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第14話。戦士の誇り。

光系魔法。

低位…ライト(光源)

中位…フラッシュ(閃光)

高位…レイザー(光線)

超位…フォトニックカノン(光子砲)

神位…フォトンバースト(光子爆烈)

……などなど。

 私は【闘技場(コロッセオ)】の中央に佇んでいました。


 観客席は超満員で既に興奮の坩堝(るつぼ)と化しています。

 客は、兵士、騎士、衛士達。

 他の役所の人達も紛れ込んでいますが民間人はいません。

 どうやら賭けも行われているようです。


 私も賭けに参加。

 自分の全勝に上限いっぱいまで賭けます。

 いや、神官の代表者とだけは引き分けに賭けましょう。


 危ないので、【神剣】は【収納(ストレージ)】に仕舞いました。

【神剣】や【神槍】などのゲームマスター装備は、チート過ぎてゲームでは御蔵入りになっています。

 これで斬ったら【復活(リ・スポーン)】ギミックがある【闘技場(コロッセオ)】でも生き返れない可能性もありますからね。


闘技場(コロッセオ)】の【復活(リ・スポーン)】ギミックと、あらゆる物を両断し斬られた物は【治癒(ヒール)】不可能という【神剣】のギミック。

 どちらが上回るのでしょうか?


【神槍】が【不滅の大理石】を傷付けられなかったので、【創造主(クリエイター)の魔法】によって創造されている構造物(オブジェクト)や【世界の理(ゲーム・ルール)】には影響を及ぼさない可能性が高い……つまり復活すると思いますが……。

 もしも、万が一があったら洒落にならないので試すつもりはありません。


 第一試合の対戦相手はフィオレンティーナさんです。


 弱い順ですか?と訊ねたら、フィオレンティーナさんからメッチャ怒られました。

 厳正なるクジ引きで決まった順番だそうです。


 因みに、(くだん)の神官見習いの出場は最終戦。


「【精霊召喚(サモン・エレメンタル)】!」

 フィオレンティーナさんが【火の精霊】である【サラマンダー】を召喚しました。


 いきなり自身最強の攻撃手段を用いて来ましたね。

 それで正解です。

 様子見で切り札を温存したまま負けるのは恥ずかしいですから。


「【精霊召喚(サモン・エレメンタル)】」

 私も【精霊】を呼び出しました。


 今回の私のコンセプトは……相手と同じ土俵に乗った上で力の差を見せ付けて、完膚なきまでに捩じ伏せる……です。


 私は【精霊魔法使い(メイジ)】ではありませんが【精霊】くらい幾らでも呼び出せます。

 というか私は【精霊魔法使い(メイジ)】としても世界(ゲーム)最強と言った方が良いかもしれません。

 さらに、【精霊魔法使い(メイジ)】は基本的に1系統の属性しか使役出来ませんが、私は全属性の【精霊】を同時使役可能。

 私の存在はユーザー向けのゲーム設定を無視した合法的チーターなのです。


 私が召喚したのは【火の精霊()】である【イーフリート】。


「くっ……参った」

 フィオレンティーナさんがガックリと頭を垂れて敗北を宣言しました。


 一合も打ち合わずに勝負が決まったので観客からは大ブーイング。


(うるさ)いわよ!あんなの勝てっこないでしょう!【サラマンダー】が雑兵だとしたら、【イーフリート】は王なんだから。位階が違い過ぎるっての!何なの?あんた達バカなの?」

 フィオレンティーナさんは観客に向かって悪態を吐きながら退場して行きました。


 ・・・


 2人目の対戦相手はカスパールさんです。


「【風刃(エアロ・カッター)】!」

 カスパールさんが【(ウインド)】の【中位魔法】で攻撃して来ました。


 一度に四発の【風刃(エアロ・カッター)】ですか?

