第13話。親善試合。
土系魔法。
低位…バレット(礫)
中位…アース(地)
高位…アースクエイク(地震)
超位…カタストロフ(厄災)
神位…ディバイン・アース(天変地異)
……などなど。
【ドラゴニーア】軍の閲兵式とチャージの観戦を終えた私達は、大演習場から【竜都】市街に移動を始めました。
【ドラゴニーア艦隊】旗艦【グレート・ディバイン・ドラゴン】は私達を乗せて【竜城】に向かい、他の飛空艦船は、そのまま艦隊母港である浮遊島に帰港します。
この後の予定は……【竜城】の周辺空域で竜騎士団の閲兵を行い、その後【竜城】内の練兵場を兼ねる【闘技場】で、軍、竜騎士団、衛士機構の代表者達を集め私が激励と訓示を行う……という式次第が組まれていました。
大演習場から【竜城】まで移動する道すがら、私はソフィアと二人で【飛行】で並んで飛びながら【グレート・ディバイン・ドラゴン】が飛行する様子を外から眺めてみました。
全長500mなどという圧倒的に巨大な航空母艦が旅客機並みの亜音速で飛行する様子は圧巻ですね。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】級航空母艦の最高速は超音速で、その速度で宙返りも可能な程の機動力があります。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】級の【超級飛空航空母艦】は、900年前のゲーム時代、一番艦の【グレート・ディバイン・ドラゴン】を含め合計5隻が建造され実戦配備されていました。
しかしユーザーがログインしなくなって以来、一部の最先端技術が失われてしまった為に、この世界の住人の能力では基幹部品の製造が困難になってしまったので、温存目的で保管する為に【グレート・ディバイン・ドラゴン】以外の4隻は【竜城】の亜空間倉庫で眠っているそうです。
【ドラゴニーア】には空母だけでなく亜空間倉庫に温存されている飛空艦船が沢山あるのだとか。
私は大神官のアルフォンシーナさんから、それらの艦船のメンテナンスや、スペア・パーツの製造を頼まれています。
【ドラゴニーア】が将来に渡り【世界の理】を遵守して世界平和に貢献し、ゲームマスターである私の職務にも最大限協力をしてくれるのなら……という条件付きで、私はそれを引き受けました。
今後、暇な時に私がメンテナンスなどを行う予定です。
ゲームマスター順守条項には……ゲームマスターは一国一党一派には与してはならない……という中立の原則がありました。
しかし、異世界転移してしまって以来、私はゲーム会社のアクセス端末を操作出来なくなり業務遂行能力は著しく低下してしまっています。
また、あらゆるチャンネルで連絡を試みても応答がない現状を鑑みれば、そもそも異世界転移したゲームマスターは、私1人しかいません。
なので、私はゲームマスターの職責を果たす為に【ドラゴニーア】に協力してもらう事にしたのです。
私が【ドラゴニーア艦隊】のメンテナンスを行う事などは、その対価でした。
もしかしたら……ゲームマスターの順守条項……の違反で、私は会社から怒られるかもしれませんが、これは日本に帰れない私が現状取り得る最善策だと思います。
もしも、私が日本に戻れた時に会社が私の判断を問題にするなら、私は逆に怒ってやりますよ。
異世界転移してまで何とか仕事をしようと必死に頭を使って現状のリソースで出来る最善策を選んで行動したのに、会社はそれを労わずに叱責するのか?と。
たぶん私は、始末書くらいは書かされたとしても、解雇などの重い処分にはならないと思いますよ。
原則と言う場合には、必ず例外があるモノなのです。
ゲームマスター遵守条項も、また然り。
