第139話。マッピング・ローラー作戦。
本日10話目の投稿です。
本日9月9日、10話連続投稿を致しました。
午後。
【アトランティーデ海洋国】。
王都【アトランティーデ】王城。
ゴトフリード王と王家の皆さんに迎えられます。
昨日、私が少し苦言を呈したせいか、挨拶は略式儀礼と云って、丁重ではありながらも簡潔なモノに変わっていました。
うん、こちらの方が気持ち良くコミニュケーションが取れますよ。
私は庶民根性なのか、意味もわからずに謙られたりする事が苦手でした。
度を超えた礼賛をされると、逆に馬鹿にされているような気分になって、不愉快ですらあります。
国家元首として君臨しているソフィアやファヴは、自分が、他者から軽んじられる事は、国民が軽んじられた事と同義となる場合があるので、国家元首としては譲れない一線もあるでしょう。
そういう譲れない一線を双方が譲らずにいると、最終的には戦争になるかもしれません。
なので、国家を代表するような立場の2者が、双方合意の上で決められた国際的に共通する儀礼格式を守る事には、意味と恩恵があるのだと思います。
AとBという仲の悪い2者がいて、お互いに席次などで揉めた場合、儀礼格式上は、AがBの上座に着く、というように機械的に決めておけば、戦争は防げます。
この時、重要な事は、BはAに屈した訳ではなく、あくまでも儀礼格式に則っただけだ、と言える逃げ道が残されているという事です。
こういう儀礼格式は、単なる様式美ではなく、無用な争いを避ける目的で発展して来た、先人達の知恵なのかもしれません。
しかし、私は独立独歩の個人事業者です。
仮に、私が他者から軽んじられても、私以外の誰かが不利益を被る事はあり得ません。
何か失礼な振る舞いによって私に実害が発生する場合は、理を説いて相手に是正を求めた上で、受け入れられなければ無視して二度と関わらないか、さもなければ、シンプルに実力を行使してしまえば良いのです。
つまり、国民や国家などというバックグラウンドを持たない私に虚礼は不要で無意味。
最低限の品位を持った振る舞いであれば、私は、どのような扱いを受けても腹を立てたりしません。
意味もわからず、私に謙る必要などないのです。
私は、少し童心的過ぎるかもしれませんが、黄金律に価値を見出しています。
黄金律は、他人からして欲しいと思う事を、他人にもせよ、という教訓。
この黄金律と表裏一体となっているのが、ゲーム・セオリーで云うところの、信頼と裏切りのゲーム。
私に対して、親切にしてくれる人には親切で返し、攻撃してくる人には反撃する、という行動選択。
黄金律と信頼と裏切りのゲーム、この2つが私の他者との関わり方の根底にあるのだと思います。
ゴトフリード王から、ある報告がもたらされました。
「【ティオピーア】と【オフィール】が軍を退いた?」
「はい。一兵も残さぬ完全撤退。【ティオピーア】、【オフィール】両国は、現在その事には、何も見解を述べていません」
ゴトフリード王が言います。
そうですか。
まあ、人殺しをしなくても良くなった、と喜んでおきましょう。
「軍を退いた理由は何でしょうか?」
10万人級の軍隊は動かすだけで、莫大な、お金がかかります。
【ティオピーア】も【オフィール】も途上国。
無意味に大軍を動員出来るほど国家財政に余裕があるとは、思えません。
つまり、軍を国境線に押し出したのも、今度は逆に完全撤退したのも、何か意味があるはずなのです。
軍を進めたのは、事前に私とソフィアが推定した理由しかあり得ません。
【ティオピーア】と【オフィール】は、無人の【ムームー】に軍を進め、占拠し、実効支配し、自国の領土とするという事。
当然、【ティオピーア】と【オフィール】は、【ムームー】を分け合う密約を結んでいるはずです。
では、軍を退いた理由は?
それが、よくわかりません。
10月1日から始まる私とソフィアによる無差別地上掃討を避ける為?
