第136話。お手軽な日帰り出張。
本日、7話目の投稿です。
午前5時45分。
マリオネッタ工房本社オフィス。
指定の時間前でしたが、マリオネッタ工房の経営陣と管理職は、全員集合していました。
ロルフとリスベットもいます。
とりあえず、初対面の者達は、自己紹介。
竜城の儀礼格式は、ここでは関係ないので、ざっくばらんなモノです。
「リスベット。どうしたのじゃ。目にクマなど作って」
ソフィアが、リスベットを心配しました。
「あ、大丈夫です。少し、寝不足なだけです」
リスベットは、苦笑いします。
さては……。
「リスベット。【エメラルド・碑板】ですね?」
「はい。色々と調べ物をしていて、気が付いたら朝でした」
リスベットは、笑いました。
「リスベット。向学心旺盛なのは大変結構ですが、睡眠時間を削るのは感心しませんね。睡眠はパフォーマンスに直結する大切なファクターです。自己管理が出来ないようなら、【エメラルド・碑板】は、返却してもらいますよ」
「ごめんなさい。気を付けます」
仕方がありませんね。
私は、リスベットに【回復】をかけてあげます。
ハロルド、イヴェット、イアンから、管理職として抜擢された6人の孤児院出身者が、改めて紹介されました。
「こちらの3人は、【自動人形】部門、スマホ部門、製薬部門の、運営・管理を、それぞれ担当します。こちらの2人は、私とイヴェットに付いて、経営、人事、営業などの事務方を担当します。彼はイアンに付いて工場の運営・管理を担当します」
6人が順番に自己紹介。
顔と名前は、以前から見知っていますが、管理職として会うのは初めて。
6人とも、引き締まった顔付きをしています。
さてと、やるべき事を、やっつけてしまいましょう。
私は、ロルフとリスベット以外のコンパーニアのメンバーの転移適応を調べました。
指先を亜空間に触れさせて、指先がちょん切れなければOKという、例のやつです。
もしも、転移適応がなくて、指先がちょん切れてしまったら、ごめんなさい、と謝って、【治癒】で指を生やしますよ。
全員、転移適応は問題なし。
私は、現在地……つまりマリオネッタ工房本社オフィスに荷受け用の転移座標と【転送】の【魔法装置】を設置します。
オフィスには、既に3体の【自動人形】・シグニチャー・エディションがいるので必要ないかもしれませんが、一応、【転送】オペレーターとして、【自動人形】・シグニチャー・エディションを1体追加しておきましょう。
私がサウス大陸から送った【自動人形】・シグニチャー・エディションが3体、ここマリオネッタ工房本社オフィスにも着任していたので、【転送】オペレーターの1体と合わせて、全員にマスター代行権限の登録をさせました。
私が、当初、コンパーニアの各施設に配置した【自動人形】・シグニチャー・エディションは、24体でした。
その後、毎晩の内職で造った12体を日々追加投入しています。
【自動人形】・シグニチャー・エディションは、知能が高いので、お金を持たせておけば、勝手に定期飛空船を乗り継いで、目的地まで行ってくれました。
手間がかかりません。
その後、アブラメイリン・アルケミーに【転送】オペレーターとして1体の【自動人形】・シグニチャー・エディションを追加して、【ドラゴニーア】の港に4体配置済。
そして、たった今、ここ本社オフィスに【転送】オペレーターを1体追加。
つまり、【自動人形】・シグニチャー・エディションの現在の配置状況は、というと。
【ドラゴニーア】
本社オフィス…3体+【転送】オペレーター1体。
スマホ事業部オフィス…3体。
【自動人形】工場…3体。
スマホ工場…3体。
アブラメイリン・アルケミー製薬工場…3体+【転送】オペレーター…1体。
直営販売店…3体。
【ドラゴニーア】港…3体+【転送】オペレーター1体。
【ラウレンティア】
【ラウレンティア】オフィス…3体。
第2【自動人形】工場…3体。
直営販売店…3体。
【ルガーニ】
【ルガーニ】オフィス…3体。
第2スマホ工場…3体。
直営販売店…3体。
今日、私達は、午前中に全施設を回って【転送】オペレーターを1体ずつ配置し、転移座標と【転送】の【魔法装置】を設置して、【自動人形】・シグニチャー・エディションのマスター代行権限を登録しなければなりません。
午前中で、全施設を回りきれるかどうかですが……。
もしも、回りきれなければ、明日以降、もう一度やっても何ら問題はありません。
「さてと、それでは行きましょうか」
「うむ。色々な場所を巡れるから楽しみなのじゃ」
「ソフィア。これはコンパーニアの事業活動の一環です。物見遊山の観光ツアーではありませんよ」
今日のコレは、いわば出張なのです。
「そう、堅い事を言うでない。ちょっと、街を覗くだけなのじゃ」
「却下。予定が立て込んでいて、そんな時間はありません」
「ケチンボなのじゃ」
ソフィアは、プンスコと頬を膨らませました。
何と言われようともダメです。
そもそも、私は、今回の出張にソフィアやファミリアーレを誘っていません。
