私は捜索に戻りましょう。
・・・
夕刻。
千年要塞。
私達は、捜索を終えて、千年要塞にいます。
今日は、7人の冒険者を救う事が出来ました。
彼らは、【アトランティーデ海洋国】所属の冒険者パーティでしたので、【オフィール】の中央塔で数日養生した後、【アトランティーデ海洋国】に帰還します。
私に対して、不信感を持っていた捜索チームの冒険者達の目が変わりましたね。
私の、評判なんかは、どうでも良いのですが、明日の捜索のモチベーションになってくれれば良いのですよ。
私達は、冒険者ギルド千年要塞支部に向かいました。
昨日、面倒臭くなって、直帰してしまったので、一昨日の買取査定の結果が放置されたままになっています。
買取査定の結果を確認して、そのまま買取を依頼。
【超位】の魔物700頭のコアと血液と肉以外の部位……1752万金貨(1兆7520億円相当)。
これを、私以外の6人で山分け。
1人当たり292万金貨(2920億円相当)。
これに一昨日、商業ギルドで売却したアイテムの売却金額を加えて頭割りすると……。
保有現金(可処分所得)。
私……1085万金貨(1兆850億円相当)。
ソフィア……2千万金貨(2兆円相当)。
ファヴ……1377万金貨(1兆3770億円相当)。
オラクル……1360万金貨(1兆3600億円相当)。
トリニティ……651万金貨(6510億円相当)。
ウルスラ……295万金貨(2950億円相当)。
ヴィクトーリア……295万金貨(2950億円相当)。
コアは、私が管理……血液は、アブラメイリン・アルケミーで使用……肉は、【ドラゴニーア】の騎竜繁用施設に輸送されます。
因みに、ウルスラは、私が与えたホールケーキ10個は、既に食べ尽くしてしまっていました。
食べ過ぎですよ。
私達は、新たに【高位】の魔物2160頭のコアと血液と肉以外の部位を、買取査定依頼します。
私達は、剣聖達を連れて、王都【アトランティーデ】王城に【転移】しました。
・・・
【アトランティーデ】の王城。
「ノヒト様、お帰りなさいませ。実は、【アトランティーデ海洋国】で、【ティオピーア】と【オフィール】の陰謀に加担していた者を見つけました」
ゴトフリード王が、私達の帰還を待ち構えていたように、開口一番言いました。
あ、そう。
まあ、誰かしら内通者はいたのでしょうけれど、私は、別にどうでも良いのですよ。
「誰ですか?」
ファヴが訊ねました。
「申し訳ありません。我が子……次男のイングヴェとその妃マーゴットでございました」
ゴトフリード王は、跪いて詫びます。
「わかりました。後の事は、ファヴとチェレステ女王と、ゴトフリード王陛下に一任します。私とソフィアは、一切関与しませんので」
私は、面倒事に巻き込まれないように、機先を制しました。
「畏まりました。厳しく取り調べ、事実関係を白日の下に晒した上で、厳罰に処します」
ゴトフリード王は、言います。
イングヴェ王子の妻、マーゴット妃の実家は、【パラディーゾ】の旧貴族家の血筋を引く家柄だったのだ、とか。
マーゴット妃の父親は、【パラディーゾ】に領地を要求していましたが、ファヴが【パラディーゾ】の旧貴族家の爵位復活の要望を全て拒否して、【パラディーゾ】を民主国家とする事を決定していました。
ゴトフリード王は、初めからマーゴット妃が何やら怪しい、と思い内偵をしていた所、密書を送っている現場を押さえた、と。
夫であるイングヴェ王子も当然疑われ、調べたら、マーゴット妃の実家とはズブズブで、黒だったのだ、とか。
どこが、どう繋がって、そういう事になったのかは、知りませんし、興味もありませんが、今回の【ティオピーア】と【オフィール】の陰謀と、【パラディーゾ】の旧貴族家と、イングヴェ王子とは、繋がっていた訳です。
同じ穴の狢。
私の敵達です。
「恩赦を与えても構いませんよ。王家の身分を剥奪して、どこかに幽閉でもしておくとか。ともかく、私個人としては、想定の範囲内の出来事で、特に不利益を被った訳ではないので、今更、どうでも良いですから」
「そういう訳には参りません。然るべき処断を行なった上で、私も、【ファヴニール】様に、進退伺いを出させて頂く所存です」
ゴトフリード王は、跪いたまま言いました。
「ゴトフリード。責任を全うしなさい。王権を投げ出す事は、まかりなりません。これは、守護竜としての命令です」
ファヴが、事前に私とソフィアに相談した上で決めていた、決裁を伝えます。
「畏まりました」
ゴトフリード王は、静かに言いました。
「明日、イングヴェと話が出来ますか?」
ファヴが訊ねます。
「そのように取り計らいます」
ゴトフリード王は、最後まで跪いたままでした。
正直、面倒臭い事、この上ないのですが、私も同席しなくてはいけないのでしょうね。
私達は、守護竜への謀叛という大罪を犯したイングヴェ王子の処遇について、悲嘆に暮れている王家の面々に挨拶して、【ドラゴニーア】に【転移】しました。
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