第130話。アンサリング・ストーン。
名前…キュウヒャクキュウ(ヴェルデ)
種族…【翠竜】
性別…雌
年齢…不明
職種…なし
魔法…多数
特性…飛行、ブレス、【超位回復・超位自然治癒】
レベル…99
神の軍団の緑師団長。
アペプ遺跡深層階。
私達は、快進撃を続けています。
【テュルソス】を得たおかげなのか、ウルスラの支援魔法が冴え、オラクルとトリニティの立ち回りに危なげがなくなり、パーティがさらに安定感を増しました。
96階層のボスは、【ヒュドラー】。
眷属として、16頭の【八岐大蛇】を率いています。
【八岐大蛇】は、【古代竜】の【超位自然治癒能力】や、ソフィアやファヴの【神位自然治癒能力】を上回る、強力な【自己再生能力】を持つ魔物。
これは、【ケルベロス】や【オルトロス】と同様の特殊能力です。
また、【八岐大蛇】は、8つの頭部を持つので、3つ頭の【ケルベロス】や、2つ頭の【オルトロス】よりも難敵でした。
しかし、攻略法はあります。
この世界は、あくまでも、ゲーム的な発想で創られていますので、大抵の技や効果には、必ず、長所と短所、ストロング・ポイントとウイーク・ポイントが存在する物なのです。
【自己再生能力】への対抗手段は、というと。
まず、首を斬り落として、再生する前に傷口を焼いてしまう、という方法が一般的。
火属性や炎属性が付いた刀剣類で斬り飛ばすと同時に切断面を焼いて処理してしまうのです。
それから、この【自己再生能力】に特効があるのが、【呪詛魔法】。
トリニティの必殺技でした。
【呪詛魔法】によって負った傷は、瞬時に壊死して腐り落ち、治癒や再生を阻害します。
エグい技でした。
そして、私の【神剣】。
この世に斬れぬ物なし。
両断したモノは、治癒も再生も不可能になるという、問答無用のチート武器。
なので、私達にとって【八岐大蛇】は、全く脅威たり得ません。
しかし、【ヒュドラー】の方は、率直に言って危険です。
【ヒュドラー】は、9つの頭部を持つ蛇。
【八岐大蛇】と同様の【自己再生能力】に加え、高い知性と、口から吐く強力な毒を持っていました。
【ヒュドラー】の毒は、この世界の自然界に存在する毒としては、最強の致死性を持ちます。
さらに厄介なのが、この毒は、1%の確率で即死効果を発生させるのです。
私とソフィアとファヴは、毒に完全耐性があるので無効。
非生物のオラクルにも毒は意味をなしません。
問題は、トリニティとウルスラ。
2人には【ヒュドラー】の毒も、即死効果も、効いてしまいます。
盟約の妖精であるウルスラは、死亡しても、しばらくすればソフィアが再召喚によって復活しますが、トリニティは……。
1%は、低い確率?