 中々やりますね……。


 おそらく【エルフ】の血が入っているので【風系魔法】が得意なのでしょう。


 けれども甘い。

 甘過ぎて虫歯になりますよ。


「【神風(ディバイン・ウインド)】」

 私は【(ウインド)】の【()()魔法】で応戦。


 瞬殺でした。


 コロッセオの【復活(リ・スポーン)】ゾーンからカスパールさんが現れたのが確認出来ました。

 カスパールさんは何が起きたのかわからないという表情。

 まあ、そうでしょうね。

 痛覚神経に信号伝達される前にガスパールさんは存在が消滅していましたから……。


 観客席は水を打ったように静まり返りました。


「【神位魔法】だと……」


「あれが人の身では到達出来ないという神の領域……」


「何故魔力の発動を感じなかったのだ?」


「いや、【調停者】様が魔法を放つ瞬間、微かに魔力がさざめき立つのを感じたぞ……」


「【認識阻害(ジャミング)】か?」


 魔法の心得がある者たちが小声で話しているのが聴こえて来ます。

 さすがは魔法戦闘のエリート達。

 私の【認識阻害(ジャミング)】を見破ったようです。


 この【魔力探知(ディテクション)】を阻害する指輪は私が作ったアイテムで、【超位魔法】までの魔力反応ならば完全に隠蔽出来ますが、さすがに【神位魔法】は隠せません。


 なので、礼拝堂に繋がった私室でソフィアが私の【ミスリル・ガーゴイル】に【雷霆(ディバイン・サンダー)】をブッ放した時にも、私はソフィアの魔力反応を感知しています。


 ・・・


 3人目の対戦相手は衛士機構のマッシミリアーノさんという衛士。

 普段は執政官の身辺警護を行なっているそうです。

 マッシミリアーノさんは【オーガ】でした。

 戦災孤児として【ドラゴニーア】に連れて来られ、【神竜】の神殿が運営する孤児院で育ち衛士機構にスカウトされた……と。


 戦災孤児……まさか人身売買や捕虜の奴隷化ではないでしょうね?……私はゲームマスターとして、それは絶対に許しませんよ。


 私はアルフォンシーナさんに【念話(テレパシー)】で厳しく詰問しました。


 ご安心下さいませ……人身売買も奴隷制もセントラル大陸では違法であり禁忌でございます……マッシミリアーノは味方の陣営である同盟国【グリフォニーア】の出身です……【ドラゴニーア】がマッシミリアーノを【竜都】の孤児院で養育した理由は、戦場となった【グリフォニーア】の戦災孤児の数が多く【ドラゴニーア】が人道支援として手を貸したからでございます。


 アルフォンシーナさんが【念話(テレパシー)】で答えました。


 900年前のゲーム設定では、この世界(ゲーム)では奴隷制は太古の昔に廃止され存在していなかった筈です。

 アルフォンシーナさんは、今セントラル大陸では違法……と言いました。


 つまり、私が世界(ゲーム)にログインしない間に、他の大陸では奴隷制が復活し合法になった地域があるのでしょうか?

 だとしたら、とても胸糞の悪い話です。


【グリフォニーア】は【ドラゴニーア】の東に国境を接し、【魔法工学】が発達した技術立国。

 その名が示す通り【グリフォン・騎士(ライダー)】と強力な【ゴーレム】兵団によって防衛されていました。

 高性能な【魔法装置(マジック・デバイス)】や【魔道具】の輸出で繁栄を築いて来た伝統から、国家の進歩に役立ち【グリフォニーア】の為に力を尽くしてくれる優秀な人材なら種族に関わらず誰でも移民として受け入れる開放的な他種族国家です。


 900年前から変わらない好ましい国家風土ですね。


 しかし、数十年前【グリフォニーア】を国難が襲いました。

【グリフォニーア】は戦火に見舞われたのです。


 敵はイースト大陸の西端にある【アルカディーア】。

【ドラゴニーア】や【グリフォニーア】を始めとするセントラル大陸の諸国は【アルカディーア】とは比較的友好的でした。

 しかし、先代の【アルカディーア】王は欲深い人間だったのです。


 先代【アルカディーア】王は海を挟んだ対岸にあるセントラル大陸の東……【グリフォニーア】の領土と先端技術を収奪する……という野心を抱き大軍を送り攻撃を仕掛けて来ました。

