第129話。1本100万円のジュース。
名前…ゴヒャクニジュウイチ(アッズーロ)
種族…【青竜】
性別…雌
年齢…不明
職種…なし
魔法…多数
特性…飛行、ブレス、【超位回復・超位自然治癒】
レベル…99
神の軍団の青師団長。
【タナカ・ビレッジ】。
私は、【ドラゴニーア】で所用を済ませ、とんぼ返りして来ました。
ソフィアとウルスラがケーキを食べています。
「これは食後のデザートなのじゃ」
ソフィアが、何故か少し言い訳がましく言いました。
別に、私は、咎めたりしませんよ。
自分で、お金を出して買ったケーキなのですから、ソフィアの望むままに食べれば良いのです。
ソフィアは、いつも【ドラゴニーア】の有名な高級パティスリーにケーキを発注して大量購入していました。
毎回、竜城に届けてもらうのです。
一度、現場を見ましたが、凄い量でした。
トラック一台分とか、そういうレベルです。
ソフィアは、何故かアルフォンシーナさんに隠れてコソコソとケーキや、お菓子を買っていました。
何故、コソコソするのでしょうか?
アルフォンシーナさんも、ケーキくらいで、ソフィアを叱ったりしないはずです。
きっと、過去に色々と、やらかした前科がある為なのでしょうね。
とにかく、私は、ソフィアの買い食いは放任していました。
「ケーキを食べたら、出発しますよ」
「うむ」
ソフィアは、一口でホールケーキを食べてしまい、ウルスラは、食べかけのホールケーキを【宝物庫】にしまいます。
私達は、クイーンに挨拶して、アペプ遺跡に【転移】しました。
・・・
アペプ遺跡90階層。
ボス部屋の奥・転移魔法陣部屋。
この先の深部階層は、ヴィクトーリアには、負荷が強いでしょう。
「ヴィクトーリア。私の【収納】に入っていて下さい。遺跡を攻略したら、すぐに出してあげますからね」
「畏まりました」
私は、ヴィクトーリアを【収納】に収容しました。
私達は、91階層に続く階段を降りて行きます。
・・・
91階層〜98階層は、荒野エリアでした。
91階層からは、雑魚敵も【超位】となりますし、1階層毎に階層ボスが出現します。
ブワーーッ!ブワブワッ!ブワーーッ!
ウルスラが独特の節回しを付けて【誘引の角笛】を吹きました。
何でも、進軍ラッパをイメージしているのだそうです。
すぐに魔物が集まって来ました。
ファヴが加わって、午前中よりも強化された、私達のパーティは、【超位】の魔物の群も、全く、問題にしません。
まあ、私、ソフィア、ファヴ、オラクルは、【ムームー】で、数十万の【超位】の魔物の群に囲まれ、揉みくちゃになりながら戦った経験があります。
あの時との比較で言えば、私達のメンバーは、オラクルがパワーアップし、トリニティとウルスラが加わっていました。
100頭の【超位】の魔物との戦闘なんか、まるっきり遊びみたいなモノです。
91階層のボスは、【水竜】。
眷属として、11頭の【水竜】を率いています。
【水竜】ですか?
荒野エリアで?
解せません。
【水竜】は、かなり強力な部類の【古代竜】ですが、この水源もない荒野エリアとの相性は、端的に言って悪いです。
ダンジョン・コアには知性がありますので、何か意図があるのだとは思いますが……。
ソフィアがボス個体を瞬殺してしまいました。
私が6頭を倒し、ファヴが3頭を倒し、オラクルとトリニティとウルスラが協力して2頭を倒してしまいます。
あまりにも簡単に倒しきってしまったので、ダンジョン・コアの意図は、結局わからずじまい。
まあ、良いでしょう。
【宝箱】の中身は、圧縮箱と【コンティニュー・ストーン】が3個。
ソフィアが圧縮箱を地面に置きました。
【衣装戸棚】が出現します。
中身は……。
【王の礼服】など、【王の服】シリーズが季節ごとに2セットずつ、合計8着入っていました。
以前、私がソフィアの着替えとしてアルフォンシーナさんに渡した、【女王の服】シリーズの王様バージョンです。
「男物の服じゃな」
ソフィアが多少、不満そうに言います。
「これは、ファヴにあげましょう。今後、ファヴも人化した姿で、使徒や公職者の前に立つ事があるでしょう。ファヴのクラスになれば、それなりの衣装は必要です」
「ありがとうございます」
ファヴは、ペコリと頭を下げました。
私達は、次の階層に進みます。
・・・
92階層のボスは、【黄竜】。
眷属として、12頭の【蛟】を率いています。
【黄竜】も【蛟】も、いわゆる東洋竜と呼ばれる種類。
竜頭蛇体で、【竜】のように脚や翼は、ありません。
体表は、巨大な鱗に覆われています。
東洋竜の鱗は、軽く硬く魔力を流しやすいので、鎧や盾などの材料として人気があり、素材として価値があります。
因みに、この世界の【竜】族の大半は、【水晶竜】や【鉱石竜】のような例外を除いて、鱗を持ちません。