いやいや、【ヒュドラー】の頭は、9つ。
同時に毒を吐かれたら、即死確率9%。
さらに毒攻撃を連発されれば、等倍に即死確率は跳ね上がります。
実は【八岐大蛇】も、この厄介な即死ギミックを持つ毒を吐くのですが、その毒は8つある頭の内の1つからしか吐かれません。
【八岐大蛇】は8つの頭のそれぞれが異なる属性やギミックの別の【ブレス】を吐くのです。
なので9つ全ての頭部から毒を吐く【ヒュドラー】のように毒の連発による畳み掛け攻撃によって、時間経過毎に即死率が高まるような鬼畜度が確率上の比較では多少緩和されました。
もちろん、それらはプレイヤーのステータスや装備構成……つまり相性によっても変わりますけれどね。
この危険な【ヒュドラー】の攻略法は、ズバリ遠隔攻撃。
【ヒュドラー】の毒は、【ジャバウォック】の精神攻撃と同様の特性があり、強力無比ですが射程が短いのです。
今回は、安全に勝ちきる事を優先して少し戦術を用意しましょう。
私は、【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】をトリニティに被せます。
これで、トリニティの存在は、敵からは完全に隠蔽されました。
私達(ウルスラ以外)には、【マップ】の青い光点で、トリニティの存在が認識出来るので、同士討ちは避けられます。
「【ヒュドラー】は、私とトリニティが相手をします。他のみんなは、【八岐大蛇】を抑え込んでおいて下さい」
私は、【神剣】を抜いて、トリニティと共に前衛に出ました。
「わかったのじゃ」
ソフィアも、【ヒュドラー】の危険な特性を理解しているので、素直に従います。
ファヴとオラクルも即座に了承。
「トリニティ。【呪】を使って下さい」
私は、トリニティに指示して、【呪詛魔法】で、【ヒュドラー】を攻撃させました。
ソフィア、ファヴ、オラクルは、【八岐大蛇】を牽制。
私が【ヒュドラー】の頭を斬り飛ばし、トリニティが【ヒュドラー】の頭を【超位呪】によって壊死させます。
途中、【ヒュドラー】が周囲に向かってメチャクチャに毒を撒き散らす、という攻撃を行いました。
「トリニティ!」
トリニティの姿が目視出来ないので、【マップ】を確認すると、トリニティを示す青い光点が、飛び飛びに高速移動しています。
【短距離転移】!
トリニティは、【短距離転移】で、【ヒュドラー】の毒を躱していました。
そうです。
トリニティの種族【エキドナ】は、強力な転移能力者。
世界中の遺跡を自由自在に【転移】しながら、移動する【魔人】でしたね。
トリニティは、遺跡の申し子。
【遺跡適応】という特殊能力を持つ、遺跡の【徘徊者】。
トリニティは、遺跡内であれば、本来【超神位魔法】である、【短距離転移】も操れるのです。
私が【ヒュドラー】の6つの頭を斬り飛ばし、トリニティが【ヒュドラー】の3つの頭を壊死させました。
【呪詛魔法】……やっぱりエグいですね。
その後に、私達は、手分けをして【八岐大蛇】をゆっくり始末します。
完勝。
【宝箱】の中身は、【神の遺物】の【アルテミスの弓】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
【アルテミスの弓】は、【ディアナの弓】と並んで、この世界最強の弓です。
私の【神弓】を除けば、ですが……。
魔力を流して射れば、水平射撃で数十kmを飛び、恐るべき命中精度と貫通力で、どんな魔物も射抜くと云われています。
うん、これは私から見ても、アタリの景品ですね。
「トリニティ。【アイドス・キュエネー】は、あなたに譲渡します。そのまま、あなたが管理して、戦闘時には装備しなさい」
「仰せのままに」
【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】は、トリニティと相性が良さそうです。
このまま、彼女に使わせましょう。
私達は、次の階層に進みます。
・・・
97階層のボスは、【キマイラ】の亜種【鵺】。
眷属として、17頭の【キマイラ】を率いています。
【キマイラ】は、ライオンの頭、山羊の体、蛇の尾、鷲の翼を持つ魔物。
【超位】の魔法を駆使します。
【鵺】は、猿の頭、狸の体、虎の脚、蛇の尾を持つ魔物。
【キマイラ】の亜種で、魔力と知性では【キマイラ】を上回ります。
しかし、だから何、という感じで、ソフィアが突撃し、呆気なく【鵺】の首をはねてしまいました。
【鵺】は、この世界最強の麻痺系の特殊効果を持つのですが、ソフィアは完璧に【抵抗】してしまい、お構いなしでしたね。
ソフィア以外のメンバーで、残った【キマイラ】を狩り尽くしました。
【宝箱】の中身は、圧縮箱と【コンティニュー・ストーン】が3個。
ソフィアが圧縮箱を地面に置きました。
すると、何も起こりません。
「ノヒトよ。何も出ないのじゃ。不良品なのじゃ」
ソフィアは、言いました。
そんな事はあり得ません。
遺跡のシステムに、不良品などという設定はないのです。
設定上、考えられる事は……。
「ソフィア、もう少し後ろに下がってごらん。たぶん 、アイテムが大きくて、出現するスペースが足りないんだと思うよ」
ソフィアは、ゆっくり後退りします。
中々、アイテムが出現しません。
これは、相当デカイようです。
ソフィアが20mほど距離を取ると、圧縮箱から、巨大な物が出現しました。
船です。
全長20mほどはあるでしょうか?