 宣戦布告もない国際法を無視した完全な奇襲です。


【グリフォニーア】の【オーガ】の集落に暮らしていたマッシミリアーノさんの両親は民間人でしたが、自分達が住む集落を【アルカディーア】軍先遣隊の襲撃から守る為に戦いました。


 本来であれば、大人全員が精強な戦士でもある【オーガ】の集落を襲うなどという作戦は愚策の極みなのですが、その時期は農閑期。

【オーガ】の集落にいる大人の大半は出稼ぎに行ってしまって不在でした。


【グリフォニーア】で【オーガ】は土木建築の現場など力仕事では重要な労働力なのです。

【ゴーレム】技術が発達した【グリフォニーア】とはいえ【ゴーレム】は繊細な作業が出来ない為に精々がトラックや重機の代わり。

 並外れた膂力があり、【ゴーレム】と比較すればある程度の器用さと知性を持つ【オーガ】は、様々な力仕事の現場で、とても頼りにされていたのです。


【オーガ】の集落が攻撃されていた頃、【グリフォニーア】の正規軍と民兵を合わせた総兵力5万は沿岸部で敵の本隊30万の上陸を阻止する為に必死の水際防衛戦を行なっていました。

 従って【オーガ】の集落には援軍を送れません。

 しばらく耐えれば同盟国【ドラゴニーア】から世界最強の軍隊が後詰めに現れます。


 同盟国【グリフォニーア】が攻撃されたという急報で出動した【ドラゴニーア】軍。

 高速飛行の利を活かして真っ先に到着したのは【ドラゴニーア】の竜騎士団です。

竜騎士(ドラゴン・ライダー)】は圧倒的な火力で、上陸していた【アルカディーア】軍先遣隊を蹂躙・殲滅しました。


 竜騎士団が地上に降りるとマッシミリアーノさんの両親は、二人とも【オーガ】集落の門前で武器も身体もボロボロになった状態で立ち尽くしていたそうです。


 竜騎士達が……もう戦いは終わった……と告げに近付くと……マッシミリアーノさんの両親は目を見開き武器をしっかりと握りしめ立ったまま息絶えていました……。


 文字通りの立ち往生。


 防衛戦を戦った【オーガ】の多くが、そうして集落各所にある門や橋などの拠点を守り抜いて、敵の侵入を防ぎきり立ったまま亡くなっていたそうです。


 アルフォンシーナさんは【念話(テレパシー)】で無念そうに教えてくれます。


 まるで金剛力士の仁王立ち……ですね。

 壮烈な最期です。


 民間人を無差別に虐殺して回った【アルカディーア】軍の蛮行により、【グリフォニーア】の戦災孤児は大勢いました。

 その為に【グリフォニーア】国内の【神竜神殿】だけでは孤児達の保護と収容が間に合わず、マッシミリアーノさんを含む多くの【グリフォニーア】の子供達が【ドラゴニーア】の【神竜神殿】に保護されたのだとか。


