第135話。孤児院出身者達は優秀なのです。
本日、6話目の投稿です。
異世界転移、28日目。
早朝。
「さてと、このくらいにしておこうかな。オラクルとヴィクトーリアに手伝ってもらえば楽なんだけれどね」
私は、内職を手伝ってくれていた【自動人形】・シグニチャー・エディション達に向かって言いました。
しかし、【自動人形】・シグニチャー・エディションは、無表情で淡々と片付けを始めただけで、何もリアクションはありません。
話しかけたのに、完全にスルーされて、寂しい独り言になってしまいました。
オラクルとヴィクトーリアなら、何か返答してくれるか、相槌を打ってくれるか、最低でも愛想笑いくらいはしてくれます。
やはり、私が造った【自動人形】・シグニチャー・エディションと、【創造主】が造った(事になっている)純正の【神の遺物】の【自動人形】では、性能に天地の開きがありますね。
私は、日の出前に、日課の徹夜内職を切り上げて、行動を開始しました。
竜城にいると、ソフィアは専用寝室で寝起きする為、オラクルとヴィクトーリアは、ソフィアの寝室で夜を過ごします。
なので、最近、毎晩のように、私の内職を手伝ってくれていた助手役がいなくなりました。
実は、オラクルは、【自動人形】・オーセンティック・エディションのレベルなら、1人でも造る事が出来ます。
優秀な助手で、本当に助かっていたのですが……。
まあ、仕方がありません。
オラクルとヴィクトーリアには……ソフィアの傍で永遠の時を生きるように……という使命を与えたのですからね。
それは、私の望みなのです。
しかし、オラクルには、【自動人形】製作に必要な素材を全て渡してあるので、ソフィアが眠った後、ボチボチ内職をしておいてくれるそうです。
ノルマなどは一切指定していないので、あくまでも暇潰しですね。
リマインダーで、今日の予定を確認。
午前中。
私、レジョーネ、ロルフとリスベット、ハロルドとイヴェットとイアン、コンパーニアで働く孤児院出身者で能力を見込まれて管理職に抜擢されたメンバーで……コンパーニアの関連施設を回り、各施設に配置されている【自動人形】・シグニチャー・エディションにマスター代行権限者としての登録をします。
また、各施設に【転送】用の転移魔法陣と【魔法装置】も設置しなければなりません。
コンパーニアの各施設に配置した【自動人形】達は、私以外の指示を受け付けない設定になっているので、色々と不都合を生じさせているようです。
その為にマスター代行権限の登録が必要でした。
【自動人形】・シグニチャー・エディションは、馬鹿ではありません。
いえ、むしろ基本的知性は、人種の平均値を上回りさえします。
なので、私が与えた基本司令に基づき、状況に応じて最適な行動を自分で判断出来ます。
しかし、秘匿技術、秘匿知識に関する取り扱いなどでは、私の直接命令がなければ、事前に指示しておいた内容から逸脱する行動は選択しません。
その様子が、周囲の同僚達からは、柔軟性に乏しく融通が利かない頑固者という不名誉なレッテルを貼られてしまう要因になっています。
これは、【自動人形】・シグニチャー・エディション達が悪い訳ではなく、私が、そのように規制をかけているからなのですが……。
なので、どうしてもという時は、私がスマホで【自動人形】達に指示を出していました。
しかし、音声認識によるマスター権限行使は出来ません。
あくまでも魔力反応の確認がなければ、ダメなのです。
なので、私は【自動人形】・シグニチャー・エディション達全個体に【認識阻害】機能やスマホ機能と共に標準装備させている【ビーコン】を目標にして、亜空間バイパスを繋げ、魔力反応を遠隔地にいる【自動人形】・シグニチャー・エディションに伝えるという七面倒臭い方法をとっていました。
しかし、一事が万事これでは業務効率が良くありません。
この際、コンパーニアの経営陣と管理職には、マスター代行権限を付与する必要があった訳です。
ロルフとリスベット以外のファミリアーレのメンバーは、午前中、いつものように軍や竜騎士団の訓練に参加。
正午。
宿屋パデッラにレジョーネとファミリアーレで集合して、お昼ご飯を食べます。