それは違うでしょう。
地上掃討が10月1日から始まるというスケジュールは、前もって告知されていたからです。
今になって退くくらいなら、最初から出撃などしないでしょう。
おそらく、私が、【調停者】として、【ムームー】への侵略を看過しないという姿勢を示した事を知って、【ティオピーア】と【オフィール】は、単にビビったのだと思いますね。
人種の思考というのは、存外、単純なのです。
どうやら、裏切り者がいるようじゃ。
ソフィアが【念話】で伝えて来ました。
そこまでは言い過ぎですよ。
私は、【念話】で返答します。
いや……何か胸の辺りがモヤモヤして、キナ臭い陰謀の匂いがするのじゃ。
ソフィアな【念話】で伝えて来ました。
あ、そう。
私が【ティオピーア】と【オフィール】の軍を迎撃して殲滅するという決定を伝えたのは、レジョーネと、【アトランティーデ海洋国】の王家と、王の側近だけ。
私が【ティオピーア】と【オフィール】の軍を殲滅するつもりだ、という事を、【ティオピーア】と【オフィール】が知る為には……。
レジョーネの誰かが情報を漏らした。
ゴトフリード王が外交カードに使った。
王家の誰か、または、王の側近の誰かが情報を漏らした。
レジョーネ、王家、王の側近から、その情報を得た誰かが情報を漏らした。
私が想定し得ない方法によって情報を盗んだ。
この5経路以外に【ティオピーア】と【オフィール】が、私の殲滅の決定を知るルートはありません。
私の決定は、軍事機密です。
それを敵側に流したら、それは利敵行為……つまり裏切り、と考えられるのかもしれません。
しかし、私は、今回に関しては、その裏切りを是認します。
私は、情報漏洩も考慮して、ゴトフリード王達に決断を聞かせたのですからね。
私は、自分の民を死なせたくないファヴが情報を漏らした可能性だってあり得ると思います。
問題なのは、それを私がどう考えるかでしょう。
私は、別にどちらでも良いのです。
私は、決断を誰にも話さない事も出来ました。
私なら、独力で【ティオピーア】と【オフィール】の軍を殲滅する事が出来ます。
はい、楽勝ですよ。
つまり、私は【ティオピーア】と【オフィール】への対抗措置を取る上で、情報管理を徹底したいなら、誰にも意思を明らかにしなければ良かったのです。
私は、あえて意思表示をしました。
それを受けて情勢が変化したのなら、それは全て、私の支配下の状況において起きた事柄なのです。
結果、私は、人殺しをしなくても済みました。
私としては、現状10割ではないとしても、7対3で勝ったと考えています。
仮に、誰かが私を裏切っていたとしても、別にどうという事はありません。
私は、次も勝てるように最善を尽くせば良いだけなのですから。
・・・
王都【アトランティーデ】世界冒険者ギルド本部。
私は、剣聖を始めとする冒険者ギルドの職員と、捜索に参加している冒険者パーティの代表者達と捜索の方法などを協議していました。
この場にいる冒険者パーティは、全て高ランクの冒険者パーティばかり。
彼らには、【契約】で守秘義務に縛った上で、私達の正体を明かしました。
「まず、ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティは、有効な捜索範囲いっぱいの2Km間隔で横並びになって超音速飛行をします。これで8kmの幅でローラー作戦をします。【ティオピーア】の都市外縁部から、ぐるぐると回転しながら円の半径を大きくして行くのです。明日は【オフィール】で同じ事をします。明後日は千年要塞。都市周辺の捜索はこれで良いでしょう」
「ローラー作戦か……まあ、捜索の状況は、思わしくない。手詰まりだから、最後の手段という訳だな」
剣聖は言います。
行方不明者の捜索を行う時に、ローラー作戦を選択する場合は、何も手がかりも当てもない最終手段という事になるのでしょう。
ただし、それは、【マッピング】機能がない場合。
【マッピング】を上手く活用すれば、ローラー作戦ほど確実な方法はないのです。
剣聖も、チュートリアルを経て、【マッピング】機能を使用出来るようになれば、その利便性と有用性を知るでしょう。
一度知ってしまったら、もう二度と【マッピング】機能がない暮らしには戻れない、というほど便利なのです。
まるでウォシ〇レットみたいなモノだと考えて差し支えありません。
いや、それは、ちょっと違うか……。
