第133話。レジョーネ。
本日、4話目の投稿です。
【ドラゴニーア】竜城の大広間。
夕食。
レジョーネ……ファミリアーレ……アルフォンシーナさんと、エズメラルダさんと、秘書官ちゃん……【ムームー】のチェレステ新女王……【パラディーゾ】のローズマリー大巫女と、スカーレット巫女長は、ディナーのテーブルを囲んでいました。
ついさっき、私、ソフィア、ファヴ、オラクル、トリニティ、ウルスラ、ヴィクトーリアの7人は、一般呼称として、レジョーネと名付けられました。
名付け親は、ソフィアです。
レジョーネとは軍団を意味する言葉。
単に軍団と云えば、それは、もはや、神の軍団、以外にあり得ない、と云う訳です。
たくさんいる【神格】の守護竜の中にあって、【神竜】と云えば、それは、【神竜】しかあり得ない、という論理と同じですね。
わざわざ一般呼称を名付けた理由は、レジョーネは、現在、冒険者パーティのファミリアーレに所属していますが、既存のファミリアーレと比較して、明らかに戦闘力で差があり過ぎるから、という理由です。
つまり、レジョーネとファミリアーレを分けて考えよう、というスタンスでした。
夕食のメニューは、ソフィアが【氷竜】料理の数々を放出した為に、大変豪華になりましたが、食卓の雰囲気は、多少、沈みがちです。
何故なら、ソフィアや、私の弟子である既存のファミリアーレとも相談した結果、私達、レジョーネは、ファミリアーレを発展的な形で脱退する、と決まったからでした。
私は、今のままで、一向に構わなかったのですが、ソフィア曰く……このまま、我らと同舟の徒として扱われる事になると、かえって、この子らの為にならぬのじゃ……という事なのです。
ファミリアーレ=4人のドラゴン・スレイヤーがいる冒険者パーティ。
弟子達は、今後このように見なされる訳です。
確かに、駆け出しの若い冒険者に付きまとうイメージとしては、かなり重たい、と言わざるを得ません。
さらに、オラクル、トリニティ、ウルスラ、ヴィクトーリアの4人は、ドラゴン・スレイヤーの叙勲と共に、冒険者等級が竜鋼・クラスに昇格する事が決まっていました。
アルフォンシーナさんと冒険者ギルドとの申し合わせによる、特例措置なのだそうです。
私達は、歴史上最大の魔物に対する戦果をあげていますからね。
どれだけの特例を用いても、それに異論を挟める者は、いないでしょう。
つまり、ファミリアーレは、今後、竜鋼・クラスの冒険者パーティとも見なされるようになるのです。
また、非公式ながら、冒険者パーティ・ファミリアーレは、3人の【神格者】が所属し、サウス大陸で、数百万〜億の単位の【超位】の魔物を討伐し、わずか4日で2つの遺跡を完全攻略し、サウス大陸を魔物から解放し、サウス大陸に救世をもたらした存在でもありました。
この情報は、関係者との間の【契約】によって厳格に秘匿されていますが、事実を知る者は、けして少なくはありません。
知る人ぞ知る、公然の秘密なのです。
これらの事を、まだ未熟な私の弟子達に背負わせるのは、荷が重過ぎる、と。
そう言うソフィアの目は、いつになく真剣でした。
ソフィアは、こうも言います。
刺客に狙われるかもしれぬのじゃ。
いやいや、それは大袈裟……飛躍のし過ぎでしょう。
もしも、そんな動きを少しでも察知したら、私は自分の素性を明かし、圧倒的な戦闘力を誇示した上で……私の身内に手を出したら殲滅する……と全世界に宣言してやりますよ。
しかし、ソフィアは、なおも言いました。
道理の通じぬ狂信者は、いるのじゃ。
そして、初めから死ぬ気で向かって来る刺客は防ぎきれぬのじゃ。
私達、レジョーネに、物理的手段で抗する事が出来る者は、この世界には存在しません。
なので、仮に、私達の素性を知る何者かが、私達を攻撃しようと企図するなら、狙いは私達の弱点。
私の弱点は……身内、つまり、弟子達です。
弟子達を無用の危険に曝さない為にも、レジョーネと、ファミリアーレは、分離した方が安全だという理屈でした。
ソフィアの言には、ファヴとアルフォンシーナさんも強く賛成しています。
何故、ソフィアは、急にそんな事を言い出したのか?