午後。
私を含むレジョーネはサウス大陸に飛んで、ノーマンズ・ランドで、未だ行方不明の冒険者パーティの捜索に協力。
ロルフとリスベット以外のコンパーニアのメンバーは、午後、通常業務に戻ります。
ファミリアーレは、いつも通りの自由時間。
自由時間とはいえ、自主練や、図書館に通っての勉強などをしていて、彼らが遊びに行く事はほとんどないのだ、とか。
何でも、同じ孤児院出身の後輩達が、午後もコンパーニアのオフィスや工場で働いているのに、自分達が遊んでいるのは申し訳ない、との事。
私の弟子達は、皆、本当に偉いのですよ。
モルガーナは、午後、騎竜繁用施設に行って、騎竜達の世話を、お手伝いするそうです。
彼女は、週の半分は、騎竜繁用施設に通っているのだ、とか。
ロルフは、午後、マリオネッタ工房の工場に行く事が日課なのだそうです。
もはや、ロルフは、【自動人形】製造部門では、主導的役割を担うようになっているのだ、とか。
工場管理責任者のイアンは、最近では、製造開発部門の指揮をロルフに移管し、自分は専ら仕入れや在庫管理や品質管理に勤しんでいる、との事。
ロルフは、優秀ですね。
まあ、当然です。
元来、ロルフには、そのような役割を期待しているのですから。
リスベットは、今日からは午後に、アブラメイリン・アルケミーに出勤してもらいます。
まだ、市販用【ハイ・エリクサー】の製造は、開始していませんが、既存の工場従業員や研究者達と、いわば研修をしてもらわなくてはいけません。
指導役は、アブラメイリン・アルケミー製薬工場に配属した【自動人形】・シグニチャー・エディション達です。
今日の予定は、ざっと、こんな感じでしょうか……。
私の家族達は、日々、一生懸命に生活していました。
とても好ましく思いますが、少しくらいなら、羽目を外したり、羽を伸ばしたり、ボーッとしたりしても良いのですけれどね。
孤児院出身の子達は、遊ぶ、という嗜好がないのでしょうか?
孤児院出身者の寮代わりになっている宿屋パデッラの主人ユリシーズさんと、女将さんのノーラさんによると、仕事から帰って来ると、皆、夜中に遊びに出る事もなく、せいぜい、パデッラの食堂で、お菓子とジュースを持ち寄って、お喋りをして過ごす程度で、だいたいは、夜遅くまで勉強をしているようだ、との事。
たまに、彼らから勉強の合間に食べる夜食を頼まれるそうです。
部屋の様子を見に行くと、だいたいは、難しい機械工学や魔法工学……あるいは経営や営業や販売などの書籍を読み耽っているのだ、とか。
偉いですね……何だか、健気で涙が出そうですよ。
実際、孤児院出身者は、例外なく、私の期待以上の働きぶりを示してくれていました。
【自動人形】・レプリカ・エディションとスマホの製造ラインは、フル・オートメーションですが、【自動人形】・オーセンティック・エディションは、カスタム・メイド。
技術力と労力が必要です。
現在、【自動人形】・オーセンティック・エディションの日毎製造数は、私が決めたノルマの3倍超。
クオリティも、概して高く、全く文句の付けようがありません。
彼らは、間違いなく【ドラゴニーア工科大学】や【グリフォニーア工業大学】の新卒エリートより優秀だと断言出来ます。
私は、年明けの年初からは、社員・従業員、全員のベアと特別ボーナスの支給をイヴェットに指示していました。
そのくらい、彼らは良く働いてくれています。
うーむ、これは、もしかしたら、遊び方を知らないのではないでしょうか?
放蕩癖を身に付けてしまっても困りますが、適度に遊び方を知らないと、将来、アルコールや、性質の悪い異性や、ギャンブル……などなどにハマったりして、身を持ち崩すかもしれません。
多少、強制的にでも、遊び(社会勉強)に連れ出した方が良いのでしょうか?
例えば、月に一度は食事会を催す、とか、季節ごとに社員旅行に連れて行く、とか。
うん、何か企画を考えましょう。
【ドラゴニーア】の若人達の遊びといえば何……とアルフォンシーナさんに訊ねたら……社交界……という答えが返って来ました。
私はてっきり冗談だと思って聞き直しましたよ。
そうしたら、冗談ではないそうです。
社交界?
