第141話。フロネシス(知恵)。
名前…ハリエット
種族…【兎人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【刀士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…刀技】、【見切り】
レベル…24
パーティのサブ・リーダー。
粗忽者のムードメーカーで、少々、頭がアレ。
異世界転移、29日目。
早朝から、竜城の私室には、大量の荷物が運び込まれていました。
魔法的な処理をされ、竜城の紋章が入った便箋です。
2千万枚超の紙束……凄まじい量ですね。
とりあえず、早めの朝食を食べました。
朝食後。
ソフィアは、寄付者の氏名と金額などの情報が記されたリストを斜め読み。
個別の文字や単語をキチンと理解して記憶しなくても、ソフィアの視覚野に全体画像として映り認識されれば、後は、大儀式魔法が過不足なく調節して魔法効果を発動してくれるので、リストの内容を理解する必要はありません。
ソフィアは、オラクル、ヴィクトーリア、ディエチなどの手を借りて、1時間で、全てのリストを斜め読みし終わりました。
ウルスラは、私室の空気清浄機である【ガーゴイル】と戯れています。
さてと、やりますよ。
私は、【超神位魔法】で、ソフィアの脳にある【魔力の器】とリンクします。
私が、ソフィアの魔力を使って、ソフィアの代わりに積層型魔法陣を構築する為でした。
ソフィアは、自力では積層型魔法陣を組めないからです。
【神竜】のスペックから言って、ソフィアなら積層型魔法陣を組めても、何ら不思議はない筈でした。
しかし、ソフィアは、戦闘などに関わる魔法技術以外は、面倒臭い、という理由で、真剣に取り組まないせいでステータスや熟練値が伸びず、未だ【工学魔法】は、未熟なままなのです。
「うひひ……くひょひょ……ひひひ……」
ソフィアは、笑らっていました。
「ソフィア。気味の悪い笑い方をしないで下さい」
「違うのじゃ。くすぐったいのじゃ。ひひひ……」
どうやら、【魔力の器】に私がアクセスしている事で、ソフィアの脳は、くすぐったさ、を感じている様子。
仕方ありません。
我慢して下さい。
ソフィアの脳にアクセスして、色々と面白い事がわかりました。
まず、私とソフィアは、やはりパスが繋がっていました。
これは、以前から、その可能性が推定されています。
以前、私は、ソフィアの神託が聞こえる、という事がありました。
ソフィアが【ウトピーア法皇国】の全権大使と謁見した時でしたね。
神託が聞こえたのは、後にも先にも、あの時だけでしたが……。
ソフィアは、このパスの繋がりを制御しています。
本来は、そんな事は出来ない設定の筈ですが……。
私が、ソフィアに名付けをした事により発現した、第2の脳の手助けによって、ソフィアは、パスのオン・オフを切り替える能力を身に付けていました。
また、デタラメな事を……。
ソフィアとパスが繋がっているのは、アルフォンシーナさんと、私。
【神竜】の使徒である【女神官】達は、パスは繋がっておらず、ソフィアから一方的に神託がもたらされるだけなのです。
第2の脳は、初期設定上、必要がなかった私とソフィアのパスを現在オフ・ラインに設定していました。
これは、ソフィアではなく、第2の脳が独自の判断で行なったようです。
ソフィアとアルフォンシーナさんとのパスは、基本的には常時オン・ライン。
しかし、ソフィアがアルフォンシーナさんに隠れて、コソコソ行動する必要がある場合は、任意にオフ・ラインに切り替えているようです。
なるほど。
だから、アルフォンシーナさんに隠れて、ケーキを大人買いしたりという事が、可能だったのですね。
端的に言えば、ソフィアは、私の名付けによるバージョン・アップで得た能力により、相当、自由な事をしています。
バージョン・アップで得た能力とは……つまり、わたしが、ソフィア、と名付けた事により、ステータスが設定限界値を突き抜けて発現した、ソフィアの第2の脳。
いや、実は、ソフィアの……ではありませんでした。
この第2の脳は自立しています。
普段は、眠ったような状態にあり、ソフィアの危機や、ソフィアが必要とした時に協力しているみたいですね。
第2の脳は、ソフィアからは独立した自我ですが、母体であるソフィアが死んでしまうと、自分も消滅してしまう為に、生存戦略として、ソフィアを守っているのです。