「ローラー作戦か、なんて悲観したモノではありませんよ。これは900年前には、英雄達に、支持されていた方法なのです。もっとも、英雄は、狩の時に美味しい獲物を探す目的で【マッピング】ローラー作戦をするのですけれどね」
「美味しい獲物じゃと?例えば、何じゃ?我は、【氷竜】と【クラーケン】は好きじゃ。魔物以外でなら、卵が好きじゃ」
ソフィアは、美味しいの意味を間違えて食いつきました。
「ソフィア。味は問題じゃないんだよ。例えば、遠隔攻撃が得意な者が集まったパーティなら、【ジャバウォック】を狙うよね?」
「かもしれぬの。奴らの精神攻撃は射程が短いからの。遠隔攻撃ならば、危険なく倒せるからじゃな?」
「それに【ジャバウォック】は、弱いくせに、売ると高値がつく。こういう獲物を美味しいと表現するんだよ。冒険者なら、なるべく、魔物と手持ちの攻撃手段などの相性を考慮して、最もリスクとコストをかけずに効率良く狩をしたい。その上で、獲物は、可能な限り、価値の高い魔物を仕留めたいでしょう?」
「うむ。当然じゃな」
周りにいる冒険者パーティの代表者達も頷きます。
「そういう、自分達のパーティが得意とする相手で、かつ、売ると高値がつくような獲物を、英雄は、美味しい獲物って呼ぶんだよ」
「ほー、なるほどー。勉強になったのじゃ」
冒険者パーティの代表者達も頷きました。
「ノヒト様、話が横道に逸れていますよ」
剣聖の頭脳フランシスクスさんが言いました。
「失礼しました。ソフィア隊が都市周辺の捜索をしている間、私は、超高高度から地上を広範囲の【マッピング】でサーチし、魔力反応を調べます。人種と思われる反応が出た場所に救援班と救護班を急行させます。これが、私達レジョーネが参加する時の最も効率的な捜索方法だと考えますが、どうでしょうか?」
「その、広範囲のサーチとは、どの程度なのですか?」
冒険者の1人が訊ねます。
「無限です」
「は?」
「範囲は無限です。ただし、役に立たつかどうかで言うと無限【マップ】は役に立ちません。真っ黒で何も映らなくなりますので。ギリギリ使える最小縮尺は、大陸1つ分くらいまででしょうかね。それも、現在のサウス大陸のように、ノーマンズ・ランドのような状況が用意されていないとダメです。【マッピング】は、個体の魔力反応を光で示すのですが、縮尺を小さく……つまり、サーチ範囲を広げ過ぎると、今度は魔力反応の数が多過ぎて、【マップ】が全部光で覆われて、訳がわからなくなります。なので、人種も魔物も動物も薄い、今のノーマンズ・ランドのような状況でなければ広範囲の【マップ】は、役に立ちませんね」
「ノヒトよ。一度聞いてみたかったのじゃが、其方は、普段【マップ】の表示は、どのくらいの大きさにしておるのじゃ?我は半径1kmと半径100mを切替使用しておるのじゃ」
「【マッピング】の適正縮尺は、半径100mと云われているね。そもそも、半径1kmのサーチ範囲を持つのは、かなり高レベルだろうから。私は、普段は半径10kmにしているかな」
「細かくて使い辛いのじゃ。良く10kmなど使いこなせるの」
「慣れだよ」
「お二方、また、お話が逸れております」
フランシスクスさんが言いました。
「ともかく、私なら、相当、頑張れば、ノーマンズ・ランドの西、東、中央と、3箇所で定点観測をすれば、生存者がいれば、見つけられると思います。私が、見つけて、スマホで連絡し、救援班・救護班が現場に駆け付ける。冒険者パーティの皆さんは、救援班。冒険者ギルドの皆さんは、救護班をして下さい。私から申し上げる事は以上です」
「救援班と救護班は、どうやって送り込むんだ?スタンピードは止まったとはいえ、まだノーマンズ・ランドは、人種には危険な場所だ。実際、捜索班にも犠牲は出ている。俺達は、ノヒト様達とは、違うんだ。俺達は、【ジャバウォック】が弱いだなんて、口が裂けても言えないからな」
剣聖は言います。
「スマホを持った冒険者パーティや、冒険者ギルド職員達を、神の軍団の背中に乗せて現場に急行してもらいますよ」
「なるほど。あれか……」
剣聖は、以前に【神竜】形態に現身したソフィアの背中に乗って超音速飛行をした経験を思い出したのでしょう。
眉間にシワを寄せます。
・・・
結局、【ティオピーア】での捜索作戦は不発。
生存者は見つかりませんでした。
【ティオピーア】を最初にしたのは、記録にある行方不明者の数が一番多かったからです。
明日は【オフィール】で、捜索をします。
私達は、【ドラゴニーア】に帰還しました。
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