これは、コンパーニアの実務者達の為に必要な事なのです。
それを、ソフィアがファミリアーレを誘って、半ば無理やり付いて来る事になりました。
ソフィアの魂胆はわかっています。
当初、ソフィアは、今日の午前中、ソフィア財団への寄付に対する、お礼状書きをする予定でした。
しかし、ソフィアがサウス大陸に滞在していた間に、お礼状書きをサボっていたので溜まりに溜まっているのです。
ソフィアは、それから逃げる為に……ファミリアーレの引率じゃ……などと言って、私達に付いて来ていました。
ソフィア、私は知りませからね。
お礼状書きは、どうせ、やらなければならないのです。
面倒事を後にズラしても、量が増えるだけで問題の解決にはなりません。
ソフィアが将来、苦労するとしても、私は一切助けてあげられませんよ。
私達は、全員で、最初の目的地に【転移】しました。
・・・
竜都【ドラゴニーア】マリオネッタ工房スマホ事業部オフィス。
今回の【転移】は、いずれも既に目的地に配置してある【自動人形】・シグニチャー・エディション達が装備している【ビーコン】を目掛けて飛びます。
現地に直接【転移】出来るので、面倒がありません。
荷受け用の転移座標と、送り出し用の【転送】の【魔法装置】を設置。
【転送】オペレーターの【自動人形】・シグニチャー・エディション1体を起動します。
既存の【自動人形】・シグニチャー・エディション3体と合わせて4体のマスター代行権限の登録をしました。
さて、サクサクやって行きましょう。
私達は、次の目的地に【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】マリオネッタ工房【自動人形】工場。
ここでは、カスタム・メイドの高性能版(もちろん【神の遺物】の【自動人形】や、私がてずから造った非売品の【自動人形】・シグニチャー・エディションよりは、劣ります)の【自動人形】・オーセンティック・エディションを製造しています。
荷受け用の転移座標と、送り出し用の【転送】の【魔法装置】を設置。
【転送】オペレーターの【自動人形】・シグニチャー・エディション1体を起動します。
既存の【自動人形】・シグニチャー・エディション3体と合わせて4体のマスター代行権限の登録をしました。
「ノヒト先生。この【転送】の【魔法装置】……売れるんじゃないでしょうか?」
ロルフが言います。
ああ、それは、そうでしょうね。
「そうです。これは売れますよ。マリオネッタ工房で製造・販売をしましょう。また、目玉商品が出来ましたね」
イアンが言いました。
「確かに、これがあれば、流通に革命が起きる。原材料が高額なのがネックか……。イヴェット、君はどう見る?」
ハロルドが言います。
「そうね……。原材料は【超位】の【魔法石】。原価は大体3万金貨ほどよね。製作コストがどの程度かかるのかにもよるけれど、販売価格は、2倍……いいえ、10倍でも売れるんじゃないかしら」
イヴェットが言いました。
「30万金貨か、これは基幹事業になるな。早速、工場物件を当たらなくては……」
ハロルドが言います。
1台30万金貨(300億円相当)ですか?
凄っ!
まあ、売りませんが……。
「【転送】の【魔法装置】は市販しませんよ。いや、市販用には製造が出来ないのです。【転送】の【魔法装置】製造では、当然ながら【転送】の【魔法公式】を組まなくてはいけません。【転送】は、【超位魔法】。これが、まず大変。さらにプロトコルで行うのも困難。【超位】の工学魔法ですからね。つまり製造プロトコルには、2つの【超位魔法】を並立発動させるだけの性能が必要なのです。さらに、この【魔法公式】は積層型魔法陣です。積層型魔法陣は、失われた技術体系ですが、900年前には、ごく一部の英雄にしか出来なかった特別な魔法技術です。英雄にしか出来なかった技術は、基本的に技術公開するつもりはありません。今生きている、この世界の住人達……つまり、あなた達が私の力を借りずに自力で、これらの技術開発、または、再現に成功しない限り、この手の技術は、教えられないのです。これは、【調停者】の遵守条項に類する事。なので、市販はしません」
一同は、多少、落胆の色を滲ませましたが、【調停者】の遵守条項を持ち出されては、それ以上、何も言えません。
「僕が、将来、技術開発をして、この失われた技術体系を再現し、必ず実用化してみせます」
ロルフが力強く宣言しました。
それは、楽しみです。
「さあ、次に向かいましょう」
私達は、次の目的地に【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】マリオネッタ工房スマホ工場。
ここでは、通話、メール、チャット、データ通信などが行えるフルスペック・モデルのスマホを製造しています。
荷受け用の転移座標と、送り出し用の【転送】の【魔法装置】を設置。
【転送】オペレーターの【自動人形】・シグニチャー・エディション1体を起動します。