私は、ソフィアの第2の脳との対話に成功しました。
彼女(話し言葉が女性でしたので、そう認識しましたが)は、ソフィアが死亡・復活した場合、消滅してしまいます。
守護竜は、復活の際に、全ての記憶を引き継ぎますが、【創造主】によって創造された理想的な基本設定であるオリジナルとして再生するのです。
【神竜】のオリジナルに、第2の脳は、存在しません。
従って、今のソフィアが死ねば、再生したソフィアには、第2の脳は、存在しないのです。
私は、第2の脳と取引をしました。
私の支配下に入る事。
ソフィアを全力で守る事。
この2つの条件に従うならば、という約束で、私は第2の脳に、私の持つ知識と能力の一部を貸与しました。
第2の脳は、消滅を回避する為に、ソフィアの強化を願っていましたので、取引に応じたのです。
私は、支配権を引き受けたソフィアの第2の脳をカスタマイズしました。
まず、ソフィアと第2の脳の分離を確定し、両者の自我や意思が混ざりあわないようにします。
次に、第2の脳の能力を最適化しました。
そして、私が持つ知識から、私の個人情報、【超神位魔法】、現代地球の知識……など不都合な情報を除く、それ以外の全てを移植。
第2の脳は、与えられた知識に歓喜していました。
最後に、第2の脳に名付けをします。
知恵。
ソフィアの名前の由来である、叡智との対比となっています。
名持ちとなったフロネシスは、性能が2割ほど上がりました。
実体を持たない思念体にも、名付けによるステータス・アップは、適応されるのですね。
フロネシスは、元々、強力な性能がありました。
ソフィアの戦闘関連ステータスの2割の性能を持つのです。
ソフィアの戦闘力は……ファヴ達、守護竜の10倍以上。
フロネシスは、脳以外の器官を全く持たないので、単純な比較は意味をなしませんが、スペックは……ソフィア以外の守護竜達の2倍。
名付けを経てさらに2割の強化がされました。
極めて強力です。
フロネシス……基本的に、あなたに与えた知識は自由に使って構いません。
ただし、あくまでも、ソフィアの必要に応じてです。
あなたが、私やソフィアの許可なく、外部世界に影響を与える目的で、勝手に知識や能力を用いる事は認めません。
そのような動きを察知した場合、私は、あなたを消去します。
良いですね?
わかりました。
ならば、よし。
この間のやり取りは、30秒。
ソフィアには、それを知らせていません。
ソフィアに教えると……何だか、嫌な予感がします。
絶対に、悪用するに決まっていますからね。
悪用とは言っても、巨大ケーキ工場のプロトコルを製造してケーキを大量に生産する、とか、無限にジュースを出す【魔法装置】を作る、とか、自分そっくりの【自動人形】を製造して替玉にして、竜城を抜け出して遊びに行く、だとか、そんなくだらない事だとは、思いますが……。
私は、ソフィアの【魔力の器】にアクセスして、積層型魔法陣を構築。
ソフィアの脳の記憶を魔法的に抽出し、ソフィアの文字の書き癖で、また、全ての文字をランダムに……。
オラクル達が、束ねられた便箋を解き、バラバラにします。
「ソフィア、私が【完全回復】を詠唱した後で、あなたも発動キーを詠唱して下さい」
「うむ」
「【超神位魔法……回数……無限大……完全回復】。ソフィア、どうぞ」
「【形跡】!」
途端、ソフィアの魔力がゴッソリ奪われて行きます。
しかし、ソフィアの魔力総量は、私が詠唱した無限回数の【完全回復】のおかげで、満タンの状態から全く減りません。
換算値で【神竜】の膨大な魔力の数倍分以上が、一気になくなりました。
さらに、どんどん魔力が流れ出て行きます。
当然ですね。
【超位魔法】を2千万回、瞬時に唱えた魔力量に加えて、それらの制御に【神位魔法】級の魔力コストで、2千万回分の魔法を使っているのです。
・・・
「出来たのじゃ」
ソフィアは、言いました。
すぐに、オラクル、ヴィクトーリア、ディエチと、大量の【自動人形】達が手分けをして、お礼状の内容に不具合がないかを一斉確認。
1時間後、完璧だ、との報告を受けました。
私は、お礼状の束を【宝物庫】に回収して、【自動人形】・シグニチャー・エディションの1体に預けます。
「これを、ソフィア財団の理事長に手渡して下さい。任務完了後は、竜城に戻り私室への入口で待機」
「畏まり、ました」
私は、【自動人形】・シグニチャー・エディションを私室の外に送り出しました。