私はチーフ・ゲームマスターとして活動していたゲーム時代も何か不測の事態が起きて一刻を争う場合には、会社の決めたルールや規則を破って独断で部下に指示を出してトラブルを解決していました。
会社には事後報告をします。
もちろん程度問題というモノはあるので、違法行為や会社に損害を与えるような判断は是認されませんけれどね。
そういう時に、私のボスで、ウチの会社の創設者で、オーナー会長で、筆頭株主で、この世界の生みの親で、チーフ・プロデューサーで、NPCにとっては【創造主】でもあるケイン・フジサカは必ずこう言いました。
「良くやった。ゲームマスターを人工知能ではなく人間にやらせる理由は必要が有ればルールや規則を破って臨機応変に適切な対応を取らせる為なんだからな」
私が必要な時にはルールや規則を破るのに躊躇しない理由はケイン・フジサカ・イズムなのです。
・・・
【竜城】に到着しました。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】は、現在【竜城】下層に接舷されています。
【竜城】の周辺空域に飛行規制が行われ、いよいよ竜騎士団の閲兵が始まりました。
これは閲兵というより航空ショーですね。
【竜騎士】が編隊を組んで曲芸飛行を行う様子は正にスペクタクル。
超音速で飛行する能力があり鋭角で急旋回出来る【竜】を意のままに操る竜騎士団。
中々良い物を見ました。
後半はソフィアが【神竜】形態で編隊飛行に乱入して台無しにしていましたが……。
私はソフィアを強めに叱っておきました。
「居ても立っても居られなかったのじゃ」
とは、ソフィアの供述。
【竜騎士】の飛行の様子を改めて観察してみて思ったのですが……急加速、急制動、急旋回によって遠心力や慣性の法則で重力加速度が作用し体内の血液が偏って脳貧血で失神したり、視神経に血流が及ばなくなって何も見えなくなったり、あるいは体内で内臓が掻き回されて損傷したり……などが心配です。
大丈夫?
魔法で、それらの悪影響は排除、または低減されている……と。
確かにユーザーも【飛行】の魔法で高速で飛ぶ時は、魔法で肉体の内外を保護していました。
ゲームマスターの私はダメージが身体に影響を及ぼさないという無敵体質に設定されているので、その辺りの感覚が正直良くわからないのですよね。
試しに【竜都】の外に出掛け高高度から真っ逆さまに墜落して地面に激突してみたのですが無傷でしたし……。
地面にクレーターが出来てしまい物凄い音と衝撃がしたらしいです。
「ノヒト様。【竜都】の住民が驚いてパニックになりかけたので、今度何らかの訓練をなさる時は事前に教えて下さいませ」
アルフォンシーナさんから、やんわりとですが……【竜都】の近郊では二度とするな……と言われました。
反省しています。
話を戻しましょう。
一般に【飛空】で高速飛行を行うと飛行の推進力と肉体の保護の為に魔力を馬鹿喰いするので燃費が良くありません。
魔力の燃費……。
魔力無限の私には関係のないワードですね。
【竜騎士】の場合、飛行時の様々な肉体への悪影響の低減にはパートナーを組む【竜】達も魔法で生命維持を助けてくれているそうです。
人馬一体……いや、人竜一体。
美しいパートナー・シップですね。
パートナーは無尽蔵とも思えるほどの魔力保有量を誇る【竜】。
任せて安心。
魔力タンクと常に一緒に行動しているようなモノです。
パートナーという割には、一方的に【騎士】ばかりが恩恵をうけているような……。
【竜騎士】と【竜】は家族のような絆で結ばれています。
お互いに助け合っても、どちらがより多く助けているなどとは考えないのだとか。
それは、つまり……親は子供を無条件で愛し慈しむが愛情の見返りを求めたりはしない……という事でしょうか?