ほとんどの【竜】は象のような分厚い皮革を持つのです。
ソフィアやファヴが守護竜形態に現身した姿にも、鱗はありませんでした。
唯一、胸部上方にある逆鱗と呼ばれる部分には、退化した鱗の名残があるだけです。
ソフィアがボス個体の【黄竜】に向かい、私、ファヴ、オラクル、トリニティ、ウルスラが【蛟】を迎え撃ちました。
私達は、【蛟】を簡単に全滅させます。
ソフィアが【黄竜】に【神竜砲】で、先制攻撃を仕掛けました。
しかし、【黄竜】は、長い胴体をくねらせて、【神竜砲】を躱してしまいます。
【黄竜】は、【霹靂】で攻撃して来ました。
「くっ、この、ニョロニョロめがっ!【神竜の斬撃】」
ソフィアは、魔力の刃を飛ばして【黄竜】を真っ二つに切断します。
しかし、2つに分かれた、頭と尻尾が別々に動き出しました。
「なぬーーっ?頭と斬り離された尻尾が動くと言うのか?こやつは不死身か?」
ソフィアは、焦って言います。
「ソフィア、【理力魔法】で、斬られた自分の尻尾を操っているだけです。攻撃は効いている。頭の方を狙えば殺せますよ」
「なぬっ!おのれ、我を謀りおって……許さぬのじゃ。喰らえっ!【神竜の斬撃】」
【黄竜】は、今度は、縦に真っ二つにされて、絶命しました。
【宝箱】の中身は、【ヒヒイロカネの刀】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
私達は、次の階層に進みます。
・・・
93階層のボスは、【炎竜】。
眷属として、13頭の【炎竜】を率いています。
出現と同時に【炎竜】は、【超位】のブレスを吐いて来ました。
私達は、炎熱に巻かれます。
燃え盛る私達を見て、【炎竜】は、喜悦の咆哮を上げました。
刹那!
ソフィアが炎熱の中から、【神竜の斬撃】を放って、【炎竜】の首を斬り飛ばしました。
私達は、眷属達を駆逐。
馬鹿な【炎竜】です。
私達が、あの程度の火で熱がるとでも思ったのでしょうか?
【宝箱】の中身は、【神の遺物】の魔剣【ダインスレイフ】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
【ダインスレイフ】は、一度、鞘から抜くと、生物を殺し、その生き血を吸い尽くすまでは、鞘に納まらず、持ち主に殺意を抱かせ続けるという魔剣。
物騒なので、私の【収納】に死蔵しておきましょう。
因みに、これは、精神攻撃に類するギミックなので、私とソフィアとファヴには、影響を及ぼしません。
私達は、次の階層に進みます。
・・・
94階層のボスは、【ケルベロス】。
眷属として、14頭の【オルトロス】を率いています。
【ケルベロス】は、三頭の魔犬。
【オルトロス】は、双頭の魔犬。
【ケルベロス】も【オルトロス】も、複数ある頭を同時に全て斬り飛ばしてしまわない限り、瞬時に再生してしまうという、かなり厄介な魔物。
これは、【古代竜】の【超位自然治癒能力】や、ソフィアやファヴの【神位自然治癒能力】を上回る能力でした。
厳密には、治癒ではなく再生なので、【自己再生能力】と呼ばれています。
また、複数の頭部から別々に【超位】の魔法を撃って来ます。
ユーザーの間では、【ケルベロス】は、【神格】の守護獣に匹敵する強敵だとさえ、認識されていました。
が、それでも、私達の敵ではありません。
ソフィアが【ケルベロス】の3つの頭を一気に斬り飛ばし、私達も【オルトロス】の2つの頭を同時に魔法で消滅させました。
【宝箱】の中身は、【神の遺物】の兜【アイドス・キュエネー】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
【アイドス・キュエネー】は、私達が全員装備している【認識阻害】の指輪の上位互換アイテム。
魔力反応だけでなく、視覚、聴覚、嗅覚など、全ての認識感覚を無効にする、という強力な【認識阻害】アイテムでした。
これを装着すれば、完全に認識を阻害出来、まるで透明人間になったように振る舞えます。
まあ、【マッピング】機能で索敵すれば、丸裸なのですが……。
私達は、次の階層に進みます。
・・・
95階層のボスは、【雷竜】。
眷属として、15頭の【雷竜】を率いています。
雷竜と言っても、恐竜のカミナリリュウでは、ありません。
身体に高電圧と電磁場をまとっている為、防御力が高く、攻撃手段は、名前の通り、【超位雷魔法】と電磁ブレスを得意とします。
ソフィアがボス個体を、他のメンバーが眷属達を撃滅。
全く問題はありません。
【宝箱】の中身は、【神の遺物】の魔法触媒【テュルソス】と【コンティニュー・ストーン】が3個。
【テュルソス】は、【魔法杖】などと同種のアイテムです。
大ウイキョウの茎の先っぽに、松かさが付いた形状をしています。
このファンシーな外見とは違い、【テュルソス】は、中々に凶悪なアイテムでした。