出現したのは、【神の遺物】の飛空艦艇である【砲艦】。
千年要塞や【アトランティーデ海洋国】の国境城壁を上空から守っている強力な戦闘艦です。
【砲艦】の操艦と砲撃に必要な乗員は5名。
武装は、艦首に据えられた【魔導カノン】1門。
【超位魔法】の威力に相当する強力な砲撃が行えます。
【砲艦】は、いわば空飛ぶ駆逐戦車。
「ほー、ほー……。この大砲は、良い物じゃ。この船は、我がもらう事にしよう」
ソフィアが、当然のように所有権を主張しました。
「ソフィア。私は、この【砲艦】は、【タナカ・ビレッジ】の防衛戦力に活用したら良いと思うんだけれど。どうかな?」
「むっ、クイーンのところか……それは……そうじゃな。クイーンの村を守る為に、譲ってあげるのじゃ……」
ソフィアは、【砲艦】をチラチラ見ながら言います。
ソフィアは、相当【砲艦】が欲しいようですね。
「私達には、もう間もなく【飛空巡航艦】が出来上がるからね。【砲艦】は必要ないよ」
「うむ、そうじゃな。でもの、ノヒトよ。もしも、また【宝箱】から【砲艦】が出たら、次は我がもらっても良いか?」
ソフィアが遠慮がちに訊ねました。
「また、出たらね」
「本当か?約束なのじゃ」
ソフィアの表情が、パーッと明るくなります。
「うん」
「ソフィア様は、空が飛べるし、あんな大砲なんかよりも凄いブレスも吐けるのに、何で飛空船なんか欲しがるの?」
ウルスラが訊ねました。
「大砲と戦艦はロマンなのじゃ。我は、将来、個人の資金だけで、ソフィア艦隊を持つのが夢なのじゃ」
ソフィアは、言います。
「ソフィア艦隊?何それ、凄いっ!あたしも、やりたい」
ウルスラは、言いました。
「うむ。ウルスラは、我の、盟約の妖精じゃ。もちろん、艦隊の幹部の座を、と考えておるのじゃ」
「マジで?やったね〜」
ウルスラは、ピュンピュン飛び回って喜びを表します。
ソフィアの個人資産的には、小規模の艦隊なら可能ですね。
私達は、次の階層に進みます。
・・・
98階層のボスは、【皇竜】。
眷属として、18頭の【王竜】を率いています。
【皇竜】も【王竜】も、単なる博物学的呼称であって、必ずしも個体の優劣や強弱を区別するモノではありません。
これは、神の軍団の白師団長である【帝竜】のビアンキにも共通する事です。
帝だろうが、皇だろうが、王だろうが、庶民だろうが、それが即ち、生まれつき個体の優劣を左右する訳ではありません。
この世界では、育成の仕方と戦術次第では、【ゴブリン】が【天使】を圧倒する事だって可能なのですから。
とはいえ、【古代竜】の中では、【帝竜】、【皇竜】、【王竜】は、強力な部類に入る事は間違いありません。
もちろん、先に述べたように、個体差はありますが……。
【帝竜】は、魔法が【古代竜】の中で最強。
【皇竜】は、ブレスが【古代竜】の中で最強。
【王竜】は、非魔法攻撃が【古代竜】の中で最強。
……と、設定されています。
しかし、所詮は【古代竜】。
私達を傷付けるには、数が少な過ぎますね。
あと10万頭もいれば、私達を焦らせる事が出来るかもしれません。
【皇竜】は、ソフィアが【神竜砲】と【神竜の斬撃】を併用して、圧倒。
【王竜】は、その他のメンバーで手分けして倒しました。
【宝箱】の中身は、【神の遺物】の【アンサリング・ストーン】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
おー、【アンサリング・ストーン】ですか?