理由は簡単です。
【ティオピーア】と【オフィール】が【ムームー】を侵略しようとし、私が、それを迎撃・殲滅しようとしているからでした。
国家の紛争に私が首を突っ込めば、その余波は、必ず、私の弟子達にも跳ね返って来る。
ソフィアは、私に、そう諭します。
なるほど。
ゲームマスターの遵守条項の解釈的には、アレは、国家紛争ではない、という建前になっていました。
ゲームマスターは、遵守条項に縛られ、国家紛争には介入出来ないからです。
しかし、国際法上の定義は別にして、アレは、【ティオピーア】と【オフィール】の政府が仕掛けた侵略戦争である事は、間違いありません。
侵略国家の軍隊を撃滅し、二度と【ムームー】に手出しをさせない為……とはいえ、私が撃滅する軍隊は、魔物ではないのです。
軍隊とは、将兵達。
無法に加担する将兵とはいえ、彼らは人種です。
彼らにも、家族や愛する者達がいるはずですし、逆に、彼らを愛する者もいるはずでした。
私は恨まれる事になるでしょうね。
私には、後ろめたい気持ちは微塵もありません。
無法に加担しているのは【ティオピーア】と【オフィール】の将兵達で、名分は私の側にあるのですから。
しかし、私が殺す事になる将兵の家族は、どちらの側に名分があるかなどは、お構いなしに、愛する者を殺した相手を無条件で恨むでしょう。
その死んだ将兵が無法を働いていたから、とか、そんな論理は遺族にとっては考慮事項ではないのです。
逆恨み?
全く、その通りです。
しかし、ソフィアやファヴ達、守護竜が、自分の庇護する民ならば、善人も悪人も、普く、等しく愛するように……どんなに無法者でも家族にとっては掛け替えのない存在。
人間の心とは、善・悪では、簡単には割り切れないモノなのです。
私は、ソフィアがいう……道理の通じない狂信者……をカルト宗教集団のように解釈していました。
しかし、どうやら、それは不完全な認識なのでしょう。
道理の通じない狂信者、とは、私が、世界の理の名の下に殺した無法者の遺族も含まれているのです。
その遺族は、ごく普通の暮らしを営む人達。
ごく普通の人達が、次の瞬間には狂信者たり得るのです。
ソフィアは、その事を暗喩的に伝えたかったのかもしれません。
そんな事は、知った事か!
と、吐き捨ててしまうのは、簡単です。
私はゲームマスターなのですから。
ゲームマスターは、好むと好まざるとに関わらず、時には、自らの手を汚す事があるのです。
私が、業務で蹂躙したユーザーは、数えきれませんし、いちいち人数などは覚えてもいません。
世界の理を守らない者は、世界から排除する。
その為に、ゲームマスターは、存在しているのですから。
しかし、ここまで考えて、私は、はたと気が付いてしまいました。
私は異世界転移しています。
この世界は、今の私にとって、紛れもなく現実そのもの。
私は、異世界転移して以降、人種を殺害した事はありません。
そもそも、私に人種が殺せるのでしょうか?
正義がどうだとか、名分がどうだとか、職責がどうだとか、そんな事は、この際、関係ありません。
私は、人を殺そうとしています。
ゲームではない、現実の人殺し。
そうですね……私は、人を殺すのです。
それも故意に……。
私は、その事に気が付いて、背中に冷たいモノが伝うのを感じました。
私は、今更ながらに、人を殺すというモノが何なのかを知る事になりました。
深淵を覗くものは、また、深淵からも覗かれている……のだとか。
激しく動揺した、私を、ソフィアが心配します。
いや、もう大丈夫。
私は、精神耐性最大の効果で、平静を取り戻しました。
ゲームマスターの業務を優先しましょう。
これだけは、譲れません。
それを放棄した瞬間、私は、きっと私自身の強大な能力を持て余し、魔王のような存在に変わり果ててしまうような気がします。
実際に、種族や職種が変わってしまう、などという意味ではありません。
つまり、ゲームマスターの遵守条項、というタガを自分の意思で外した瞬間に、私は、欲望や感情の赴くままに何でも出来てしまう存在に変わってしまうのです。
もしも、私が、欲望や感情の赴くままに振る舞ったとしても、この世界に、私を止められる存在はいません。
現世世界最強の存在たるソフィアであっても不可能でしょう。
私は、そういう状態をこそ、魔王、と表現したのです。
だからこそ、私は、ゲームマスターの遵守条項に従っていました。
これは、私の安全装置。
なので、今回のケース……つまり【ティオピーア】と【オフィール】による、【ムームー】への侵攻は、ゲームマスターの遵守条項に基づいて、事務的に処理します。
えーと、それから……。
ファミリアーレからの脱退問題です。
これは、仕方ありませんね。
弟子達を守る為と、信頼する身内全員から言われてしまっては、私も認めざるを得ませんでした。
私の活動や業務……また、ゲームマスターの存在それ自体が、弟子達の身を危険に曝すとは……。