 わかりました。

 そういう事情ならば結構。

 試合に戻りましょう。


 マッシミリアーノさんの不幸な生い立ちを聞いたせいで少し複雑な気持ちですが、【オーガ】は高潔で名誉を重んじる種族。

 私が手を抜いたとわかったら、彼の誇りは傷付く筈です。


 ならば、全力で戦う事が高潔な【オーガ】種族に対する礼儀でしょう。


 マッシミリアーノさんは巨大な特殊警棒で殴り付けて来ました。

 高電圧を発生させ打撃と同時に電気ショックで意識を刈り取るという制圧用の武器です。


 まるっきり鬼の金棒ですね。


 制圧用とはいえ大質量の金属製鈍器で思い切り殴られれば、無事では済みません。

 人種なら急所に当たれば普通に即死です。


 まあ、当たらなければ如何(どう)という事はありません。

 そもそも私は当たり判定なし・ダメージ不透過の無敵体質ですので、当たったところで全く問題ないのですが……。


 私は特殊警棒をすり抜けマッシミリアーノさんの懐に潜り込み背後へと回り込みました。

 そのまま後ろからマッシミリアーノさんの分厚い胴回りに腕を伸ばし両手をクラッチしようとして……。


 て、手が回らない……。


 仕方がないので、私はマッシミリアーノさんの鉄のように硬い筋肉の上から指を突き刺して、マッシミリアーノさんの肋骨の一番下の骨を無理矢理掴みます。


 マッシミリアーノさんは痛みに苦悶しますが痛声を上げはしませんでした。

 戦闘民族【オーガ】の矜持ですか……さすがです。


 私はマッシミリアーノさんの巨体を抱え上げました。

 そして背筋を反って後方に投げ、マッシミリアーノさんの後頭部を強かに地面へ叩きつけました。


 超高角度・超音速のジャーマン・スープレックス。


 ナカノヒト式ジャーマン・スープレックスと名付けましょう。


 確か高名な格闘家が言っていました。

 世界で一番強力な鈍器は地球だと。


 音速を超える速さで【不滅の大理石】に頭部を打ち付けられたというのに、マッシミリアーノさんは、まだ生きていました。

 マッシミリアーノさんの肉体と装備する兜には【防御力向上】の【バフ】がかけられているとはいえ、音速での激突に耐えるとは、さすがは【オーガ】……頑丈です。


 私はマッシミリアーノさんの肋骨から手を離さず、何度も何度もジャーマン・スープレックスで【不滅の大理石】の地面に叩きつけました。

 ふいにマッシミリアーノさんの肉体が私の腕の中から消滅します。

 マッシミリアーノさんは【復活(リ・スポーン)】ゾーンで【復活(リ・スポーン)】しました。


 私の勝ち。

 剛力の持ち主を相手に力任せの戦い方をして真正面から粉砕しました。


 マッシミリアーノさんは【復活(リ・スポーン)】ゾーンから満足げな表情で私に礼をします。

 私も礼を返しました。


 ・・・


 4人目はヨハネスさん。

 彼はカスパールさんが負けた辺りから、既に戦意を喪失していました。

 私を……ひ弱……と嘲笑った事を後悔しているようです。

 しかしヨハネスさんも部下の手前、恥ずかしい姿は見せられませんし私も手を抜くつもりはありません。


 ヨハネスさんの得物はオリハルコン製の魔法剣。

 私もオリハルコン製の剣を【収納(ストレージ)】から出しました。


 魔法剣【アルタキアラ】。

【神剣】を除けば、私が持つ最高の剣の一振りでしょう。


 斬れ味や硬度ではヒヒイロカネ製やアダマンタイト製などの方が上回りますが、オリハルコンやミスリルは魔力との親和性が高いのです。

 ヨハネスさんは【魔法騎士(マジック・ナイト)】ですから、相手の土俵に乗るという私の目的において【アルタキアラ】を選択した事はきっと間違いではありません。


 ヨハネスさんはオリハルコン製の魔法剣に魔力を流しました。

 私も同じように【アルタキアラ】に、たっぷりと魔力を吸わせます。

 ヨハネスさんと私の剣は魔力を帯びて発光し始めました。


 ヨハネスさんは私に向かい頷いて見せます。

 私も目礼して返しました。


 刹那。


 ヨハネスさんは腰高の構えから胴薙ぎに斬り付けて来ました。

 魔法ギミックにより加速した音速の一太刀。

 通常の相手ならば必殺の一閃でしたが……。


 私は【迅歩】で踏み込み、ヨハネスさんより速く【アルタキアラ】を振り抜いていました。

 腰から上が……ドッサリ……と地面に落ちるヨハネスさん。

 彼の肉体が消滅して【復活(リ・スポーン)】ゾーンから現れました。


「ダメだ。技術も膂力も魔法も私の力では全く足元にも及ばない。あの方は間違いなく伝説の存在……【調停者】様だ」

 ヨハネスさんは部下達に話しています。


 いやいや、ヨハネスさんの技も一流でしたよ。

 私がチートなだけなので勝敗は気にしないで下さい。

お読み頂き、ありがとうございます。


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[一言] 戦線布告→宣戦布告 です
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