既存の【自動人形】・シグニチャー・エディション3体と合わせて4体のマスター代行権限の登録をしました。
はい、次。
私達は、次の目的地に【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】アブラメイリン・アルケミー製薬工場。
ここでは、【ハイ・エリクサー】を製造する予定。
その他の薬剤関係も、手掛けて行きたいと考えています。
荷受け用の転移座標と、送り出し用の【転送】の【魔法装置】、それから【転送】オペレーターの【自動人形】・シグニチャー・エディション1体は、既に設置しておいたので、必要ありません。
既存の【自動人形】・シグニチャー・エディション3体と合わせて4体のマスター代行権限の登録をしました。
はい、次です。
どんどん行きますよ。
私達は、次の目的地に【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】コンパーニア・ショップ。
コンパーニア・ショップとは、コンパーニアの傘下企業であるマリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーの製品を販売する直営販売店。
ここの従業員も全員、孤児院出身者達でした。
コンパーニア・ショップは、竜都【ドラゴニーア】の中心街にある、とあるホテルにあります。
マリオネッタ工房【自動人形】部門、マリオネッタ工房スマホ部門、アブラメイリン・アルケミー、それぞれの直営販売店が、ホテルの敷地内にありました。
このホテルは、私が買収し、既にコンパーニアの管理物件となっています。
ただし、当初の使途目的は、コンパーニア・ショップを開設する為ではありませんでした。
ここは、現在、宿屋パデッラで生活している孤児院出身者達の2年目以降の住居として転用する為に、私が買い取った物件だったのです。
コンパーニア・ショップは、オマケみたいなモノ。
住居に必要のない催事場や、テナントなどが入っていたスペースを転用していました。
宿屋パデッラは、基本的に孤児院から卒業退所したばかりの社会人1年生専用の従業員寮代わり、という位置付けです。
2年目以降、つまり、あと1年と2ヶ月後からは、現在、宿屋パデッラに住んでいる従業員達は、彼らの1年後輩達に部屋を譲り、宿屋パデッラを出て行かなくてはいけません。
彼らは、どこに行くのか?
宿屋パデッラから出て行く社会人2年生以降の孤児院出身者達を住まわせる為に、私が買い取ったのが、竜都【ドラゴニーア】中心街にある、このホテルでした。
このホテルは、予約が埋まっていたので、来年の春までは営業を継続します。
その後、ホテルをコンパーニアの従業員専用アパートに改築。
元が高級ホテルだったので、宿屋パデッラより部屋が広くなり、共有設備なども大幅グレード・アップ。
しかし、従業員専用アパートに転居してからは、身の回りの世話は、孤児院出身者自身でやらなくてはいけません。
現在、孤児院出身者達は、宿屋パデッラで、3食の食事も、部屋の掃除も、洗濯も、全て世話をしてもらえるのです。
荷受け用の転移座標と、送り出し用の【転送】の【魔法装置】を設置。
【転送】オペレーターの【自動人形】・シグニチャー・エディション1体を起動します。
既存の【自動人形】・シグニチャー・エディション3体と合わせて4体のマスター代行権限の登録をしました。
私達は、次の目的地に【転移】します。
・・・
【ドラゴニーア】飛空船港。
荷受け用の転移座標、送り出し用の【転送】の【魔法装置】、【転送】オペレーターの【自動人形】・シグニチャー・エディション1体と、荷捌き作業と警備を行う【自動人形】・シグニチャー・エディション3体は既に設置済。
【自動人形】・シグニチャー・エディション4体のマスター代行権限の登録をしました。
「おっ、ここは、中央卸売市場に繋がっておるのか?ちょっと覗いて行くかの……」
ソフィアが言います。
「ソフィア様、中央卸売市場って何?」
ウルスラが訊ねました。
「うむ、世界中の食材を集めた夢の国なのじゃ」
「えっ!凄いじゃ〜ん。行こう、行こう」
ソフィアとウルスラは、中央卸売市場の方に、フラフラと向かって行こうとしました。
「はい、逮捕」
私は、ソフィアの首根っこをひっ捕まえます。
逃すか!
「は、離せ、ノヒト。我は、中央卸売市場に用があるのじゃ〜」
ソフィアは、ジタバタと暴れました。
「団体行動を乱さないで下さい。そんな時間はありません。中央卸売市場へは、また次の機会に来ますよ」
「ぬおぉ〜っ!夢の国を目の前にしておるというのに〜」
ソフィアは、私がガッシリ掴んでいるので、足が浮いてしまっていますが、手足を動かし空中を走ろうとしています。
私は、ソフィアを鷲掴みみしたまま、次の目的地に、皆で【転移】しました。
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