はあ、政治は大嫌いなのですが、私は、すっかり政治の泥沼に首まで浸かってしまっているようです。
こうして、ファミリアーレの年長者チームは、レジョーネと一般呼称を変えて、ファミリアーレを脱退する事になりました。
私とファミリアーレの師弟関係は解消しません。
私は、最低1年間は、弟子達をみっちり鍛えると決めたのです。
ソフィアも、それに関しては、今後も全面的に協力してくれる、と約束してくれました。
ソフィアは、言います。
ファミリアーレや孤児院の子らは、我の実の子供も同然じゃ。
なので、レジョーネは、ファミリアーレと共に、最低1年間は、冒険者として一緒に活動します。
・・・
夕食後。
レジョーネと、ファミリアーレだけで、竜城礼拝堂の私の亜空間部屋に集まりました。
改めて、お互いを紹介。
ソフィアがケーキを出し、オラクル、ヴィクトーリア、ディエチが、牛乳や、お茶や、ジュースを振る舞いました。
【鑑定】を持つ者は、お互いにステータスを確認して、色々と質問などをしています。
オラクルとヴィクトーリアは、ファミリアーレに付き従っている【自動人形】達の存在があるので、違和感なく受け入れられましたね。
ウルスラは、大人気。
【妖精】は、珍しいですし、ウルスラは明るくて人懐こい性格ですので。
逆に、トリニティは、皆、おっかなびっくり、という様子で接しています。
トリニティは、人種の敵、として設定・プログラムされていました。
なので、人種に礼を執るという事が出来ないようにプログラムされていますし、また、当人も、人種を脆弱で愚鈍と認識しており、親愛や敬意を示す事が難しいようです。
あからさまに上から見下すような態度をしていました。
ですが、ファミリアーレと触れ合う事を、不快、とは感じていない事がパスを通じて、私に伝わって来ています。
おそらく、私がファミリアーレのメンバーを愛しく思っている感情が、パスを通じて、トリニティにも伝わっている事で、トリニティもファミリアーレを庇護すべき存在として認識しているのでしょう。
いわば、今のトリニティは、ファミリアーレと仲良くしたいけれども素直になれない、ツンデレさん、の状態。
「トリニティさん。ノヒト先生から伺いました。トリニティさんは、超一流の【転移能力者】だとか。私は【転移】を覚えたいのです。今後、ご指導頂けないでしょうか?」
リスベットが、怖ず怖ずと、トリニティに声をかけました。
おー、チャレンジしましたか……。
さっき、ハリエットが一気に距離を詰めに行って撃沈してしまったというのに。
「ふん。お前は、未だ【低位魔法】しか使えないではないか。それでは、全く話にならないわ」
トリニティは、顎をツンと上げて言います。
うわー、物凄い勢いで、シャッターを閉めました。
さっきのハリエットの時と同じです。
リスベットは、悲しげな表情になりました。
「私……薬学を極めたいという夢があります。ですので、【錬金術】を学んでいます。物質の調合や混合に【転移】が応用出来ないかと……それで……」
リスベットは、泣きそうです。
「ふん。物質混合なら、【転移】ではなく、【転送】だわね。まずは、【空間魔法】の基礎を覚えなければダメだわ。【中位魔法】が覚醒したら、わたくしが指導して差し上げましょう」
トリニティは、相変わらず、高慢な態度を崩さずに言いました。
しかし、言葉の内容は、歩み寄り、を垣間見せるモノです。
「え?」
リスベットは、驚きました。
「ふん。わたくしが自ら、指導して差し上げる、と言っているのです。不服ですか?矮小な【ダーク・エルフ】の小娘」
トリニティは、言います。
「い、いえ。嬉しいですわ。ありがとごさいます。【中位魔法】を習得したらですね?約束ですよ」
「ふん。ノヒト様に、お仕えする合間の時間なら、いつでも、付き合ってあげますわ。【ダーク・エルフ】の小娘」
「リスベットと言います」
「リスベット。ふん、初めて、人種の名前などを口にしたわ。よろしく」
「はい。よろしく、お願いします」
リスベットの勇気ある突撃をきっかけにして、他のファミリアーレのメンバーも徐々に、トリニティとの距離を詰めて行きました。
ハリエットだけは、相変わらず、トリニティから名前を覚えてもらえず……愚かなウサギ娘……と呼ばれていましたが……。
トリニティは、実は、ファミリアーレのメンバーではハリエットの事を一番気に入っています。
パスを通じて、その思念が伝わって来ますので。
きっと、ファミリアーレのメンバーが、トリニティを遠巻きに眺めて近付いて来ない中、ハリエットが、一番初めにトリニティに近寄って行き、全く臆することもなく話しかけて来てくれたからでしょう。
ハリエットは、危機意識とか空気を読むとかいう能力が致命的に欠落していますからね。
あんな怖い顔で周囲を睨めつけていた、トリニティに尻尾を振りながら無造作に近寄って行くとか……。
私だったら出来ません。
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