その感覚に近い……と。
なるほど深いですね。
因みに【ドラゴニーア】では、今日国民に【神竜】の復活が公式に発表されました。
ソフィアは……これからは【神竜】形態で自由に【竜都】上空を飛び回れるのじゃ……と言っています。
すかさずアルフォンシーナさんは……低空飛行はダメですよ……と釘を刺さしていました。
【神竜】復活を世界に向けて公式に宣言するのはこれからですが、情報はあっという間に世界中へ拡散するでしょう。
既に外交ルートで幾つもの国が接触して来ているそうです。
友好国は祝意を伝えて来て、そうではない国は事実確認を求めて来ているのだとか。
今頃、各国の外交部門や安全保障部門は天地がひっくり返ったような騒ぎになっているであろう事は想像に難くありません。
【ドラゴニーア】は有史以来……領土拡張をしない……と世界に宣言していますが、それを信じるかどうかは相手国次第。
あまり仲が良いとは言えない【ウトピーア法皇国】や【ザナドゥ】や【ヨトゥンヘイム】などからは警戒されているでしょう。
【ウトピーア法皇国】はウエスト大陸にあり、【ドラゴニーア】を蹴落として世界覇権を手中に収めたいという野望を持つ国なのだとか。
【ウトピーア法皇国】は、超大国【ドラゴニーア】を仮想敵国と見ていました。
しかし、【ドラゴニーア】は、【ウトピーア法皇国】の動向を警戒しながらも、ライバルとは考えていないようです。
【ドラゴニーア】がライバルと考えているのは、ノース大陸の【ユグドラシル連邦】ですが、【ドラゴニーア】を中心とするセントラル大陸と、【ユグドラシル連邦】とは同盟国でした。
イースト大陸の【ザナドゥ】は、【ウトピーア法皇国】の腰巾着みたいな国なので、【ドラゴニーア】の敵ではありません。
【ヨトゥンヘイム】はノース大陸の東にある巨人の国。
【ドラゴニーア】と直接戦端を開いた事はありません。
しかし【ヨトゥンヘイム】は同じノース大陸の大国【ユグドラシル連邦】と長年小競り合いを繰り返しています。
【ユグドラシル連邦】と【ドラゴニーア】は友好国である為、【ヨトゥンヘイム】側からしたら……敵の仲間は敵……という感覚なのかもしれません。
そうした反【ドラゴニーア】の国々は、それぞれの思惑から【ドラゴニーア】の更なる強国化には神経を尖らせている筈です。
閑話休題。
【ドラゴニーア】国民に【神竜】の復活が発表されると同時に、その個体名が……ソフィア……である事が広報されました。
四大権者による最高評議会の決定で、現行の……【神竜】様……に加え、今後は……ソフィア様……という呼称も公式に認められる事になります。
「ねえ、知ってる?【神竜】様って女性だったんだって」
というのが発表以来【ドラゴニーア】の国民の間では挨拶代りになっていました。
・・・
私は、軍、竜騎士団、衛士機構の代表者達と【竜城】内の【闘技場】にいます。
衛士機構は、ここから合流。
先ずは各軍の指揮官達の紹介。
「【ドラゴニーア】軍長官、イルデブランドでございます」
【ドラゴニュート】のイルデブランドさんが鎧の上からでもわかる隆々たる筋肉を盛り上げて言いました。
イルデブランドさんは元竜騎士団長。
しかし戦闘で翼に大怪我を負い飛行出来なくなった為に騎竜を降りなければならなくなったのですが、個体戦闘力は未だに全軍最強クラスなのだとか。
「【ドラゴニーア】第一軍将軍、ヨハネスでございます」
ヨハネスさんは【ドラゴニーア】の西にある【リーシア大公国】出身の【人】です。
【魔法騎士】と【翼竜使い】の職種を持っていました。
【複合職】ですか……さすがは将軍ですね。
「【ドラゴニーア】第二軍将軍、カスパール。以後、お見知り置きを」
カスパールさんは【ドラゴニーア】の北にある【スヴェティア】出身で、【人】と【エルフ】のハーフ。
【魔道士】の【職種】持ち。
彼も優秀です。
「【ドラゴニーア】艦隊提督、フィオレンティーナでございます。どうぞよろしく」
フィオレンティーナさんは【ドラゴニュート】の女性。
比較的珍しい【精霊魔法使い】の【職種】を持っていました。
【精霊魔法使い】は、地水火風の何れかの【精霊】と盟約を結び、四大元素魔法の1つの系統に特化して、その他を捨てる代わりに1系統の能力が大幅に【強化補正】されるという魔法職。
因みにフィオレンティーナさんが盟約を結んでいるのは【火】の【精霊】である【サラマンダー】。
【ドラゴニュート】が持つ翼で飛行しながら強化された【火魔法】で上空からの爆撃……敵からしたら、おっかない攻撃ですね。
因みにフィオレンティーナさんは、アルフォンシーナさんの実兄の何十代目かの子孫。
つまり2人は世代こそ離れていますが親戚なのです。
「【ドラゴニーア】近衛竜騎士団長、レオナルド。参上仕りました」
レオナルドさんは、既に良く知っています。
いつも【竜城】で顔を合わせていますので。
【職種】は、もちろん【竜騎士】。
「衛士長コルネリオ。再びお会い出来ました事を感謝いたします」
コルネリオさんとは2度目です。
【戦士】の【職種】持ちですが戦闘力は然程でもなく、管理運営のスペシャリストなのだとか。
いかにも厳つい歴戦の猛者風な容貌なのですが……意外です。
・・・
私からの訓示を終えて解散……の筈が、何やらおかしな話になりました。
「是非、手合わせをして頂きたい」
イルデブランドさんが物騒な事を言い出します。
「イルデブランド。無礼ですよ。控えなさい」
エズメラルダさんが叱責しました。
「神官長。我らは武人。言葉より剣戟にて理解し合う者なのだ。そうですな?【調停者】様」
イルデブランドさんが私に同意を求めます。
いいえ。
そんな特殊なコミュニケーションの方法は初めて聞きましたけれど?