強力な魔法触媒として、魔法効率や魔法威力を高める事はもちろん、特殊効果として、ごくわずかな魔力コストで、敵を狂躁状態にする、というギミックがあるのです。
狂躁状態とは、ご機嫌になってハイになってしまう状態。
私は、【テュルソス】の特殊効果によって、死ぬまで踊り狂うユーザーを見た事がありました。
ゲラゲラ笑いながら、疲労の極限で死ぬまで踊り続けるのです。
ある意味、最悪の死に方ですね。
【抵抗】は、【超位】以上。
つまり、【高位】以下の魔物相手には、無双出来ます。
ただし、注意点は、直接ダメージを与えるのではなく、あくまでも狂躁状態にするギミックなので、敵が狂躁状態になった後も攻撃を受ける可能性はあり得ました。
ご機嫌な敵から攻撃されるとか、それはそれで怖いかもしれません。
「さてと、休憩にしましょう」
私達は、ボス部屋で休憩を取る事にしました。
倒されたボスは、対戦したパーティがボス部屋にいる間は、復活はしません。
なので、この部屋は、一時的な安全地帯となります。
ゲームでは、ボス戦の順番待ちをしている他のユーザーへの迷惑行為と見なされる為、警告を受けますが、今は、もう、警告を発する存在はいません。
ソフィアとウルスラは早速ケーキを取り出します。
オラクルが2人に牛乳とジュースを出してあげました。
「美味あ〜っ!オラクルちゃん、これ、何ジュース?」
ウルスラが訊ねます。
「花蜜ジュースです。【妖精】族の皆様は、花蜜が、お好きだと文献にありましたので、王都【アトランティーデ】で買い求めました」
オラクルは、ニコリと笑いました。
「う〜ん、花の蜜は飲んだ事ないな〜」
ウルスラは、言います。
ウルスラ曰く、【妖精】は、魔力をエネルギー源として活動する霊子体なのだ、とか。
基本的に、生命維持に食物は必要ないそうです。
なので、ウルスラは、ソフィアの盟約の妖精となって受肉するまでは、飲食はした経験がなかったのだ、とか。
え?
そうなん?
ゲームの設定書に、【妖精】は甘い物好き、ってシッカリ書いてあるのに?
うーん、どういう事なのでしょうか?
「受肉した個体は、飲食が出来るようになるから、その【妖精】達が甘い物を好む傾向があったのではないかな〜。あたしも甘い物が好きだしね」
ウルスラは、言いました。
なるほど。
それはともかく、オラクルが出した花蜜ジュースって、あの花蜜ジュースでしょうか?
あー、間違いありません……例のジュースです。
「オラクル、我も、その花蜜ジュースなる物を飲みたいのじゃ」
ソフィアも食いつきました。
「はい、どうぞ」
オラクルは、ソフィアにも花蜜ジュースを1瓶出してやります。
「うむ。ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ぷはぁ〜。ほおー、これは良いものじゃ。蜂蜜のように甘ったるい物を想像したが、これは違うの。スッキリ爽やかなのじゃ。おかわりが欲しいのじゃ」
ソフィアは、花蜜ジュースを一気に飲み干して言いました。
「はい、どうぞ」
オラクルは、おかわりを渡します。
「ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、ぷはぁ〜。美味しいのじゃ。もう、1本……」
「申し訳ありません。もう、なくなりました。また、買っておきますね」
オラクルは、申し訳なさそうに言いました。
「うむ、頼むのじゃ」
ソフィア……花蜜ジュースは、1本金貨10枚(100万円相当)ですよ。
まあ、オラクルは、天文学的な資産を持つ大富豪ですから、そのくらいの支出は、どうという事もないのでしょうが……。
「ねえ、ノヒト様。さっきのアイテム、あたしにちょうだい」
オヤツを食べ終えたウルスラが私の方に飛んで来て言いました。
「さっきのって、どのアイテムかな?」
「なんか、お花の上に松ぼっくりが載ったやつ」
「ああ、【テュルソス】だね。構わないよ」
私は【収納】から、【テュルソス】を取り出し、ウルスラに渡しました。
私は、【テュルソス】の仕様を説明します。
ウルスラは、フムフムと頷きながら、聴いていました。
こういう感じの時は、ソフィアなら適当に聞き流している事が多いのですよね。
何だか怪しいと思ったので質問してみると、ウルスラは、キチンと理解していました。
ならば、よし。
ウルスラは、【テュルソス】をブンブン振り回しながら、飛び回っていました。
どうやら気に入ったようです。
こうして見ると、【テュルソス】は、まるで【妖精女王】の為にあつらえたようなアイテムですね。
うん、似合っています。
私達は、次の階層へと進みました。
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