「ソフィア。これを毎月の月末にやりますよ」
「うむ。このくらいの労力なら我慢してやれるのじゃ」
・・・
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリアは、私室を出て行きました。
お昼まで、闘技場の軍、竜騎士団、衛士機構の訓練を見に行くようです。
どうせ、見に行くだけでは済まないでしょう。
稽古を付けてやる……などと言って、無茶をする姿が目に浮かびます。
兵士、竜騎士、衛士も、ソフィアの前では過剰に張り切りますから、双方共に、やり過ぎないか、少し心配ですね。
既にトリニティは、朝食後から、闘技場に向かっていました。
午前中、トリニティに自由時間を与えたら、トリニティ自身がそれを望んだのです。
トリニティの目的は、軍、竜騎士団、衛士機構の訓練に参加している、ファミリアーレ。
トリニティは、ファミリアーレの事を気に入っています。
リスベットには、【空間魔法】を指導するという約束もしていましたからね。
トリニティは、今まで、遺跡の徘徊者として、孤独に暮らして来ました。
きっと、身内や仲間との交流は、トリニティにとっても悪い事ではないはずです。
私は、従魔ではありますが、トリニティを家族だと思っていました。
トリニティの幸せを願っています。
さてと、内職をしましょう。
私は、出しっ放しにしていた大量の【自動人形】達に手伝わせて、作業を始めました。
私は、内職で【自動人形】・シグニチャー・エディションの製造をしています。
それと並行して、現在は、【転送】の【魔法装置】を造っていました。
それから、アペプ遺跡で入手した【神の遺物】の【砲艦】を見本に、レプリカの【砲艦】を製造しています。
ブロック工法で、各部を別々に造り、後で組み立てる方式でした。
図面も精密に描いてあります。
私の造る【砲艦】は、悔しいのですが、【神の遺物】のオリジナル【砲艦】には、性能の面で及びません。
機動力やレーダー関係は、私が造ったモノが上回りますが、耐久力、防御力、主砲である【魔導砲】の威力で、全く勝負にならないほど、負けています。
なので、オリジナルとレプリカを区別する為に、私が造ったモノは、【砲艇】と呼ぶ事にしました。
【神の遺物】の【砲艦】は、【超位】の攻撃に耐え、【超位】の砲撃が行えます。
私が造った【砲艇】は、【高位】の攻撃に耐え、【高位】の砲撃が行えます。
【砲艦】を飛行する駆逐戦車だとするなら、【砲艇】は、さしずめ攻撃ヘリコプターでしょうか。
【砲艇】は、【神の遺物】以外の船としては、歴史上最高の技術で造られた戦闘艇でしょう。
私は、ある人物にスマホで連絡を取りました。
ニュートン・エンジニアリングの上級副社長のイプシロンさんです。
イプシロンさんは、私の【飛空巡航艦】を建造してくれているチームを主導していました。
「ノヒト様、お久しぶりで、ございます」
イプシロンさんが言います。
私は、イプシロンさんと、彼の親友である、ダビンチ・メッカニカの技術部門担当取締役であるザクリスさんに、守秘の【契約】をさせた上で、正体を教えていました。
2人にはスマホも貸与しています。
「お疲れ様です。進捗はどうですか?」
「順調そのものです。お借りしている【自動人形】達のおかげです。プロジェクト終了後に、お返ししなければならないのが、大変残念です」
イプシロンさんは、笑いました。
私は、イプシロンさんに【自動人形】・シグニチャー・エディションを5体貸し出しています。
【飛空巡航艦】の基幹部の製作に当たらせる為でした。
まだ、NPCには、私の描いた図面を完全に再現するだけの技術力がありません。
ソフィアの、50mの【アイアン・ゴーレム】を建造しているダビンチ・メッカニカのザクリスさんにも同様に【自動人形】・シグニチャー・エディションを5体貸し出していました。
その、おかげか、ニュートン・エンジニアリングとダビンチ・メッカニカからは、【自動人形】・オーセンティック・エディションとスマホの大量発注がありました。
市販最高バージョンのオーセンティック・エディションは、私謹製のシグニチャー・エディションより性能が大きく劣ります。
イプシロンさんや、ザクリスさんは、それを承知していました。
しかし、一気に100体の発注……さすがは、世界企業、お金持ちですね。