「まあ、昔話とは尾鰭が付く物。今世の【調停者】様は、存外に貧弱なのかもしれませんよ」
ヨハネスさんが嘲笑気味に言いました。
「まさか、不死身の強者と謳われる【調停者】様とも在ろう御方が臆していらっしゃるので?」
カスパールさんが煽って来ます。
「私も戦ってみたいわ」
フィオレンティーナさんも言いました。
困りましたね……。
ノヒトよ、やってやれ……ここは【闘技場】なのじゃから、丁度良いではないか?
ソフィアが【念話】で伝えて来ました。
【闘技場】は各主要都市にある巨大なスタジアム。
900年前は、ここで毎夜のようにユーザー達や腕に覚えがあるNPC達が試合をしていたのです。
毎月各都市の【闘技場】では武道大会が行われ、賭けの対象ともなっていました。
NPC達にとって武道大会は一種の祭であり最大の娯楽。
因みにルールは何でもありのガチンコなので、観戦には年齢制限があります。
この【闘技場】には、ある特殊なギミックが施されていました。
観客席に【創造主の魔法】による全攻撃不透過という【結界】が張られており、戦闘の余波や魔法が観客席に被害を及ぼす事はありません。
また、この【闘技場】の中で死亡しても生き返る事が出来るのです。
通常ユーザーが死亡してコンティニューすると、レベル半減と所持金半減というペナルティが掛かりますが、【闘技場】で死亡した場合はペナルティなしで復活が可能でした。
ただし、装備類の破損や耐久値の減少は戻りません。
ここは、そういう場所だったのです。
現在でも毎月の大会は行われていますが、日常的には軍や騎士団や衛士が訓練や演習に使用していて、900年前とは違い一般開放は制限されているのだとか。
一般の人達は、軍、騎士団、衛士機構が訓練を終えた夜間に利用しています。
軍や警察の訓練の方が優先度が高いのは当然ですね。
なら、やりますか……。
こういう脳筋で戦闘狂の皆さんは対戦を望まれて、それを忌避すると却って危ないのです。
私に危害を加えられるとは思えませんが、何か政治工作などをされて対戦を拒否出来ないような状況を作ろうと画策するかもしれません。
なので、一度ガツンとやって実力の差を骨身に染みる程わからせてあげた方が良いのです。
「一つ確認しておきますが、私は全力で戦って良いのですね?」
「無論だ。そうでなければ、つまらん」
イルデブランドさんは言いました。
「ルールは?」
「武道大会ルールに準拠する」
ゲームでの武道大会ルールは、装備している物、及び【収納】内の武器・装具・アイテムは全て使用可能。
魔法の使用については自らの魔力だけを使う限りにおいては無制限。
つまり、エニシング・ゴーズです。
「では、軍司令部、三軍、竜騎士団、衛士機構からそれぞれ一名ずつ代表者を出してください。それぞれ最強の者と戦います」
「はい、はい、はーい。【神竜神殿】の聖職者からも代表者を出して良いのか〜?」
神官服のコスプレをしたソフィアが挙手して言いました。
あ……まあ、そうなりますよね……。
好戦的で戦闘力の権化のようなソフィアが、誰にも怒られずに暴れられる機会を逃す筈がありません。
「はい、どうぞ」
私は許可します。
こうして、なし崩し的に親善試合が行われる事が決まりました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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