超激レアが出ました。
【アンサリング・ストーン】は、見た目、漬物石にしか見えませんが、実は素晴らしい性能を秘めた【神の遺物】です。
「何じゃ、この石ころは?」
ソフィアが訊ねました。
「【アンサリング・ストーン】だよ」
「どういうアイテムじゃ?」
「ソフィアは、アルフォンシーナさんに何か隠し事をしていませんか?」
「何じゃ?突然に、そのような事を聞いて……」
「答えて下さい。ソフィアは、アルフォンシーナさんに隠し事をしていますね?」
「し、しておらぬのじゃ」
ソフィアは、目を泳がせます。
その時、【アンサリング・ストーン】が光りました。
嘘を吐きましたね。
「ソフィアは、私にも隠し事をしていますか?」
「しておらぬ。何故、そのような、おかしな事を聞くのじゃ?」
【アンサリング・ストーン】は、光りません。
おや?
嘘を吐いていない、と。
そうですか……。
私は、基本的に、ソフィアの要望は何でも聞いてあげますし、甘やかしています。
何か、素行や言動をたしなめるにしても、やんわりと説諭しますし、ご褒美で釣るのが常套手段でした。
なので、ソフィアは、私を与し易いと思って嘘を吐く必要がないのかもしれません。
「アルフォンシーナさんに隠し事をするのは、アルフォンシーナさんに叱られると怖いからですか?」
「我は、隠し事などせぬし、怖いものなど何もありはせぬのじゃ」
ソフィアは、目くじらを立てて反論しました。
【アンサリング・ストーン】は、二度、明滅を繰り返します。
ふむふむ、なるほど。
「ソフィア、パスが繋がっているアルフォンシーナさんに対して隠し事をするのは、いけませんね」
どういう隠蔽方法なのでしょうか?
パスを通じて、ソフィアとアルフォンシーナさんの思念は繋がっているはずです。
何か裏技があるのかもしれません。
「しておらぬっ!ノヒト、どういう了見なのじゃ?いい加減にせぬと、終いには我も怒るのじゃ」
「ははは、ごめんよ、ソフィア。つまりね、この【アンサリング・ストーン】は、嘘を看破するアイテムなんだよ。近くの者が嘘を吐くと、【アンサリング・ストーン】が光る仕組みなんだ」
「なぬっ!こ、これは、悪しきアイテムなのじゃ。今この場で叩き壊してやるのじゃ」
ソフィアは、血相を変えて言いました。
「ダメだよ。これは、チェレステさんに、あげるつもりなんだから。チェレステさんは、初めのうちは信用のおける味方が少ないだろうからね。【アンサリング・ストーン】は、とても役に立つと思うよ」
チェレステさんは、元【ドラゴニーア】の大神官付き筆頭秘書官。
ソフィアの推薦があって、この度、チェレステさんは【ムームー】の女王に戴冠する事が決まったのです。
女王就任の祝儀として、アルフォンシーナさんは、竜城で、志願者を募り、【女神官】と【竜騎士】、それから役人達を、チェレステさんに同行させる事にしてあげました。
彼らは家族と共に国籍を変更して、住みやすい大都会【ドラゴニーア】を離れ、最辺境の地【ムームー】の国民となり、彼の地に移住するのです。
志願者は、【ムームー】にルーツを持ち、900年前以降、【ドラゴニーア】に避難して来た者の子孫が多いようですね。
大変な覚悟が必要ですが、その分、やり甲斐もあるのでしょう。
志願した者達は、全員、国家中枢を占める幹部として遇され、新国家建国という大変に意義深い事業に携わるのですから。
「チェレステにか?なるほどの、それは、良い考えかもしれぬ」
「ソフィアは、今、この際、【アンサリング・ストーン】が、アルフォンシーナさんの手にさえ渡らなければ、どうでも良いと思っているでしょう?」
「そんな事は、思っていないのじゃ」
【アンサリング・ストーン】が光りました。
ソフィアは、頬を膨らませます。
ふふふ、あまり意地悪な事をしては、ソフィアが気の毒ですね。
ソフィアは、基本的に素直で善い娘です。
おふざけは、このくらいにしておきましょう。
私達は、次の階層に進みます。
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