「その事に関連して、ですが、新しい艦艇の図面と試作品を一隻造りました。それを見て、感想を聞かせて下さい。製造が可能ならば、お願いするつもりです。その場合、私の【自動人形】達は、そのまま、お貸しします。それから、ザクリスさんにも図面と試作品を見せて下さい。内部のアビオニクスやレーダー関係の製造をダビンチ・メッカニカにお願いするつもりなので」
「新しい艦艇ですか?楽しみです。すぐにザクリスにも伝えます」
イプシロンさんは、声を弾ませて言いました。
重工業はニュートン・エンジニアリングが上ですが、精密機器はダビンチ・メッカニカの方が上です。
私は、両企業の強みの良いところ取り、を【砲艇】製造でしてもらうつもりでした。
両企業が出資する合弁事業などが行われれば、コンパーニアも参画したい所です。
「基本的に機密情報と認識して下さいね。イプシロンさんと、ザクリスさんの他に見せる場合は、【契約】させて下さい」
「承知しました」
「では、よろしく、お願いします」
「はい。こちらこそ、よろしく、お願い致します」
私は、通話を終わらせました。
私は、【砲艇】の図面と、ブロック工法でバラバラの状態の試作品を、【宝物庫】にしまいます。
「ニュートン・エンジニアリングのイプシロン上級副社長に手渡して下さい。任務完了後は、帰還して、私室の入口で待機」
私は【自動人形】・シグニチャー・エディションに、【宝物庫】を手渡しました。
「畏まり、ました」
造り貯めている【自動人形】・シグニチャー・エディションが大量にいるので、最近は、お使い関係は、全て【自動人形】達に頼んでいます。
本来の私は、筋金入りのインドア派で、出不精なのですよ。
さて、そろそろ、お昼です。
ソフィア達も戻って来る頃でしょう。
私は、私室を片付けて、部屋の外に出ました。
・・・
竜城の礼拝堂。
「ノヒト様」
アルフォンシーナさんから、呼び止められました。
大神官付き筆頭秘書官のゼッフィちゃんと、【パラディーゾ】のローズマリー大巫女も一緒にいます。
「アルフォンシーナさん、ゼッフィちゃん、ローズマリーさん、ごきげんよう」
私は、3人と挨拶を交わしました。
「ノヒト様、報道法が可決されました」
アルフォンシーナさんが言います。
あ、そう。
私とソフィアは、アルフォンシーナさんに依頼して、報道に関する法規を元老院に提出してもらっていました。
この世界には、報道に類する物がありません。
テレビ局や映画会社などの映像媒体はあり、スポーツ中継、お芝居、情報番組、映画……などは、放送されています。
活字媒体の、官報、広報誌、専門誌、雑誌……なども存在しました。
しかし、何故か、報道というモノが存在しません。
私は、ソフィアと連名で、マスメディア原則、という発布を起案しました。
マスメディアを宣言した個人・組織には、【ドラゴニーア】において、官公庁・議員の公職に関わる事に対して、合法的な範囲で取材を行う権限を与える。
議会は、軍事機密、国家機密、個人情報など非公開情報を除き、マスメディアに全ての議事を公開しなければならない。
官公庁は、報道官を選任し、マスメディアに対して、毎日会見を開かなくてはならない。
官公庁は、軍事機密、国家機密、個人情報など非公開情報を除き、マスメディアの質問には正確に答えなくてはならない。
マスメディアが取材した内容を活字化・放送する場合は、一切の編集は認めず、全てノーカットで出版・放送をしなければならない。
私は、この法律の可決をもって、コンパーニアの傘下に新聞社とテレビ局を開設。
私とコンパーニアが管理している物件の、ホテルの幾つかの部屋を少し改装して報道通信社のオフィスと、テレビスタジオとし、報道事業を開始します。
別に、私は、報道をやりたい訳ではありません。
むしろ、マスメディアなんか……という感じです。
私とソフィアの意図は、その報道番組の製作現場を、マスメディアを宣言し報道番組の製作に参入しようとするテレビ局などに公開し、ノウハウを教える為でした。
私とソフィアは話し合い、マスメディアというモノは、それが公正なモノならば、公共の利益に鑑みて必要なモノだと考えたのです。
お読み頂き、ありがとうございます。
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活動報告も、ご確認下ると幸いでございます。
登場人物紹介を作成致しましたが、最新話まで、お読みでない読者様はネタバレに、ご注意下さい。