ピンと来ませんね。
ともかく、コンパーニアの従業員の福利厚生、という意味でも、これは重要案件です。
労務管理者のイヴェットに相談してみますか。
・・・
朝食。
私が大広間に向かうとアルフォンシーナさんに迎えられました。
「おはようございます、ノヒト様」
アルフォンシーナさんは、恭しく礼を執ります。
「おはようございます、アルフォンシーナさん。ゼッフィちゃんも、おはよう」
「あうっ。お、おはようございます」
アルフォンシーナさんの背後で影のように控えていた秘書官ちゃんこと、ゼッフィちゃんがビックリしたように挨拶しました。
儀礼上、秘書官は、いないものとして接するのが正解なのだそうですが、ゼッフィちゃんは、まだ12歳です。
私は、以前から、近くで接する時には、ゼッフィちゃんには、なるべく優しく声をかける事にしていました。
こんな若い内から、親元を離れて、修行と公務の毎日なのです。
周りの大人は、上司や先輩ばかり。
実は、ゼッフィちゃんは、歴代2番目の若さで【高位女神官】に昇った天才少女。
【神竜】の使徒の中では、結構、格が高い為に、とても大切にされているようですが……それにしても、まだ子供ですからね。
私1人くらい、年齢相応の扱いをしてあげても良いと思うのです。
因みに、歴代最も若くして【高位女神官】に昇ったのは、アルフォンシーナさんなのだとか。
弱冠7歳だったそうです。
アルフォンシーナさんは、9歳で大神官に昇りつめていますからね。
元祖天才バ〇ボン……あ、間違えた、元祖天才少女です。
私が、ゼッフィちゃんを子供扱いする事に対して、アルフォンシーナさんは、特に何も言いません。
私がしたいように振る舞えば良いとの事。
ただし、エズメラルダさんと、ゼッフィちゃんの前任者のチェレステ新女王(当時は筆頭秘書官)からは、やんわりと苦言を呈されていました。
端的に言えば、甘やかすな、という事です。
私は、こう言ってあげました。
地球では、12歳以下の子は、宝物、という認識が一般的です。
社会全体で、子供を大切にするのですよ。
自分の子供でなくともです。
私は皆さんの常識や社会通念を変えようとも、否定しようとも思いませんが、子供を手厚く看護するのは、地球の常識だと思って、どうか私がする事は大目に見てくれませんか、と。
地球の常識、を、持ち出して、なおかつ、【神格者】の私が謙って頼んだので、エズメラルダさんと、チェレステ新女王(当時は筆頭秘書官)は、以来、苦笑いしながら、私の好きにさせてくれていました。
ソフィアとオラクルとヴィクトーリアとウルスラが一緒に大広間にやって来ます。
ソフィアは、眠そうですね。
ウルスラも眠そう……というか、眠っていました……ソフィアの頭の上で……。
「おはよう」
「あわあぁ〜。おはようなのじゃ」
ソフィアは、自分の頭が入りそうなほどの大きなアクビをしました。
「「おはようございます」」
オラクルとヴィクトーリアは、完璧なシンクロ率。
「チョコレートケーキ……」
若干1名、寝言で挨拶しています。
ファヴとトリニティが別々に登場。
「おはよう。よく眠れたかい?」
「おはようございます。はい、素晴らしい、お部屋でしたので快適でした」
ファヴは言いました。
「おはようございます。大きなベッドで、尻尾を伸ばしても、はみ出しませんでした」
トリニティが尻尾の先を持ち上げてピョコピョコ動かします。
さすがは【ドラゴニーア】の竜城。
賓客用の寝室は、贅を尽くした設えなのだそうです。
「ソフィア。【アペプ】のコアで、ヴィクトーリアのバックアップ・コアを造りましたよ。キチンと管理して下さいね」
私は、【収納】からヴィクトーリア用のバックアップ・コアを取り出して、ソフィアに手渡しました。
「ありがとう、なのじゃ」
ソフィアは、バックアップ・コアを受け取り、内部【収納】しまいます。
「ヴィクトーリア。毎晩、ソフィアが寝る前に必ず、バックアップ・コアに記憶を上書きして下さい。ソフィアが忘れていたら声をかけるように」
「畏まりました」
うん、これでよし。
・・・
朝食後。
私達は、平服で集合。
トリニティは、着慣れないワンピースにソワソワしています。
スカートから伸びた蛇の尻尾がなかなか可愛らしく見えますよ。
トリニティは、街中を出歩くと、もしかしたら周囲から奇異の目で見られるかもしれません。
彼女は、足代わりの尻尾の腹が汚れるからと、【飛行】を常時発動して、地上ギリギリを浮きながら移動していますからね。
まして、【エキドナ】は固有種で、存在自体が極めて珍しいのです。
種族情報が知られていないので、過剰に怖がられる事はないでしょうが、逆に侮られる可能性はあり得ました。
まあ、ドラゴン・スレイヤーは社会的地位がメチャクチャ高いですから、何かあればギルド・カードを提示すれば、相手は無体な振る舞いはしないでしょう。
私達は、マリオネッタ工房の本社オフィスに【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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